表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の称号を剥奪されたおっさん、これ幸いとバカンスに行った先で魔王さんと遭遇する ~夏のあばんちゅーる~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
最終章 勇者さん魔王さん、おかえりなさい編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/107

第70話 聖女の癒やしと見舞客

前回までのあらすじ!



おっさんがついに報われ……ナイ!

 翌朝、腕の中のルランゼが枕に変わっていた。

 目覚めるなり唇とんがらせてキスを試みた俺の純情の行き先が、加齢臭の染みついた繊維の塊になるとはな。



「キモイ」

「寝起き一発目に聞く言葉じゃないね。おはよう、ルナちゃん」



 ルナちゃんだ。また俺が眠っていた間に奇跡の光をあててくれていたようだ。



「うん」

「俺はどれくらいで動けるようになる?」

「食べられるようになるのは明日かな。だから明日一日を食って休養にあてれば、明後日にはもう動けると思う」

「前回より軽傷だったのに、回復までの時間がかかってるな。もしかして俺、結構危ない状態か?」



 ルナが首を左右に振った。



「全然」

「じゃあなんで?」



 ルナの顔がかぁ~っと赤く染まる。



「おまえが昨夜姉様と……その……致すから……その時間を治療にあてられなかっただけだよっ!! こんなこと言わせんなバカァ!」



 あ~……。ああ、そういうこと。



「や、まだ致してねえ。致してたら死んでるだろ。あの状態でイケる?」

「あそっか。そりゃそうだよな。……あっはははは、ざまぁみろ」

「情緒大丈夫? 不安定になってない?」

「う、う、うっさいなっ!」

「また寝ずに治してくれようとしてたんだ」

「それは別にいいだろっ。わたしの自由だ」



 照れたり怒ったり笑ったり、おもしろいやつだ。

 けれどルナの手は気持ちがいい。奇跡の輝きを宿し、何度も俺の頭髪を撫でてくれる。



「ああ、それと今日は何組か客がきている」

「俺に?」

「うん。そろそろくると思うけど」



 おぼえがないな。魔族領域の知り合いなんて、フェンリルとカルエラ、それにウォルウォとラズルくらいのものだ。

 フェ――ッ!?

 俺は目をかっ開く。



「あああああっ!」

「うわっ!? 何っ!?」

「わ、忘れてた……」

「何を?」



 俺、フェンリルと約束したんだった。

 ミリアスを差し出して、フェンリルの魔力を取り戻すって。それがかなわぬときには、俺がミリアスを処理すると。

 ミリアス、行っちまったよ……。生き返らせたの俺だし……。

 いや、大丈夫だろ。こんな城だもんな。あんな大きな狼が入ってきたって、さすがに狭くて廊下もろくに通れやしないって。よし。忘れよう。帰る際にはフェンリルさん家を迂回するように歩いてオアシスに戻ろう。

 犬は~あれだ。まあ、帰巣本能あるし、適当なとこで放り出しても自力で帰れるだろ。



「や、なんでもねえよぉ?」

「あ、きたかな。失礼のないようにな」



 足音がして、ルナが立ち上がり、部屋の隅へと控える。

 俺は視線を扉に向けた。

 入室してきたのは、真っ白な女だ。肌も、髪も、服まで真っ白。瞳だけが空のように青い。ものすげえプロポーションをしている。なんというか、あれだ。フレイアのデカパイとルナのデカ尻を持っているのに、腰はちゃんと細いんだ。

 人間の俺の目から見れば、三姉妹よりはやや年上、ちょうどカルエラと同じくらいに見える。猛獣のように鋭い目だが、とてつもなく美しい女だった。いや、それ以上に神秘的だ。これほどの女だというのに、俺は彼女に対して下卑た欲を持てない。

 ただ、会ったことは愚か、見たこともない女だ。



「えっと……どちら様……? 俺のファン……?」

「生き延びたか。見込み通り、存外にしぶとい男よ」

「あの……?」



 女は豊満な胸の下で腕組みをして、ベッドで半死半生の俺を睥睨する。

 だがそれきり、口を閉ざす。

 めっちゃ見てる。こっわ。なんなの。



「ふん。まあよいわ。約定遵守の礼だ。末裔の一体を貴様にやる」

「ええ~……」



 末裔? 何言ってんのぉ~……?



「不要ならば捨て置け。そのうち戻ってくる。ではな、人間。ウォルウォとの果たし合い、楽しみにしておるぞ」



 それだけを告げると、女は微かに口元をゆるめてから踵を返した。そのまま部屋の隅に控えていたルナに軽く会釈をする。



「ルナ」

「はい」

「我ら議会はジルイールに貸す手を惜しまん。王族よ、汝らこそ民の未来であれ」

「お任せください」



 それだけを告げると、女は部屋から出て行った。



「ルナちゃん、いまの誰?」

「何言ってんだ。評議会議長のフェンリル様だぞ。知ってるだろ」

「ああッ!?」



 俺は思わず飛び起きる。上体だけだが。



「ッ痛! んやぁぁぁ、いってえええぇぇ……」

「バカ。急に起き上がるからだ」



 ルナが俺の背中を支えて、もう一度枕に戻してくれた。

 そらムラムラしねえわけだ。あいつ大狼だもん。



「人間みてえな姿を取ってたことも驚いたけど、約定の遵守ってフェンリルの咆哮のことだよな? ミリアスが持ち逃げしちまったんじゃなかったのか?」

「ああ、ああいう特殊な血継の固有魔術は、個人の魔力に宿るんだ。フェンリル様は魔力を固有魔術ごと奪われた。でも使用者であるミリアスが死ねば当然ミリアスの魔力も消えて、固有魔術は持ち主を移す」

「ミリアスが死んでた間に、魔力ごとフェンリルに戻ったってこと?」

「たぶんな。でなければ、魔力のないフェンリル様は変化できない。ヒトの姿で現れたということは、無事に魔力を取り戻せたということだ」



 俺は心の底から安堵した。

 おそらくいまの俺が五体満足であれば、魔力を取り戻したフェンリルでも倒せなくはないだろう。だが、そんな無益な戦いはご免だ。偶然ではあったけれど、魔力を取り戻してあげられたことは、心から良かったと思える。



「ってことは、末裔ってのは犬のことか。ま、フェンリルどうこうより、犬が望むならオアシスに連れてってやるか。『生涯、コレ、オサンポ』とか言いそうだ」

「ふふ、なんだそりゃ。と、この足音はシュトゥンとウォルウォ様かな」



 静かに入室してきたフェンリルのときとは違い、ドカドカと遠慮のない足音が聞こえた。



「げぇ~。寝起きに汚え顔は見たくねえなァ~」

「わたしは?」

「とっても綺麗」

「よろしい」



 ルナが再び部屋の隅に控える。

 最初に扉をくぐってきたのはシュトゥンだ。文字通りくぐってきた。でけえから。その後にウォルウォもだ。こいつらが入ってくると狭く思えるぜ。筋肉の発する体熱で、病室の温度もぐんぐん上昇だ。



「よっ。シュトゥン、ウォルウォ」



 シュトゥンがうなずく。



「うむ。軍神の加護があったようだな」

「あったあった。ありまくったぜ。軍神ビシャモンテン、いいね。だが、おまえさんに研いでもらった牙の短刀は燃えちまった。悪いな」

「役に立てばそれでいい」

「十分役立ったぜ。あれがなきゃ何度くたばってたやらだ」



 控えていたウォルウォに、俺は声をかける。



「レンにもな。何度も何度も救われた。呆れるくらいだ」

「ハッ。だから言ったのだ。娘を連れていけとな。レンは頭が切れる。そして可愛い」

「はっはっは。その通りだ」

「そのレンを、貴様は傷物にした」

「は……ぅ!?」

「顔に痣ができてたなぁ、うん? ライリーくぅ~ん?」



 ひぇ、こいつぁ祝言コースか!?

 でもあれは消える痣だろ!? それこそ奇跡の力さえ必要としない程度の!



「や、すまん……。俺がもっとしっかりしてれば……」

「許さん。絶対にな。レンをおまえに預けたのは失敗だった」



 言い返せねえ。

 ウォルウォが長いため息をつく。

 そうして先ほどとは違い、優しい口調でつぶやいた。



「だから、これ以上はもうだめだ。ライリー。おまえの側にいれば、あいつ自身の心が、もう戻れなくなってしまう」

「ん?」

「そう言われたのだ。昨夜遅く、レンからな。それも無様に泣きながらだ。……おまえ()()が眠っていたこの病室を、訪れたのだと」



 あ……。

 そう……か……。



「おまえはとても幸せそうな顔で眠っていたと、そう言っていた。ルランゼ様もだ。だからもう、儂はレンをクク村に連れて帰る」

「そうか……」



 やはりレンは、俺のことを。



「今回の一件を機に、側近団からも身を引くことにした。儂には引き継ぎの残務があるが、夕刻にはもう魔都を発つつもりだ。それまでにあいつはこの部屋を訪れるだろう。最後に声をかけてやってほしい」

「ああ」



 ウォルウォがシュトゥンを促し、踵を返す。

 俺はその背中に声をかけた。



「すまねえな、ウォルウォ」

「まあ、謝ることではないな。聡い我が娘ならば、最初からわかっていた結末だ。自身の中に渦巻く想いに気づかぬほどに未熟であったか、あるいは気づいていた上でも――」

「……」



 少しの間、視線をあげていたウォルウォだったが、背中越しに手を振る。



「やめておこう。いい経験をさせてもらったと、そう言っておく。――きっといい女になるぞ? おまえは逃したがな! はっはっは!」



 ひとしきり笑って、ウォルウォがルナに会釈をする。



「儂はもう中央からは外れるが、何か有事の際には遠慮なく声をおかけくだされ。単身、馳せ参じますゆえ」

「うん。ありがと」



 ウォルウォが頭を下げて扉をくぐる。

 それに続こうとしたシュトゥンの腕をつかんで、ルナが引き留めた。



「シュトゥン」

「はい」

「わたしには姉様のように自分を守れるだけの力がない。だから、これからもよろしく頼む」

「ええ。一命に変えましても」

「バカ、簡単に死なせないよ。わたしがな」



 ルナが笑うと、シュトゥンが微笑んだ。そうして扉をくぐって出て行く。

 ルナはそれを見送ってから、ベッド横の椅子に戻ってきた。



「もう会話の流れでわかったと思うけど、魔王になるんだ。わたしが。影武者で大体のことはできるようになったんだけど、それでもあまり自信がない。でも、おまえも気づいたかもしれないけど、これ以上続けたら姉様が壊れてしまう」

「ああ。ちょいと危うさは感じた。いま、かなり無理してるな」

「うん。期間の区切られた残務でさえあれだ。少しでも早くおまえのところに行かせないと」



 躊躇いを見せたあと、ルナが声を潜めて付け加える。



「わたしは両親から捨てられて平民として育ったけれど、たぶん二百年間も魔王なんてものをやらされた姉様よりは幸せだったんだと思う」

「それをわかってくれる妹がいたことは、ルランゼにとっちゃ救いだな」



 勇者も魔王も結局同じだ。

 色々なものに板挟みにされて、心身をすり減らす。それでも人間の寿命は短いが、魔族は長い。長ければ長いほど、すり減る量も増えちまう。

 二百年は長すぎた。

 人魔の狭間で擦り切れてしまったレイガのようになってしまう前で、本当によかった。



「だから今度はわたしの番かな。次の魔王が決まるまでは頑張ろうと思う」

「いいんじゃないか。癒やしの力を持つルナちゃんなら、いい魔王になりそうだ」

「そっか」



 ルナが照れたように頬を染めて、後頭部を掻いた。



「でも、それ以上に、いい母ちゃんになりそうだ。おまえさんは」

「……っ」



 さっきよりも恥ずかしそうに、ルナが唇を尖らせる。



「悪い気はしない。相手がいないけどな」



 俺は小さくうなずいて笑った。



「正式に即位するのはいつ?」

「姉様がカテドラール領の再建と浮浪児の件だけはやっておきたいらしいから、まだ二月は先かな」



 二ヶ月か。なら余裕で間に合うな。



「ちょうどいいや。ルナちゃんさ、ちょっとだけ俺の旅に付き合ってくんねえか。一緒にオアシスまできてほしいんだが」

「……わ、わたしに目をつけたのはさすがだと言いたいが、さっそく浮気か?」



 じ~っとりとした目つきだったが、このときのルナはなぜか楽しそうな半笑いを浮かべていた。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。



※12/21

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

少し忙しくなるので、毎日更新は本日までとなってしまいました。

できる限り毎日更新を続けたいとは思っておりますが、今後は2~3日に1話といったペースくらいになってしまうこともあるかと思われます。

このような状況ではありますが、ぜひとも最後までお付き合いいただければ幸いです。


追記

今回誤字だらけだったので修正しまくりましたorz

報告くださった方、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらずなライリー、ルナちゃん 生涯、コレ、オサンポ(≧ω≦)b [一言] フェンリルを完全に忘れてたライリー、また奇跡のお世話にならなくて良かった(笑) やっぱりルナちゃんが次期魔王で…
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ >『生涯、コレ、オサンポ』 確かにコボルトくんなら言いそうですね!(笑) でも彼ならば、失恋で傷心のレンちゃんを気遣い付いて行く可能性も微レ存か? [一言] …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ