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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
瑛vs夏煌、ラブバトルのスタート
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第五十九話 硬拳(fist) 愛梨、修一に拳で頼む

紅壱が復帰を鳴以外のメンバーから歓迎されたその日の昼

彼に瑛にも負けないほど強く熱く、真っ直ぐな恋愛感情を抱いている夏煌は珍しく、感情をハッキリと表し、それを紅壱へぶつける

戸惑いながらも、夏煌が自分を本気で心配してくれていた事を喜び、感謝の気持ちを紅壱は伝える

夏煌が紅壱への恋心を、小さな体の中で膨らませる一方で、紅壱は妙に仲が良くなっている修一と、先輩である愛梨の関係に戸惑いつつ、親友が軽く見られている事に苛立ちを見せるのだった

 「こんなバカで、女好きで、野人みたいな奴でも、一応は俺のマブダチなんで、いくら、世話焼いてくれる先輩と言えど、コイツをパシリ扱いするってんなら、俺もちょっと、キレちまいますよ」


 目が穏やかに笑っているだけに、紅壱が感情を怒り一色にする準備を万端にしているのが瞭然で、さしもの愛梨も握った拳の中に汗がジュワリと滲み出てきたのを感じてしまう。


 「・・・悪かったな、ちょっと先輩風を吹かしすぎた」


 頭こそ下げなかったが、愛梨が素直に詫びの姿勢を示してくれたのであれば、紅壱もその態度に礼を示し、臨戦態勢を即時に解くのが筋なので、彼は威圧感を消す。


 「まぁ、今回は、エリ先輩に連絡しなかったって非が、修一にあるみたいなんで、仕方ないですけどね」


 「いや、その程度で、頭蓋骨が砕けるかと思うくらいのヘッドロックはねぇだろ」


 敢然と抗議する修一だが、紅壱は耳を貸してはくれない。

 またもや凹んだ悪友と、彼を優しく慰めてやっている夏煌を横目で見ながら、紅壱は素直に不思議に感じた事を愛梨へ尋ねた。


 「ところで、いつのまに、エリ先輩、シュウと仲良くなったんですか?」


 「つい昨日だよ」


 どうやら、二人は自分が休んでいた昨日、初めて対面し、ここまでのスキンシップが出来るまでの間柄になったらしい。

 親友である修一が人見知りしないタイプであるのは、長い付き合いで知っている。

 彼氏にしたい対象とは、全く見ていないが、彼の事を男として信用している女友達も多い。

 愛梨との付き合いは、まだ短い。だが、格の違いを判断する能力を持つヤクザが道を譲る不良相手に物怖じしないタイプであるのは、一目瞭然だ。クラスだけでなく、学校中の女子生徒からまだ、遠巻きにされている修一を前にしても、尻込みはしないだろう。

 それだけに、この二人が何故、仲良くなっているのか、ますます分からない。自分が知らぬ間に接点になってしまっているのは、何となく察しはつくにしろ、何があったのか、と疑問は生じる。


 「一体、何があったんですか、エリ先輩」


 「実はな」と、気まずそうな苦笑を浮かべ、愛梨は昨日の事を後輩に説明し始めた。と言っても、そう長い時間は取らなかったし、中身もとびっきり複雑ではなかったが。



 カガリとの戦いで重傷を負った紅壱の容態を、当然ながら、愛梨も心配した。

 以前のように、病院から下宿しているアパートに帰ってしまった、と聞いた時には、その回復力に呆れて笑うしかなかった彼女だが、一応は見舞いくらいは行ってみるか、と思った。

 瑛は自分の立場を優先し、なおかつ、恵夢に諭された事で、生徒会の特権を行使う事はギリギリのところで思いとどまった。

 しかし、愛梨は自重しないタイプである。

 職員室に行き、紅壱のクラスの担任、中村哲也に訊ねれば、一番に手っ取り早い、と思いつくだけの頭は、彼女にもある。しかし、直情的だからこそ、愛梨はその最短ルートによる攻略を却下した。

 教師に聞けば、それは恵夢の耳に入りかねない。

 怖いもの知らず、と周囲から慕われている愛梨にだって、可能なら遭遇を全力で回避したい対象がある。

 一つは先述したが、蛇である。

 もう一つは、お察しの通り、恵夢だ。

 お互いの立場と良好な関係に配慮し、正確に記すのであれば、愛梨がある意味、トラウマである蛇より恐れるのは、怒っている恵夢だ。

 恵夢を怒らせてしまうくらいなら、蛇を首に巻く方が、まだ気分的には楽だ、と思うほどなのだから、怒っている恵夢がどれほど恐ろしいのか、想像に難くない。

 もちろん、愛梨は二番目に有効なーこの方法も恵夢に知られたら危険だ、と自覚はしていたーそれでも、実行に移した。その勇気の原動力になったのは、先輩として抱いた後輩への心配だった。

 瑛や夏煌と異なり、愛梨が紅壱への恋心ではなく、そのような気持ちで行動したからこそ、一件についての報告を友人から受け取った恵夢も彼女の行動に目を瞑り、責任を追及しなかったのかも知れない。

 魔属の群れと戦っていた際、愛梨は鳴に向かって、紅壱に「惚れている」と自分の素直な気持ちを叫んでいる。しかし、愛梨が惚れたのは、男としての辰姫紅壱ではなく、人に害なす魔属に怒りをぶつける戦士の辰姫紅壱に他ならない。

 確かに、見た目はワイルドでイケメンだ、と思うし、男らしさにドキッとさせられる事もある。だが、愛梨の中で、その波が恋愛感情に届く事はなかったらしい。

 なので、紅壱に会いに下宿先まで行ってみよう、と志したのも、親友である瑛の恋路を応援してやりたかったからだ。

 鳴が瑛を恋愛対象として思慕している事、夏煌が紅壱を本当に好きである事、それも周囲がよく見えている愛梨には判っていた。

 後輩想いな愛梨は、その上で、友人の恋をサポートする、と決断した。後輩より友人を選んだ、そこには、負い目と瑛への同情もあったかもしれないが、愛梨は珍しく、自分の心から目を逸らした。

 その点はともかく、愛梨は昼休みになると、クラスメイトに謝ってから、中庭に向かった。

 一直線に、紅壱のクラスではなく、中庭に向かったのは、会いたい人物がそこにいる、と予想していたからだ。


 「お、やっぱり、いたか」


 思った通り、購買での競争に持ち前のフィジカルの強さで勝ち、買い込んだ多くの総菜パンを両手に抱えた修一が中庭にやってきたので、愛梨はほくそ笑んだ。

 彼女は時折、紅壱と修一がこの中庭で昼食を摂っているのを見かけていた。

 話した事はなかったが、修一は周囲からの評価を、紅壱と同様に気にし過ぎない性格である、と察した愛梨は、そんな彼なら友人がいない日でも、クラスではなく、ここで昼食にするはずだ、と行動を推測したようだ。

 紅壱とは違い、闘気による疑似的なエコーロケーションではなく、持ち前の野獣的な直感で、愛梨が自分に近づいてきたのに気付いた修一は総菜パンを開けようとしていた手をピタリと止める。

 上げた目に、以前、親友と親しげに話していた二年生が映ったので、修一の適当に揃えられている眉が動く。

 数歩の分の間に、愛梨が生徒会の人間だ、と思い出したらしい修一は怪訝な表情となる。

 紅壱とは違う方向性で、一般人から恐れられる作りの顔に不信の色が浮かぶと、その威圧感は増す。それに伴い、修一から出ていた気迫も強まり、一瞬、愛梨は回れ右したくなる。

 さすがは、紅壱の友人だけある、と愛梨が感心する一方で、修一の方も愛梨に対し、一目置くべきか、と考え始めていた。

 これまで、近くに紅壱がおらず、自分一人だったとは言え、無自覚の威嚇を浴びても、接近を諦めようとしなかったのは、自分を部活に誘ってくれたクラスメイトと、そこの部員だけだったからだ。


 「よぉ」


 「・・・・・・ちっす」

 

 我の強い修一ではあるが、相手は先輩だし、何より、紅壱の知り合いでもあるから、小さく頭を下げる。その程度の、友人に対する配慮は、修一にも出来るのだ。

 愛梨の方も、彼のぶっきらぼうな態度に柳眉を逆立てるほど、狭量な女でもないから、頷き返すに留め、無駄な前置きはせず、ストレートに用件を告げる。


 「お前、コーイチの、辰姫紅壱の友達ダチだよな。

 ってことは、コーイチのアパートも知ってるだろ。

 放課後に、アタシをそこまで案内してほしいんだ。お礼はするぜ。まぁ、出せて2000円くらいだけどな」


 「いやっす」


 ストレートな頼み方に対し、修一の答えも即断であった。

 断るだろう、と予測はしていたが、あまりにも迷うことなく、修一が自分にNOを突きつけてきたので、さすがの愛梨も面食らってしまう。

 彼女がわずかに狼狽えている間に、さっさとこの場から移ろうと、修一はベンチから腰を上げ、歩きだしてしまう。

 メンタルの回復力も高い愛梨は、すぐさま、我に返ると、修一の行く手を阻む。


 「待てって」


 今度は、修一が絶句する番だったが、彼でなくても、瞬動法でいきなり、目前に出現されたら、言葉が出なくなるのは間違いない。

 咄嗟に、瞬動法を一般人の前で使ってしまい、マズッ、と後悔の念は愛梨の心中に過ったようだったが、彼女はすぐさま、気持ちを切り替える、緊急事態なんだから仕方なかったよな、と。

 

 「失礼します」


 驚きはしたが、その分、警戒心も強まったのだろう、修一は愛梨の横をすり抜けようとする。

 愛梨としては、このまま行かせる気はないので、彼の手首を掴んで引き留めようとした。けれども、彼女のバスケットボールを掴んで持ち上げられる五本の指は、どれも修一に触れる事がなかった。

 修一が自分の手を避けたのだ、と頭で理解した愛梨の驚きは、実に大きかった。

 瑛や紅壱ほどの実力者と正対していて、掴みを回避されたのなら、動体視力や反射神経が回避できた理由になるので、驚く必要もない。

 けれど、その瞬間、愛梨は修一の視界の死角から手首を掴もうと、腕を伸ばしていた。

 有体に言えば、彼女は修一の喧嘩師としての実力を低く見積もり過ぎていた。

 確かに、愛梨の五指は修一の視界に入っていなかったし、仮に視界の端に入ってしまったとしても、速さは相当に出ていたので、躱すのは難しかっただろう。だが、見えない場所から目に止まらないほどの速度で攻撃できる相手との喧嘩は、修一にとっては慣れっこだった。

 その相手は、誰でもない、紅壱である。

 紅壱と何度も本気の喧嘩をしてきた修一の、研ぎ澄まされた野獣じみている勘は今や、常人のそれではなく、魔術で強化されていない愛梨の動き程度であれば、見ずとも回避できてしまえる。

 何せ、彼がライバルと認める紅壱は、打撃だけではなく、関節技も使いこなすし、それ以前に、トランプの束をカステラのように引き千切ってしまうほどの握力がある。紅壱に腕を掴まれ、何度も激痛に喚いてきたのだ、見なくても避けられるようになるのは、自明の理と言えないだろうか。

 とは言え、心の中の矢車修一は冷や汗を、滝のように流していた。

 紅壱らとの喧嘩があったからこそ、体は反応してくれたが、それもかなり、ギリギリだった。紅壱たちと同じくらい、俊敏に動ける奴がいる、それは修一にとって、新鮮な驚きだっただろう。愛梨の動きが、本気ではなかった、と直感できれば、尚更だ。

 もし、愛梨が迂闊にも、瞬動法を使っていなければ、修一の体は反応速度を上げておらず、手首を掴む事に成功していたかもしれない。


 「待・・・ってくれ」


 愛梨の震えた声に、つい、修一は足を止めてしまう。

 「待て」と強気な口調で命令されていたら、即座に走り出していただろうが、基本的に親友と同じで、女性に甘い修一は冷たい態度を保てなかった。


 「何ですかね」


 律儀に振り返った修一は、ガードの硬さを示すように、胸の前で腕を組む。そんな高圧的な態度に、愛梨は下唇を軽く噛む。


 「あんまり、こういう事は胸糞悪くなるから言いたくないけどよ、アタシは二年生で、生徒会役員だ」


 苦虫を噛み潰したかのような面持ちで、愛梨が順に指し示したのはリボンと腕章。

 見れば分かる、と言わんばかりに頷く修一に、侮蔑と困惑の色が混ざって滲んだ視線を向けられ、愛梨は苛立ちを覚える。

 彼女の感情を刺激しているのは、修一ではない、愛梨本人だ。

 実際、本人も言っているように、愛梨は後輩に学年や学園内の地位を誇示し、萎縮させるのが大嫌いなのだ。しかし、使える物は何でも使う、そんなスタンスの持ち主でもあるので、彼女は躊躇いを押さえつけ、修一に自分が上級生であり、生徒会の役員である、とアピールした。

 それでも、修一は態度を変えない。

 変えない事に関しては、好意も抱けたが、この状況に限っては気まずさしかない。

 悪態と一緒に吐きたくなる溜息を丈夫な奥歯で噛み潰すと、愛梨は尋ねる。


 「先輩のアタシが頼んでるんだ。

 どうして、ダメなんだ? 教えてくれよ」


 「色々と、理由はありますけど、基本的にはたった一つっすね、そのお願いに首を縦に振る訳にはいかないのは」


 「・・・・・・なんでだ?」


 「俺のダチが、辰姫紅壱がOKしないからっす。

 理由は知りませんけど、アイツはアパートの場所を俺にしか教えていなくて、他の奴には言ってません。

 それは、他人に来られちゃ困る理由があるからっす、きっと。

 だから、俺はコウがアパートの場所を知られたくないってんなら、先輩にも教える訳にはいかないっす」


 おっぱい星人である修一だが、義に篤い彼であれば、もし、恵夢が来ても、同じ理由を述べて、お願いを突っ撥ねていただろう。

 一分だけ揉んでも良いよ、と交渉されていたら、揺らいだかも知れないにしろ、結果的に、紅壱との間にある男の友情を選んだだろう。矢車修一とは、そういう漢だ。故に、紅壱が強さを認めていた。

 へぇ、と素直に愛梨は修一の漢気に感心し、評価を改める。


 「じゃあ、しょうがないな」


 そう言い、彼女が小さく首を竦めたので、潔く諦めてくれたか、と修一は安堵する。だが、彼は愛梨の事をよく知らなかった。太猿愛梨は、一度やると決めた事はやる女だ、そう決めたら、手段は選ばない女だ、と知らなかった。


 「言葉でお願いするのは、止める」


 お願いっつーか命令だったろ、あの口調は、と修一が思う間も与えず、愛梨は彼へ接近していた。

 瞬動法こそ使ったが、打撃力を強化する呪文を唱えなかったのは、さすがに大怪我はさせる訳には行かなかったからだろう。

 ドゴンッ、と重く低く鈍い音が、愛梨のショートアッパーが深々とめり込んだ修一の下腹部から発せられ、打撃の衝撃で押し出された空気が開いた口から飛び出す。


 「最初から、お前みたいなタイプは、これ《拳》で立場の違いを見せつけてから、お願い(・・・)した方が早かったな」


 愛梨の発想と発言、それは完全に、生徒会役員ではなく、スケバンのそれである。


 「あと、二、三発くらい、ブチこまれりゃ素直に喋ってくれるよな」


 そうは脅しながらも、愛梨は今の一発で、修一の不良としてのプライドは折れたな、と確信していた。それは、彼女の短所とも言える短絡的な高慢さから来る判断ではなく、中学時代の経験に基づいての判断であった。

 どんなヤンキーでも、彼女は激烈な打撃で黙らせ、自分に屈服させてきた。

 愛梨は、自分のパンチに、絶対の自信があった。だから、多少、見直した修一も、これまでの不良と同じ、そう勘違いしていたのも無理からぬ話だった。


 「いってぇなぁ」


 「え!?」


 さすがに、修一は殴り返さなかったが、驚いている愛梨の肩をドンッと突き押すくらいはしないと、いきなり殴られた事に対する溜飲は下がらなかったようだ。

 人より腕力があるオークやゴーレム、時には鬼が相手でも、真っ向からの殴り合いをしてきた愛梨と言えども、精神的なショックを受けた時に肩を押されたら、数歩は後ろによろよろと下がってしまう。

 それでも、五歩目が地面に着くや、闘争心がONとなり、強く前に踏み込み、一発目よりも破壊力のあるボディブローを、修一へぶち込んだ愛梨は、さすが、天戯堂学園高等部生徒会の切り込み隊長だ。


 「ゴブッ」


 さすがに、その場に踏ん張り切れず、地面へ衝撃も逃がせなかった修一は斜め上に吹っ飛んでしまうのだが、尻もちを搗くような醜態を晒したりなどしない。


 「何すんだ、このゴリラ女!!」


 「!? おまっ、アタシのパンチ喰らって、何ともないのか」


 殴った相手が、何を言ってるんだ、とツッコミが来そうな発言ではあるが、愛梨の驚きは本物だ。

 辛うじて、理性は働いていたのか、呪文こそ唱えていなかったが、内臓破裂くらいはさせるつもりで、彼女は殴っていた、修一を。

 それなのに、血を吐くどころか、胃液すら口の端から垂らさず、「いってぇな」と殴られた箇所を、顰めた面で擦っているのだから、開いた口が塞がらなくなるのは当たり前だろう。

本気には程遠いにしろ、紅壱の怒りを真剣に受け止めた愛梨は彼に尊大な態度を取っていた事を、素直に詫びる

元より、小さい事は気にしない紅壱は愛梨の詫びを受け入れた上で、何故、修一と親密になっているのか、尋ねた

前日、紅壱の事を心配した愛梨は彼を見舞うべく、修一へ音桐荘の住所を教えてくれるよう、頼みに来ていた

だが、相手が女子だろうが、先輩だろうが、生徒会役員だろうが、修一には親友の住んでいる場所を、許可も無く教える気はなかった

言葉による押し問答は時間の無駄だ、と判断した愛梨は自慢の拳で、修一の頑なな態度を破壊すべく、容赦のない一撃をぶち込んだ

けれど、ゴブリンやオークですら絶命に至らせる、愛梨のパンチを受けたにも関わらず、修一は、まさかのノーダメージ!?

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