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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
異世界生活の改善開始
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第五十一話 鎖鋸(chain saw) 吾武一、チェーンソーの切れ味に恐れ戦く

自分の力を知るべく挑んだ剛力恋と、彼女の為に漢気を発揮した林二

負けた彼らへのペナルティとして、紅壱はゴブリン族全員でも腕立て伏せを命じる

もちろん、紅壱もそれに付き合う、彼らを束ね、統べ、導く王としての責任を果たさんと

初めて行う腕立て伏せ、しかも、100回

最後の一回まで、ゴブリンたちは誰一匹としてリタイアせずに腕立て伏せが出来るのか?

 結局、100回の腕立て伏せをやりきれたゴブリンは、一匹たりともいなかった。

 ゴブリン小僧は22回目で体を上げられなくなり、剛力恋は54回目で下がれなくなった。林二は4セット目が終わる寸前で崩れ落ち、吾武一は5セット目に入りかけるも、体が続行を拒んでしまった。


 「もももも」


 申し訳ありません、と謝りたいのだろうが、吾武一の口は「も」を繰り返すだけしか出来ない。

 食々菜、影陰忍、彗慧骨は分担し、皆に栄養ドリンクを飲ませ、回復を促していた。他のオークやコボルドも汗を拭いたり、背中を擦ったり、スケルトンは頑張ったゴブリンらを労わっていた。

 

 「ひゃーく」


 紅壱は額に汗をうっすらと滲ませていたが、目の前で見ていなかった者でなければ、今ちょうど、腕立て伏せ100回を終えたと信じられないほど、涼しい顔をしていた。


 「凄いっす、コウイチ様」


 「毎朝、200回してるしな」


 「200回!?」


 ギョッとしたゴブリンらに、紅壱は更なる事実を追い討ちで仕掛ける。


 「まぁ、50回ずつ、やり方を変えてるけどな」


 「他にも、腕立て伏せの仕方があるのですか?」


 あぁ、と食々菜からの質問に首を縦に振り、紅壱は再び、腕立て伏せの体勢になる。


 「最初の50回は、今のやり方。これが、基本だな。

 次に、手と手の間を狭めてやる。腕が曲がる時、肘は体側に付けてな」


 「こうでござるか・・・うっ、これは」


 試してみた影陰忍は、表情を顰めた。オーソドックスなスタンスでやる時よりも、これは大胸筋と腕全体に負荷がかかる。


 「で、次が掌を重ねてやる。これは、上腕三頭筋に来る」


 この辺りだな、と自らの上肢を擦ってから、掌を重ねて腕を屈伸させる。この時、彼の肘は内に絞り込まれるように折り曲げられていた。やろうとした彗慧骨だったが、アンデッドである彼女は元の筋力が弱いからか、プルプルと震える体を地面へ近づける事ができない。


 「そんで、最後に」


 紅壱は基本の体勢に戻ると、体を上げる際に腕の力だけで飛び跳ねた。そうして、空中で手を打ち、着地する。


 「うぁ」


 これは、さすがに誰もやってみようとしなかった。剛力恋は、栄養ドリンクによって体力も戻っていたが、隣の林二と見合わせた顔をブルンブルンと左右に振った。

 ジャンプ腕立ては、腕の瞬発力を鍛えるのに適している。だが、どのトレーニングにも言える事だが、体が出来上がっていない内に、上級のやり方に手を出せば、いらぬ怪我をしてしまう。

 無理だ、と判断した剛力恋の自制心に、紅壱は喜びつつ、「最初は、基本のやり方で頑張れ」、そう忠告すると同時に、応援した。


 「頑張るっす」


 腕立て伏せは自分を強くしてくれる、そう確信に得る疲れがあったからだろう、剛力恋の瞳は燃えていた。

 他のゴブリンも「やるゴブ」と頷き合い、林二に自然で続けやすい体勢のアドバイスを貰ったり、少し離れた位置から全体を見ていたオークらに、自分らと紅壱の姿勢がどう違っていたか、を尋ねていた。

意見交換をする四種族を見る紅壱は、つい、口元が緩んでしまう。


 「あのー、ちなみに、タツヒメ様は最高で何回くらいできるゴブ?」


 「基本のやり方で時間制限なし、体力の限界までってんなら、1000回は超えるな。

 最後にやった、ジャンプ式だと、200くらいか」


 想定外の数字が紅壱の口から飛び出てきたものだから、皆は唖然とするしかない。


 「ウデタテフセ以外にも、体を鍛える方法はあるゴブか?」


 早速、ゴブリン小僧が、他のトレーニング方法について質問に来た。しかし、紅壱は両手を頭上へ上げ、三度ほど手を打った。


 「興味を持ってくれるのは嬉しいが、そろそろ、昼休みも終わりだ。

 各自の仕事に戻ってくれ」


 少し残念そうにしていたが、魔属らは素直に「はい」と返事をしてくれた。ホッとし、紅壱は吾武一らに声をかける。


 「どうする、疲れたなら、仕事に戻るのは、もう少し後でもいいぞ」


 「いえ、大丈夫です。この液体のおかげで、もう、回復いたしましたので」


 吾武一がありがたそうな表情で、紅壱へ捧げたのは栄養ドリンクの空き瓶。

 彼の言う通り、ゴブリンらの体力は全回復しつつある。これなら、仕事に支障もなさそうだ。

 さすがに、腕立て伏せではレベルが上がらなかったようだが、経験値は稼げたようで、ゴブリン小僧など数匹はレベル数が点滅していた。観察の結果、経験値がMAXに近づきつつあると、レベル数が点滅するらしい、と解かった。


 「無理はするな。キツかったら休め」


 紅壱は、他の幹部にも部下に、しっかりと休息を取らせるように指示を出す。

 彼らに同行させているパートナーらとは、ある程度までの距離なら、心の声が届くので、幹部らに休憩時間を、俺と同じタイミングで取るよう促してくれ、と彼女達に頼んでおく。


 「よし、午後も頑張ってくれ」


 ハイッ、と返事をした村魔を満足気に見た紅壱も森に戻ろうとする。


 (午後は、チェーンソーを使うか)


 午前だけで三十本は伐り倒せたが、もう少し、ペースを上げたかった。魔力が使えないのなら、便利な道具を使うのが一番だ。

 チェーンソー特有の大きな音で、皆を驚かせてしまうかも知れないが、その辺りは説明し、受け入れてもらうしかない。と言っても、あまり辛そうであるなら、紅壱は今日の使用は見送り、次は耳栓を大量に購入しておくつもりでいた。


 (魔力で、チェーンソーを具現化できるようになったら便利で良いな)

 

 漫画やアニメだと、魔力やそれに近いエネルギーを扱う能力者が、武器を具現化するシーンが頻繁に見受けられる。

 可能だ、と信じる事が発言するのが魔術のコツだ、そう指南してくれた瑛の言葉は疑う理由が無いので、紅壱は磊一に教わり、魔術が使えるようになったら、早速、試すつもりでいた。

 刃はチタンかダイヤモンドをイメージしようか、それとも、砂を混ぜた水、つまりはウォーターカッターの方が利便性は高いだろうか、そんな思いを巡らせ、膨らませていた彼に吾武一が歩み寄ってきた。


 「タツヒメ様、ご相談、いえ、お願いが」


 「おい、そんな畏まらなくても良いぞ。副村長なんだから、堂々としろって」


 さすがに、娘を見習えよ、とは紅壱にも言えなかったが。


 「それで、お願いってのは?」


 「奥一と役目を変わりたいのです」


 どうやら、留守番に飽きたらしい、吾武一は。


 少し考えたが、反対かつ却下する理由も思いつかない。奥一にも確認すると、吾武一の気持ちも分かるのか、交代を快く受け入れたらしい。


 「じゃあ、力貸してくれ」


 「お任せください」


 安堵した吾武一は、己の厚い胸板を叩く。そうして、紅壱から斧を預かり、彼が持とうとしていたチェーンソーも、部下に運ぶよう、指示を出してしまう。手持無沙汰になってしまった紅壱は気後れを覚えながら、森へ戻った。当然、彼に懐いた妖精は頭に腰かけたままだった。



 「おーし、今日はこれくらいにしておくか」


 日没も迫った頃、紅壱は仕事を切り上げる。他の班に同行してくれているパートナーらにも念話を飛ばし、村へ戻ってくるように伝えてもらう。返事は、すぐに来た。


 「そのチエーンソーと言う道具は、凄まじいですね」


 「チェーンソーな。かなり、喧しかっただろう。耳栓も買ってくればよかったな」


 「正直、驚きました。幼い頃、一度だけ見た、エルフの雷撃魔術を思い出したほどです」

 

 しかし、音より驚いたのは、切れ味だったようで、吾武一は紅壱がチェーンソーで伐った木の量に「ゴクリ」と喉を鳴らす。


 「・・・・・・武器として使ったら、敵の体はどうなるのか、想像するだけで寒気がしますね」


 「この辺りに出るかは知らねぇが、大量のゾンビ相手にゃ、剣や銃よりも、チェーンソーの方が役立つって思っている人間もいるからな」


 ゾンビがチェーンソーで、次から次へとバラバラにされていく光景を想像した吾武一は、少し青褪めた。

 自分たちゴブリンは、ゾンビよりも肉体が頑丈である自信はあるが、あれほどの音を上げ、オークの胴ほどもある木を伐り倒す刃の前に、そんな事は関係ない、と確信できてしまう。

 チェーンソーへの恐怖を募らせる一方で、彼は自らも強くならねば、と意気込む。

 紅壱に名を与えてもらったおかげで、不可能だと思いながらも、胸の奥底では憧れていた種族ランク進化アップを果たせ、余剰魔力で生体武器である大剣も手に入れられた。だが、今の自分の実力では、チェーンソーを持った相手と互角に戦うのが難しい、と分かる。

 恐らく、ぶつかった場合、弾かれてしまうのは自分の大剣だ。最初は、何故、伐れるのか、と理解わからなかったのだが、刃の回転に秘密がある、と紅壱に教えてもらい、合点がいった。

 生体武器の攻撃力と耐久性は、生み出した者のレベルに左右される。スイッチが入った状態のチェーンソーでは、自分の大剣は木と同様に両断されてしまう。

 紅壱ほど扱いが慣れている者であれば、武器を破壊してすぐに体勢を立て直し、敵を斬り裂いてしまう。 生体武器は魔力の塊でもあるので、破壊されてしまうと、ダメージが持ち主にも及ぶ。魔力を十分に流し込めれば、修復が出来る、そのメリットもあるにしろ、その余裕を敵が与えてくれるなんて虫のいい話だ。

刃に当てねば勝ち目がある、そんな都合のいい考えも、吾武一は出来ない。


 (重量はあるが、そんなもの、魔術で腕力を強化してしまえば、何ら関係ない)


 魔術を使っている様子もなかったのに、紅壱がチェーンソーを自らの手の延長線上のごとく扱っているのを、目の当りにしていた吾武一。もちろん、紅壱は闘気で身体能力を高め、なおかつ、筋肉の回復も促していた。

 しかも、刃そのものを闘氣で覆う事により、切断の効率を格段に上げていた。回転する刃は、ごく普通の木刀やグラブを覆うよりも難しいが、手に持っている分、矢を強化するよりは幾分か、楽だ、と紅壱は思っていた。

 当然、彼は自分が普通に出来る事が、人間離れしているとは自覚していない。何せ、祖父の友人の超人ガンマンは、矢よりも遥かに速いライフル弾を闘氣で、貫通力を強化し、射程距離を5kmまで伸ばせた。

 そんな漫画めいた凄技を子供の頃から見せられてきたのだ、自分の技量は大したことじゃない、と思い込んでしまうのは仕方ない・・・のだろうか?

 それはさておき、紅壱は魔力による武具具現化に対しての、手応えを覚えていた。

 闘氣で回転する刃を覆った事により、その切れ味を鮮明にイメージできるようになった。

 紅壱は「早く魔力を使えるようになりたい」、吾武一は「紅壱と仲間のために強くなりたい」と、その為の修練をしたくてウズウズしていたからか、大量に流れた汗を流そうと川原に向かう足は、今にもスキップしそうであった。



 温泉を掘り当てたいな、と思いながら村に戻ると、昼以上の量の握り飯が、食々菜をリーダーとした内務班により、用意されていた。

 仕事のモチベーションを維持していたのは、米の美味さだったからか、山積みになっているオニギリを見て戻ってきた村魔らは、歓声を上げた。

 そのリアクションに、紅壱の中では三つの思考が混ざり合う。

 一つは、大量のおにぎりに対する興奮。

 もう一つは、村魔が喜んでくれている事に対しての安堵。

 最後の一つは、なるべく早く、主食となる穀物をこの森で見つける、もしくは、育成せねば、そんなやる気だった。


 (明日からは、木の伐採を吾武一か奥一に任せて、俺は開墾できそうなエリアを見つけに行くか)


 一つ頷いた紅壱は、少し物足りなさを覚えた。

 おにぎりと味噌汁は大量にあるが、オカズがない。

 村魔らは、腹が膨れれば、それで満足、と思うかもしれないが、育ち盛りで食欲旺盛、その上、飲食店の厨房で鍋を振るっている紅壱としては、一度、気になってしまうとダメだった。

 残っているのは、猪と山鳥の肉塊に、ジャガイモ、サラダ菜、ニンニク、キュウリ、青ネギ、白ネギ、切り干し大根、セロリ、ニンジンだった。調味料も、一通りは揃っている。

 頭の中で食材の組み合わせを繰り返した紅壱は、腕捲りをした。

 彼が料理をする、と雰囲気で感じ取ったのか、すぐさま、食々菜が傍にやってきた。ゴブリン小僧に負けない向上心の持ち主である彼女は、紅壱のアイディアとテクニックを観察し、自らのものにする気なのだろう。

 食々菜の気迫に微笑みつつ、紅壱はコボルド・メイジが作ってくれた竈に火を入れる。


 (火炎属性の魔術が使えれば、火の調節も自在だろうな)


 紅壱はまず、切り干し大根を水で戻すところから始める。

 戻るまで、およそ十分。その間にすべきは、他の食材の下拵えだ。

 ニンジンは輪切りにし、セロリは粗く切る。キュウリは細切り、白ネギは細切りと微塵切りにしておく。皮を剥いたジャガイモは、鍋で茹でる。豚も食べやすい大きさに切り、茹でる。

 量が量だが、そもそも、紅壱の包丁さばきは卓越しているし、食々菜も切り方を見て覚えたので、班員に的確な指示を出せる。作業自体が単純と言う事もあり、大量の野菜は十分の間に下拵えが済む。

 味噌、酒、砂糖を混ぜた物を湯煎で温め、ラー油と白ネギのみじん切りも混ぜる。これで、一つの料理に使うタレは完成した。

 茹で上がったジャガイモを輪切りにするよう、黄色い髪を三つ編みにしているゴブリンと、チャウチャウに似ているコボルドへ指示を出した紅壱は、良い歯応えが残る程度に戻った切り干し大根の水を絞る。

 食々菜は驚きを隠せない。何せ、乾燥した木っ端のようなものが、水に漬けていただけで、長く伸びて膨らんだのだから。

 その反応に楽しさを覚えながら、紅壱はざく切りにした切り干し大根とニンジン、セロリを少量の脂を引いたフライパンで炒める。そこに、切り干し大根の旨味が出ている水を入れ、醤油で味付けをして煮る。

 番を食々菜へ任せ、紅壱は次の作業に移る。彼から指示を出された、ラベンダー色の瞳のオークと、眼窩の中で小豆色の光が揺れているスケルトンは、茹でた豚肉と細切りにしたキュウリと白ネギを乗せ、タレをかけ、巻いていく、黙々と、大量に。

 輪切りにされたジャガイモは、ニンニクの香りが移った油が熱せられているフライパンへ入れる。ジャガイモに火が通っていく感触は耳に楽しく、鼻腔はジャガイモに染み込んでいくニンニクの精力的な香りがくすぐる。

 紅壱は、ジャガイモを皿へと盛り、薄口醤油をサッとかけ、刻んだネギを散らした。


 「できあがりだ」


 「お見事です」


 食々菜は素晴らしい手際を見せてくれた紅壱へ感謝を述べると、続々と戻ってきた仲間らへ「さぁ、ちゃんと手は洗ってください」と声をかける。



 「今日は、皆、ご苦労だった。

 段取りが完璧じゃなくて、お前らには色々と負担がかかっちまったと思う。

 今後は、そういう事がないように、気を付けたい」


 そんな事はありませんでした、と言いたくなる魔属らだが、真摯に自身の監督能力の低さを自省している紅壱を見ると、そんな安っぽく庇い方は、却って、彼の気持ちを重くしてしまうだけだ、と気付いたようで、「よろしくお願いします」と頭を一斉に下げる。


 (明日は、自分達でも、ちゃんと効率を考えて、働くようにしよう)


 心中で、紅壱の負担を少しでも減らそう、と魔属たちは気持ちを一つにした。

 彼らの雰囲気が、少し変化した事に、小首を傾げつつ、紅壱は皆が空腹なのも感じ取ったので、「ほんと、ご苦労さん」と労ってから、両手を合わせる。


 「いただきます」

結局、100回の腕立て伏せが出来たのは、日頃から体を鍛えている紅壱だけであった

達成できなかった悔しさに奥歯を噛み締め、次こそは、と気合をゴブリン族らは漲らせ、他のオーク族、コボルド族、スケルトン族も仲間に負けていられない、と一層の努力を決意する

午後の作業で、紅壱が扱うチェーンソーの凄さに、吾武一は慄き、大剣士として、更なる強さに到らなければ、紅壱の期待に応えられない、と危惧するのだった

アルシエルの村魔と早目の夕食を楽しんだ後、紅壱には村長として、全員からの報告を聞く仕事が待っているのだった

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