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とある生徒会長の本音は日誌だけが知っている  作者: 『黒狗』の優樹
異世界生活の改善開始
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第五十話 罰則(penalty) 紅壱、腕立て伏せをする

自分の力を計りたかった剛力恋は、紅壱に挑むも完敗

王と自分の実力さが大きいと頭では理解していながらも、心で渦巻く敗北の悔しさは、涙となって溢れる

そんな彼女の為に、林二もまた、紅壱にぶつかっていく

今、持つ全力を出した彼だったが、善戦の域にすら及べぬまま、紅壱の実力の前に散るのだった・・・

 うつ伏せのままでは呼吸が出来ない。

 

 「はぁ、はぁ、うっ・・・・・・はぁっ」


 どうにか、仰向けになった彼の視界が、不意に暗くなる。それは、紅壱が林二の傍らまで来たからだった。


 「やるじゃないか」


 褒められた事に礼を言いたい林二だったが、呼吸をするので忙しい口からは、その言葉が出せない。

 パクパクとしか動かない林二の口を見ても、紅壱は気分を害さない。

 彼自身、この状態は何百回と経験しているのだ、それを責める気も、詰る気も起きない。彼は、ブーメランが当たる痛さを知っていた。

 なので、同じ賛辞を繰り返した紅壱は林二の地面から上がらない右手を取って、軽く引いた。疲弊しきっている者の体を起こすのは、やってみると大変だ、と分かる。けれど、紅壱は「ヒョイ」と効果音を付けたくなるほど、簡単に林二の上半身を起こして見せた。

 立っている者の重心を崩すコツを知っている紅壱にとって、横たわっている者を起こす事など容易い。喧嘩する相手には、寝技が得意な者もいた。

 相手が密着されたいと願ってしまうほどの美少女なら、喜んで寝技戦にお付き合いするが、単に手足が長いだけの、粘着的な目をしている野郎と地面で絡み合いたくない。

 だから、相手がわざと倒れ、自らをグラウンドに持ち込もうとしてきたら、すぐさま、起き上がらせた。

 寝技に自信があり、その研鑽を積んでいる者ほど、簡単に地面から離されたら、呆然となる。わざわざ、隙だらけになってくれたのなら、紅壱は遠慮せず、サンドバックにしてきた。

 激しくむせながら、栄養ドリンクを飲み干した林二。やはり、彼もダメージと疲労が瞬時に回復したらしい。何事もなかったように立ち上がった林二に、紅壱は苦笑するしかない。


 「ありがとうございました、タツヒメ様」


 「お前が、パンチのちゃんとした打ち方をマスターしたら、俺もヤバいかもな」


 パンパンと肩を叩かれ、林二は恐縮する。


 「リン兄ぃ」


 「!!」


 数秒ほど振り向き辛そうにしていた林二だったが、意を決して、背後まで来ていた剛力恋と向き合った彼は、すぐさま、頭を下げようとした。

 しかし、「すまん」、そう言おうとした口が柔らかいものに塞がれたので、林二は目を白黒させてしまう。


 「言っちゃ駄目っす、それは」


 剛力恋は林二の口元から掌を剥がすと、ニタニタ笑いを浮かべている紅壱へ拳を突き出す。


 「コウイチ様、諦めないっすよ、私たち」


 再挑戦の意志を示す彼女に、林二もギョッとしたようだったが、彼女に頷かれ、表情を一気に引き締めると、自らの拳も己が王へ向ける。そこに敵意はなく、尊敬だけが強く握り締められていた。


 「応っ。いつでも、かかってこい」


 早くも、闘争心が復活した幹部に、紅壱は頼もしさを覚える。そんな彼の笑顔が発す凶悪さが、人の心臓を止められるレベルになるのは、最早、ご愛敬だ。


 「凄かったゴブ!!」


 「胸が熱くなったブー」


 「涙が止まらんボル」


 「僕もだホネ」


 観衆らは、紅壱相手にも一歩として退かず、勇ましく戦い続け、完敗した剛力恋と林二へ惜しみない賞賛の拍手を、労いの言葉と共に手向ける。

 幹部よりも強い翠玉丸らも、二匹を誉めちぎっている。雷汞丸はむすっとした表情で、あらぬ方向を見ていたが、尻尾だけは素直らしく、地面をリズミカルに叩いていた。

 紅壱の頭上で、どの個体よりも間近で、彼らの奮闘を目の当りにしていた妖精の感動は一入だったらしく、大粒の涙を流しながら、手を必死に叩いている。

 涙は塩の粒より小さく、拍手の音も綿に針が落ちた時よりも聞こえなかった。だが、仲間を妖精が祝ってくれるのは、王として紅壱は嬉しいし、誇らしい気持ちになれた。

 妖精にイチゴ味の飴玉をくれてやった紅壱は、まだ盛り上がっている観衆を見回す。


 「じゃ、次は誰がやるんだ?」


 途端に、静寂が場を覆い込む。

 姿形や魔力で、ゴブリンらは幹部が自分達より遥かに強くなった事を理解し、憧れ、追いつけるように頑張ろう、そんなやる気も芽生えていた。

 だが、今、剛力恋と林二が、ほとんど手も足も出ずに負けた様を見てしまったのだ、紅壱に挑む気概など、すっかり萎んでしまった。

 おどおどとし、隣の奴に「お前、行けボル」、「無茶言うなブー」と肘で小突きあい、逃げ腰になっている魔属らを見て、「いねぇのか」と後頭部を気まずそうに掻く紅壱。


 「・・・・・・お前はどうだ?」


 一瞬、肩が強張ったが、ゴブリン小僧は首を横に振った。


 「オイラじゃ、まだ、王様に勝つどころか、負けて満足できる戦いにもならないゴブ」


 「そうか。残念だ」


 (まだね・・・・・・良い目してるじゃないか)


 ゴブリン小僧は、玉砕覚悟で、真っ向から全力で挑みたい気持ちが胸の中で渦巻いているが、紅壱と自分のレベル差を自覚できてしまうだけに、あと一歩が踏み出せないようだ。それを、紅壱は臆病と思わない。自分の実力を把握し、勝てない相手との戦いを避けるのも、一つの勇気である。

 紅壱は、ちゃんと気付いていた、ゴブリン小僧が己の一挙一動を注視し、少しでも、強さを盗もうとしている事に。だからこそ、あえて、一分じっくりと使い、二匹の相手をしたのだ。観衆の中にも、ゴブリン小僧に近い目をしている個体はいた。実に、育て甲斐がありそうだ、と笑みが零れる紅壱。


 「なら、今日は、これくらいにしておくか」


 安堵と落胆、そこに自己嫌悪が籠もった溜息が、空気に拡散がる。


 「良い機会だから、決めちまうか。

 十日に一度、俺に挑戦していい事にする、誰でもな」


 「お・・・村長!!」


 諫めようとする吾武一だが、彼より紅壱の性格を把握している翠玉丸に肩へ尾の先を乗せられ、「無駄よ、何を言っても」と頭を振られてしまい、ガクリと項垂れる。その一方で、血の気が多い奥一と輔一は興奮に口の端を釣り上げる。嗤う猪と骸骨、かなり、血の気が凍り付いてしまいそうな絵面だ。

 やれやれ、と首を横に振る弧慕一も、頭の片隅で、自分なら紅壱相手にどう戦うか、を考えているのか、仲間の事を呆れられない表情となっていた。


 「もちろん、全員の挑戦を受ける訳じゃない。

 ・・・・・・名持ちの幹部からのチャレンジは、優先的に受けるから安心しろ」


 浮き沈みが激しい幹部らに苦笑しつつ、紅壱は説明を続けた。


 「今、見ていたから、お前達も分かるだろうが、名無しの個体じゃ、俺とロクな勝負にならない。

 胸を貸してやりたいが、加減し損なって、お前らに怪我もさせたくない」


 紅壱の言葉に落胆し、ざわめく村魔らを弧慕一と磊二が静かにさせる。


 「静粛に」


 「みんな、続きを聞こう」


 「だから、名無しの個体は、チェックを受けてもらう。

 俺に挑戦できるか否かは、吾武一達に判断してもらう。頼めるか?」


 「御意」


 一斉に、幹部らは跪き、王の願いを快く承ける。


 「羅綾丸、奔湍丸、翠玉丸、風巻丸、雷汞丸、コイツらが試験に合格できるよう、稽古をつけてやってくれるか」


 「任せなさい」


 妖艶な笑みを浮かべる翠玉丸。


 「お安い御用っすよ」


 前に突き出した胸へ翼を当てる風巻丸。

 羅綾丸と奔湍丸も、主に頼りにされた事が嬉しいのか、牙を打ち鳴らす。

 雷汞丸は憮然とした表情だったが、翠玉丸に「シャッー」と威嚇されると、面倒臭げに溜息を溢す。


 「不甲斐なかったら、喰うぞ。

 役立たずは減らして良いってんなら、やってやるよ、玄壱の孫」

 

 不機嫌なオーラを纏い、鋭利で危険な光を纏う牙を剥き出しにする雷汞丸。


 「あー、聞いての通り、本気で努力しないと、洒落じゃ済まなくなるから、気をつけるように」


 ゴブリン、オーク、コボルド、スケルトンが「はい!!」と青褪め、声を腹から出したのは言うまでもない。


 「名無しの個体は、もうちょい、ハンデがいるか」


 少し考えた紅壱は、名案を思い付いたのか、ポンと手を打つ。


 「じゃあ、名無しの個体は、チームを組んでも良い事にする」


 「チームを?」


 「あぁ。もちろん、自信があるってんなら、単身で挑んできても良い」


 またもや、動揺し始めた魔属らは、完二と骸二の眼光で、口を閉じる。


 「チームと言ったって、そんな大勢はダメだな。

 まぁ、最高で五人までだ。あと、同族だけでチームを作るのもダメにする」


 「つまり、種族混合のチームで挑め、と」


 「あぁ、最低、二種族でチームを作るのを条件にする」


 今後、他の魔属と戦いになるのなら、村全体の連携が大切になってくる。いざと言う時、そのコンビネーションが雑では、勝利と生存率は下がってしまう。普段から、他の種族と力を合わせ、自分を高める感覚を各々が掴んでくれれば、その手の訓練の精度も上がるだろう、と紅壱は考えたのだ。


 「誰と組むか、それは自分達で考えても良いし、幹部に助言を求めても良い。

 ただし、仲間外れだけはしないように」


 その可能性は皆無、と知った上で、紅壱は釘を刺しておく。

 複数名で挑んでいいのなら、自分達にもチャンスはあるかもしれない、希望が芽生えた魔属らは昂ぶる。今度は、誰もその喧騒を諫めなかった。気持ちは分かるからだろう。


 「水を差すようで悪いが、一匹で挑む、チームで挑む、どっちのパターンでも、実力が身に付いたって事を証明するために、幹部のチェックを受ける前に、仮試験を受けてもらうぞ」


 「「「「えーーーーっっ」」」」


 その反応に、吾武一の額に青筋が浮かぶ。今にも、村魔に鉄拳制裁しそうな彼を宥め、紅壱は「当たり前だ」と続ける。


 「お前ら、打ち合わせもトレーニングもしてない、中身の無い状態で、俺に出たトコ勝負で勝てるつもりか?

 もし、そんな慢心を持って挑んで来たら、手加減してやらねえぞ」


 爽快感が溢れる笑顔で、紅壱が穏やかに言うと、凄味が増すのは何故だろう。

 己らが甘かったと気付いたらしく、名無しの魔属らは、一斉にコクコクと頷いた。

 そんな中、一匹のが挙手する。柴犬を彷彿とさせる外見の個体は、ゴブリン小僧と似たような目で、紅壱の動きを見ていた一匹だった。


 「どのような仮試験となるでしょうボル?」


 「あまり、頭を使うのは、勘弁だブー」


 弱気な発言をしつつも、そのコボルドの隣で腕組みをしている、赤目の頭《-》は鼻息が荒く、やる気が隠せていない。彼に触発されたか、後ろのスケトンは短槍の柄を握る手に力が入っていた。


 「そうだな、この森の魔獣を狩ってくるのを合格条件にするか。

 魔数で、どの魔獣を合格ラインにするか、そこはある程度の調査が終わってから発表する。

 それまでに、チームを組む仲間を集めて、翠玉丸らに鍛えてもらえ」


 「「「「はい!!」」」」


 息の揃った返事に、吾武一は満足げだ。

 微苦笑を噛み殺しつつ、紅壱は既に、再チャレンジの事を考え、視線が宙を泳いでいる剛力恋に声をかける。


 「おい、剛力恋」


 「あ、はい、何っすか?」


 「お前、忘れてないよな」


 「・・・・・・え?」


 トボけている風ではなく、真面目に困惑している彼女に、同僚らは肩を竦める。吾武一など怒りが突き抜けてしまったのか、白目だ。

 もう一度、吾武一を宥めた紅壱は意識して、ジト目で狼狽えている剛力恋を見る。


 「負けたら、罰を受ける約束だっただろうが」


 「あっ!!」


 やっと思い出したか、と溜息が漏れてしまう。

 だらだらと大粒の汗を滝のように流す剛力恋に対し、林二の方は唇を真一文字に結んで、落ち着いている。

 紅壱は、そんな過酷な罰は課さない、そんな高を括っているのではなく、どんな厳しいペナルティでも甘んじて受け入れる覚悟が出来ているのだろう。


 「で、デコピンっすか!?」


 あの時の痛みをハッキリと思い出したのだろう、剛力恋は顔を引き攣らせ、額へ反射的に手をやってしまう。

 そんな彼女にフッと笑い返し、紅壱は首を横に振った。

 安堵はするも、まだ、安心はできない。


 「コウイチ様、キツいのは無しにしてくださいっす」


 「さて、どうしようかね」


 顎を撫でながら、ニタリと笑う紅壱に、剛力恋はますます、血色を失う。


 「――――――・・・・・・安心しろ、腕一本を落とすとか、飯一週間抜きなんて言わねぇよ」


 ホッとした剛力恋だが、紅壱が続けた言葉に、幹部としての立場を自覚したのか、ピシッと直立体勢を取る。


 「ただし、村魔の規範になってもらうって意味合いで、温い罰にはしねぇよ」


 「はいっす」


 「仰る通りです」


 脅かしはしたが、紅壱は最初から、彼女らに課すペナルティは決めていた。


 「お前ら、悪いが、もうちょい、スペースを開けてくれるか」


 すぐさま、魔属らは円を大きくする。食々菜らの指示も的確だった。


 「じゃ、腕立て伏せ100回やってもらおうか」


 「ウデタテフセ?」


 小首を傾げる剛力恋に頷き返した紅壱は、「ゴブリンは集まれ」と手招きする。

 「え?」と驚いたゴブリン達だが、長に呼ばれては逆らえない。戸惑いながら、幼体と老体を除くゴブリンらは集合する。


 「・・・・・・もしかして、オイラ達も、その『ウデタテフセ』って罰を受けるっすか?」


 時に、勘の良さは辛い真実に気付いてしまう事になる。ゴブリン小僧が発した疑問に、紅壱が微笑んだ事で、それが正解である、と知ったゴブリンらはどよめく。


 「ちょ、コウイチ様、負けたのはアタシと林兄ぃなんすから、罰を受けるのは私達だけで良いはずっす」


 「それは、お前の都合だ。

 勝った俺が、負けたお前の言う事を聞く必要があるのか?」


 「うっ・・・」


 鋭い目つき、冷ややかな口調で言われてしまっては、剛力恋に反論は出来ない。


 「魔属に、そういう感覚があるか、それは判らんが、人間には連帯責任って意識があるんだ。

 集団で暮らすのなら、一人が犯した間違いの責任は、全員で分散して負い、反省するってことだ」


 なるほど、と吾武一はしきりに頷いている。


 「古臭い考え方だと、俺も思うが、皆に迷惑はかけられないから、個々で気を付けるってのは大事だ。

 今回は、剛力恋と林二が俺に〝負けた〟から、ゴブリン族全体で連帯責任になるが、今後、他の部族も、何かあったら、同じように全員でペナルティを払ってもらう。

 それでいいな?」


 紅壱の決定に異を唱える者が、このアルシエルにいるだろうか? いや、いない。


 「とりあえず、吾武一と林二、剛力恋は俺の前で横に並べ。

 他のゴブリンは、二人、いや、二ゴブくらいの間を空けて、五列で並んでくれ」


 ゴブリンらが自分の言う通りに動き、整列すると、紅壱は「じゃ、始めるぞ」と地面にしゃがもうとする。

 驚いたのは、吾武一だ。


 「ぉ・・・タツヒメ様、何を!」


 「何って、俺が手本を見せなきゃ、やり方が分からないだろう、お前ら」


 「口で言っていただければ、大丈夫です」


 「・・・・・・言ったよな、連帯責任だって」


 「!!」


 「村魔《お前ら》のミスは、村長である俺のミスでもある。

 お前らだけにやらせて、俺一人だけ、偉そうに数を数えるって、どんだけ外道だ」


 「いや、しかし」


 「吾武一」


 彼の名を呼んだのは、意外にも雷汞丸だった。

 驚きをありありと瞳に滲ませた吾武一に、寝そべったままで雷汞丸は一言。


 「それが、コイツだ」


 その短い説得で、吾武一は紅壱を説き伏せるのを諦め、この事態を受け入れた。彼だけでなく、全員の胸中で、自分を率いる紅壱への尊敬度が爆発的に高まったのは言うまでもない。


 「一応、この腕立て伏せは罰則の一種って形にするが、普段から、鍛錬に取りくれても良い。

 毎日続ければ、ちゃんと結果が出る」

 

 自信ありげに告げ、紅壱は袖を捲った腕を曲げ、「フッ」と力を籠めた。

 「ぐぬんっ」と隆起した、逞しい力瘤に歓声が上がる。

 根気よく鍛えてきた筋肉に好いリアクションをされると、つい、気が良くなってしまうのが筋トレ好きの性だ。紅壱は、もう片方の腕にも雄々しい力瘤を作り、ポーズを魅せる。

 オオオオ、と歓声が轟き、気分が良くなった紅壱。しかし、ここで調子に乗っていると、いつまで経っても、腕立て伏せを始められないので、喧騒を特徴的なモーションで沈めてから、腕立て伏せの体勢に入る。


 「両手は、肩幅より広めに置け」


 ここで、十分な間隔を取った理由に納得したのか、小鬼達は頻りに頷きながら、紅壱の体勢を模倣した。


 「うっ、これ、キツいっす、結構」


 「ここから、どうするのですか?」


 「肘を外側に向けながら、屈伸する」


 言いながら、紅壱はゆっくりと腕立て伏せをしてみせた。平然とやっているが、これは中々の負荷をかけている。


 「・・・・・・胸と腕の筋肉に効きそうだ」


 「じゃあ、俺が数えるから、それに合わせて、腕立て伏せをするように」


 「はいゴブ!!」


 若いゴブリンらが返す、元気の良い返事に笑った紅壱は、ふと、頭皮に違和感を覚える。

 こちらを見ているはずの風巻丸の眼に同調させて見た所、妖精が自分の頭の上で腕立て伏せの体勢に入っていた。

 やる気があるなら、止める理由もないので、紅壱は「始めるぞ!」と腕立て伏せを始める。



 「20!!」


 20回1セットなので、紅壱は「よし、一旦休憩」と告げる。

 立ち上がると、吾武一、林二、剛力恋以外のゴブリン達は全員、息も絶え絶え、地面の上で完全にへばっていた。

 名持ちの三匹やホブゴブリンは、体力が他のゴブリンより多くなっており、筋力もあるので、さほど疲れているようには見えない。吾武一らは途中で、疲れ辛いフォームに気付き、自身で調整したのも大きそうだ。


 「じゃ、次のセット、いくぞ!!」

 

 げっ、とゴブリンらの顔が歪んだのを見て、紅壱は「無理ならいいぞ」と、優しく微笑む。そう煽られたら、意地を張りたくなるのが世の常。しかし、悲しいかな、心ではやる気が燃えているのだけど、体が如何せん、言う事を聞いてくれない。

 悔しそうに地面で這い蹲るゴブリンらの中で、ゴブリン小僧だけは歯を食い縛って、腕立て伏せの準備に入り、2セット開始の合図を待つ。


 「い~ち」


 彼の根性を見直しながら、紅壱はカウントを始めた。ちなみに、妖精は紅壱の頭の上でへばっていた。

剛力恋と林二は、王に挑んで負けた

その罪に対する罰は、ゴブリン族全体だけでなく、彼らの上に立つ己も負うものと考える紅壱

そんな彼の、王たる姿にゴブリン族だけでなく、他の魔属らも尊敬を強める

紅壱が罰として科したのは、定番である腕立て伏せ

体力は人並みにあれども、体の効率的な動かし方を把握しきれていないゴブリン族らは、初めての腕立て伏せに、次々と屈していくのだった

果たして、100回まで続けられるゴブリンはいるのだろうか?

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