↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/5

人と化け物

大変最新が遅れて申し訳がございません!


知り合いとゲームを作っていてそのシナリオを任されていたため、こちらの最新に影響が出てしまいました


そのため、長文となってしまいました


次は出来るだけ早く最新します


拙い小説ですが、これからもよろしくお願い致します

まだまだ夜は長い、まだ始まったばかりだ


「最初の森」に入っていく三つの影があった


フルフェイスの甲冑に身を包んだ男と軽装備のレザーアーマーの女性、そしてローブ姿の幼い女性


レザーアーマーの女性は金髪で青い目をしており、まだ幼さは残っているものの大人の女性の雰囲気がある


幼い女性はレザーアーマーの女性と同じく金髪で青い目をしており、幼いもののしっかりした目をしている


女性の2人は家族なのだろう、顔がとても似ている、そして美人だ


黙々と歩いていると甲冑姿の男が口を開いた

「ミーナ、ロザリア、この森を抜ければ目的地の『ピータパーネス城』につくと思うよ」


その声に一番最初に反応したのはローブ姿の幼い女性、酷く疲れている様で顔色が悪い

「それさっきも聞きました、ローさん」


するとレザーアーマーの女が

「ミーナ、おねーちゃんが抱っこしてあげようか?」

とおちょくるように声を掛けた


子供扱いしないでください、と小声で言い頬っぺたを膨らませる


それのやりとりを見ていた甲冑姿の男は肩をすくめた


この三人は「冒険者」と言われる人々で、「冒険者」とは特殊ジョブを扱う事が出来る戦闘系ジョブの総称である


通常「冒険者」は2つのジョブが選べて更にサブジョブが2つ選べる


ローと呼ばれた男のジョブは「ガーディアン」と「ナイト」


レザーアーマー姿のロザリアは「ナイト」と「アサシン」


頬っぺたを膨らましているミーナは「サモナー」と「魔術師」


女性陣の総合レベルは25程度だが、ローは総合レベル80である、 レベルが低い人がレベル高い人にレベルアップを手伝ってもらう、いわゆるパワーレベリングを行っているパーティーのようだ


先程の「ピータパーネス城」だが、ラテン語で「一塊の岩」と言う意味を持っている


名前の通り、魔力耐性が付随した鉄鉱石の一枚岩で作られた城だ

しかも山をくり抜いた様に作られた城のため、前方にしか門がない

その為出入りは大変だがその門を閉めてしまえば、攻撃を受け付けない鉄壁の城となる


この城では年に一度の「ゴブリン大移動」と言う城防衛特別ミッションが開催されている、とても難しいというわけでもないが初心者冒険者にとっては第一関門と呼ばれている


このパーティもそのイベントに参加するため「ピータパーネス城」に向かっているようだ


「うー」

黙々と歩いていたがミーナ悲鳴を上げた


ミーナの見た目年齢は14歳程である


彼女たちは「最初の森」の先にある小さな村からここまで来た


距離にして約数十km、休みを入れて歩くにしてもミーナの歳には辛かったようだ


「ミーナ、もうちょっとだから頑張りなさい」


「分かってるよ、おねぇーちゃん」


対して姉のロザリアは疲れているようだが余裕がまだあるようだ


「この先に広場があるようだね、そこで休憩しよう」


フルフェイスの鎧は20~30kgする

1km歩くだけで相当疲れるだろうが、ローは息も切らしていない、彼のレベルの高さが伺える


しばらくするとローが言った通り、少し歩いたところに広場があった


真ん中には大木が生えており、月明かりが木の葉に反射して神秘的な雰囲気を醸し出している

ミーナは一刻も早く休みたいようで、すぐさまに大木へ駆け寄っていった


「へー、素敵な場所ですね、ローさん」


「だな、何度もこの森を通ってるが始めてきた」


「え?」


その返答を聞いて少しロザリアは驚いた


確かに広大な森だが、彼女らが通って来たのは公道である


その途中にある、広場だ

気付かない訳がない


「この世界は変わり続けているんだよ、ゲーム時代とは相当変わったから、これもその変化の一つなんだろうね」


と言いローはヘルムを取った


ヘルムの下の顔は中性的で整っている、年齢は30代後半、とても優しそうな人だ


鎧はとても使い込まれており、至る所に傷や凹みが見受れる


さっき言った彼の「変わった」という言葉、その時だけ彼の表情が曇ったように思える


「EARTH」がゲームから現実になってから早数年、彼もその「事件」に巻き込まれた被害者の一人なんだろう


彼は今までこの世界で何を得て、何を失ってきたのだろうか


風がない為か木々は音を鳴らさない、まるで静寂の中に閉じ込められたようであった


「ローさん、おねぇーちゃん、これ見て!」


声を張り上げて2人を呼ぶ声


静寂を破ったのは先に大樹へ進んでいたミーナであった


すぐにミーナの元に行き、彼女が見つめる方向を2人は見た


何者かに倒された木々、動物を喰い散らかし飛び散った脳漿や肉片


そして腐肉臭、ミーナとロザリア達はその吐き気を催す臭に顔を歪まし、目を逸らした


「誰がこんな事を?」とロザリアが呟く

すると直ぐに返答が返ってきた


もちろんローからの返答だ

「トロールの仕業だろうね」


「この時期、この周辺の亜人族の行動が活発的になるんだよ、多分トロールが興奮してこの辺りにいた動物とかを襲って行ったんだ」と彼は言葉を続けながらロザリアとミーナに微笑んで見せた


「こういう事は多い事なんですか?」

ミーナが不安そうに訪ねた


「大丈夫だよ、心配ない、もうその悪いトロールは森の奥へ行ったし、私が責任もって君達をちゃんと守ってあげるから」

彼は彼女の頭を優しく撫でた、そしてまた微笑んだ


「それに二人とも疲れてるでしょ?ほら休もうよ」とミーナの手とロザリアの手をとってその場から離れた

これ以上ミーナとロザリアに血を見せるわけにも行かない


ミーナは幼すぎて覚えていないだろうが、彼女達の親は死んでいるのだ


彼女らの親とはローとは仲が良く、ローとパティーを組んでいた

しかもなかなかの剣豪でもあった


だがその剣豪の死に方は何とも呆気なかった


強いモンスターと出会ってしまい死んだ


冒険者の宿命的な死に方だった、だが問題だったのが子供の目の前で死んでしまった事だ


子供は親の血を浴び服を血染めにした


ローは未だに自分のせいだと自分を責めている、自分が殺したのだと、血を見るとそれをいつも思う


再び血が木の陰に隠れ見えない場所で3人は休息をとっている


ミーナとロザリアはよほど疲れていたのかすぐに寝てしまった


彼女らが寝ている時、この時こそ一番彼が罪を感じる時間だ


嘘も方便


彼は彼女達を守るために嘘をつく


ローは「君のお父さん、お母さんは生きている、でも彼らは遠くて険しくて危険な所にいる、だから今は会えない」と嘘をついた

罪を逃れたかったのかもしれない、幸いな事にロザリアは当時の記録がない、彼女はすっかりその嘘を信じ込んでしまった


今さっきのトロールの話だってそうだ

彼女達を怖がらせないために嘘をついだが、第一にトロールが暴れてもあそこまで悲惨な状況にはならない


もっと恐ろしい何者かの仕業に違いない


彼女達の寝顔を見ていると罪の重りはますばかり、耐えきれなくなって薄暗い森へ逃げてしまった


果たして彼の優しい嘘は罪か、否か、真実の天秤は答えを答えず揺れるばかりである


ローが森へ行った数分後、ロザリアが目を覚まし、体を起こした


辺りを見渡してローが居ないのに気がついた


ローさん、お手洗いにでも行ったのかな?と思いながら、また横になった


さっき握ってもらった手、力強くて暖かいローの手の感覚が彼女の手に残っている


ロザリアはいつだって彼に助けてもらってばっかりだった


彼女を護るための優しい嘘、もうロザリアは子供じゃない、父親と母親が死んでしまった事はもうわかっている

それにローはとっても嘘が下手である、あんなの子供の彼女だって解った


彼女達を大事に育てたロー、ロザリアが冒険者になりたいと言い出して驚いたであろう、だが彼女はどうしても父親と母親が見てきた世界を見てみたかったのだ


「おねぇーちゃん、何してるの?」


「んひゃー!?」


ロザリアはミーナにいきなり声を掛けられて不抜けた声で驚いた


「何その声……」


「なんでいきなり声出すのよ!ビックリしたじゃない……」


「だってさ〜、右手を見ながら変な顔してニタニタしてるんだもん、妹としてお嫁行く前のおねぇーちゃんの失態を止めたんだよ?」


「……え?」


ロザリアは声にならない悲鳴をあげた、ただ恥ずかしくて顔が焼けるように熱い


余りに恥ずかしさに「今ミーナの頭を叩けば、その記録を無くすことが出来るだろうか?」と考えてしまうほど混乱している


「どうせローさんのことでも考えたんでしょ?そんなに好きなら告白すればいいのに」


右頬を叩かれた気分だ、混乱していた脳が静まり、一つの事を考え始める


そして彼女が目をつむって少し笑い「知ってたんだ」と声を漏らした


親が見てきた世界を見たい、これが最初の目的であった


だが冒険するにつれて、彼女にある感情が生まれた


その感情を人々は桜と例える、激しく咲き乱れ散る


そう「恋」だ


幾千の死との綱渡り、彼女の感情は「吊り橋効果」からなる勘違いなのかもしれない


だが構わない彼女にとって今が桜咲く春なのだ


「知ってたもなにも、隠してるつもりだったの?丸分かりだったよ、でもそれにも気付かないローさんは筋金入りの鈍さだね〜」


やれやれ、と肩をすくめるミーナ


ローにはバレてないとホッとするロザリア、それと同時に改めて恥ずかしくなり始めた


「で、いつ告白するの?」


「っ!?」


まさかの追い討ちである、まさに恥ずかしさの波状攻撃だ、城は今にでも崩壊寸前、人間ここまで穴があったら入りたいと思ったことはないであろう


その様子を見てミーナは満足げだ


「あ、あんた!そそそ、そういうのはね、アレって物があるでしょ!」


明らかにろれつが回っていない、それにアレとは何だろうか?


「じゃあ、私が変わりに言ってあげようか?」


「っ!?」


話の主導権はミーナが完全に握った状態である、彼女は未来かならず大物になるに違いない


姉の恋が実るよう影から支えてきたミーナ


彼女がこの旅に付いてきた理由はただ一つ、2人が彼女から離れないようにだ


彼女が物心つく頃には父親も母親もいなかった


ロー曰く、遠い遠い所へ行ってしまったらしい


彼女を育ててくれたのはロザリアとローであった、だが2人も自分の親と同じ遠い遠い所へ行っしまうんではないかと心配であった


2人がいなくなったら私はどうすればいいの?、ミーナは考えた、2人何処にも行かない方法を


ワガママでまだ甘えていたいと言う願望が彼女を駆り立てた


魔法や召喚術の勉強をし、2人に同行させてもらえるようにした


別についていけば2人とも離れないようになると考えた訳ではない


2人をくっつけさせて夫婦となれば冒険など危ない事をしないようになるだろうと考えたのだ


だから彼女は旅がどんなに辛くともついていった、どんな努力も惜しまなかった


全ては自分の理想のために……


ふとミーナは周りを見渡した、先程からローが居ないことを気付いていたがこれほど長く姿が見えないのは少し心配だ


「にしてもローさん遅いね、何かあったのかな?」


「……ローさんなら大丈夫だよ……多分」


自信なく答えたロザリア、脳裏には赤い花が咲き乱れている、血の花、確か親が殺された時も咲いていた


「……ちょっと探してくる」


もしかしたら何かあったのかもしれない、不安がこみ上げてくる


とその時


『緊急クエストです』


うーうーとうるさいアラーム音が脳内に響く


ロザリアはとっさに空間をタッチしディスプレイを出現させ、ローとのボイスチャットを開いた


『ローさん!』


『ロザリア落ち着いて、すぐさまそこを離脱して公道を走っていて下さい、私も直ぐに合流します』


「ミーナ、走るよ!」


ロザリアはミーナの手を握り走り出した


「おねぇーちゃん、『緊急クエスト』って何!?」


「話はあと、今はとにかく走る!」


緊急クエスト

先程ロザリアがやっていた、「空間をタッチする」事と同じで「EARTH」がゲーム時代のシステム


通常のクエストは一定条件(村人に頼まれるや討伐目標モンスターの出現など)で受注される


だが緊急クエストは新たに生成されたモンスターが出現し、一定距離(モンスターの強さによって変動)に冒険者が入ったら受注される討伐クエスト


厄介なのはこっからで「EARTH」は新モンスターの情報を公開しないのだ


「EARTH」はとても自由で現実に近いゲーム、現実だったら新しいモンスターの情報がすぐ手に入る訳が無い


大型アップデートのパッチにはバグを修整したこと以外書かれておらず、増えたシステムやワールド、モンスターに関しては冒険者が自ら調べなければならない


相手がどれほど強いかわからない現状、ロザリア一行は一刻も速くこの場から離脱しないと命がない、そんな切羽詰った状況なのだ


ロザリア達はとにかく走った必死に走った、夜の冷たい風が木々を揺らしながら迫る来る


ロザリアとミーナは後ろに大きく恐ろしいものを感じていた


後ろを向いたら食われてしまう、そんなふうに感じ不安でしょうがなかった


しばらく走っているとローが立っていた


「ローさん……」と安堵の声がロザリアの口から漏れる


そしてまた走り出した


ローは2人を待っているあいだ今回の新モンスターについて考えていた


今回のモンスターはあの大木の裏の惨劇を作り出した張本人とみて間違いないだろう


次に何系のモンスターか、これは検討もつかなかった

この「最初の森」での新モンスター出現例は無く、この森で出現するモンスターは高くても20代のレベルだ


そんなレベルじゃあ到底あんな惨劇を起こせる訳が無い、もっと言えばここに出現するモンスターではどんなにレベルが上がろうが無理である


要はとても強い以外何もわからないのだ


走りながらローはゲーム内の掲示板を確認したがやはり情報がない、気付いているのは彼らだけらしい


『新モンスター出現、現在位置「最初の森、公道中部付近」支給応援を』と掲示板に連絡した

するとすぐに『了解、ただちに応援を送ります』と返信が帰ってきた


応援部隊到着まで10分程だろう、それまでにこの2人を守れるだろうか?、彼は不安になった


だが出来るか出来ないかの問題ではない、彼にはやるしかないのである


ただひたすら3人は走った


だがこの世は非情である


おぉ神よ、なぜこの世は残酷なのだろうか、この世の誰かがそう嘆く


3人の前に薄明るい影が現れた、とても大きく恐ろしい者だ


そこ、すなわち彼らが進むはずの道にその者は絶えず形を変え立っていた

その姿はまるで創造上の手違いと忌わしさを合わせ全ての生命を否定した様な、冒涜的な姿だ


あるべき場所に口がなく、目もない、口からは体液を垂れ流し、目は目の前の獲物をしっかり捉えて離さない


その者の腹には未だに溶け残った獣達の肉片が残っている


ロザリアとミーナは直感的にもうじきその破片の仲間入りする事を感じ取った


彼女達は泣いていた、だが泣き叫ぶことなくただ目から体液を流していた


只今の彼女らには楽しい思い出や過去の出来事などの走馬灯も見れない


ただ彼女達の頭にあるのは恐怖、それも計り知れないほど深い恐怖だ


もはや死すら彼女らには安らぎである


月の光すらその者に奪われその者が作った影に包まれている彼ら、しかしまだ煌めく光があった、それは鈍く小さく輝いていた


それはローが抜いた剣だった、それが僅かに月の光の反射で煌めいている


「ロザリア、ここは僕に任せて行きなさい」


彼は静かに呟いた、とても穏やかだ、まるで子供見守る親のようである


放心状態の彼女らにこの声が届いたのか、わからない


だが突然走りだした、何かに引っ張われるように化け物とは反対方向に進んでいった


2人の頭の上には状態異常を示すアイコンが浮かんでいた


『フィールマリオネット』


操り人形の糸、ローが2人にかけた魔法で低級のモンスターや気を失った冒険者の行動を操ることや物を糸に引っ掛けるように石などを持ち上げられる魔法


ローの場合サブ職業として魔法使いを選択しているがレベルが低いため、操れると言っても気を失った人を一定距離走らせらせられる程度だが、今はそれで十分だった


この化物の注意を自分に向けとけば彼女達は生き残れる、彼はそう確信している


彼は冥界のザクロを口にした、もう後戻りは出来ない


鈍く光り輝く剣、柄頭の部分には赤く燃える宝石が埋め込まれている


目の前の化け物はまだそこに立たずんでいた、こちらの様子を伺っているらしい


ネームアイコンを見る限りではこの化け物は『無形の王 アブホース』と言う名らしい


ネームアイコンの下には体力ゲージバーがあり少し減っている


ローの中で大木裏の犯人がこいつだと確信に変わった


そして化け物に会っていくつか解ったことがあった


1つ目はこの化け物はスライム族であること、理由は簡単、名前に無形と書かれている事と半透明の粘着質であるからだ


スライム族が動物を食す事例は聞いたことがないがこれも変化の1つだろう


2つ目はこの化け物はクトゥルフ神話系列のモンスターである事だ


クトゥルフ神話系列のモンスターは、たびたび目撃例が報告される


最近で言えば『ニャルラトホテプ』や『ミ=ゴ』、『ダゴン』などが目撃された


全体的に戦闘力が高いが少人数でしか出現しないため討伐は安易である


何故この化け物がクトゥルフ神話系列だと分かったかと言うと、ローはリアルの方でクトゥルフ神話の本を友人に勧められて読んだ事があり、その中の神格として登場したのだ


その頃の彼は想像しただろうか、今目の前でその神格と出くわす事を


そして本を読んだからわかる、この化け物は自分では叶わないことを


今の彼は自分が負け目の前の化け物に喰われる未来が安易に想像できる


だがロザリアとミーナが安全な距離に行くまで耐えなければならない


「(動かないんだったら…こちらから!)」


ローは剣を低く構え、体の状態も低くし、足を力強く踏み込み化け物との距離を一気に縮め、剣を下段から上へ強く振り上げ剣先は化け物にめり込んだが、どうも手応えがない


何故ならスライム族は打撃耐性と斬撃耐性がある、攻撃をしたとしてもダメージは入りにくい、現状ローはかなり不利な状況だ


スライム族の弱点である炎を使用したいがMP(マジックポイント)はロザリアとミーナを逃がすためにつぎ込んでいる


その為アブホースを退かせる為には持久戦を強いられる、SP(スキルポイント)を多く使う大技は使えないのだ


また彼が攻撃を試みようとした瞬間、アブホースから無数の触手が四方八方からロー目掛けて飛んできた


ローは攻撃を諦め、大地を力強く踏み込み後退することで数本の触手をよけた、だが残りは避け切れず剣でガードし、高速にぶつかった触手は砕けた


シューと音と共に薬品で何かを溶かしたような匂いが辺りに漂い初めた


この化け物は腐食性のスライムだったらしい、防いだ時に飛び散った触手の破片が辺りを溶かしている


先ほど切りつけていた剣も溶けてはないが剣先が傷んでいるようだ


「ソードインパクト!」


ローが輝きだした剣を振り下ろしたとおもうと、その剣から衝撃波を発した、その衝撃波はまわりに漂っていた触手諸共化け物を包み込んだ、その強力な、攻撃を受けた化け物は大きく仰け反る


「はっ!!!」


そこにつかさず、ローは間合いを詰め、剣を振った、綺麗な弧を描き化け物の衝突する、やはり最初と同じで手応えがない


するとまたステップで後ろに後退


攻撃して間合いを詰めては逃げ、間合いを詰めては逃げ、これが彼の今回の作戦である


パターンに入れる、と言った方が分かり易いかもしれない


アブホースはかなり動きが遅い、数が多く速い触手を注意すれば簡単にパターンに入れられる


ゲーム時代のテンプレ的な作戦だが、有効手段を持っていない現状ではこれが妥当な作戦であろう


だが何度も言うようだがこれはゲームではない


ローが生き残るために考えるように、アブホースも考える


アブホースにとって目の前にいるローはそこら辺にいる豚や熊となんの変わりもない、こちらに攻撃を仕掛けてくるちょっと変った餌としか認識していない


ローがパターンをまた始めようとした時、また大量の触手が飛んできた、明らかに先ほどより多いい


「ソードインパクト!」


今度もまた振り下ろされた剣からの衝撃波で触手が消し飛び化け物までの道が開く、足に力を込めてその力を一気に開放、相手との間合いを詰める


だが

「ちっ!!」


その瞬間、触手が彼目掛けて飛んできた、ガードは間に合わないと判断し、とっさに避けるのではなく、剣を短く振り、触手を砕いた


これがロー、最大の失敗だった


アブホースは知っていた、暴れる獲物を仕留める簡単な方法を


それは相手の動きを止めること、それは足を切り裂いたりと色々方法はあるが、せっかく相手が自分の食事皿の上にあがってきてくれたのだから、下品な戦い方ではいけない


ただ足を切り落としてしまうのは造形美に欠ける


よって目を潰すことにしたのだ


慣性の力で砕かれてもなお、直進し続ける


ローはこの時やっと気が付いた、自分のミスを


そして思い出した、いま目の前に広がる現実はゲームではないことに


シュー、という音と肉が溶けるツンとした臭い


ヘルムの隙間から入り、目に達した破片はローの眼球を溶かし始める


極限までに熱されたネジで目をほじくり返されるような痛み、手で拭おうとしても痛みはますばかり、その痛みは頭から脊髄を通して足の指先まで伝わる


化け物はうずくまるローに対し、追い討ちを掛けるように触手で横殴りし、まるで紙のようにろーは吹き飛ばされ木に命中した


ゴキッ


骨が折れる音が体に響く、肋骨を何本かやってしまったらしい、吐血してるところをみると内蔵も傷つけたのだろう


HPという概念がなければ即死していた、だが即死していたほうが良かったかもしれない


手足が痺れ動かせられなく、例え動けたとしても折れた骨が引っ掻き棒となり彼の体を傷つけるだろう


目はもう使い物にならない、真っ暗な深淵へ彼は放り込まれてしまった


自分の浅い呼吸や頬を撫でる風、木々のざわめきでさえ化け物の鼓動や蠢きに感じる


持っていたはずの剣も手元にない、先ほど殴られた時にどこかへ吹き飛ばられてしまったのだろうか


彼はこの絶望的な状況で本格的に死を意識し始めたと同時にロザリアとミーナの今後が心配になってきた


信念深い男である、こんな状況になっても彼女らが心配なのである


グチョッ


不快な音、多分アブホースという化け物の足音だろう


グチョッ


先程より大きく聞こえる、近づいて来ている証拠だ


グチョッ


何故触手でとどめを刺さないのだろうか、もうローの戦う気力はない、そればかりかもう殺してくれと思うぐらい、生きる気力も失っている


グチョッ


目が見えなくてもわかる、アブホースはローの目の鼻の先にいる


アブホースは触手をゆっくり伸ばし、体の前で触手を合わせた


それは祈るりや食事前の挨拶のようにも見える


そして食事を取ろうとした


その時

「フレイムショット!」


魔力で作られし炎の弾丸がアブホースの体に命中し、真っ赤に燃える炎が化け物の体を包む


「ローさん!」


聞き慣れた二つの声、ロザリアとミーナだ


ロザリアは走ってローに近づく


「ロザリア…バカ、なぜ来た!」


「バカはローさんです!なぜいつも一人で全部背負うんですか!?」


滝のように涙を流しながらロザリアはローに怒鳴った


いつの間にかローがかけた魔法が解けてしまいここまで戻って来てしまったらしい


「ロザリア逃げ…ゴホッ」


声を出したせいか、ローは吐血してしまった、見た限りHPの残りは20%位だ、瀕死になるような値ではない


「……ローさんもう喋らないで下さい、後は私がやりますから」


ロザリアはローに背を向けて、化け物の方へ向いた、化け物はもう先ほどの火を消し止めてあちらもこちらを見ている


怖い、逃げたい、死にたくない、色々頭の中に言葉が飛び交う、それを流れる涙と共に拭い去った


「ミーナ、ローさんを治療して…」


「わかった」


ミーナはロザリアすれ違いざまに「頑張って」と言った


ロザリアは真っ直ぐ敵を見据え剣を抜刀した、そして魔法を詠唱した


「悪魔に授かれし焔よ、汝の力を持ち入り我の敵を討ち滅ぼさんとす」


すると赤々しく激しく燃える焔が剣を包み込みまとわりついたのだ


MPの消費は激しいが相手が相手なので躊躇している暇はない、退散させることができたら御の字であろう


先行はアブホース、先ほどの攻撃で怒ってるように見える、複数の触手が介護しようとしているミーナを襲う


「させるかっ、ソードインパクト!」


焔をまとった衝撃波が全ての触手を押し戻し、辺りにあった草木と共にアブホースは焔に包まれた


その頃、ミーナはローの手当を始めていた


「リペア」


ミーナの手に緑掛かった光がやどりローのHPが回復していく


「ローさん、ほかに痛いところは?」


そう尋ねると兜を外し「顔が焼けるように痛い」と答えた


「……うっ」


思わず顔を背けた、それはそうだ顔はひどく爛れていし、吐き気を催すような酷い臭いもする


「ローさん…私のこと見えてますか?」


「いいや」


多分だが彼女が治療したところでこの顔は治らないだろう、そのことはミーナも分かっていることだろう


「ハイリペア」


変化無し、次は他のも試してみる


「…ハイリカバリ」


また変化無し、ミーナのレベルではこれが限界のようだ


自分の無能さを痛感した、悔しくて悔しくて涙が流れる


「ローさん…すみません…私じゃあもう……」


「ミーナ、泣くんじゃない」


「さっきよりは痛みも和らいだよ、ありがとう」


顔が酷いことになっても、いつもと変わらない優しい声


ローに助けてもらってばかりのミーナ、今度は守る番だ


手で涙を拭き、立ち上がった


ロザリアは頑張って戦っていた、その背中はとても昨日の自分の姉とは思えなかった、守りたい、この気持ちが強くしているのだろう


「ミーナ、ローさんの状態は?」


「……」


「…わかったわ」


ロー、目を負傷し盲目のため行動不可

敵の体力、残り約60%

ロザリア、ミーナ共に体力MAX

MP残りロザリア30%、今だ焔をまとっている状態


現状を見る限りだと彼女らが圧倒的に見えるが相手は未知の敵、どんな攻撃をしてくるか分かったものではない


とりあえず相手は火に弱いので前線でロザリアが触手を切り落とし、後方からミーナの火属性魔法による火力支援、彼女達は基本的な作戦をとることにした


ロザリアのMPがもつか分からないが、ローが呼んだ援軍までにはもつであろう


焔に包まれて苦し悶えているアブホース、今彼はこの状況を打開する策を練っていた


最初の剣士から負わされた傷はまだ癒えていないのに、何処からともなく現れた大きいのと小さいのが更に傷をえぐっていく


これ以上火を受けてしまったら間違いなく殺られてしまう


そうこうしているうちに、アブホースの体を蝕んでいた火が消えた


それと当時に大きい方が攻撃を仕掛けてきた


赤々しく燃える剣、なんと忌々しい、この剣が軌跡を描く限り彼の勝利はない


複数本の触手をてんかいし、相手との距離をはかるが、いとも簡単に触手は切り落とされた


触手の破片まで紙のように燃やされ尽くされてしまったため、目潰しは愚か逆に傷をおってしまった


「ファイアーキャノン!」


まるで神々しく光り輝く太陽のような火の玉が、小さい方の女が装備している杖から生まれ、真っ直ぐ彼の方向へ飛んできた


その輝きは闇に潜む彼には眩しすぎた為か、避けたが少し体に触れてしまった


触れた部分は黒く焦げ、辺りに異様な臭いを撒き散らした


自己再生が間に合わない、そんな状況に畳み掛けるように大きい方の女があの忌々しい剣を振り落としてきた


やられる、アブホースの中で警笛が鳴り響く、風や音、何もかもが遅く見える、剣先は自分へ吸い込まれるように振り下ろされ、剣がまとっている焔で体の表面がチリチリとする感覚もある


本能、それがこの不思議な状況を作り出しているのだろうか、何も考えられない、無心、ゆっくりとした時間が流れる


すると本能が自分に対して何かをしろと、命令してるように思えてきた


バシュッ


辺りに霧散する血、草や幹を赤く染める


何が起きたか分からない、ただ何かを切ったようだ


「きゃぁぁぁぁ!!」


ん、なんだ、何を叫んでいる?


一種の昏睡から回復したアブホースは自分が切ったものを確認した


半分からなくなった木に寄りかかっている、これまた上半身がなくなった、剣士、ローだった


無心でやってしまったとはいえ、戦意喪失した餌を切り刻んでしまった


もちろん痛ぶって殺すつもりは無かったが、これでは造形美に欠ける


たが殺してしまったなら致し方がない


「獲物を殺したら必ず食べる」これが獲物に対してのアブホースが考える、最大の敬意だ


彼は触手を伸ばし、切り取られた上半身と残された下半身を掴み、口とは思えないほど大きい穴に放り込む


味は感じない、食感も感じない、もっといえば彼はタンパク質などの栄養は必要としないため、食事を取らなくてもよい


ではなぜ食事を取るのか、それは腹の中でそれが溶けるにつれて、その者の過去がアブホースの体内に流れてくる、それは例えるのなら、芳醇なワインを飲んだ時のように快感で舌が痺れるような感覚だ


舌鼓を打つとはこのことであろう、この感覚や快感の虜になってしまったからだ


腹に入ったローの遺体、そこの切り口からなだれ出る真っ赤な血、スライムの体の中で徐々に広がり始める


それはローの人生を支え、記憶してきた血が体から溢れている、それはまさに可憐に咲く彼岸花、彼を冥界へ誘う真っ赤な花だ


アブホースの背後からは月光がさし、それが一つの作品に見える


ロザリアとミーナ、特にロザリアはこの光景を前も見たことある気がした


それが月光がその花を照らしたとき確信へと変わった


まだ覚えている、木々の青々とした匂い、土の感触、月の光、そして真っ赤な血の彼岸花、あの彼女達の親が殺された日と全く同じなのだ


「嘘だ、こんなの嘘だ!」


ミーナが叫ぶ

そうだ、先に父が殺された時も母も同じような事を叫んでいた


「ファイアーキャ……ゴフッ」


魔法を繰り出そうとしたミーナの脇腹に不思議なモノが生えていた、そのモノは彼女の小さい体を突き破り、内蔵を潰し、後ろから飛び出している


そのモノとは触手のようだ、触手がミーナの体から抜け、彼女の体は倒れ込んだ、血が魂が共に地下の冥界へ流れ染み込んでいく


あぁ、同じだ、全く一緒、母も復讐しようとして殺された、何もかも同じ、全てを守るためにローと共に旅に出たのではなかったのか、結局あの時のままではないか


最後に妹の顔が見たい、だが化け物は無慈悲にも、妹の骸をたいらげてしまった


アブホースは二人を喰らい、満足したようで、その場を立ち去ろうとする


だが


炎の力を失ったロザリアの剣がその背中に振り下ろされた


火が消えている剣などアブホースにとってはただの棒、痛くともなともない


目障りだ、腹は減ってないが致し方がない、そう思いながら振り向いたがその考えは変わった


自分を睨み離さない血走った目、同一人物とは思えない、一目見ただけで計り知れない程の殺意を感じられる


アブホースはこの森の絶対的強者だ


それ上、自分なんかに殺意を向けるものなどいない、ローやミーナだってそうだ、ローはただ時間稼ぎの為に戦っていたし、ミーナは精神、身体共に弱過ぎた


だか今目の前にいる彼女は違っていた、アブホースへの一途の殺意、彼にとって初めての感覚だ


そして直感的にアブホースは感じ取った、この女は私が倒すべき初めて対峙する敵なのだと


彼に顔や声があれば、嬉しさのあまりに笑っていただろう、その感情はまさに、コースメニューの最後にサプライズでデザートが出てきた時と同じ、それほど嬉しいことだ


こうしてはいられない、まずは自分の形を変えなければならない、初めて対峙する敵なのだ、正々堂々、決闘はフェアに、ちょうど先ほど人間を食したのでそれを元に体を変形させていく


沢山あった目は一つになり、あるべき場所へと、裂けていた口は閉じ、うねうねとした触手は束となり、手足となった


少し見上げる程の大きさだった彼はみるみる縮み、人型に変形していく、大きさはロザリアより少しばかり大きい程度となった


こうしてゲル状の人間が完成した


この間、ロザリアは息を整え、精神統一をはかっていた、次の一太刀で相手の胴体を裂き、確実に殺せるようにと


人型に変形していく光景を見てもさほど驚かない、どんな形になろうが殺すことにはかわりはない


化け物がグチョグチョと不快な音を立てながら剣を体から抜きとり、右手に片手で胸の前に構えた


傾いている月の光で剣の柄頭に埋め込まれている赤い宝石が鈍く光る


どうやらこの化け物は決闘がしたいらしい


ロザリアも胸の前に両手で剣を構え、その次に前に構えてお互いの剣先を叩く


鉄がぶつかりあってキーンッとなる、コングが鳴り響き、正々堂々の真剣一本勝負がここに開幕した


先に動いたのはロザリア、全身の筋肉使い力強く渾身の縦切りをおみまいした、だが大股で軸がぶれぶれの一撃なんか、当たるハズもなく、虚しく空を切り地面に剣先がめり込む


彼女には大きな隙が生まれ、アブホースに攻撃のチャンスを許してしまう


相手の死角となる後方から蹴りあげ、円を描くように後頭部へカカトを命中させた


強い衝撃が走り、頭の中で共鳴し、耳の中で鳴り響く、意識が薄れ、地面は歪んだように感じ、立っていることが出来ない、ロザリアは膝をついて倒れてしまう


ここで勝負ありかと思われたが、彼女は立ち上がった、腕を大地に突き立て、剣を杖にし、足で土を踏みつけ、再び剣を構えた


彼女は思い切り蹴られたおかげで冷静さを取り戻しつつあった


ゲームシステム上、決闘ではマジックやスキル、アイテムの使用のいっさいを禁じている


このことからロザリアは相手の弱点である炎が使えない、圧倒的に不利な状況であるがしかし、奴を殺る手段が既に彼女にある、あとは実行にうつすのみ


再度剣で攻撃、短く歩幅を刻み、小振りの右からの横切り、軸をぶらさず真っ直ぐアブホースの脇腹へ


これには彼も避けれずに両手で剣を持ち受け止め、弾き返し、一歩後ろへ後退


これにつかさずロザリアが追撃、剣を振り上げる


そこにアブホースが、がら空きの腹部へ心臓潰しの横蹴りをお見舞いした


臓器が押し上げられ、肺が圧迫される、呼吸困難となりよろめくが待ったはなしだ


攻守逆転、今度はアブホースが攻めに転じる


右手で剣を持ち、胸の前で構えて彼女の顔目指して突き、鋭利な剣先が相手の顔を突き刺さんとす


血が散り、アブホースの剣先を赤く濡らす、間一髪で避け、頬を掠めながら空を刺した


ロザリアは横に転がり込み、相手との距離をとり、立つと同時に剣を振る


敵が間合いを詰めくると予想して行った行為だったが、アブホースはその予想の斜め上の行動にでた


彼女の間合いギリギリの所で大跳躍し、肩の上を飛び越え、落下の力と共に顔を掴み地面へ叩きつけた


強い痛みの後にじんわりとした痛み、それと生暖かい血が後頭部から流れ、キーンと耳鳴りが聞こえる


次々に攻撃をしても有効打が出せない


そればかりか逆に反撃にあっている


ロザリアは寝た状態から自分の顔を掴んでいる相手に攻撃


掴んでいる手を離し、アブホースは腕全体でガード、粘着質の皮膚に剣がめりこむ、いがいにもその奥は硬く切断には及ばない


低い姿勢のまま、前にスキップ、くるりと一回転する、彼女も立ち上がり、向き合いながら一歩下がった


するとアブホースは一歩、歩み寄り、顔目掛けて上段回し蹴りを行おうと、体重片足に託し、それを軸に回転する


この時、彼は大きな違和感を感じていた、何か引っ張られると言うより天秤の均衡が崩れ落ちる感じに近い感覚、それと共に世界が傾き始めた


ロザリアはこれを待っていたのだ


過去にローから剣の特訓を受けるとき「お前は剣士派かそれとも剣闘士派か?」と聞かれた


ローやロザリアのような剣や盾で戦うのを剣士と呼び、アブホースのような剣の他に、足や拳を使うのを剣闘士と呼ぶらしい


一見剣闘士の方が強いと思われがちだが、大きなデメリットがある


それは重い剣が扱えないのだ、何故なら重い剣を扱おう物なら足技を行うとき、遠心力で軸がぶれてしまい転んでしまうからだ


では目の前の彼はどうであろうか、持っているのはローの形見の剣、大きさは一般的なバスターソードだ、これは片手でも両手でも扱える武器だが、剣闘士が扱うのはもっと軽い剣、ショートソードなどである


スライム族であるアブホースは、全身筋肉であるが遠心力で増された剣の重さには耐えきれなかったらしい


王を型どった巨像は、怒れる市民が張った縄で揺らめき傾く、硬い地面に叩きつけられ、砕ける音は民への祝砲である


「もらった!!」


全身の筋肉が唸りを上げ、全てが振り下ろすという動作を始める、腕は相手の肉と骨を断つために、足の筋肉は剣先がぶれぬようにと大地に根を下ろす


だが、頭と体は違う動作を行ったようだった


ゴボッ


体中を走る強い痛みと共に吐血、それと同時に剣を持っていた指に力がはいらなくなり、地面に落としてしまう


一打目の後頭部への打撲による脳挫傷、二打目の腹部への蹴りによる臓器損傷、そして三打目が決め手となり三半規管が 狂ったようだ


回数は少ないものの、人間を遥かに超えた力、一撃が致命傷になるのだ


激しい頭痛、それと吐き気、吐いて出てくるのは血の塊


三半規管のバランスを保つ機能が損なったいま、地面が傾いているように感じる


アブホースは目の前の状況をよく把握していなかった、完全に負けと思っていた


ゲームシステム上、首は100%クリティカルを出して、多段ヒットする唯一の場所で、相当強いモンスターでも半分のダメージを与えられる


あの一瞬だけ敗北の苦汁を全身で感じていた


彼は立ち上がった、静かにゆっくりと、見上げた空は、まだ見ぬ夜明けの太陽に照らされ青白い


決闘の勝者、ロザリアの方向を見た


四つん這いになり、口を手で覆っている


決闘の敗者には死をだが、今の彼女には彼を殺せない


責めて彼女の願いを聞こう、王様に跪く戦士のようにしゃがみ、耳元で囁く


「ネガイ…ハ?」


人間を取り込んだおかげで少しは喋れるが片言である、だが伝わったようだ


短い言葉の願いであった


二人のところへ、それだけだった


再び立ち上がって剣を構える、ロザリアは四つん這いから立て膝になり、胸の前で手を合わせ、「父なる神よ、今私達は貴方の下へ帰ります、その慈悲深い懐で我らを包みたまえ」と祈りを捧げる


目を閉じ、空を仰ぐ、死に恐怖もない、ただ清らかな気持ちだった


「Amen」


その言葉を合図だった


太陽はその体を見せ、血に塗られた銀の剣を照らす


光が彼女らの包み込み、かの地へ連れていった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。