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第30話 ピクニックデート

「ここがテニスの森か」


 日曜日。

 昨日の桜山親子とのサイクリングでの筋肉痛が少し足に残る中、俺はテニスの観戦に来ていた。


 綾乃から、

『新人戦があるから応援に来てくれたらもっと頑張れるのにな~』(チラッ)

 と何度もアピールされていたのだ。


「清彦~! こっち、こっち~!」


 陣中見舞いよろしく、月詠学園が荷物等を置いているテントへ向かうと、こちらを目ざとく見つけた綾乃が大声でピョンピョン跳ねて俺の名前を叫んでいた。


 否応なく集まる視線の中を突き進んで、俺も綾乃の方へ向かう。


「応援来てくれたんだね。ありがとう」

「ああ。今日は空いてたしな」


「私、今日の新人戦2日目、絶対優勝するからね」

「おう」


 そういや、昨日は予選だったのか。

 月詠学園は強豪校だけあって、かなりの人数の新入生が2日目の本戦に進出しているようだ。


「あれが1年1組の佐野清彦くんか」

「むさくるしい女たちのテントに陣中見舞いに来てくれるとかマジ天使」

「幼馴染の応援か……シンプルにムカつくな」

「ぐぎぎ……早見が羨ましい……。テニス強くて、あんな最高な幼馴染持ちとか」

「ちくしょうちくしょうちくしょう」


 周りの部員からの怨嗟の声や殺気を帯びた視線が綾乃の背中に突き刺さるが、本人はむしろそれを恍惚とした顔で受け入れている。


「あ、そうだ。今日も暑いから、これ皆さんでどうぞ。中身は手作りのスポドリだけど」


「「「「──っ⁉」」」」


 俺は、家にあった水筒やカラのペットボトルに詰めてきた自作のスポーツドリンクを入れた袋を差し出した。


 自作と言っても、ただ単に粉末タイプのスポドリをちょい濃い目に作った物でしかないのだが。


「あ、あざーーーっす! 大事に飲みます!」

「男の子の手作り……。これって、そういうお店で1本頼んだら30万円とかいく奴じゃ……」

「それを無料で、しかも男子高校生が使用済みっぽい水筒で飲めるですって……」

「って、先輩。なに、1本丸々ガメようとしてるんですか! それも使用感満載な水筒の奴を!」

「ぬかせ! こういうのは先輩優先と決まっとるんだ! 引率仕事出来てるんだから、これくらいの役得くらいいいだろが!」

「ズルいですって! 今日は新人戦なんだから私ら1年生のために持ってきてくれたんっすよ!」

「先輩とか関係あるか! 囲え! 奪え!」


 おおう……。

 先日のサイクリング用に買ってて余ったスポドリの粉末で作っただけだが、どうやらこんな物でも女の子達には喜んでもらえる様子だ。


「もう、清彦ったら餌付けしちゃって……」

「綾乃がお世話になってる場所なんだから、皆にも挨拶しとかないとだからさ」


「もう~♪ 清彦ったら、本当に出来たお婿さんなんだから♪」


 上機嫌の綾乃にバシバシ背中を叩かれたが、どうやら月詠学園の士気は上がったようなので、ヨシとしよう。



 ◇◇◇◆◇◇◇



「理恵さん。お待たせ」

「ううん。何か盛り上がってたね」


 陣中見舞いを終えた俺は、少し離れた場所にいた理恵さんに声をかけた。


「理恵さんも来ればよかったのに」

「高校生にもなって親が行くのもね……」


 そう言って、理恵さんが苦笑いした。


「いや~楽しみだな~。理恵さんとのテニス観戦デート」

「た、ただ私は娘の部活の応援に来ただけで」


「でも、俺の分のお弁当も用意してくれたんでしょ? このバスケット、2人分には多いもんね」


 そう言いながら、俺は理恵さんが持っていたバスケットを半ば強引に奪い取る。

 さっきまではスポドリの袋が重いから理恵さんに持ってもらってたけど、今は手が空いてるからね。


 カノジョに重い物は持たせられない。


「そ……それは……。もう、清彦君ったら……」


 その辺の誤魔化しは俺には効かないよ理恵さん。

 ともすれば、どうしたって娘の幼馴染というカテゴリーに容易に墜ちてしまう身の上だ。


 故に、きちんとこれはデートだと理恵さんに分からせる必要がある。

 逃げ道は、ちゃんと塞いでおかないとね♪


「挨拶も済ませたし、綾乃の試合の番にはまだ時間あるから、ちょっとのんびりしようよ」


 そう言って、俺は理恵さんの手を引いて、しばし公園内を散策した。


 ここはテニスの森というだけあって、広大な敷地の中にテニスコートや壁打ちの片面コートなどが幾つもあったりするが、芝生のエリアは各学校が荷物を置いている程度であまり人気はない。


 俺は芝生エリアの木陰になる場所を見つけるとレジャーシートを敷いた。


「はい。虫よけスプレーしといてね」

「清彦君、最初からこうして芝生の上で寝そべってるつもりだったのね」


「ちゃんと綾乃の試合の時には応援に行くよ」


 応援をサボることに用意周到な俺に対して苦言を呈する理恵さんに笑いかけながら、俺はレジャーシートの上に寝そべって空を見上げる。


「あ~、気持ちいいな」


 新緑の中で風が抜けていく中に身をゆだねると、ほんと、全ての悩みなんてちっぽけでくだらない物だなって感じる。


「本当ね。普段は家の中ばかりだから」


 そう言って、横に座る理恵さん。


「よっこいしょっと」

「ひゃ⁉ な、なんで膝の上に頭を……」


「だって、こういうの定番でしょ。ピクニックデートなら」


 まぁ、普通は公園で遊んでお弁当を食べた後に横になって彼女の膝の上で昼寝するパターンだから、初手でいきなり寝転ぶのはね。


 でも、理恵さん。


 白のワンピースに薄手のカーディガンでツバの大きな帽子に、足元はミュールってスタイルだもんな。

 一緒にフリスビーやキャッチボールして遊ぶって訳にもいかない。


「もう。誰かに見られたら」

「こっちには、あんまり人が来なさそうだから大丈夫だよ」


 そう言って、俺は理恵さんの膝枕に顔を埋めた。


 抗議の声を聴く気が無い俺に根負けしてか、理恵さんも大人しく俺を膝の上から追い出すようなことはしなかった。

ピクニックデートって爽やかやな~(意味深)


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