第29話 凡な奴らに興味ありません
【桜山萌花──視点】
「そっち出るなよバカ! そっちはスナイパー張ってるに決まって……あ~! もうっ! マジ味方無能!」
自チームの負けのリザルト画面が出たFPS用モニターに向かって、私はヘッドホンを投げつけた。
「あー、もうっ。これだから無能な味方って敵より厄介だわ」
こっちの作戦意図を理解もせずに好き勝手動きやがって。
こんなんでイモータルの称号与えるとか、運営もこのゲームもぬるい奴しかいないのか。
「ただいまー、萌花」
「あー、おかえりママ」
もうママがお仕事終えて帰って来る時間だったか。
私の部屋のドアを開けたママが疲れた顔で立っていた。
「萌花、またゲームばっかりやってたの?」
「ばっかりじゃないよ。ちゃんと朝からシステム設計とAI学習プログラム構築のお仕事もしたし」
「今日、起きれたなら学校に行けばよかったのに……」
「あんな凡な奴らと関わるとこっちの感性が狂う。行く必要なんてない」
話は終わりとばかりに、私は机に向き直る。
FPSゲームのランクマッチに戻る気はないから、仕事でもするか。
これでもフリーのプログラマとして人気なんだよね私。
将来も、余裕でこれで食っていけるし。
今更、学校なんて。
共学校の教師というエリート職に就くママだけど、所詮は体制の中の歯車の一つに過ぎないから、発想が凡なのよね。
今の世の中、才能さえあれば女一人で余裕で生きていける。
「あ、萌花、それでね。お母さん、今年度は部活の顧問になってね」
「ふーん」
いつもは直ぐに、私の様子を見たらリビングに引っ込むのに、雑談なんて珍しいな。
そんな事を思いながら、私は案件ファイルを呼び出しつつ生返事を返す。
「それで、週末のサイクリングなんだけど、部員の男子生徒が萌花も一緒にどう? って誘ってくれたんだけど」
「ふぁ⁉」
え、男の子が?
一緒に⁉
「やっぱり無理よね。佐野には私から断って」
「い、行く行く! 行くから! 何を勝手に決めてるの!」
「え……。だって、萌花。最近は碌に外に出てないのに、いきなりサイクリング何て。距離も結構あるみたいだし」
「行く、絶対行く。ロードバイク買って、室内漕ぎのトレーニングもする」
私が外に出ないのは、凡な奴らと関わるのが嫌だから。
男という、存在自体が非凡で、おまけに顧問の年増教師と、世間一般的にエロ猿とされているJCまで一緒に誘ってくれる男なんて、希少種もいい所だ。
これは、良いインスピレーションを与えてくれそうだ。
そう、これは己の感性を磨くため。
断じて、女子中学生の旺盛な性欲によるものではない。
ないったらない。
◇◇◇◆◇◇◇
「あ~! くそっ! 佐野先輩のケツにむしゃぶりつきてぇ!」
サイクリングから帰って早々、私はベッドに突っ伏して枕を抱えながらジタバタした。
「あんなケツを強調するような格好を見せつけるとか、完全に痴男でしょ」
あんなん、性欲旺盛な女子中学生なんて我慢できんて!
佐野先輩の後ろを走行している時に、何度トリップしかけたか分かんない。
「男の人なのに、女に護られるんじゃなくて、率先して先頭を引っ張ってくれて、サプライズも用意してくれて……ウキャアアァァアア!」
カッコ良くて、先輩として頼れて、スケベな格好もしてくれるとか、もう最強じゃん。
男の中でも更なる非凡。
間違いない。
同じ非凡同士、私と先輩は間違いなく番になる。
「ど、どうしたの萌花? 何だがドタンバタンと暴れるような音が聞こえたけど」
「なんでもないよママ。私ね、高校は月詠学園に行こうと思う」
「え⁉」
「ちゃんと佐野先輩の後輩になりたい。月詠学園に通うためなら、内申点のために面倒で無駄な時間だけど中学も行く」
「萌花……。うん……うん……。そうだね。萌花は強いね。お母さんの誇りだよ」
「たかが中学に通うくらいで大げさ。それじゃ、私はやる事あるから」
涙ぐむママを見るのがちょっぴり気恥ずかしかったこともあって、私は一方的に宣言して、すぐに自分の部屋のドアを閉めた。
そして今日、佐野先輩と交換した連絡先を眺めてニマニマした後に、次のサイクリング計画を練るのであった。
被害者2。
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