第28話 次は、2人きりで
「さて、着きましたよ。本日のライドのメインの目的地です」
メインの県道から外れて、農道を走っていく。
「ここって農園……?」
畑の中に現れた看板を見て、萌花ちゃんは小首を傾げる。
「佐野……ハァハァ……ここは? 事前にもらったスケジュール表には場所しか書かれていなかったが」
まだ坂道でのダメージが抜けきっていない桜山先生が、荒い息をしながら、看板を見上げる。
「この農園は観光農園です。 ここでは春の時期にイチゴ狩りが出来るんですよ」
「「わぁぁあ!」」
「イチゴ狩りの後には、併設された農園直営のカフェでイチゴパフェが食べれます」
「「わぁぁあああ!」」
「お土産は、今朝採れたてのイチゴを使ったイチゴ大福です」
「「わぁぁああああ!」」
という訳で、帰りの英気を養うためのイチゴ狩りである。
こうやって、季節の物を戴けるのが、サイクリングの醍醐味である。
「イチゴ美味しい! 糖分と水分が沁みる……」
「美味しいね、お母さん」
それにしても、貞操観念は逆転していても、女性が甘い物に目が無いのは変わらないようだ。
「あっちに、大きいのがあるよ!」
「周りをちゃんと見てね~」
はしゃぐ萌花ちゃんをママとして見守る桜山先生を後方彼氏面で見守る俺。
うんうん。
前世で、付き合っているママと子連れデートをする時の定番だったイチゴ狩りデートだが、大正解だったようだ。
「ありがとうな佐野」
「ん? 突然、どうしました桜山先生」
ビニールハウスの端っこで眺めていたら、いつの間にか桜山先生が隣に来た。
「萌花の事だよ。あんな風にはしゃいでいる、あの子を見るのは久しぶりだ」
「そうなんですか。じゃあ、強引に誘った甲斐があったな」
一緒に笑いつつ、俺は隣にいる母親の顔をする桜山先生の横顔を確認する。
本当に嬉しそうな顔をしてるな。
「あの子は、ちょっと変わった子でな。実は学校に通えてないんだ」
「そうみたいですね」
「知ってたのか?」
「ええ。桜山先生が坂道でヒーヒー言ってるのを待ってる時に、萌花ちゃんが話してくれましたよ」
「そうだったのか。萌花の奴、もうそこまで佐野に気を許してるんだな……」
難しい子みたいに言ってるけど、割と萌花ちゃんは素直で分かりやすい子だと思うけどな。
「またロングライド行きましょうね。萌花ちゃんも一緒に」
「そう言ってくれるのは、こちらとしても願っても無い話だ。萌花も喜ぶよ」
ん~。
まぁ、今回のライドの第一目標は、桜山先生の娘さんの萌花ちゃんと仲良くなることだからねぇ。
そういう意味では、今回のミッションの目標はクリアしたと言えるけどさ~。
でも、ちょっとはフックが欲しいよね。
あ、そうだ。
「それはそうと、桜山先生。イチゴ進んでないんじゃないですか?」
「あ、ああ」
「知ってますか先生? イチゴは先っぽが一番甘いんですよ。だから、イチゴのお尻から食べると、後から甘さが追いかけて来て美味しいんです」
「そうなのか」
「ほら」
「むぐっ!?」
イチゴに関する雑学を披露しながら、俺は桜山先生の口に指先でつまんだイチゴを押し込んだ。
イチゴを押し込む際に、桜山先生の唇に指先が触れる。
「ね? 甘いでしょ?」
そう言って、俺は笑いながら指先を、桜山先生に見せつけるように舐めた。
「へ……ふへぇ……」
そこには、先ほどまで娘の事を考えている母親の顔はなかった。
「次は、2人きりで来ましょうね」
そう言うと、俺は摘んだばかりのイチゴにかじりついた。
先ほど自分がたれたウンチクとは逆に、先っぽから躊躇なく。
小悪魔ムーブは忘れない。
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