第88話 これまでのバンドの話をしよう その4
「うちの大学にはロック専門の軽音部があってさ。私は最初そこでバンド組んでドラム叩いてたんだよ」
凛子さんは静かに話す。私は気になって尋ねた。
「どんな音楽やってたんですか?」
「ドラマーってどうしても母数が少ないから、ジャンル関係なくコピーバンド掛け持ちしてた。KORN、ミセス、LITE…今思うと節操なかったな」
「なんでも屋状態ですね」
「マジでそう」
凛子さんは苦笑して続ける。
「でも部の活動がそもそもスローペースでさ。それで部外で真剣にプロ目指せるバンドを作ろうって、1年の夏にメンバー探し始めたんだよ」
「なるほど。それで声かけられたんだ」私はベッドに寝そべる葵さんをチラッと振り返る。
「そう。大阪のライブハウスでやったかな。なんやしつこく声掛けてくるなぁって思っとったらベーシスト探しとるって」
「し…しつこくはなかったろ」
心外そうな凛子さん。けど葵さんは否定した。
「ナンパでも今どきあんなしつこないわ。でも熱意は伝わってきたから、この子に興味湧いてセッションしたんよ」
「いよいよこのバンドの結成ですね!」
ここから私たちのバンドの物語が始まると思って両手をギュッと握りしめると、葵さんが寝たまま首を振った。
「いいや。まだメンバーが他におらんって言うねんもん。その時は断ったわ」
「凛子さん…葵さんに1度振られたんですか?」
「その言い方やめろ!」
凛子さんは当時の事を思い出して気持ちが入ってきたらしく、身振り手振りを交えて続けた。
「でも絶対あの生意気なベーシストをメンバーにしてやるって心に決めたんだよ。腕は確かだったからな。それでまず蘭子に声をかけたんだ」
「蘭子さんと知り合いだったんですか?」
凛子さんははっきり頷いた。
「ああ。1年の春に六甲台キャンパスで迷子になっててさ、しゃーなし文学部まで連れて行ってやったんだ」
お嬢様の凛子さんは想像できないけど、不慣れなキャンパスでオロオロしてる蘭子さんは容易に想像できてしまう。
「で、その迷子だったやつがピアノのコンクールで賞獲ったことあるって言ってたの思い出して、探し回って勧誘したんだ」
「そんで凛子と蘭子がふたりして三宮のライブハウスまで来てな、3人でバンドやろうって。はじめはギターレスのトリオなんか…って思ったけど、すぐ考えが変わったわ」
葵さんは静かに続けた。
「そんだけあの子は凄かった。キースエマーソンが生き返ったんかと思ったもん」
名前だけは知っている。たしか伝説的なキーボーディストだ。
「せやけど感心したのもつかの間。バンド結成記念の乾杯はまさかのコメダ珈琲やで。あれには閉口したなぁ…豆をあてにコーヒーで乾杯かぁって」
「仕方ないだろ。あの時はまだ私も蘭子も未成年だったし」
「あんたはずーっとコメダやんか」
葵さんが呆れた声を出す。
「これがこのバンド結成までの経緯だ」
凛子さんはそう言うと立ち上がり、またキッチンに向かった。
「コーヒー飲むだろ?」
「あっはい」
そう答えてから私は首をかしげる。
「あれ…? 華さんは?」
すると葵さんが布団の中から教えてくれた。
「あの子が加入したのはこのバンドが活動始めたあと。結成メンバーやないんよ」




