第87話 これまでのバンドの話をしよう その3
軽快なジャズが流れる中、凛子さんが渋々と話し始めた。
「そもそも私は中学から高校まで吹奏楽部に入ってた。入部と同時にドラムを始めたんだ。そこでジャズとロックに出会った」
「凛子さんが吹奏楽?」
あまりに彼女のイメージとかけ離れていたので変な声が出た。
「この子が吹部なんて信じられへんやんな?」
「ぜったい運動系だと思ってました」
「でも証拠の写真あるんよ。ちゃーんと制服のセーラー服着てな、街のイベントで真面目な顔してドラム叩いてるねん」
「えーっ」
全然想像できない。吹奏楽を演奏する凛子さんもセーラー服姿の凛子さんも。
だって吹奏楽部はこうピシッとしたイメージがあるし、女の子らしい格好の凛子さんなんて想像できない。
なんなら昭和のスケバンの格好の方が全然似合う。やたら丈の長いスカートの制服を着て竹刀片手に睨みを利かせてるアレだ。
その時ゾクッ…と背中に殺気のようなものを感じ恐る恐る振り向くと、凛子さんが信じられないくらい怖い顔でこっちを睨んでいた。
「お前ら馬鹿にしやがって…だから話したくなかったんだよ」
「じょ冗談ですよ!馬鹿になんかしてませんって!」
「嘘つけ」
「本当ですって当然じゃないですか!」
あわてて言い訳する。それから話を逸らそうとして尋ねた。
「こ…高校の時って彼氏いなかったんですか? 凛子さんスラッとしてるしモテそうだけどなぁ〜?」
「この子がモテるわけないやん」
「ちょっと黙っててください!」
振り向いて葵さんに釘を刺し、恐る恐る凛子さんに向き直った。今ので火に油を注いだかもしれない。
すると彼女は怒りを剥き出すかわりに仏頂面で頬杖を付いて答えた。
「いなかったよ。中高一貫の女子校だったからな」
「しかもやで、ウチでも名前知っとるぐらい有名な横浜の名門お嬢様学校」と葵さん。
「お…お嬢様?!」
だっ…だめだ。頭が混乱する。どうしてもお嬢様な凛子さんを想像できない。
するとまたしても鋭い視線を背中に感じて振り向くと、凛子さんが野犬みたいな鋭い目付きでこちらをジッと睨んでいた。
反射的に体がビクッとなる。
「もういい!もう何も話さないからな!」
声を荒らげてそっぽを向く凛子さん。私はしまったと慌てながら不貞腐れている彼女に話の続きをうながした。
「こっ…神戸に来てからのことを聞かせてください。どうやって華さんに出会ったんですか?」
「うるさい!帰れ!」
また声を荒らげる。すると葵さんがため息混じりの呆れ声を出した。
「あほやなぁ。それだけ今のバンドマンとしてのロックな姿が板についてるってことやん。なんで怒るんよ」
そう言われて凛子さんはハッとした顔をする。そして照れくさそうに「あっ…そっか…へへ」と頬を掻いた。
さすが葵さん。きっとバルでもこんな具合で酔ったお客さんを上手く転がしてるんだろう。
あらためて葵さんには気をつけようと肝に銘じていると、凛子さんはコホンと咳払いしてから、ちょっと得意げな声で続けた。
「華にはじめて会ったのは大学1年の秋。私の対バン相手だったんだ」




