第86話 これまでのバンドの話をしよう その2
「ウチが高校は岐阜、中学までは大阪におったんは知ってるやんな?」と葵さん。
「はい。何度か聞きました」
「でもな、その前は神戸に住んでてん。JRで言うたら垂水駅のあたり」
「えっ神戸が地元だったんですか?」
「そう。正真正銘の神戸生まれ」
まったく知らなかったので驚く。ずっと大阪出身だとばかり思ってた。チラッと凛子さんを見ると、ぼんやりした顔で頬杖をついている。
「知ってるよ。酔った葵に絡まれて何度もその話されたからな」
こっちの視線に気付いた凛子さんがつまらなそうに言った。
「親が転勤族だったんですか?」そう尋ねると葵さんは「ちゃうちゃう」と顔の前で手を振る。
「小学生の時に親が離婚してん。それであっちこっち引っ越しただけ」
「あっ…すみません」
想像力が足りずにデリカシーのないことを聞いてしまったと反省していると、葵さんが笑って続けた。
「かまへんよ。その頃は色々鬱憤が溜まってて、それでベース始めたんやから。今は全部が運命やったと思ってる」
「なんかプロのインタビューみたいなこと言いますね」
「やろ。ウチはプロになるべくして生まれてきてんもん」
葵さんはさらに続ける。
「高校卒業したあとは18で神戸に戻ってきて、神戸と大阪のライブハウスでサポートベーシストやって小銭稼いどった。このバンドに誘われたのはメタルバンドで弾いとった時」
そこまで話すと彼女は「じゃあ次は凛子の番」と言って、ごろりと寝返りを打つ。
順番を回された彼女は頬杖をついたままダルそうにため息を吐いた。
「一条凛子。神奈川県横浜市出身20歳。以上」
「短か!」
「いいだろ今さら自己紹介なんて」
「よくないです!だっておなじバンドの仲間なんですよ?!」
「仲間ったって音楽をやるために集まっただけだろ」
「すぐそういうこと言う。凛子さんちょっと厨二病入ってますよ」
そう食い下がると葵さんが援護射撃してくれた。
「ちゃんと話しや。ウチと蘭子を誘ってこのバンド結成したんは凛子あんたやねんから」
「そうなんですか?」
またはじめて聞かされる情報だ。驚いて凛子さんを見ると、彼女はめんどくさそうに頭をガシガシ掻く。
それから投げやりな声を出した。
「わかったよ。話しゃいいんだろ話しゃ」




