第38話 パイ山
『今日18時00分 パイ山に集合』
2024年10月23日、水曜日。
葵さんからのLINEに気付いたのはその日の放課後。帰宅ラッシュでごった返すJR元町駅の構内をやっと抜け出た直後だった。
「えっ、18時00分って…」
私は駅の北側の横断歩道を渡ったあと、通行の邪魔にならないよう信号の柱のそばに寄ってからメッセージを読んだ。
「30分後じゃん!」
スマホを握ったまま歩道を全力で走る。
肩から掛けた学校のカバンを激しく揺らしながら、頭の中で葵さんの顔めがけて叫んだ。
もー! なんでこんな急なんだよー!
宿題を言い訳にして待ち合わせに行かないって選択肢もある。
けど…
葵さんからのメッセージはバンドのグループLINE宛だった。だからきっと、いや間違いなく、私たちの『バンド』に関する事のはずだ。
ひょっとしたら蘭子さんの事かもしれない。
私はシャワーを浴びて服を着替え、そしてまたすぐに家を飛び出した。
「春香どこ行くの?」
「パイ山!」
お母さんに行き先を告げ、私はさっき降りたばかりのJR元町駅に向かう。
パイ山と呼ばれるJR三宮駅の北側の広場までは、本当なら自宅から余裕で歩いて行ける距離だ。
けれど、これ以上走ったらさっき咲ちゃんと食べたポテトと三角チョコパイをみんな吐きそうだった。




