第1話 はじまり、神戸
『蘭子がBLUE NOTEの伝説のアルバムを見つけたかもしれない』
そんなメッセージが突然送られてきたのは3日前、2024年10月2日の夕暮れ時のこと。
ちょうど高校を出てJRの最寄り駅に向かってる最中だった。
「伝説の…アルバム?」
LINEのトーク画面を見ながら私は首を傾げる。
ながらスマホは危ないから歩道の脇に立ち止まって、一緒に下校している友達にも少しだけ待ってもらった。
「どしたん春ちゃん? お母さんから?」
彼女の名前は咲ちゃん。高校で出来た人生はじめての親友だ。
もう引退したけど元陸上部員で、小麦色に日焼けした肌がかっこいいスポーティな美人でもある。
ちなみに、やや舌っ足らずな神戸弁がすっごくかわいい。
「ううん。凛子さんっていうウチのバンドメンバーからのね、意味不明のLINE」
改めてそのメッセージをじーっと凝視した。
BLUE NOTE? 伝説のアルバム?
私は同じバンドのメンバーである凛子さんや葵さんみたいに根っからの音楽オタクじゃない。
だからこんなメッセージを送られてもちっとも意味がわからない。
あっ凛子さんっていうのは私のやってるバンドのドラマーの名前。
人見知りの私をバンド活動に誘ってくれた、恩人は言い過ぎかもだけど、まあそんな感じのひと。
葵さんはベース担当で最年長の23歳。いくつもバイトをかけ持ちしてる大人っぽい綺麗な女性。
蘭子さんは凛子さんと同じ神戸大学に通う学生。実家がすごくお金持ちで、担当はキーボード。
ちなみに2人とも20歳の大学3年生だ。
ついでに名乗っておくと私の名前は春香。
美術部という名の帰宅部を今年引退したばかりの17歳の高校3年生。バンドでの担当はギターだ。
とりあえず謎のメッセージの送り主である凛子さんに返信する。
「どういうことですか…っと」
『話せば長くなる』
『できるだけ短くお願いします』
『わかった』
返信を待つ。すると10秒ほどでメッセージが返ってきた。
『蘭子が失踪した』
「はいっ?!」
想像もしてなかった返答に変な声が出る。
蘭子さんが失踪?! 一体どういうこと?!
「どっどないしたん春ちゃん?」私の奇声に驚いた咲ちゃんが目を丸くして聞いてくる。
「なんか…うちのバンドのメンバーが失踪したみたい」
「えっ事件やん!」
今度は咲ちゃんの声が響き渡った。下校中の他の生徒や通行人がこちらを見て来る。
私は他人の視線から逃れるつもりで咄嗟に顔を背け、声を潜めて続けた。
「まっ…まだ事件って決まったわけじゃないって」
「せやかて春ちゃん」
「せやかて工藤みたいに言わないで」
とりあえず凛子さんに事の詳細を聞こう。もしかしたら何かのジョークかもしれない。
『本当ですか? もし本当なら失踪の理由も教えてください』
『今からバイトだから終わったらまた連絡する』
「えっ…そんな」
「なんて?」
「バイト終わったら連絡するって」
そう答えると咲ちゃんはホッと息を吐いた。
「なんや、その感じやったら事件ちゃうわ」
「そ…そうかなぁ」
「心配せんでもきっと大丈夫やって!」
そして太陽のような笑顔で私の背中をバシバシ叩いてくる。
彼女は根暗な私と違って根っからの楽天家だ。そういう所が好きなんだけど、ちょっと叩く勢いが強すぎる。
「ゲホッ! 痛いってば!」
私が噎せると咲ちゃんは「ごめんごめん」と笑いながら手をどけた。
それから思いついたように提案する。
「よっしゃ! じゃあ今日は駅前のマクドでマックシェイクとポテト奢ったるわ!」
彼女流に私を心配してくれてるのだろう。
もっとも普段から隙あらばマックに寄り道しようと誘ってくるんだけど。
スマホをポケットにしまって顔を上げると、咲ちゃんはもう夕暮れの中をスキップで歩き出していた。




