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アパートに近づく。
こっちは弱いフリ。つまり尾行されてる事に気付かないフリをしなくてはならない。意外と難しかった。
アパートの入り口にガリが居た。気だるそうに横たわっている。しゃがみこんでえっちゃんは言う。
[ガリをどうしよう]
[こいつは大丈夫だ]
[向こうのネコ?]
えっちゃんの質問にコースケはうなづいただけ。ガリは相変わらずのんびりとしている。
[向こうではどんな動物だと思う?]
コースケの質問。
[猫でしょ?違うの?]
[目をよく見て]
えっちゃんはガリの目を覗く。ガリはあくびをする。
[猫だね]
えっちゃんは言った。
[ガリ、お前は猫だってさ]
コースケはガリに言った。
[違うのかぁ。なんだろうね]
えっちゃんのは立ち上がって階段を上がる。
部屋に入る。コースケは遠慮してなのか入ってこない。
物は少なく寂しく感じる部屋だった。
一昨日来たばかりなのに一年ぶりに来た懐かしさも感じる。
二度とここに来ない予感も感じた。
持ってく物はない。戸棚のサイコロだけ。振ってみる気は起きなかった。そのままポケットにしまう。
冷蔵庫のコンセントを外す。ベランダの手すりの白い布を外す。下には尾行した二人は見えない。視線も感じない。どこかに隠れたか。
[部屋の電気は付けといて]
廊下からコースケの声。電気を付けたまま部屋から出た。
コースケの部屋も電気を付けっぱなし。
二人屋上に上がる。
コースケが先に隣のビルの非常階段に飛び移った。
[ハシゴ使うなら]
と挑発する。えっちゃんは挑発に乗った。少しだけ怖かったけど慣れておきたかった。飛び移る。大丈夫だった。飛び降りながらしっかり飛び降りる場所の確認も最後まで出来たし、着地した時の身体への衝撃も想定内だった。
[思い出せないのにきちんとできてるなぁ]
コースケが感心する。
[煽ったくせに]
[まぁ、これくらい出来なきゃ]
コースケは笑って言った。
[私の方が音が小さかったわ]
非常階段は鉄の階段。着地の時に音がする。
[靴のせいだよ]
コースケは足裏を見せた。革靴。えっちゃんはスニーカー。
[それでも私の方が小さかったわ]
えっちゃんは言い張った。
[分かったよ。煽って悪かったよ]
コースケは謝った。




