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部屋に扇風機が二台になった。
こっちの方が風が強い。こっちだよ。とかミヤビとケンが言い合ってる。
暑いけど誰もが元気。
テレビでは高校球児が野球をやってる姿が映ってる。観戦席では高校生が応援している。
生中継を観てるとホントに同じ日本でやってるのか半信半疑に思う。
映画の世界のようだと感じてしまう。
どちらが本物の世界なのか。と。
考えても無意味な事は考えない。考えても仕方ない。世界は変わらない。今、ここに居るのが現実なのだ。
えっちゃんはくだらない思考を頭から追い出す。
暑さで早めに仕事場に行く事にする。
早く行っても給料が増えるわけではない。ラブホテルは冷房が効いて涼しい。
夕方四時。階段を降りていつものように外の気配を伺う。決して無意味ではない。と思ってる。用心を忘れた頃に災難はやってくる。それに用心する事に慣れてしまってる。癖のようなもの。無意識に靴を右から履くように。
いつもの風景。違うのは暑い気温とやけに鮮明な白い雲と青空。遠くから蝉の声。
帽子をかぶりなおして外に出る。
夕暮れ特有の暑さで、普段通らない高架線の下のトンネルを通る事に決めた。
トンネルの中は涼しいのだが、それ故にタチの悪い若者の溜まり場になってる時もある場所。
一人の若いサラリーマンがトンネルから出て来た。気配は普通だった。もし中に変なのが居たら、焦りや安堵が顔に出てるはず。
えっちゃんは中に入る。直線ではなく左に歪曲してるトンネル道。
五人の若者が見える。えっちゃんは踵を返した。五人の若者は目ざとく見つけ走って来た。
身を翻したのは失敗だった。まるで追いかけて来て。と言ってるようなもんだった。かすかに誰かと話してる声。嫌な予感。当たり。来た入り口から携帯電話を耳に当てた男がいる。あの五人の仲間だ。挟まれる。顔を見られた。
えっちゃんは走るのを諦めた。
[なんで逃げるんだよ]
中国語の訛りが混ざった日本語だった。
日本人ならなんとかなった。中華系。最悪な相手だった。
振り返る。顔を見られたから逃げても無意味。どうする?
近づいてくる五人の力量を測る。突出した怖さは感じないメンツ。リーダー格も怖さを覚える程ではない。だがそれでも相手は何をしでかすか分からない。弱肉強食の世界で生き延びている奴ら。
それに、えっちゃんではなくケンやリンを標的に変えるだろう。
弱点を突くのは当たり前の世界。




