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仕事帰りの早朝。まだ日も上がってないのに暑く感じる。本格的な夏の到来。
外から見上げるアパートの三階の窓。空が眩しく、手をかざし片目をつぶる。
アケミさんの窓は半分空いているが、コースケの窓は引っ越す前から変わらない。コースケは住んでないのでは。とすら思ってしまう。
階段を二段飛ばしで駆け上がる。三段飛ばし。四段飛ばし。最後の階段はジャンプした。
軽く息切れ。額に汗。寝る前にシャワーを浴びようと思ったからだ。
廊下にガリは居ない。深呼吸を一つしてから部屋の中に。部屋は蒸し暑かった。それでも誰も起きてる気配は無い。
えっちゃんは静かにシャワーを浴びる。
冷たいシャワーが気持ちいい。目は冴えてしまうが。
リンの隣に横になる。シャワーで冷えた身体にリンの体温。温かく心地良い。えっちゃんは眠りについた。
起こされた時に夢を覚えていた。
誰かと冒険をしている夢だった。
大きくて高い高い塔の外側の壊れてむき出した鉄骨を渡って登ってる最中の夢だった。
何の目的で登ってたかは分からない。誰かと一緒かも分からない。それでもヤケにリアルだった。肩から腰へぶら下げてる灰色のリュックもはっきりと見覚えがあった。腰に短剣をぶら下げてあった。
現実にはそんなリュックを手にした事はない。ましてや短剣など。
階段を駆け上がったからそんな夢を。
ミヤビやケンのやってるゲームを見たせいかも。
記憶は溶けていき、登って見下ろしてる風景しか思い出せなくなった。
[ご飯]
ケンの声で現実に戻った。えっちゃんは布団から起き出す。
台所でお湯が沸いてる。ミヤビがソーメンを茹でるらしい。
最近はずっとソーメン。箱で安く売っていた。日持ちもするし冷蔵庫に入れておかなくていい。何より茹でるだけで簡単だ。量が多いのでお風呂場でソーメンを洗う。
去年と変わらない夏の一日。
ザルから直接すくうソーメンと丸のままのトマト一つずつ。それが、朝昼兼ねたえっちゃん達のご飯。
質素だけど、皆で食べる食事はいつも美味しい。
[もうすぐ夏休みだね]
いつも一番早く食べ終わるミヤビが言う。
誰も学校に行けないから毎日夏休みとも言えるが外に出られない。でも夏休みなら平日の午前中でも外に出られる。
[海へ行ってみたいわ]
ケイナが言う。誰も水着は待っていない。電車賃もかかる。ケイナは口に出しただけ。これっぽっちも期待してない。
なによりもえっちゃんが目立つ。胸元や腰回りは思春期特有のふくよかさはあるのだが、それ以外は余計な脂肪がない身体。白い肌に小麦色の髪。碧色の目。何が起きても不思議ではない。
目立っても得は何にもないのだ。
開放的な夏。どんなに抑えつけても欲望を抑える殻は溶ける。
コースケにガリ。ただでさえ警戒心が薄れてる。
それでもえっちゃんはいつかは皆を海に連れて行ってあげたいと思った。




