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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第三章 奪還作戦
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3-19 救世主

 宏和と和希を救出しビルの屋上に跳び乗ったクロは、目と耳に神経を集中させて周囲の状況を掴んだ。


 副団長の言った通り、周辺の派遣部隊はすべて戦闘状態に突入していた。悲鳴や銃声が至る所から聞こえてくる。また、松永自警団のあたりにも二体の白コートが残っている。一体は十メートルほど進んだ場所にあるビルの最上階。もう一体は真下の裏路地を進み、隼人たちに奇襲を仕掛けようとしている。


 クロは団員たちを助けるため、行動を開始した。

 まずは裏路地の一体に向かって飛び降りる。標的の白コートはクロに気付くが、彼女の二丁拳銃によって回避行動を余儀なくされ、反撃に移れない。しかし、クロが着地した瞬間、彼女に隙ができる。それを狙って白コートはクロに殴りかかった。


 だが、それはクロの思う壺だった。

 クロは拳銃を構えることなく引き金を引く。着地の際、両手は胸のあたりに引っ込めていたが、銃口は白コートに向けていたのだ。攻撃体勢の白コートに、同時に放たれた二発の弾丸が命中する。

 胴体を撃たれ、白コートの体は浮き上がった。突進の勢いと被弾の衝撃により、敵は体勢を崩し、背中を地面に打ち付けた。


 クロはこの機を逃さなかった。彼女は転倒直後の白コートに接近し、その喉元を勢いよく踏みつぶした。さらに体重をかけ、首の骨までも粉砕した。

 息の詰まったような声を上げ、白コートは動かなくなった。


 一体目を瞬殺したクロは、二体目の討伐に向かった。裏路地を駆け抜け、目的のビルに到達。十階の高さまで跳び上がり、窓枠を掴んで屋内に突入したクロは、白コートを発見した瞬間に銃撃を開始した。

 白コートは二発目までは回避に成功するものの、急接近してきたクロには対応できなかった。クロの右脚が腹部に直撃し、白コートは背中を壁に叩きつけられる。そして、クロは白コートの眉間に二発撃ち込んだ。


 場が静寂に包まれる。

 それも束の間。クロは屋上に新たな白コートが出現したことを察知した。上から足音が聞こえてきたのだ。

 クロは走り出し、侵入したのとは別の窓枠から飛び出した。彼女はそのまま隣のビルの壁を蹴り、ビルの屋上に舞い上がった。


 彼女の聴覚は正しかった。そこには一体の白コートがいた。戦場を見下ろしながら襲撃の機会をうかがっているようだが、その手には拳銃が握られている。

 当然のようにその白コートはクロに気付いた。左手に持った拳銃で彼女に向かって発砲する。クロも敵と同時に右の引き金を引く。


 しかし、クロの体は空中にあったため、回避行動に移れなかった。それに対し、白コートは地に足を着けているので横に跳ぶことができた。クロの胴体に一発の弾丸が命中する。それでも彼女はひるまなかった。クロは左の拳銃を撃ち、白コートの体勢を崩させる。


 クロは着地した直後に駆け出した。白コートは重心を狂わせたまま、クロに向けて引き金を引く。クロはその弾丸を当然のように回避すると、隙の生まれた白コートに二発の銃弾を撃ち込んだ。


 白コートは頭部に銃撃を受けて倒れる。

 クロは三体目の白コートを始末すると、周囲の状況を確認した。松永自警団の周辺には白コートはいない。副団長と英志が車に向かって走っているので、隼人たちは本格的に撤退の準備を始めているようだ。

 だが、撤退に移れているのは隼人とクロの所属する部隊だけだった。他の部隊の戦況は悪化している。


「白コートの数、多すぎる。他の自警団も、助けなきゃ」


 クロは険しい表情でそう呟き、松永自警団から離れるようにビルから跳び去った。屋上から屋上へと跳び移り、彼女は偵察二百メートル地点を反時計回りに移動していった。

 ビルから飛び降り、荒れた道路を駆け抜け、屋上に駆け上がる。それを繰り返しながら、彼女は派遣部隊と交戦中の白コートのみを倒していった。


 拳銃の弾が尽きれば白コートを素手で殺し、武器を奪った。マシンガンや散弾銃を片手で操りながら白コートを撃破し、全自警団の退却を支援した。

 しかし、派遣部隊はほぼ壊滅状態だった。半数は死亡していた。クロの援護がなければ撤退すら出来ていなかったに違いない。


 突然現れて白コートを瞬殺し、またどこかへ消える。そのようなクロの行動に、派遣部隊の団員たちは唖然としていた。なかには救世主が現れたと口にする者もいた。


 クロは団員たちに構うことなく、嵐のように戦場を駆け抜けていった。そして、ほぼ一周して攻略目標地点の西側に差し掛かったとき、他の部隊とは明らかに異質な部隊が存在していた。数体の白コートと互角に渡り合い、死者もほとんど出していない。


 その部隊の指揮を執る人物を発見し、クロは彼らが何者なのかを察した。相原蒼司率いる第二歩行隊。軽装備と重装備の隊員に分かれており、機動力の高い隊員が白コートを引き付け、ライフル銃を持った者が遠くから敵を狙い撃つ。統制のとれた動きと各自の戦闘力の高さが異様に高く、クロは一瞬ではあるが目を引かれた。


 クロは二歩隊も援護対象とし、ビルの屋上から飛び降りた。そのまま二歩隊と戦闘中の白コートへ高速で近付く。二体をマシンガンと散弾銃で蹴散らし、両方とも弾切れを起こす。銃をその場に投げ捨て、最後の一体は背後に回り込んで首をへし折った。


 そして、白コートが倒れた直後、二歩隊の隊員たちは驚愕の表情を浮かべた。それは、隊長の相原蒼司も例外ではなかった。


 クロと蒼司の目が合う。

 二人の間に言葉はなかった。


 クロはすぐに目を逸らすと、ビルの屋上に跳び上がって二歩隊から遠ざかった。

 救うべき派遣部隊はあと二部隊か三部隊。だが、それよりも大事なことは松永自警団が無事に撤退することだ。


「隼人、副団長、みんな。無事でいて……」


 クロは切実な表情を浮かべ、残りの部隊の支援へ向かった。





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