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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第三章 奪還作戦
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3-3 輸送隊

 午前九時頃になると、松永自警団の拠点に輸送隊が到着した。第四輸送隊は地上に駐車し、第四歩行隊が車両の警備につく。

 輸送隊員と自警団員が協力し、第二層から第五層まで、それぞれの階に物資を運んでいった。三日分の水、食料、バッテリー、衣類の他に、武器と弾薬も支給される。


 物資を運んだ後は、使用済みの衣服やバッテリーを交換し、排泄物の回収が行われた。排泄物に関しては、専用の機械で吸い上げ、ニオイがトイレの外に出ないよう密閉する。

 ちなみに、回収された排泄物は安全圏に運ばれて肥料として活用される。

 物資運搬の間、調理係は中央の隊員のために昼食を用意していた。


 輸送隊到着から二時間後、物資の運搬や配置が完了した。

 その後は四輸隊と四歩隊が食堂に集まって昼食をとった。食事の間、中央の隊員たちは酒を飲んでもいないのにバカ騒ぎをしていた。調理係が丹精込めて準備した食事を汚く食べ散らかし、味には文句を言う。また、通りがかった女性の団員の尻を触ったりするなど、隊員によるセクハラも見受けられた。


 美佳や真由美も彼らの被害を受けた。

 しかし、中央の隊員の横柄な態度に反発を示す団員はいなかった。彼らに逆らえば、自分たちの生活が危うくなる。我慢せざるを得なかった。

 美佳は彼らに対するストレスを溜めながら、表面上は好意的に接していた。




 中央の隊員が食事を終えた頃、団長と副団長が四輸隊隊長、四歩隊隊長の四人で何やら話し込んでいた。その話し合いが終わると、四輸隊と四歩隊は自警団の施設から撤収した。


 彼らが帰ると、自警団に安堵の雰囲気が出始める。そして、団員たちは後片付けをしながら、中央の隊員たちの悪口を言い合うのだった。


 輸送隊が帰った後、美佳は隼人とクロを呼びに行った。自由になった二人だが、部屋から出ようとはしなかった。

 中央の隊員の横暴は隼人の耳にも入っている。食堂はしばらくの間、彼らに対する敵意で満ち溢れているので、それが落ち着くまで隼人は待つことにしていた。

 せっかくの食事だ。悪い雰囲気の中でとりたくなかった。


 食堂が本当の意味で静かになった頃、隼人とクロは美佳とともに昼食をとった。その後は少し休息をとり、隼人とクロは見張りへと向かった。

 団長と副団長の表情が曇っていたことだけが、いつもの光景とは違っていた。隼人はそれのことが気になりながらも、真剣に見張りを行った。




 日没を迎えて二時間ほど経った頃、英志・勇樹・和希の三人組が交代に訪れた。その際、英志から団長室に行くようにと言われ、隼人とクロは団長室に向かった。


 三人組がどこか浮き足立っている様子だったこと。第五層へ向けて歩いている途中、拠点内がやたら高揚感に包まれていたこと。そして、「白コートなんて殺しちまえ!」や「あいつらが死ぬわけないだろ!」などといった不穏な声が聞こえてきたこと。


 それらが隼人の胸を締め付けた。

 隼人は自分の感情が嫌な予感で染まっていくのを感じながら、クロとともに団長室へ足を踏み入れた。


 二人が入室したとき、団長と副団長は中央の机に両手を置いて苦い表情をしていた。隼人はつばを飲み込み、自分の勘が外れていることを望みながら口を開く。


「団長、話ってなんだ?」


 いつもの冷静な自分を演じながら隼人は尋ねた。

 すると、団長はそのままの体勢で顔を上げて隼人に顔を向けた。


「ああ、隼人とクロちゃんか。他の団員にはもう話してあるんだが、お前たちには俺と直也の四人で話しておきたくてね」

「みんな、少し、テンション、上がってた。いい話、なの?」


 クロが眉をひそめながら首をかしげると、副団長は首を横に振った。


「いや、どちらかというと、悪い話だ」


 副団長の言葉に、隼人はある程度のことを察した。


「なるほど、中央の連中に何か言われたんだな」

「ああ」


 団長は悲しげな表情を浮かべて頷く。隼人は団長の気持ちを考えながらも、その内容を言ってくれないと話が進まないと思い、次の言葉を促した。


「言いにくいことだろうけど、話してくれ」

「ああ」


 団長はそう言って深呼吸した。そして、隼人と体を向き合わせる。一瞬の静寂の後、団長は声を絞り出してこう言った。


「明日の午後一時に、拠点奪還作戦が行われる。そして、俺たちもその作戦に参加することになった」


「なっ!?」


 隼人は団長の言葉に、驚愕の声を漏らすことしかできなかった。

 わずかな間を置いて、団長は続ける。


「十二日前に、中央第三部隊管轄下の片岡自警団が、白コートの襲撃にあって壊滅した。ということは知っているよね」

「ああ、あの北東エリアの。……まさか、そこに攻め込むつもりなのか?」


 隼人は目を見開いて団長に問いかける。

 団長は隼人から目を逸らし、両目を固く閉じた。


「そうだ。自警団のいた拠点はもちろんのこと、その周辺までもが今は白コートのたまり場になっているらしい。俺たちは明日、そこに攻撃を仕掛ける」


「そんな……いくらなんでも無茶だ! 白コートの正確な居場所は? 数は? 銃持ちか? そういった情報はあるのか!?」


 隼人は声を荒げ、団長は目を閉じたままでいる。


「いや、ないらしい」

「は!? 二歩隊は一体何をしているんだ!?」


「今の二歩隊の在り方は隼人のいた頃とは違う。偵察メインの部隊じゃない。ただの特攻部隊なんだ。俺たちは明日、そんな二歩隊の援護をしなければならなくなったんだ」


「クソが! いくらなんでも急すぎるだろうが! そんなふざけた作戦を立てた中央幹部もクソだが、どうして団長はそれに参加することを承諾したんだ!」


 隼人は怒りの形相で団長を睨み付け、左拳を机に叩きつけた。そこで団長は沈黙する。隼人は団長の今にも泣き出しそうな表情を見て、目を見開いた。


「まさか、あいつら……」


 隼人は開いた口を塞ぐことができなかった。

 団長が黙ってしまったので、副団長が代わりに説明を始める。


「たぶん、隼人の思ってる通りだ。中央は、参加を断れば物資の輸送を止めると言ってきたんだ。つまり、参加しなければ、ここに居る百人が、食料を求めて地上に出なければいけなくなるんだ。そうなれば、事実上の松永自警団解散だし、団員が白コートに襲われる危険性が大きくなる。この自警団の団長と副団長として、参加を断るわけにはいかなかったんだ」


 そう言う副団長は苦い表情を浮かべたままだった。

 隼人は副団長の言葉に頷き、冷ややかな目を机に向けた。


「なるほど。あのクソ老害どものやりそうなことだ。利用価値がなくなれば切り捨てる。やつらは中央さえ、いや、自分たちだけが生き延びればそれでいいと思っているんだ!!」

「隼人、落ち着いて……」


 激昂し、叫ぶように声を上げる隼人。普段とはかけ離れた彼の様子にクロは見かねて、彼の肩に触れてなだめようとした。

 しかし、それで彼の怒りが収まるはずもなかった。隼人はクロの手を振りほどき、憤怒の表情でクロに迫った。


「落ち着いてられるか! あいつらはな! 俺を守ってくれた人たちを地獄に投げ込んで殺したんだ! 殺して、自警団連合を自分たちのためだけに利用し始めたんだ!」

「やめろ! 隼人!」


 隼人の怒りの矛先がクロに向かった直後、団長の怒号が室内に響き渡った。隼人はその声で心臓を掴まれたような感覚に襲われ、口を閉ざした。

 そして、団長室は静けさに包まれた。




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