第1話 放課後のポスター
技術の授業が終わって廊下へ出ると、掲示板に貼られた一枚のポスターが目に入った。
『中学生ロボットコンテスト 参加者募集中!』
手書きの文字の横には、四角いロボットらしき絵が描かれている。タイヤが四つあり、その上から長いアームが伸びていた。ロボットというより、どちらかというと小さなショベルカーに見える。
その下には『学年・性別は不問』『初心者歓迎!』『説明会 放課後・技術室』と書かれていた。
「へえ……ロボコンか」
なんとなく足を止める。
「どうしたの、美咲?」
先を歩いていた奈緒が戻ってきた。私の視線の先にあるポスターを見て、眉を上げる。
「もしかして、ロボコンに興味あるの?」
「うん。ちょっと気になって」
「やめときなって」
「なんで?」
「科学技術部の連中が毎年出てる大会でしょ。うちらには無縁の世界だよ」
「あっ、そうなんだ。でも、『初心者歓迎』って書いてあるけど」
「そんな文言に騙されちゃダメ」
「騙してるの?」
「知らないけど」
「知らないんだ」
思わず笑ってしまった。奈緒もつられて笑う。
「ほら、行くよ。次は理科室。遅れたら先生うるさいんだから」
「ちょ、奈緒」
腕を引かれ、掲示板から離れる。
こうして奈緒に引っ張られるのも、昔から変わらない。
奈緒とは一年生のころから同じバレー部だった。二年からは副部長で、面倒見がよく、後輩たちからも頼られていた。
そんな私たちも、六月中旬の大会を最後に引退した。
三年間、当たり前のようにあった放課後の練習。それがなくなった。
最初は嬉しかった。授業が終わればすぐ帰れるし、休日だって朝から練習に行かなくていい。
けれど、一か月もすると慣れてしまった。
今では放課後になると、少しだけ時間を持て余す。
もちろん受験生だから勉強はしなければならない。母にも毎日のように言われている。
分かっている。
分かってはいるけれど、部活がなくなったあとの放課後は、思っていたより長かった。
「ロボコン……」
気づけば、もう一度その言葉を口にしていた。
「ん?」
「何でもない」
奈緒は少し疑わしそうな顔をしたものの、それ以上は何も言わなかった。
ロボットも機械も詳しくない。科学技術部に知り合いだっていない。
奈緒の言う通り、これまでの私には無縁の世界だった。
それなのに、『初心者歓迎』の四文字だけが妙に頭に残った。
説明を聞くだけ。
ちょっと覗いてみるだけ。
それくらいなら――。
「美咲、早く!」
「あ、待って!」
いつの間にか先へ行っていた奈緒を追いかける。
そのときは、本当にそれだけで終わると思っていた。
放課後。
私は技術室の前に立っていた。
開いた窓から、運動部の掛け声が遠く聞こえてくる。
一か月前までなら、私もあの中にいた。
なのに今は、技術室の前にいる。
「……何してるんだろ、私」
思わず呟いた。
別に参加するつもりはない。
ただ、説明を聞くだけ。
それに、あのポスターには『初心者歓迎』と書いてあった。
「行くだけ行ってみよう」
小さく息を吐いて、私は扉に手をかけた。
「失礼します」




