5―1 帰国してからの日常? その一
金曜日の夜遅くに英仏の新婚旅行から帰国して、三日目の4月7日(月曜日)にはもう出勤なんだ。
今まで2週間も留守をしていたので、仕事が溜まっている?
いやいや、優秀な課長さん二人がいるからね。
社長の俺がいなくたって会社は回るから、取り敢えず会社の方は問題なしだよ。
それなりに決裁書類は溜まってはいたが、半日で処理できる量だった。
さて、新年度の四月になったので、新たに人材確保に動き出すとしよう。
今度は、営業マンを見出すんだ。
こいつは、外国語が必要だから外国人でも構わないが、日本語もできることが条件だな。
ビジネスができて、語学力が有ればある程度は大丈夫。
但し、黄さんにもお願いして、変な奴が紛れ込まないようにチェックは怠らない。
無論、俺が直接面接するし、当該人物を鑑定で確認はするんだぜ。
多少語学力が不足気味の者でも、人間的に問題なく、交渉力が高い人間は大歓迎だ。
アズにやったように脳の活性化を図れば、言語の習得は早い筈なんだ。
因みに社員の中でも年寄り連中は除外して、二十代の若者については、試験的に脳の活性化を図ってみたんだ。
このために、警備員と課長二人は60代なので対象外、それにシステムエンジニア(SE)の一条氏もアラフォーなので一応ハズレにしておいた。
一条氏は英語はかなりできるはずだ。
他の職員は、職種に関係なく、新婚旅行前に脳の活性化処置を、心持ち少な目程度でやってみた。
その上で各人に色々課題を与えておいたんだ。
まぁ、学校の宿題的なものなんだが、その課題を実際に行うかどうかは本人任せだ。
努力した者は、能力が上がることになる。
完全にサボる奴は居なかったみたいだけれど、明らかに努力の足りないのが二人ほどいたかな?
まぁ、給与の査定で、多少の差がつくことになるのは仕方がないだろうな。
課題をやらせてみて、能力的に変わらないと言う人は居なかったものの、人によって多少の適性の差があるようで、与えられた課題を同じようにこなしていても、人によって伸びた能力とそうでない能力があったようだ。
俺の方で活性度をアズの時より低レベルに抑えたから、その影響があるのかも知れないな。
レベルの上がり方が比較的に顕著なのは、経理の秦山芽衣、同じく経理の桜井由紀、庶務の児島香蓮、矢尾のぞみ、システムエンジニアの原田晋、プログラマーの三宅凛、同じくプログラマーの島津さくら、同じくプログラマーの大岩慎吾、製造ラインの栗原寛治の9名だった。
全員をレベルの上がり方で評価を「優」、「良」、「可」、「不可」の四段階に分けると、「優」、「良」に仕分けられるのがこの9名だった。
伸びが左程でもない「可」のレベルが、プログラマーの能代聡と、製造ラインの佐野洋二の二人だった。
そうして明らかに多少サボったのではないかと疑われるのが、製造ラインの福島博史28歳と相沢義三27歳の二人で、この二人は評価としては「不可」をつけるしかないだろうな。
福島と相沢の両名は、自分の時間に宿題をするというのが気に入らなかったようで、恐らくは他のみんなが行ったそれなりの努力をしていないんだろうと思われる。
結果は、いずれ本人の処遇になって跳ね返るんだから、俺としてはそのまま放置するけれど、仕事の方でもサボるようならば、早めに退職させるつもりだよ。
一応、労働法規では簡単には辞めさせられないのは確かなんだけれど、本人から辞職願を提出させれば、後は労働法規に基づいて手続きを踏むだけの話だ。
『働かざる者食うべからず』という諺の通り、俺の会社でただ飯を喰らおうという奴は、放置しないぜ。
労働組合?
今のところ、ウチの会社には労組は無いが、既にあるユニオンのような労組に入るのも良し、社内で労働組合を結成するのも良しだな。
但し、労使協議では、俺は簡単には折れないぜ。
どちらかと言えば、他社に比べると給与水準も良いし、福利厚生制度はかなり手厚い方だからね。
まぁ、それでも人間の欲には限界が無いし、他所の芝生は良く見えるらしいから、他社の良い制度が有れば取り入れても構わないが、会社ってのは仕事をしてなんぼだからな。
俺の作った製品頼みでだけで、仕事が回らないのは困るんだよな。
我が社の収益額から言えば、確かに社員みんなを裕福にはできるけれど、やはり貢献度を見て判断することになるよな。
そのための給与査定であり、ボーナス査定だもの。
少なくともウチでは、普通の国家公務員以上の給与レベルではあるはずだよ。
おまけにウチは、超過勤務を推奨していない。
だから何事も無ければ、定時で皆が退社するんだ。
営業マンは、10月期に採用する予定で公募し、適宜面接を始めることにしたよ。
当初は、月曜日から金曜日の毎日午後一時から1時間、二名の面接を行う予定にしていた。
面接官は俺だけなんだけどね。
実は、ウチの業績が極めて良いことや、給与が良いことが噂話として結構色々広まっているらしく、かなりの応募があったんだ。
三月半ばに募集を始めて、応募締め切りの4月4日までに五百人を超える応募があったんだぜ。
毎日二名の面接では、一年かかっても終わらない計算になるよな。
止むを得ず、三人並べて30分で面接を実施、それを二回行うことで1日に6名の面接数をクリアすることにしたよ。
書類選考で、半分ほどは事前にある程度選抜してしまうんだが、書類だけで落とすのではなく、全員の面接は必ず行うんだぜ。
応募数が非常に多かったのを知った二人の課長さんが、面接の協力を申し出てくれたんだが、俺の鑑定でやれば一人当たり一分でも採用の可否は判断できるんだ。
ただ、そんな面接では、受けた本人が納得しないだろう。
顔を見て採用、不採用を決めたのかと疑うことになるだろうな。
従って、毎日6人ずつ、一週間五日では30名、一月に120名以上を処理すれば、十月までに約半年近くあるので何とか間に合いそうだ。
まぁ、質問だけは色々準備しておかねばならないから、当該質問票の作成については、庶務課長の奈良山司さんと経理課長の中尾修一さんに協力してもらったよ。
因みにこの二人、役職名は課長だけど、上に部長のいない課長で、実施的には部長待遇だからね。
ただ、例の《《脳の活性化》》を社内で試験的に行った結果から判断すると、何となくアラサー以上の人には余り効果が無いか若しくは薄れるような気がするんだよね。
従って、年齢的に30代以上の方は、原則として採用を見送ることにするが、ただまぁ、中には規格外の人が居るかも知れないから、その人の能力によっては採用を決めることにする。
因みにウチの営業マンとしては、今のところ4名を採用する予定なんだが、百倍を超える競争率になっていることは、きっと応募者も知らないだろうな。
優秀な人が居るのであれば、必ずしも4名に拘らず採用するけどね。
その辺はワンマン社長たる俺の権限で何とでもなる。
妹の花奈だって、彼女が望めば俺の会社に入れてやったんだが、余り身内びいきは良くないからと言って、花奈の方から断って来たんだ。
でも麗花の方はどうかな?
彼女は理学部専攻だから、意外とウチの会社に合っているかもしれないね。
二年先、いや、来年には三回生だから、早いところでは就活が始まるのかな?
まぁ、そんな時期になったら一応声をかけてみようかと思っている俺だった。
それと、優秀な人であれば、別に営業マンとしての採用でなくっても構わないだろう。
だから、質問の一項目には、「営業マンでなくても、わが社に就職する意思はありますか?」という設問があるんだ。
営業マン以外では駄目と言う人は、面接で優秀な方からの順位で、四番目までに入っていないと落選だな。
でもそんなことを、面接に来る者には言わないよ。
飽くまでこちらの心づもりの話だ。
◇◇◇◇
もう一つ懸案事項が有ったな。
K市内にあるH精密測定機器工業の部次長である細岡拓海さんから依頼のあった件だ。
H精密測定機器工業は、K市内の埋め立て地に本社及び工場があるんだが、俺の地中探査機の特許に関して、真っ先に使用許可を申し込んで来た会社であり、当時課長だった細岡さんも現在は部次長で、どうも次期の部長に当確との噂もあるようだ。
部長ともなれば平取(平の取締役)ぐらいにはなれるんじゃないのかな。
この会社、地中探査だけじゃなく非接触探査機器を各種手掛けており、特に医療機器では世界的にも有名な会社らしいぜ。
で、そこが現在開発を手掛けているのが、新機軸の機器として岩石等無機物の年代測定が非接触型機器で出来ないかどうかを種々検討しているらしいんだ。
以前、俺の結婚式の招待に関わる話にかこつけて、俺にその研究部門の顧問をしてくれないかと言う話が細岡氏から飛び出たんだ。
古代の遺物等の年代測定については、放射性同位炭素による年代測定方法と言うのがこれまでに確立している。
但し、この手法はイレギュラーな数値を出すことが有ったりして、その正確性が疑われる場合もあるんだ。
判っている欠点は、有機物の残差等炭素成分が含まれていないと測定ができないということと、何らかの事由で周囲にある放射線等が検体に影響すると、計測値がずれてしまうんだ。
従って、過去の遺跡の石造建造物とか、金属製品とかの経過年数を、全く新たな測定方法で調べられないかということを研究しているらしい。
まぁ、同位炭素以外での年代測定が可能になれば、色々な分野で利用されるようになるだろね。
特に真贋関係では、すぐに偽造なんかがバレる可能性もある。
問題は、金属にしても石像遺物にしても、形を成す前から存在しているから、金属や石の生成年代を測るのじゃなくって、その制作年代を知ろうとするのだったら難しいよね。
新婚旅行の飛行機の往復では、機内で随分と時間が有ったから、何か突破口が無いかといろいろ考えてはみたんだよ。
俺のスキルと言うか能力の中に『空間』と『重力』に関わるものはあるんだが、『時空』と言う能力ではないので流石に『時』の制御は出来ないんだ。
まぁ、そうは言いながら、反応を促進したり、逆に遅延させたりすることができるから、あるいは時間そのものの速度を上げたり、下げたりもできるんだろうか?
黄さんに聞いてみたが、そんなことは知らんし、試したことも無いという。
そうして、ある意味でこの世界の理を破壊するようなことは不可能じゃよとも言った。
その意味は、最初から出来ないものであれば、いくら頑張ってもできないと云うことのようだ。
逆にできてしまったら?
してはいけないことを為してしまったその反動で、そもそも無かったことにされるとか・・・。
ウーン、ちょっと怖いよね。
よくわからないことには、できるだけ手を出さないようにしようと、改めて思う俺だった。




