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二つのR ~ 守護霊にResistanceとReactionを与えられた  作者: サクラ近衛将監
第四章 起業

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4ー3 秦山電子の従業員 その一

 私は、秦山(はたやま)芽衣(めい)、22歳です。

 昨年O市内にある私立大の経営学部を卒業しました。


 在学中に就活をしたんだけれど、世の中人手不足だというのに、正直なところ、一流大学卒でないと中々に就活も厳しかったんですよ。

 それでも三回生の二月には、何とかO市内の中堅企業から内定をもらったので、両親ともども喜んでいたのですけれど、その後になって、あろうことか、その会社が業績不振で債務不履行に陥り、民事再生法の適用申請を行ったのです。


 当然に新入社員を受け入れる余裕なんてありませんから、内定も取り消しですよね。

 それが分かったのが、四回生になった2038年7月の事なんです。


 2039年3月には、卒業だと言うのに、就職までもが浪人になりそうなので、慌てて、就活を試みましたが再起動が遅すぎました。

 生憎と私が希望するような職種には内定がもらえませんでした。


 やむなく、一番なりたくなかった人材派遣会社に応募しました。

 就職浪人と言うのは、二年目、三年目と長くなればなるほど不利になるんです。


 特に、人材派遣会社での経験というのは、余り新入社員の採用時には業務経験として認めてもらえないんです。

 それよりは、むしろ簿記とかの資格を持っている方が意外と効果があるみたいですね。


 できれば金融機関に就職したいなと思って、在学中に簿記二級は取っていたんですけれど、金融機関系列は全部だめでしたね。

 金融機関の統合が進んでリストラの真っ最中のようで、新人は採用するにしても至って数が少なかったのです。


 このため、就活での第一希望群は全滅。

 第二志望であった、中堅企業に何とか滑り込んだと思っていたら、当てが外れちゃったというわけです。


 止む無く人材派遣会社に登録したんですけれど、やっぱり人材派遣会社の仕事というのは辛いですね。

 派遣先でいろんな仕事を押し付けられるし、就業時間にも制限が有る上に、給料が安いんです。


 派遣会社が中間マージンを取っちゃいますから本来の給与がもらえないのは当然としても、正社員と同じ仕事をしていても、サラリーが半分ほどって理屈に合いませんよね。

 半ばクサっていた私ですけれど、『俺の会社に来ないか?』と声をかけてくれたのが、私の従兄である英一郎さんでした。


 彼は、確か高校三年生の時に家出をして、一年ほども消息不明になっていたんですよ。

 でも彼が高校一年の時には、非接触式の探知装置を開発して、文部科学大臣賞をもらった秀才なんです。


 従兄ですからね。

 昔から私と顔馴染みでもあるんですよ。


 彼のお父様の弟が私の父で、祖父が経営していた文具・書店を引き継いだのが私の父なんです。

 同じF市内に住んでいましたし、折々に親戚づきあいで会っても居ましたから、良く知っていましたけれど、中学まではそんなに秀才とか天才とか言うような人物じゃなかったように思います。


 でも、その高校一年生の時に考案して造った装置が評判になり、特許を取るまでになったんです。

 そうして、なぜか理由は知りませんけれど、高校三年生の夏から約一年間も家出して不登校だったわけですから、戻ってきても当然に高校三年生のまま留年ですよね。


 翌年初夏に家に戻っていたようなので、高校に戻るのかなと思っていたら、彼は何と高校卒業と同程度の学力を持っている者と見做(みな)すための試験を受けて合格、その後に大学を受験して、一年遅れながら見事にK大学の工学部に合格したんです。

 一年間学校にも通っていないのに、ちゃんと高校を卒業した者と同等の認定を勝ち取り、その上で難関のK大学まで合格したのですから大したものですよね。


 それから四年、彼も大学を卒業して、2040年10月に向けて新たな会社を興そうとしていたんです。

 私に声をかけてくれたのは、2040年の5月のことでした。


 曰く、2040年10月に発足する彼の電子機器製作所に正社員として入る気はないかということでした。

 正直なところ、会社更生法に頼るような会社で痛い目を見たわけなので、ちょっと新しい会社というのには不安がいっぱいでしたけれど、彼が在学中に手掛けた試作品と、それをかなり有名なハードウェア関連企業に試供品として送り付け、実用試験を行って貰った際の結果を踏まえた上で、当該会社から事前にそれなりのオファーをもらっていることが判明しましたので、栄一郎さんを信用することにしました。


 もともと、彼は、彼の妹であるの花奈ちゃんや麗花ちゃんにものすごく信頼されて好かれているお兄ちゃんなんです。

 確か2040年で、花奈ちゃんは20歳の大学生、麗花ちゃんが17歳の高校生ですね。


 今年のお正月にも、本家でおじいさまやおばあさまへのご挨拶とともに叔父様一家にも新年のご挨拶をしましたからね。

 秦山本家は皆そろってお元気でした。


 ウチは分家筋ですけれど、Y市内に住む母方のおばあさまが少しお加減が宜しくないようで入院しているのだとか。

 ですから、そちらへのお正月のご挨拶は別の機会にと言うことになっています。


 私も、年末から正月にかけては、仕事もありませんでしたから久方ぶりにF市内の実家でゆっくりと過ごしましたよ。


 新しい会社の方は、F駅から30分以内で通える場所でしたので、この9月半ばまではO市のアパート住まいですが、10月からは実家に戻ってそこから通うことにしました。

 いずれ実家からは出ることになりますけれど、良い旦那かアパートを見つけるまでは、実家から通うことにします。


 そうして10月、待望の秦山電子機器製作所が開業しました。

 因みに、栄一郎さんは、4月から用地買収やら事業所の建設やらといろいろ活動していたようです。


 事業所の工場設備なんかも全部ひとりで設置調整したというからすごいですね。

 いくら工学部卒業だからと言って、工場の製造機器を一から作れる人っていると思いますか?


 仮に居たとしてもかなり長い時間がかかるはずなんです。

 それをわずかに半年で準備する?


 うーん、従兄であり、私の雇用主である人物は、とんでもない天才かもしれません。

 それに秦山電子機器製作所の製品は、MPUの分野では世界的なシェアを誇る、I社やA社に真正面からケンカを売る品ですからね。


 もうかなり古いデーターではありますけれど、世界における年間のパソコン出荷台数はおよそ3億台なんだそうですけれど、その98%までがI社やA社の製品のはずなんです。

 一部のスーパーコンピューターと呼ばれる代物は、モノが異なるかもしれませんが、少なくとも一般の会社や個人が使うパソコンは、この二社の製品で占められている筈なんです。


 でも性能面でこの二社の製品よりも勝っているならば、秦山電子機器製作所の製品もそのシェアの何割かを勝ち取れるかもしれません。

 英一郎さん曰く、これを使いこなせる企業との連携が大事なんだそうで、場合によってはI社やA社を駆逐する可能性すらあるのだそうです。


 まぁ、確かにI社やA社の新型MPUの倍ほどの性能があり、価格が半分ほどに抑えられている商品が出てきたなら、今全盛期の両社も余程の努力をしないとだめかもしれませんね。

 あるいは二社がダンピングとか・・・・。


 でもダンピングは、多分駄目なんじゃないかと思いますよ。

 だって、秦山電子機器製作所の準備期間を含めての簡易の収支決算を見る限りは、支出が異常に少ないんです。


 減価償却分に指定されているのは土地代、建築物としての事業所、事業所内にある各種設備ですけれど、創設資料で見る限りは、総額で5億円程なんです。

 そうして事業準備金として計上されているのが、MPU等の素材として、なぜか花崗岩100㎏の切り出し原石が20本?


 敷地内に一部が野ざらしで置いてありますけれど、何の変哲もない普通の石の塊(直方体)ですよね。

 これが一個約25万円ですけれど、20個で500万円ほどです。


 後は、電気代等の光熱費が4月からで約700万円弱です。

 私たちは10月からの雇い入れですけれど、支度金として一人につき40万円の支給がなされており、その支出経費が7人分で280万円。


 これを見る限り、10月以前の栄一郎さんの労働対価は含まれていないみたいですね。

 でも10月以降は、それぞれに給与や社会保険料などの経費が支出に入ります。


 で、問題は、事業所内の奥まった倉庫に、20万個の製品が出来上がっていることです。

 あれぇ?????


 これは、いったいどこから出てきたの?

 英一郎さん、いえ、面倒なので社長と言いますよ。


 社長に聞いたら、非公式に生産設備を稼働して、商品としてのMPU20万個を既に製造してあるのだそうです。

 これって、経理上は?


 うーん、余りこういう例は無いのじゃないかと思うのですけれど、・・・。

 もしかして初期資本の一部なのかしら?


 で、製造費用を尋ねましたら、何と石材5本分約500キロから素材を分離して、MPUの主素材であるシリコン素子を事業所内で製造し、それをさらに加工してMPUを製造しているので、素材の原価から言えば125万円弱だそうです。

 それで20万個ものMPUを作ったので、労働対価とか使用機器の製作費を除くと、一個当たりでは63円ぐらいかなと言っていましたね。


 使用機器の値段はと念のために聞きましたら、


「全部自作だから、材料費だけで言ったら・・・、500万円まで行くかなぁ。」


 そう、のたもうていましたね。

 これって税務署への申告で結構大変なのじゃないかしら。


 事業所は4月より前には影も形も無かったのですから、この4月から10月までを準備期間と捉えても、従業員は社長一人なんですよねぇ。

 社長の人件費はどこ?


 光熱費は事業所存続のために必要な支出でしょうし、すでに契約済みの警備保障等との契約も併せて定常支出と見做すと、多分半年で、3000万円程度。

 そうして、設置している機器類は、自作だというけれど一応の価値を何とか見定めねばなりません。


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