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駅のすぐ側、品揃えは十分。
24時間営業で、どんな年齢層のお客様にもご対応します。コンビニサトーは、いつでもあなたのお越しをおまちしております。
……というのが、そう、オレのバイト先のうたい文句。このままの歌詞を付けたメロディが常にお遊戯のように店内に流れているせいで嫌でも覚えてしまった。
駅近くっていっても、歩いて五分はするし。
品揃えは十分ったって、どこのコンビニもそう大して変わりはしないし。
うたい文句というには押しが弱すぎると、オレでも思う。
そんなオレは、別にこの店が気に入ってバイトを始めたわけでもなんでもなく、ただ大学より近く、かつ知り合いに会いそうにないという点だけで選んだ。
高校を卒業して一人上京してからというもの、仕送りだけでは心許なくこうして毎日のように、夕方からせっせとバイトに勤しんでいる。
「鈴木くん、それ、品出ししといてよ」
「ふえーい」
午後四時、オレがバイトに入るこの時間は、いつもお客さんが少ないので店長と二人きりだ。レジも一人で事足りるので余った人手は店内の清掃や、品だし。コンビニの仕事は単調だから、不器用なオレにもすぐできるようになった。
結構自由だしなー。
服装の乱れとか、髪型とか、どんなにやる気なく振る舞っても怒られることはない。店長がユルイ人だってのもあるし、お客さんもコンビニの店員には期待しないというのが当たり前になっているんだろう。
「ありがとございましたー」
惣菜パンが乗ったカートを引きながら、顔を向けずに今し方出ていったお客様にゴアイサツ。特に問題ない。あとは自分の手元に集中し、せっせとパンを並べていく。
新商品のイチゴあんぱんは最上段の一番目に付くところ。日本人が苦手とするどピンクのあんこがのぞくのが凄く不安だけど、案外好評で売れ行き順調。オレも食べたいとか考えたりするけど、食に頓着がないのでわざわざ買うのも面倒だったり……。
と、どうでもいいことを考えつつ手を動かしていたので、いきなり横からにょきっと腕が伸びてきたときにはビックリした。
声も出ずに肩だけ震える。うわっ、だせえオレ。
ちっこい心臓をドキドキさせつつ隣に視線をうつすと、今度は鼻の穴から心臓が出そうになった。
黒い学ランに身を包んだガラの悪い不良が、オレを睨み付けている……!
サッと視線を逸らしたオレの反射神経はホントすごいと思う。たくましいと思う。うん、情けねえと思う。情けないついでに、一歩二歩と距離を取っておく。
顔も見ないようにしていたのでこの不良がどう思ったのかは定かじゃないが、というより何も思わなかったのか、二つ三つとパンを手に取りあっけなくこの場を離れた。
……セーフ。
絡まれなくて良かったー。
コンビニの仕事で何が一番やっかいって、これだ。どんなお客様にもご対応します、とかいううたい文句を掲げるだけあって、本当にいろんな人が来る。それこそ、子どもからお年寄りから、オレが苦手とする怖い属性の人たちも。
もとより人見知り、思ったことを口に出せないタイプのオレなので、そういうお客さんの対応がイマイチうまくいかない。
「またのお越しをお待ちしておりますー」
レジを済ませたのか、店長が送り出すその不良をもう一度盗み見た。
着崩した学ランのポケットに手を入れ、背中を曲げたままなんともだるそうに歩いている。手首に通しているビニール袋をぷらぷらと揺らし、やけに不気味だ。中にはイチゴあんぱんが入っているんだろーか……。
綺麗に染められたダークアッシュの髪の毛が印象的だった。
初めて見た客だけど、近くの高校生かもしれない。大学生にもなって高校生にビビるとかどんだけ弱いんだよって話だが、年齢じゃないのだ。恐怖で人を制する不良という人種が、根っからの弱者で小心者であるオレには堪えられない。そうだ、仕方ない。
「……はあ」
ため息を付きつつ、引き続き棚に商品を並べ始めた。