23.裏
下では、長テーブルの脇に吊ったランプと、卓の上の小さなランプが家の中を淡く照らしていた。
明るすぎない灯りの中で、ラモンとマッテオは向かい合って杯を傾けていた。
食後の皿はもうほとんど片づいており、卓の上には酒瓶と杯、それに塩気の強い干し肉が少しだけ残っていた。
マッテオは杯を指で回しながら、ふっと息をついた。
「十年ぶりに顔を見せたと思ったら、助祭ひとりと短髪の子どもひとりを連れて故郷に向かうっていうから」
マッテオはにやりとした。
「僕は最初、あの子がお前の子かと思ったよ」
ラモンは杯を置いた。
「何度もその話に戻るな」
「だって、おかしいだろ」
マッテオは続けた。
「二十年ぶりにアルバトスへ帰るって男が、子どもを連れで現れたんだ。そりゃ誰でもそう思う」
「誰でもではない」
「僕は思った」
「お前だけだ」
「いや、マチルダも半分は思ったはずさ」
マッテオは肩を揺らして笑った。
それから干し肉をひとつつまみ、噛みながら続けた。
「筋は通るんだろう。あの子のためにようやく身を落ち着かせる気になった。だから故郷に戻る。なかなかいい話じゃないか」
ラモンは少しだけ眉を寄せた。
「勝手に話を作るな」
「違うのか」
「違う」
「本当に?」
「本当だ」
マッテオはランプの向こうで目を細めた。
「じゃあ、なおさら聞きたくなるな。お前が帰る気になった理由」
ラモンはすぐには答えなかった。
卓の上のランプが小さく揺れ、ガラスの内側で火が細く形を変えた。
奥の半土間では、ギラがくちばしを鳴らすような小さな音を立てたが、すぐにまた静かになった。
「助祭と子どもの護衛だ」
ラモンは静かに言った。
「精霊教会都市まで送り届ける。そこまでは、ただの仕事だ」
「その先に、僕らの帰郷アルバトスがある」
「そうだ」
「じゃあ、そこだよ」
マッテオは杯を持ち上げた。
「なんで今なんだ。昔は意地でも戻らないって言ってたのに」
ラモンは酒を一口飲んだ。
「そんなことを言ってない」
「ふーん」
マッテオは空いた杯を指先でつついた。
「まあいいや。言いたくないなら言わなくていい」
彼はそう言ってから、わざとらしくラモンの顔を見た。
「ただし、あの子が本当にお前の子じゃないなら、明日のうちにうちの子らの誤解は解いておけ。テオなんぞ、寝るまでずっと気にしてたぞ」
ラモンは小さく息をついた。
「わかった」
「短髪で、寡黙で、目だけ妙に落ち着いてる。結構変な子だよな」
マッテオはまた酒を注いだ。
ランプの光の中で、マッテオの笑いが少し長く続いた。
ラモンはそれを止めもせず、杯をゆっくり空けた。
上で子どもたちがようやく落ち着いたのか、床板ももう鳴らない。
外の広場からは、遅く帰る人の足音がときどき遠く聞こえるだけだった。
「きっと、」
マッテオは笑いの余りを引っ込めて、言った。
「戻っておいたほうがよい時分なんだろうな。俺たちはもう若くないしね」
ラモンは杯の底を見てから、静かに卓へ戻した。
「まあ、そういうことだ」
それだけ言うと、あとは続けなかった。
マッテオはしばらく待ったが、追加の言葉がないとわかると肩をすくめた。
「わかったよ」
彼はそう言って、自分の杯を持ち上げた。
「宿代ずいぶん弾んでくれるみたいだな。ありがとう。」
ラモンも杯を持ち上げた。
「クリスもテオにもいろいろかかるだろう。大きくなったもんだ。お前は昔はあまり金に細かくなかったのにな」
マッテオは残ったワインを自分のコップに次ぎながら答えた。
「家族持ちだからさ。お前も帰るなら、いずれ思い知るよ」
ラモンはその言葉には返さず、杯を軽く合わせた。
土間の奥では、ダンもギラももう動かなかった。




