働き手が増えました
痛い…。
やめて…。
やだ……。
ごめんなさい……。
お願いだから…‥…許して。
◇
◇
◇
気がつくと、僕は見覚えのないベッドの上にいた。ここはどこだろう。確か、殴られ続けて、そこから……。
「目が覚めたか。」
驚いてビクッと体を震わせた。恐る恐る声がした方を見ると、白い服を着た女の人が隣で椅子に座っていた。
「一日以上寝ていたが大丈夫か?傷は処置しといたが、一応定期的に見させてもらうぞ。後、隷属の首輪の持ち主は私の名前に上書きしたから。」
「…え?」
そう、隷属の首輪は文字が彫られているところに、血を垂らすと、血を垂らした人が首輪をつけている人の主人になる。つまり僕はこの人の奴隷になったのだ。
「……っ!」
これじゃ結局"あの屋敷"から解放されても同じじゃないか。……‥また、殴られるの?鞭で打たれるの?この先のことを想像するだけで震えが止まらなくなった。
すると、いきなり扉がバーンと開かれ、赤い髪をした妖精が現れた。
「あるじー!あの犬っ子目が覚めた?」
「ドアはゆっくり開けろアホ。見ての通りだ。」
妖精は僕に目を向けると、僕に向かって飛び込んできた。
「よかったー!目が覚めて!もー、君を連れ帰ってからほんと大変だったんだから!帰った途端にあるじがふくさようで倒れたから、君の傷の応急処置とか、着替えとか、全部私がやったんだよ?!」
「その後、私が処置し直すことになったんだが。」
「あるじはもっと私を褒めてくれてもいいんじゃない?!」
二人のやり取りに困惑しながら聞いていると、さっき言った妖精の言葉を思い出した。
「……え?着替え?」
「そうだよ。服があまりにも汚いしボロボロだったから私が着替えさせたの!」
思わず自分の服装を見てみると、僕は自分の目を疑った。何故なら今、僕は女物の可愛いふりふりとしたワンピースを着ていた。
「……え?!なに、なんで、こんな服を……。」
「えっとねー。」
時は一日前に遡る。
◇
◇
◇
私は今とても困っている。何故かって?家に着いた途端あるじが倒れたからだよ!マジでこのわんこどうすればいいの?!
「と、取り敢えず下そう。」
私はこの子をソファに寝かせようとした時、私がここに住み始めた頃にあるじが言っていたことを思い出した。
『いいか、アルセル。この家に住むからにはここのルールを守ってもらう必要がある。破ったら死ぬやつもあるから心して聞け。』
『ルールは三つある。一つ目は地下に絶対入らないこと。許可なく入ったら容赦なく殺すからな。』
『二つ目は部屋を汚さない、散らかさないこと。薬屋の評判に関わるからな。これは別に破っても死なないから安心しろ。まぁそれ相応の罰は受けてもらうが。』
『最後に三つ目。これが一番大事だ。たまに、師匠がここに戻ってくる時がある。師匠は私達の面倒を見てくれた人だ。』
『で、師匠が帰ってきたら多分会話すると思うが、その時に絶対、師匠と約束事をしないことだ。なんでかって?師匠が普通じゃないからだよ。最悪、命に関わるようなことをされるからな、気をつけろよ。』
………今このボロボロで汚れているわんこを下ろしたら二つ目のルール破っちゃうじゃん?!危ない危ない、気づいてよかった。気づかなかったら、激臭がする瓶の掃除を一週間やらされるところだった!
このわんこには悪いけど服を脱がさせてもらおう。後は風の力でお湯の入った桶とタオルを持ってきてっと。傷を擦らないように体を拭き拭き〜。
えーっと、確か、前あるじが言ってた、なんこう?っていう薬をあの棚に入れてたような……。あ、あった。これを傷口に塗って、適当に絆創膏を貼る!これでよし!
後は服だね。前にこっそりクローゼットを見た時、明らかに使ってなさそうなのあったからそれを着てもらおう。
数十分後
おー、男の子なのに中々似合ってる。しかしあるじにこんな趣味があったとは、あんな性格してて意外だなぁ。っと、いい加減下ろさないとね。あっあるじ運ぶの忘れてた。
◇
◇
◇
「って感じで頑張ったんだからね!」
「はいはい、後、この服私の趣味じゃないから。師匠が勝手に送りつけやがっただけだから。」
「え〜?ほんとにぃ〜?」
「本気のチョップ喰らわすぞ。」
「ごめんなさい。」
僕はもう途中からこの二人に追いつけなくなっていた。この人達は僕に何がしたいんだろう。後、なんで奴隷であるはずの妖精が主人である人にこんな態度を取っているんだろう。僕はますます訳が分からなくなった。
「あっそうだ忘れてた。おい獣人。」
急にそう呼ばれ、僕は驚き、体がこわばった。
「お前には今日からここで働いてもらう。だから、お前の名前と異能力について教えてもらう。」
異能力、それはエステン様が与えてくださった祝福と呼ばれるもの。普通なら、自分の唯一の能力を他人に教えはしない。けれど、奴隷である僕にそんな拒否権は無く言うしか選択肢はなかった。
「ぼ、僕は……ニール。異能力は、【傷ついた衝動】で、感じる感情によって……‥僕自身と相手に影響が出る能力です。」
「ほう?もっと詳しく。」
「えっと……影響が出るのが喜怒哀楽の四つと恐怖で、悲しみと、恐怖以外は使う時に感じたことがないので分からないです。悲しみが、相手の視界を悪くするもので、恐怖が自分の身に迫る危機を察知してくれるものです。」
うまく説明できただろうか、怒られないだろうかという不安でいっぱいになりながらもなんとか知っていることは話せた。顔色を見るためにちらりと見上げると、右手を顎に当て、考えるような素振りをしていた。
「なるほどな。一応聞くが、お前の異能力は任意で発動するタイプのやつか?」
「は、はい。そうです。」
異能力には自分の意志で発動できるものと、自分の意志関係なく発動するものがある。後者の方は稀だけど、発見されると危険人物として隔離されてしまう。何故、隔離されるのかというと、過去に一人の人間が自分の意思と関係なく、異能力を発動させてしまい、ある国の国民の四割が死亡する事件が起きてしまったことがあったからだ。
元凶は、処分されたけれど、未だに国はこの事件の再発を恐れている。この人もきっとその危険を考慮して聞いてきたのだろう。
「よし、お前は今日からここで働いてもらう補助役だ。やり方は傷が治り次第教えるから、早く治せよ。」
そう言うと、出て行ってしまい、部屋には僕と妖精だけになった。僕はさっき言われた言葉に驚き、呆然としていた。だって、前のご主人様は、体の傷なんて気にもとめなかったから。
「ごめんねー。あんな感じだけど、不器用なだけだから、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ!」
「あっ、えっと…。」
「あっ名前を言ってなかったね。私はアルセル。種族能力で、火と風の力が使えるよ!異能力は【生命反応】近くの生き物を察知できるんだよ。」
「と言っても、なんとなくそっちにいるってことしか分からないから、大体は風の力と合わせて使っているんだよねー。」
僕は驚いた。普通は自分の異能力を、例え同じご主人様を持つ奴隷同士であっても教えることは基本なかったからだ。それに、この妖精、アルセルはご主人様に対してとても失礼な言動をしていたのに、ご主人様はそれを咎めなかった。それに疑問を持っていた僕は思わず聞いてしまった。
「あの……なんで、ご主人様に対してあんな態度を?君は、奴隷でしょ?」
「ブフッッッ?!アッハハハ!!ご主人様ってあるじのこと?!めちゃくちゃ笑えるんだけど!」
そんなに笑えるようなことじゃなかったと思うんだけど。
「あーごめんごめん。なんであんな態度なのかって話だっけ?そりゃぁ私、奴隷じゃないもん。」
「……‥え?」
ニール 11歳 男 獣人(狼)
灰色の髪に赤色の目をした男の子。生まれた時から奴隷の立場で、酷い扱いを受けながら生活してきた。両親の顔は知らない。貴族の馬車に乗せられて移動してたら、盗賊に襲われて、連れてかれた挙句サンドバッグにされた。運良くヴィーレ達に見つかり、なんとか生き残った。
種族能力とは!
種族能力とはその種族だけが使える固有の能力のこと。例えば、妖精やエルフ、精霊は四大元素のどれかを使えるし、特に精霊はかなり強い威力を出せる。獣人は、獣化できるし、魚人は、歌を歌うことで、バフを盛れる。ドワーフは鉱石の種類がすぐ分かって察知できるし、魔族は魔法が使える。こういった、それぞれの種族の得意なことが進化したもののことである。