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第105話 オザック迷宮の終着点

新たにルシエンを加えたパーティーで戦力や連携を確かめるため、きょうもオザック迷宮に入ることにした。

 朝食はパンと昨日の野菜スープの残りで済ませて、夜明けには迷宮入口に向かった。


 きょうは午後には冒険者ギルドに新たなクエストを探しに行く予定だが、その前にルシエンを加えてパーティーで腕試しだ。

 エルフLV19ってのは俺たちが一緒に戦ったことが無いレベルの仲間だし、それに俺たちも昨夜でレベルアップしているからな。


 森の中を迷宮入口に向かいながら、みんなのステータスを確かめる。

 リナは魔法使いがLV13になり、「魔槍」って呪文を習得した。ベスは別れる時にLV12だったから、これは初めて見る。


(これは「魔法の盾」の攻撃版、みたいなのね。物理的な貫通力を投射する魔法だから、火も雷撃も効かない魔物とか、戦争だったら城攻めとかに使われる。もっともあくまで魔法ではあるから、“魔法無効”の相手には効かないし、逆に“物理攻撃無効”にも効きにくい。使いどころを考えてね)

 リナの解説を聞くと、強い魔物相手には「魔力強化」とかと併せて使うとよさそうだな。


 革袋の中のリナを僧侶に変えて確かめると、こちらもついにLV10まで上がって、「大いなる癒やし」を覚えていた。

 素直に嬉しい。パーティーの生存能力が大きくアップだな。浄化をかける時にリナだけに経験値が入るよう編成を変えたり手間をかけた甲斐があった。もっとも、ルシエンも使えるようだから、これまで欲しかった魔法が一気に2人分だ。


 ノルテは鍛冶師LV11に、カーミラも人狼LV12にそれぞれ上がったが、見たところ新たなスキルとかは得ていない。非魔法系ジョブだから、11~14レベルでは新たなスキルは得ないらしく、それならSPがもらえるかと言うと、俺たち転生者と違い、こっちの世界の元々の住人はそうではないようで、おそらく見えない特性数値とかHPとかが自動的に嵩上げされているんじゃないだろうか。


 俺も錬金術師LV13になったんだが、新たなスキルとか魔法は得られなかった。

 ただ、ステータスをよく見ると「薬生成」がLV2になっていたから、おそらく本来は錬金術師LV13で得られるのが「薬生成(LV1)」で、俺はベスのお手伝いで既に薬生成スキルを得てたから、それが伸びたんだろう。

 しかし、このスキル、どう使えばいいんだろう?リナは知ってるだろうか。


(今度は自力で得られたようだから教えるけど、ベスみたいにちゃんとした薬草を揃えなくても、魔石と錬金術師の魔法の組み合わせで、薬が作れるんだよ)

「え、そうなの?」


 そもそも、原料になる薬草などの正しい組み合わせをちゃんとそろえて、そこに魔石の成分を混ぜて加工すれば、誰もが一定の確率で生薬を作ることはできる。これが、ベスがあの時やった方法だ。

 この方法は、薬生成スキルを持っている者が行えばほぼ確実に成功するし、持っていなくても正しい原料などを使っていれば低確率で成功し、それによってスキルを得られる場合もある。俺がこのケースだ。


 これに対して、薬草などの原料がなくても、錬金術師の「火素」や「生素」を魔石に対して使うことで、一定確率で魔法薬を生成することができるらしい。つまり、薬草の代わりが「火素」や「生素」といった錬金術だと言える。


「なんだよ、じゃあこれまでも魔法薬とか作れたのか?」

(確率は低かったけど一応そうね、聞かれたら答えたよ)


 まじか・・・まあ、リナはそういう存在だからな、聞かなかった俺が悪い、ってかやっぱりレベルアップの度に、何ができるようになったかちゃんと確認しないとな。

(だから錬金術師は、LV13で薬生成を覚えると、それで生計を立てていく人もいるよ)


 きょうは魔石を幾つか換金せず、薬作りの実験用に持ち帰ることにしよう。


 迷宮前に着くと、今日も夜明け前から十組以上は並んでいた。

 まあ、きょうはそれでもいい。受付で4人分の銀貨4枚を払う。ルシエンを覚えていた詰め所の兵が、俺のパーティーにいるのを見て一瞬はっとしたが、事情を察したようだ。


 ふと見ると、詰め所と売店の向こうに、石積みの塚が設けられている。

「あれは?」


「亡くなった冒険者の慰霊碑さ。迷宮に挑む者たちに油断しないよう呼びかける啓発の意味もあるということで、昨日の夕方設置されて慰霊式も行われたよ。あんたたちも、慣れてきた時こそ注意してな」

 年かさの兵が教えてくれた。俺が王都に行ってる間にそんなことがあったんだな。


 スタートまで小一時間あるから、慰霊碑を見に行った。

 既にこの迷宮では初日から合わせて8人の冒険者が亡くなっているようだ。俺には完全には読めないけど、人の名が刻まれているらしい小さな石板が8つ、塚の前に立てられていて、そのまわりに花が捧げられている。

 俺たち以外のパーティーも何組か祈りを捧げていた。


 それからまた売店でお約束になった肉まんじゅうを買い込む。これがあるとないとでは、ノルテもカーミラも士気が違うからな。って言うか、もう半分食べてるし。

 しょうがないか、けさは肉っ気がなかったから。ルシエンが俺と同じようにあきれて見てて、目が合ったら薄ら笑みを浮かべた。やっぱり、笑顔になると美人が際立つな。


 順番が近づいたので、パーティー編成して、ルシエンには俺が使っていた弓を渡した。崩落に巻き込まれた時、ルシエンが持っていた弓は折れてしまったからだ。それにもし回収できていたとしても、物品は男爵の遺品としてホルトンに渡されていたかもしれない。


「弾力がちょっと足りないし、歪みもあるわね、手入れはしてないのかしら?」

 すみません、弓とか全然わからないから放置してたよ。


「まだ時間はちょっとあるわね・・・」

 ルシエンは、俺にはよくわからない弓の調整を始めた。すごく手際がよくて、なんて言うか楽器の調律みたいだ。ほんの数分で満足げな顔になった。

「まあ、安物なりにこんなものかしら」

 手厳しいです。


「次は13番、スタートだ」

 声をかけられ、俺たちは気を引き締めて洞窟に入った。


 中に入ってすぐ、リナを魔法使いモードで等身大にする。武器は一応セラミック剣を持たせておく。俺たちは公式には4人パーティーだが、実質的には5人、ハニワゴーレムを出せば6人パーティーとも言える。ゴーレムは数を増やそうと思えばMPはきつくなるがもっと出せるかもしれない。


 でも一階層ではまだハニワゴーレムは出さず、先頭にカーミラ、その後ろが俺で左右にリナとルシエン、しんがりにノルテがカンテラを持って歩く。カーミラとルシエンは、灯りがなくても特に不自由ない様子だ。カーミラは嗅覚と聴覚が飛び抜けてるからだけど、ルシエンはエルフ特有の暗闇でも見える視力があるようだ。


 既に攻略済みのエリアだから「地図」スキルも有効だし、そこに俺の察知とカーミラの嗅覚で捉えた魔物がプロットされ、すぐわかる。それでもいつもより鮮明に多くの魔物の光点が見える気がする。

隣りを見ると、ルシエンが何かに耳を澄ませている・・・


(「精霊の耳」ね、索敵スキルの一種だよ)

 念話のひそひそ声でリナが教えてくれた。これで得られた情報も地図に反映されて、魔物探知の精度があがったらしい。


「吸血コウモリ、距離50歩の右の横穴から5匹来る」

 ルシエンが簡潔に、しかしおそろしく具体的に告げる。

 そして、すぐに弓鳴りの音が響き、赤い光点が一つ消えた。

「頭を狙ったのに・・・」

 それでも不満なようだ。俺にはまだ何も見えない。


 それからようやく視野に入ってきた4匹の吸血コウモリを、さらにルシエンが2匹、リナが火球で1匹、そして低空飛行で飛び道具を避けてきた残る1匹はカーミラがダガーで仕留めた。


 その後はまた、「右ルート」を二階層、三階層と進む。右ルートはもうワームの手前まで攻略済みなので、殆どの冒険者が左ルート三階層に挑もうとしているらしく、右ルートはすいていた。それにきょうは昼までで上がろうと思ってるので、わざわざ横穴の中の魔物を掃討したりはせず、さっさと方針だ。


 二階層からはハニワゴーレムを前に立たせる。俺たちを含めかなりの冒険者が攻略したのに、それでもまだコボルドが数匹、オーガも一体湧いていた。それだけ迷宮の魔力が濃いんだよな。


 コボルドとは最初弓の打ち合いになったから、ルシエン加入の効果が特に大きかった。俺が使ってた弓なのに、ルシエンが使うとコボルドより遠い間合いから正確に当てるから、接近戦になる前に相手の数がずいぶん減るのだ。


 オーガ戦ではさらに驚かされた。あの巨体に矢は効かないんじゃないかと思ったら、オーガの目を狙って射貫いたんだ。最初は偶然かと思ったんだが、両目を潰したのを見てびっくりした。最後は、リナが新たに覚えた「魔槍」でとどめを刺した。魔力強化と併用させたら、オーガの巨体が吹っ飛んでいたから相当な威力がありそうだ。ただし、MP消費も多そうだった。


 一方で、ルシエンの力は三階層で出会ったスライムにはあまり生きなかった。

 矢が当たっても効かないし、ルシエンは多様な魔法を使えるけど、火炎系統は持っていないので決め手に欠けるのだ。

 やはり敵との相性ってのは大きいな。そういう意味でも今日、色々試せたのはよかった。


 そして、思ったより早く三階層の奥の方まで進んだので、そこから前回他のパーティーが見つけた、右ルートから左ルートに抜ける横穴に入ってみることにした。

人がようやく通れる広さだから、ハニワゴーレムはいったん収納する。

 いずれ人間サイズの盾役も作った方がいいかな。


 前方に一組他のパーティーがいるようなので、間を開けて進む。流れ弾に当たるのはいやだからね。そのパーティーは地図上で幾つもの赤い点と近接しているから、戦闘中なんだろう。そいつらが掃討しながら進んだのか、俺たちのそばに魔物の気配は無い。


 だが、やがて前のパーティーと戦っていたとおぼしき赤い点が数を減らし、1つが左ルート方向へ、そして2つが俺たちの方に動いてくる。前のパーティーは左ルート方向へ赤い点1つを追って行くようだ。

 こっちに向かってくるのは、乱戦になって冒険者たちをすり抜け、逃げて来るってことかもしれない。


「オークの匂い、強そうなのもいる!」

「オーク2匹!1匹は多分リーダーね」

 カーミラに続いてルシエンの声が重なった。


 だが、横穴は曲がりくねっているため直接見えてはこないし、矢も打てない。

 俺はまわりの空間から火素を集めて練るイメージをする。だいぶ慣れてきた。そして、まだ視線は通らないけど地図スキルで相手の位置が確認できるようになった瞬間、練り上げた炎を実体化させ、間髪おかずもうひとつのスキル「力場」で操る。 横穴のカーブに合わせて炎の塊が軌道を変え、見えない魔物に向けて飛んでいった。


 ギャーっという叫びと共に、地図上の赤い点が一瞬止まり、一つが消えた。カーミラを先頭に俺たちは駆けだした。カーブを曲がった途端、立ち尽くしたオークリーダーと出くわした。隠身で忍び寄ったカーミラがダガーで斬りかかったが、ギリギリで急所は躱されたようだ。これだけ近づくともう飛び道具は使えない。俺も剣で斬りかかる。深手を負いながらもLV8オークリーダーは一合は受けて見せた。だが、低い位置に入り込んだノルテのハンマーで足を払われ、最後は俺がとどめを刺した。


「錬金術師なのに、接近戦もやれば出来るのね」

 ルシエンに声をかけられた。

 考えてみたら、剣でこのレベルの相手を倒したのは転生した最初の戦い以来かもしれない。薄暗くてはっきり見えないからこそ、躊躇なく踏み込めたのかもな・・・そもそも錬金術師って、前衛職じゃないし。


 魔石を回収してしばらく進むと、左ルートの三階層に出た。

 視界が開けると共に地図スキルに多くの光点が映る。赤ではなく白い光点、冒険者たちだ。


 どうやらここはもう三階層の最奥に近いようだ。200メートルほど歩くと、何組ものパーティーが結界の前にたむろしていた。

 見知ったイリアーヌやレジャのパーティーもいた。


「シローたちも来たのか」

「レジャ、もしかして、こっちも終了か?」

 この迷宮に挑んでる中で一番レベルが高そうなLV24騎士に訊ねると、そうだ、と返事が返ってきた。

 やはりこっちの結界の中も迷宮ワームがいたそうで、国軍のお達しに従って結界で封じた所らしい。もうちょっと早ければ、姿だけでも見られたのに惜しかった。


「レベルはいくつだったの?」

「LV17だった」

 右ルートの迷宮ワームはLV16だったから、こっちの方が上だな。双子の迷宮って言ってもそういう違いはあるんだ。


 まだ昼前なので、もう少し残って横穴で魔物狩りをしていくというパーティーが多かったが、俺たちはもともと今日は早く引き上げるつもりだったから、左ルートを出口に向かうことにした。


 左ルートはきょうは冒険者が多かったから、帰途はあまり魔物と出くわさなかったけれど、少しだけスライムと迷宮コウモリを掃討して戻った。


 詰め所には既に、左ルートもワームがいるところまで到達したことが知らされたようで、王都への報告を準備しているのか兵たちが忙しそうにしている。


 ワームを倒すことは禁じられているから、これ以上先には進めない。

 ただし、ワームを生かしたまま封じることで今後も魔力が漏れ続けるから、一定量の魔物は湧き続ける難易度の低い迷宮として長く解放され続け、初級から中級の冒険者や兵士らが経験を積む場になっていくはずだ。


 こうしてオザックの迷宮戦は、ひとつの節目を迎えたのだった。

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