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転生スキルは「お人形遊び」と「粘土遊び」なんですが、これでどうしろと?  作者: 柴野ましろ
第二部 ハーレム冒険者篇

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第106話 救済の家

オザックの迷宮はY字型の2本のルートのいずれも、最後の迷宮ワームがいる手前まで攻略された。それを見届けた後、王都に向かうことにした。

 俺たちは昼前に帰宅して汗と汚れを落とし、すいた小腹に肉まんじゅうを詰め込んでから、王都に向かった。


 移動手段は慣れたセラミック製自走車だ。でも、これまで使っていたのはハメット村長の小型馬車を参考にした2人掛けのものだったので、この際に4人で乗れるもう一回り大きいのを成形してみた。

 ちょっと時間はかかったが、満足出来るものが出来たので、今後は粘土作品の“とっておく”スキルでいつでも使えるように収納しておこうと思う。


 自走車はいったん指示すれば、ほぼ自動的に街道を走ってくれるから、移動中はわりとヒマで、なんとなくきょうの迷宮戦の反省会みたいになった。


 俺たちのパーティーは、リナを含めると5人のうち魔法が使えるメンバーが3人もいる。ある意味で贅沢な編成だ。一方で前衛は手薄と言えなくもない。

 魔法が効かない相手、とか乱戦で近接戦闘が避けられない状況とかを考えると、前衛的な、というか後衛向きのメンバーを守る戦い方が出来る者がもう少しいた方がいい。とは言え、ルシエンが加わったばかりで当面メンバーを増やす気は無い。

 まあ、そのために粘土スキルでハニワゴーレムを創り出しているわけだが・・・


「思ったのだけど、あのゴーレム、大きすぎて使いにくい場面もあるわよね?それに、自分の手の内を明かすのがためらわれる状況もあるでしょうし、もっと手頃なサイズのは創れないの?」

 ルシエンの指摘はもっともだ。実の所、俺もそれは考えてた。


 作ろうと思えば多分可能だ。ただ、等身大ぐらいのゴーレムを作ってどれぐらい戦力になるかは試してみないとわからない。

 正直、自律型のゴーレムは自走車と同じで、わりと単純な動きしかできないから、同じ体格の戦士やオークなどには動きの速さや武器を扱う技で圧倒されそうな気がする。ハニワゴーレムは大きさで圧倒できるから強いって面があるからな。

 ただ、帰ったら早速試してみようと思った。


「それとね、きょう一緒に戦って思ったのは、あなたたち、レベル以上に能力が高いのには感心したんだけど・・・でもその割に自分のスキルとか能力が生かし切れてないんじゃないかしら?」

 最初は言うかどうか迷っていたようだったけど、いったん口を開くとルシエンの指摘は留まるところを知らなかった。


「例えばノルテ、あなたは弓とか遠隔攻撃は苦手なのよね?そうすると前衛に立たないと戦力にならないのに、前に出るタイミングの見極めが遅いんじゃないかしら。だから、オークリーダーとの一戦以外、きょうはほとんど接敵しなかったでしょ?それはその分、シローとかが余計な危険にさらされてることになるのよ?」

 容赦なく来るなー、なんていうか、運動部顧問の厳しい女教師って感じだ。


「その通りですね、ごめんなさい、ご主人様にも迷惑をかけてしまって・・・」

 ノルテは自分でも思い当たるようで、しゅんとしてしまった。


「カーミラは、機動力と隠密性が長所よね?だからもっと相手をかき回すように、トリッキーな動きが欲しいわ。できれば相手の背後に回って私たちと挟み撃ちしたりね。パーティー編成していれば互いの位置情報は共有できるから、味方に誤射される心配はまずいらないから・・・」

 それもそうだ。でも、カーミラは本能で動くタイプだからなあ、そういう戦術的なことを話されても・・・やっぱりよくわかってないみたいだ。


 それはルシエンも察したようで、コホン、と咳払いをすると、俺の方を見た。うっ、次は俺っすか?

「そうは言っても二人とも優秀よ?よくやってると思う。でも、シロー、あなたが根本的にダメね」

「すみませんっ」


 なにかよくわからないけど、反射的に謝っちゃう。ゴメンナサイ、俺が悪いです。学校になじめなかった元引きこもりとしては、厳しい女教師に叱責されたら、もう無条件に卑屈になっちゃうから・・・


「あのね、あなたはまず指揮官だって事を自覚してほしいの。だって、奴隷と主人なのよ?このパーティーで無条件に他のメンバーを動かせるのはあなただけなんだから、剣も意外に使えるようだけど、オークリーダー戦の時みたいに真っ先に飛び込むんじゃなくて、まず全体を見てまわりに指示を出した方がいいんじゃないかしら」

 グーの音も出ません。


 リナがJCっぽく手を挙げた。せんせー、はつげんです。

「あー、一応フォローしとくね、シローはチキンのくせに、“女の子にいいとこ見せよう”ってのが無意識の行動原理だから」

 それはフォローじゃねぇっ、追い打ちって言うんだよ!


「「「・・・」」」

 みんなの視線が痛い。誰も否定してくれないのかよ。


「まあ、あなたが美少女奴隷を大事にするご主人さまなのは、よーくわかったけど」

 自分も含めて美少女前提なのな。いえっ、なんでもありませんっ。


「戦いの場では優先順位をちゃんとつけてよね、あなたも奴隷も死なせないためにね」

 やっぱりルシエンは経験が豊富だけに、俺たちに欠けていたことをズバズバ指摘してくれた。その通りだよ、でも、思いっきりへこんだ、MPを使い切った時ぐらいへこんだ。


 そして、城門が見えてきたあたりで自走車を降り、まず城壁の外に広がっている庶民の街に立ち寄る。目的地は、昨夜ルシエンが言っていた聖職者のところだ。


 スラムとまでは言わないけどかなり場末の薄汚い通りだった。

 物乞いと目つきの悪い男たち、まだ店を開けていない安酒場、時間が遅くなれば娼婦が何人も立つだろう。剣を吊してきて良かった。ノルテが俺の服をぎゅっと握って歩いている。


 そんな通りをしばらく行くと、古びた質素な教会か修道院のような建物があった。ところどころ欠けているけど柔らかな慈愛の表情を浮かべた女神の石像が、入口に立っている。

「ここで武器はしまってちょうだい」

 ルシエンに言われ、剣をアイテムボックスに収納する。


 茨のような植物が覆うアーチをくぐり、敷地に入ると、石造りの建物の向こうに柵で区切られた中庭が見える。そこではみすぼらしい服装の女たちが、洗濯物を取り込んでいた。遊んでいる幼児の姿や、赤ん坊をおんぶして働いている女もいる。


 よく見ると人間だけじゃない。顔や手の甲が鱗で覆われた、おそらく迷宮で遺体を見たリザードマンの種族と思われる女もいたし、ルシエンほどじゃないけど長い耳を持つ女もいた。ただ肌が浅黒いから、ファンタジー的に言うとダークエルフとか、それと人間のハーフとかかもしれない。


 建物の入口に脇にはフードで顔を隠し、ローブに身を包んだ者が二人立っている。この2人もおそらく女だ。そして、ローブの膨らみ方から見て、あの下には剣か杖か何らかの武器を隠しているな。俺も少しは場数を踏んできたから、この女たちは衛兵なんだろうとわかる。

 その一人が、俺たちに低い声をかけた。

「ようこそ、女たちの救いの家へ」


「わが心の姉妹たちに秘術を施していただきたく参りました。バレッタ師母さまにお取り次ぎ願いたく存じます。私は以前にもお世話になったルシエンと申します」

 ルシエンが丁寧にお辞儀をして、用件を伝える。


「あなたは、確かに見覚えがあります。エルフの姉妹よ」

 答えたのは、先ほど声をかけてきたのとは別の女の方だった。

「師母さまにご都合を伺ってきましょう。アマニ、ここを頼みます」


 女は身を翻し建物の中に入っていき、数分で戻ってきた。

「お許しが出ました、女性だけで奥の院にと。ご案内します」


 俺たちは顔を見合わせた。ルシエンが申し訳なさそうに言う。

「この人は、私たちの主なのですが、それでも同道は許されませんか?」

「エルフの姉妹よ。あなたも知っているように、ここは男子禁制ですので」


「本当はシローにも師母さまを知って欲しかったのだけど、仕方ないわね。リナを貸してくれる?」

 なにか連絡を取りたいことがあるんだろうか。革袋ごとリナ人形を渡す。

 ノルテとカーミラはルシエンに続いて、少し離れた所にある装飾の刻まれた建物に案内されていった。


 俺は入口のすぐそばのベンチで待つように言われた。もう一人の女衛士の目が届くところだ。

「初めてですか?」

 女衛士が問いかけてきた。


「え?うん、ここは女性だけの神殿、なんですか?」

「正式な神殿ではありませんが、尼僧の修行の場であり、傷ついた女たちの救済の家でもあります」


 いわゆる駆け込み寺みたいなものらしい。

 夫に暴力を受けて逃げ出した人妻から逃亡奴隷まで、ここの敷地に逃げ込んだ者は手出し無用、というしきたりがあるそうだ。よほどの無法者でも神罰を恐れてここには踏み込まないのだと言う。

 この世界の人たちはかなり信仰心が篤いってことかな。


 また、修道院の長であるバレッタ師母は、いくつかの特殊な魔法の使い手であるらしく、その中に“女が望まぬ妊娠をさせられないようにする”というものがあるそうだ。効果は完璧ではなく被術者の信仰心にもよるそうだし、逆にその女が心から愛する者と出会えば魔法の効果は破れ、子を持つことが出来るのだと。


 そして、その施術を求めてここを訪れ、わずかな喜捨をする者は途切れることがなく、とりわけ王都の娼婦の間ではよく知られているらしい。


 ちょうどその時、リナから念話が入った。


(多分そろそろ、喜捨の話がそれとなく出てるはずだけど、あんたはサインに気づいてないだろうから、ってルシエンから伝言よ)


 う、そのためにわざわざリナを連れてったのか、このタイミングで払えってことか・・・でも相場ってどれぐらいなんだよ?冠婚葬祭とか常識的な相場ってのを知らないと結構困るよね。


(貧しい娼婦なら本当に心ばかりで銭貨1枚なんてのでも構わない、でもあんたは一応騎士様だから最低でも銀貨以上かな。はっきり言ってかなり高度な魔法を見せてもらったよ。それにね、ルシエンはこの修道院にかなり思い入れがあるみたいよ?)

 後半はリナの意見だな。


「えっと・・・あの、喜捨をしたいんですが」

「・・・ありがたいお申し出です、きっとお志は天に通じますことでしょう、ではあちらの拝殿にどうぞ。恐れ入りますが殿方は外の院でお参りいただいていますので」

 衛士が指さしたのは、隣りにある大屋根を多数の石柱で支えただけのお堂のような建物だった。


 訪れると、簡素なローブを着た老婆らしい3人が女神像のまわりの掃除をしている。一人は目が見えないようで、手探りで像を拭いていた。そしてもう1人はフードを目深にかぶっていて顔がよく見えないけど、手も足も短めだが毛に覆われていて、コボルドとは違うようだがひょっとして“獣人”とかなんだろうか?

「あの、喜捨はこちらでしょうか?」

「まあ、ありがたいことです、どうぞこちらへ・・・」


「連れの女の子2人が、師母様に施術を受けているんで・・・」

「ああ、先ほど案内されていかれた?たしかあのエルフの女性は見覚えがありましたが」

「はい、彼女に教えられて。あとの2人は初めてですけど・・・」

「そうですか・・・」


 よく見ると目が見える2人も、獣人?と思われる老婆は脚を引きずり、もう1人は顔にやけどか何かの跡がある。ここはこうした、それぞれに大変な思いをしている人たちの生活の場でもあるんだな。

 俺は、ちょっと考えた末に、小金貨2枚をアイテムボックスから取り出して、目の前の老婆に渡した。


「これほどの喜捨を・・・あなたがたに神の祝福を。そして長い旅路の果てにあなたが魂の救いを得られますように」

 その老婆たちには特に魔力のようなものは感じていなかったんだけど、そう彼女たちが唱えた瞬間、なにか胸の内に響いた気がした。


 俺は信心深さとは無縁だし、神様と言えばあのエセ女神には言いたいことが山ほどある。第一俺なんか本当にろくでもない人生しか送ってこなかったし、今だって人に褒められるような生活をしてないけど、それでも、救いってのはあるんだろうか?


 入口のベンチに戻りぼんやりしていると、3人が戻ってきた。


 カーミラは特にいつもと変わらずまわりの匂いをくんくんしているが、ノルテは神妙な顔をしている。施術の際には色々な説法をされるそうだから、なにか心に響くものがあったのかもしれない。

「お待たせしました、ご主人様」


 ルシエンは、いつもどこか張り詰めた雰囲気なのが和らいでいる印象だ。目で「お金は払った?」と問いかけてきたようなので、俺は黙ってうなずいた。

 入口の衛士が「ありがたいお志をいただきました」と、ルシエンに向かって言ったのも、そういう意味だったんだろう。


 俺たちは一礼して修道院を後にした。


 奥の庭で、幾人かの痩せた女たちが井戸から水を汲んでいるのが見えた。


「師母さまの魔法は多くの女を守ってくれたけど、こういうことは絶対ではないから過信しないで、これからもちゃんと注意はするのよ?」

 なんのことを言われてるかは俺でもわかる。ルシエンはノルテとカーミラにも聞こえるように言ってるようだ。


「うん・・・なんて言うか、気をつけるよ」

「ふっ、まあ若いんだから、こんなかわいい娘たちに囲まれて夢中になるのもわかるけど、オトコの責任だから」

 なんか、こう、おねーさん的発言だけど、そもそもエルフの33歳って、どれぐらいなんだろう?


「ルシエンってさ、人間の年齢で言うと幾つぐらいにあたるんだ?」

「私?そうね、エルフは何百年も生きるから比較が難しいけど、成熟するまでは大体人間の2倍の時間だと言われてて、30歳で成人と認められるわ。だから私はあなたたちの年齢で言うと、16、7歳ぐらいかしらね・・・」

 年下じゃねーかっ!ノルテやカーミラもちょっとびっくりしてる。


「でも私の場合、18歳で独立したようなものだから、もう大人になって随分たつ気がするわ。だから、美人と言われても美少女と言われても、どちらでも構わないわよ?」

 どっちにしろ美が付くんだなっ、自意識高過ぎだろー。


 心の中で色々突っ込んだが、ルシエンは平然としている。

「そうそう、いくら喜捨してくれたの?」

 城門に向かって歩きながら、こっそり訊ねてきた。

「えーっと、小金貨2枚払ったんだど、それでよかったか?」


「金貨2枚も・・・私の伝え方が悪かったかしら?」

「いや、そうじゃなくて、俺がそうしようと思ったから・・・なんて言うか、ここで働いてるというか住んでるというか、大変そうな女の人が多いだろ?なんていうか、自己満足かも知れないけど・・・」


「いえ、そんなことないと思うわ。気づいたかもしれないけど、ここは人間と亜人の区別も無い、分け隔てなく不遇な女を助けてくれるの」

「うん、そうだった。やっぱり差別されることって多いのか?」


「イスパタやプラトあたりは亜人が一人で街を歩けないから、エルザークはまだましなんだけど、それでも最近は亜人差別思想が強まってて、救済の家の維持にも苦労してるらしいわ。・・・だから、ありがとう」


 それから真っ直ぐ俺の方を見た。

「私もね、他に行けるあても無かったし、今回もし逃げ出せたら、ここで衛士でもさせてもらおうかって思ってたの、本当はこんな施設が必要ない世の中だったらいいのだけど・・・」


 後にした修道院を振り返り、ルシエンはそう口にした。

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