エピローグ
そして、彼女と彼は結婚して幸せに暮らしました、とはなかなかゆかない物です。
便利この上も無い文明の中で生きて来た記憶は中世の生活を強いられる事は辛いものです。
希望島と呼ばれる絶海の孤島にある最後の帰還者達の住む町で暮らす事も、超文明の遺産であるクリスタルシティーで暮らす事も出来たけれど、麗子も鈴香も愛する者の側から離れるのは嫌だったので、覚悟を決めて中世生活をスタートさせました。
それでも、この町は元々古代文明の名残を持つ人たちが作ったので、石の建物なのに壁は断熱されています。
冬は町中、床に温水が通っていて雪深い土地である筈なのに町の中の道は雪が積もりません。
その温水が通り始める時期も外気温で自動だそうです。
トイレは一応水洗です。
水道だってあります。
蛇口が無くて流れっぱなしなのですが、綺麗な地下水です。
とても優秀な配管がされているらしくメンテナンスをした事が無いそうです。
お風呂もあります。
地下に豊富な湯量の温泉が湧いているそうで大浴場は掛け流しで24時間いつでも入れます。
それらすべて、機械も使わず行われていると言う事で、まるで魔法だと過去からやって来た麗子と鈴香は思いますが、ここで生まれ育った者達には当たり前の事のようになっていました。
クリスタルの姫様に聞けば、此処の建物を作ったのはクリスタルシティーに住んでいた人達の一派で、汚れが決して付かない配管や、温度を感知する能力を持つ光石に似た性質の石が制御装置として使われているのだとか。
『科学も発達しすぎれば魔法と思われても当然の物になるわ』との事です。
それでも、電化製品の無い生活は不自由です。
湯を一杯沸かすのさえ竈に火をつけるところから始めるのが中世です。
冷蔵庫もありません。
大きな氷室はどこかにあるそうなのですが。
もっとも、二人が結婚したのは結構偉い人だったようで、欲しい物があれば言えばすぐに見習い戦士の少年達が調達して来てくれます。
でも、愛する人のお世話をしたいのです。
お料理を作ったり、お掃除をしたり、周りを飾ったり。
洗濯機が無いので洗濯は大変そうですが。
そんな、料理、掃除、洗濯も全部やってもらえちゃいます。
彼女たちはただ座っていれば何でも満たされます。
まるで、中世のお姫様のように。
それはそれで、ちょっと辛い物がありますが。
けれど、その中世生活はあっさりと十日ばかりで終わりました。
生まれながらの姫君のクリスタルの姫は他から世話を受ける事は当たり前だったようですがリンダ王妃様は元庶民だった様で判ってくれました。
そして、クリスタルの姫様の技術力でレイコの持ち物となった財宝の中からあの不思議な、魔法石とレイコが呼ぶ卵形の石を使って文化的な生活の出来る物を作ってくれました。
光石の照明、火石のコンロ、火石とアイスストーンのエアコンなどです。
嬉しかったのは小さな洗濯機。大きな物は大型洗濯機があってもクリーニング店に出すような物は洗えませんが下着などは自分で洗いたいからです。
光石からエネルギーを取り出し、火石で乾燥までしてくれる優れもの。
特殊な振動で汚れを落すらしく、洗剤が要りません。
その仕組みなどは全然判らないのですが便利な物は便利です。
元の時代でも、電化製品の仕組みなんて判らないし、気にしませんから。
これなら、ここで何不自由なく暮らして行けそうです。
ところで、リンダ王妃の元の仲間だった希望島の住人がレイコを訪ねて来てくれました。
「うわー、感激です。
教科書に載っている偉人に出会えるなんて」
紛れも無く、日本人の顔をした男性が言いました。
「藤村麗子さん、僕たちは小学校で聖女麗子としてあなたの事を習いました。
同時代の英雄にして三聖女と呼ばれている後の二人藤村鈴、村上香を育て導いたと言われる方でしたね。
あなたの成した偉業は世界を一気に何百年も発展させ、その教育福祉事業で作られた学校は僕らの時代でも優秀な研究者を輩出する事で知られていました」
目をキラキラさせて興奮気味に言う彼にレイコはちょっと引きました。
どうやら、父や鈴、香達の偉業までレイコの物になっているようです。
麗子の死後その評価はとんでもない事になっていました。
過去を知る人が居るのは懐かしく嬉しい事でしたが、物凄く恥ずかしい事でもあるのだと思いました。
なにはともあれ、愛するリーンと親友の鈴香改めスズと一緒に、これからは見知らぬ世界を知っている世界に変えて、生きて行こうと思いました。
全ての過去を振り捨てて、新しい時を。
ズルズル引きずりそうなのでここでエピローグです




