持参金
まるで物語のようだわ、とレイコは思った。
目の前に跪くのは物語の王子様か騎士の様。
見惚れるほど美しいのに凛々しい男の顔をしてレイコを見上げる。
彼等は自らの王にしか跪かず頭を下げないのだと今はもう知っている。
けれど今、彼は明らかに普段の装いでは無い美々しい衣服と装具を纏い彼女の前に跪く。
「はい」
レイコはもうとっくに覚悟は出来ていた。
そして、納得していた。
だから、リーンのプロポーズを受けた。
藤村麗子と白川鈴香であった時にはけして結ばれるはずも無かったのに、今なら子供だって授かる事が出来るはず。
藤村麗子の一生では持ち得なかった本当に血を分けた子供を。
姉の子の保や嫁の鈴、香を実の子と思って愛しんで来たけれど、やはり本当の子供が産めるのならば嬉しい。
「私、今は何も持っていないの。ごめんなさい、持参金も無いお嫁さんで」
レイコは富豪藤村家の娘としての感覚でリーンに謝った。
「何度もの転生を経て私の元に来てくれただけで嬉しい。
それに、普通一族に嫁して来てくれる女性に持参金など求めないぞ。
その女性その物にどんな物にも変えられない価値があるのだから」
藤村麗子の時に107歳まで生き、藤村グループのやり手の社長として、そして保に社長の座を明け渡した後は会長として長く一流の財界人として、経済界の重鎮として、過ごして来たと言うのに、あちらでの年数を入れても20数年しか生きていないリーンがずっと年上に感じる。
だから、今は16歳の少女として初々しく頬を染め愛する人に頷く事ができて嬉しい。
忽然と、そこに大量の木箱が現れた事に一同は息を飲んだ。
「アポーツ?」
そう呟いたのは立会人を買って出ていた王妃リンダだった。
「まあっ、この箱の中身、光石だわ、火石やアイスストーンもあるわ。
もうとっくに材料が失われて技術も廃れていたのに」
驚きの声を上げたのは同じく立会人のクリスタルの姫。
「ええっ、私達が地球を出発した頃、凄く高価でしたよ、出来たばかりで」
と、リンダ王妃。
「私の時代も高価でしたよ。
材料が地球産では無いので材料がもう無かったのです。
だから、作る技術も消えてしまいました。
魔法では無いのですけれど、一種のマジックアイテム扱いでしたね」
クリスタルの姫が鶉卵ほどの大きさの形も卵形の白い石を手に取りコンコンと尖った方を箱の淵に2度ぶつけると、パァッと石が光り始めた。
ぶつける度に光が強くなって行き、反対側をぶつける事で光が弱まって行く。
「本当は制御装置に嵌め込んで使う物なんですけどね。
私は昔、これを一つずつ持ってましたよ。
火石は一番強くすれば火の代わりにもなるし、緩くすれば懐炉として使えました。
アイスストーンは冷やすために使う物です。
これらは一時は照明や冷暖房機に使われたりしてかなり普及していたそうですが材料が絶たれてしまうとたちまち廃れました。
最高出力で使い続けて100年は持つ物なんですけど。
でも、何でこんな物がここに?」
「それはレイコの、持参金。
シュシュと呼ばれていたレイコの今世の父が用意した物。
レイコが思い出したから、ここに引き寄せた」
箱の側にニーケが現れた。
「まあ、ニーケ。かってに持ち出して、持ち出された方は驚くし、困るのでは無いの?」
ニーケの母であるクリスタルの姫が窘める様に言った。
「シュシュとその父親以外は知らない財産ですよ。
その石を含めた半分はシュシュの亡くなった母親の持参金でしたし、残りの半分はシュシュの為に父親が用意した物です。
隠されたカラクリ金庫の中に入れられていたのでここに運ばなくとも誰も気付かなかったでしょう。
石に付いては何に使われる物か誰一人気付かずただ、綺麗な準宝石として箱の中に死蔵されていた物です。
母上のように間違いなく叩いてやれば発動しますが、擦れたくらいでは発動せず、一度の発動も起こさず新品のままで今まで残った奇跡の様な石ですね。
加工する事も出来ない固さで一種のまじない石として蓄えられたと思われます。
金銀宝石、宝飾品も多数ありますが、その3種の石が一番高価な物でしょう」




