異世界?
それは不思議な世界。
ファンタジーやゲームのように鎧をまとった戦士たち。
海を行く海賊。
世界の富を集めた海賊の島ヴァルタの市。
様々な文化の花開く国々。
外洋には巨大な竜が居る。
けれど、それらは繁茂する海草を食べる草食の竜だとか。
ただ、縄張り意識が強くて大型船が通りかかると追い出そうと体当たりをして船を壊してしまうのだと言う。
そのくせ、フンワリと空に浮かび空中を航行する船がある。
キラキラと輝く水晶で作られたような大都市がある。
あまり大きな島では無いが他のワイルドな世界から見れば冗談としか思えない文化的な町がある。
そこが異世界だと、レイコは思ったけれど地球だと言われた。
彼女にその説明をしてくれたのはリンこと、戦士リーンの国の王妃様とリーンの師匠の妻クリスタルの姫。
「私はシュバルツの末裔なのです。
あなたの協力のお蔭で一度はボロボロになりかけた地球を立ち直らせる事が出来たのです」
「あなたが、麗香の子孫なのですか」
シュバルツの名を聞いてレイコは驚いた。
「でも、異世界と思うのは当然かと思います。
私達もはるばる宇宙の彼方から帰還した時、そう思いましたもの。
異世界か、別の星じゃないかって。
私達は調査隊で大拡散の前に出発しましたから懐かしい地球しか知らなかったので、あまりの変化に帰還の為の座標を間違えたのだと思いましたよ。
ポッドに入って人工冬眠による眠りながらの調査でしたので時間の経過が感じられなくて、いきなり異形の地球を見たんですもの。
大拡散の後に最後まで地球に残って保全に努めていただいたシュバルツの方々が居なければ、大帰還で戻って来た者達は帰るべき場所を失っていた所でしたわ。
私達の調査は後から来た大拡散の人々に追い抜かれた時に終わりましたが、まさか地球がこれほど変わっていようとは思ってもみませんでした」
レイコが見せられたのは宇宙から見たこの時代の地球。
レイコの生きていた時代でさえ、スパイ衛星の精度は凄かったのに、文明の最盛期に打ち上げられ、自己修正を繰り返し、自らを発展させてきた人工頭脳の目に捕えられた地球は雲のベールさえ剥ぎ取られて鮮やかに見る事が出来るのだ。
「そして、リーンの一族はシュバルツが創り上げたクリスタルシティーが滅びた後にその地を旅立った者達の末裔。
リーンがそこへ飛ばされたのは必然。
あなたと出会った事も歴史の必然だったのです。
リーンがあなたと出会ったから、私があるのです。
この一族があるのです」
レイコが目覚めた時から目まぐるしいまでに様々な事があった。
何より驚いたのは自分が完全に別人の容姿を持っていた事だった。
107歳まで生きた老女は16歳の少女となり、黒髪と茶色だった目は華やかなピンクブロンドとアクアマリンの青になっている。
ピンクブロンドの髪は地毛がすっかり白くなった頃から色々と染めて楽しんでいたのでさほど驚きはしないが青い目は見るたびにビックリしてしまう。
顔はもちろん日本人では無い。
彼女の知っている白人の顔でも無い。
様々な人種を混ぜ合わせて平均化させたような、そんな顔だった。
場面、場面で切り取られた写真の様な記憶の中にそんな髪の色を見たような気がする。
あれは、この身体の持ち主の身内なのだろうか?
レイコは自分が他人の身体を奪い取ってしまったような後ろめたさを感じていたが、この身体はまぎれも無く転生して来た彼女自身のものなのだそうだ。
ただ、魂が封印されていたためにその年齢になるまで生きている人形の様な状態だったのだと。
リーンに巡り合うためにそうであったのだと聞いた。
リーンに会えて嬉しいと思うのに同じくらい怖い。
ここで目覚めて初めて出会った男の姿のリーンを殆どすぐに愛するリンだと気付いたのに。
彼の事を思うたびにドキドキする。
そして、逃げ出したい気分になる。
もしも、逃げ出したならきっとすぐに戻って来ようとするのだろうけれど。
それが、レイコがかつて経験した事の無い結婚を待つ乙女のマリッジブルーに似た精神状態だと気付かない。
目の前の高貴な二人の女性には判っているようだったが。
えーーー?まだ終わらない。おかしいな~~~?




