一級礼装
「何故まだ15なのに一級礼装がある?」
まだ背丈は伸びるし、無駄だろう?
向こうで何年も過ごしたけれど、こちらでは僅かな時しか経っていない事は知らされていた。
何しろ、乳兄弟のアルスがあの日別れたままなのだから。
たった一日違いなのに初陣を経て自分より幾つも年上に感じたアルスが、何年もあちらで過ごした自分の方が精神的には年上だと感じてしまう今だけれど、相変わらず15の身体だからこれからまだまだ肉体的には成長するだろうに。
一級礼装と言う正装がある。
普段の服とは比べ物にならない高価な生地をたっぷり使い、上着の裾も上に羽織るマントもズルズル引きずるほど長くて、わざとやっているのかと文句を言いたくなるほど動きにくい服なのだ。
貴金属や宝石もふんだんに使われているそれは王への謁見等に使われるが、普通は身体の成長が止まった時点で王から贈られる物だ。
それは、一番下っ端の戦士でさえ必ず一枚は持っている物だが、それを好んで着る者は皆無と言っても良い。
王の側近クラスになると着る機会は頻繁にあるそうだが、側近クラスのそれはちょっとした工夫がしてあって一動作で邪魔な部分を脱ぎ捨てる事が出来ると言う話だ。
もっとも、それは手間がかかるので一般の一級礼装には当てはまらない。
リーンの目の前にはその一級礼装がある。
ブカブカの一級礼装などあるはずが無いので、リーンの身体にジャストフィットした、幾分小さなサイズだ。
そのサイズがリーンに彼の物だと主張している。
「それはもう、過去に行って、たった一人で一族に繋がる者達を守り抜いた英雄だから」
絶対に一人では着られない一級礼装を着るための手伝いに来ているアルスが言う。
「聞いているか?あの一番不安定な時期にお前が守り抜いたレイコが死んでいたら、今の未来が無かったかもしれないのだそうだ。
お前が死んだ後、二人の娘が生まれた後からは完全に歴史の流れは安定してちょっとやそっとでは揺らがなくなったそうだが、レイコと言う存在はあの時間軸の中でもっとも重要なキーだったそうだよ。
だから、王よりご褒美を賜るのは当然だ」
王への謁見という事で渋々とリーンは一級礼装を手伝ってもらって身にまとう。
「ああ、ここを引っ張ると上の邪魔物が全部脱げるそうだから」
「ええっ!特注品って、勿体なさすぎるだろう。多分、一度しか着られないと思うぞ」
「回数から言えば2回だな」
「何?」
「レイコにプロポーズしなきゃならんだろうが。
女の子はいつだって王子様を待っているものさ」
「私は王子では無いぞ」
「だから、恰好だけはね。一級礼装は外見だけは豪華だから」
成人した子供が何人も居る事など嘘のように若々しい王にお褒めの言葉を賜り、部屋を移して後にアースル神より王に伝えられた話を聞かされた。
あの時期、レイコには立て続けに危難が襲い掛かって来た。
それを全て防ぐ事が出来たのはリーンの魂がレイコにもっとも愛された鈴香に宿ったからだった。
リーンを気に入ったマロの手で防がれた災厄も幾つもあった。
マロが潰した組織の一つでも残っていたら藤村グループは大きな痛手を蒙っていただろう。
そうなっていたら、後のレイコの活躍も無かっただろうし、藤村グループの存続も危ぶまれ、後のシュバルツ財閥への援助も無理だったかもしれない。
たった一つの事が後に大きな事になる。
バタフライ効果と言うのだろうか、それを絵に描いた様だった。
全てはリーンがそこに飛ばされた事により良い方に転がったという事だ。
「さて、リーンよ。
そなたはこちらでこそ初陣前であったが、あちらに飛ばされる事により初陣を済ませたと認められる。
先達無しでありながら、見事であった。
今日よりそなたを成人と認める。
行くがよい、愛する娘を待たせておるのだろう」王は笑った。
成人と認められる事は結婚できるという事だった。




