誘拐5
ヒュウッと彼は口笛を吹いた。
目の前のノートパソコンに映し出される映像は少女にあっさり倒され簀巻きにされて弄られる大男二人。
「なあに考えてるんだか。リンちゃんの殺気に虫が逃げ惑っただけじゃん。
リンちゃんを化け物だと思ってるだろ。
ま、片手でデカい男を振り回せるリンちゃんが普通の人間の範疇から外れてるって事は否定しないけどさ」
誘拐犯たちが追っ手を撒くために遠回りした事を逆手にとって先回りした彼が彼らの隠れ家に超小型カメラを仕掛ける時間は十分にあった。
彼にとって相手が誰か特定できさえすればその隠れ家の位置なんてとっくに判っているのだ。
そして、その先回りをする事も。
湿気の多い虫だらけの環境を嫌って留守番すら残していなかったのだから呆れる。
もっとも留守番が居たとしても彼の手にかかれば裏をかく事も簡単だし、こっそり判らないように始末する事だって児戯に等しい。
「さあて、さっそうと助けに行っても良いけど、リンちゃんあたしが行く前に自分で見張りを始末しちゃったしな~。
信用されないよな~。
忘れ物のふりして衛星通話の出来る携帯電話を残して行ったけど、気づいてくれるかしら~。
密かに影からハニーを守る騎士。
う~~~ん、カッコいい」
「リンちゃん!携帯電話!」
気付いたレイコが椅子の傍に落ちていた携帯電話に飛びついた。
「レイコ、むやみに触っては・・・」
止める前にレイコは電源を入れていた。
「リンちゃん、これ衛星通話用よ!
日本の国際電話の番号は・・・、パパ!」
どうやら見知らぬガーディアンがこんな所にまで出没しているらしいとリンは思った。
あの二人の男は携帯など一切持っていなかったのだ。
迂闊に携帯電話など組織の誘拐犯が使うはずは無いし、もしも奪われる事になれば困った事になる。
あっさりこんな所で通話可能な携帯電話が見つかるなど都合が良すぎる。
リンは日本に居た頃何度が鬱陶しい監視の目が不意に消えるのを感じた。
そして、その目を潰して回っている誰かの存在にも気付いていた。
ちらりとリンは天井を見上げた。
ごく薄まってはいたが何かの視線を複数の場所から感じたのだ・
「うわっ、ビックリした~~~。
リンちゃんカメラ越しの視線にまで気付くの?
凄すぎじゃね?」
彼はちょっとドキドキしてしまった。
「お~~~っと、何か来ましたね~、救助隊には早すぎるし、敵ですね~」
別の画面に映る男達を見て彼は傍らの銃を取った。
「これを実戦で使うのも久しぶり。腕は鈍って無いと思うけど」
彼は迷彩色のテントから出て狙撃銃のスコープを覘いた。
彼の居るのは灌木や木の枝で巧みに隠された小高い場所。
足元のずっと下にリン達の居る廃墟が見下ろせる。
実は小高い丘をくり抜いて建物が作られていて外から見えるのは入口だけだった。
彼の居る場所にも一か所秘密の入り口があったが、下の廃墟を利用している犯罪組織は気付いて無いらしく、長年人が触れた様子は無かった。
「ひとーり、ふたーり、三人かあー、全然警戒してないのねぇ。
そんなにのんびりしてたらオンサの餌だぞぉ」
彼は勿論油断なんかしない。
此処に腰を据えて一度襲撃に遭ったが彼が自分の手におえない敵だとすぐに気付いて逃げた。
「多分リンちゃんも襲われないね。
ありゃあ、怖いわ。あたしだってブルっちゃうものねぇ」
ペロリと彼は舌なめずりをする。
「ま、ここらのオンサは夜行性だからねぇ」
彼の指が軽く引き金に触れ、パシュッとサイレンサーに音を消された銃弾が重苦しい大気を裂いて飛ぶ。
さらに二度、たったそれだけで3つの命があっさりと消えた。




