誘拐6
リンは天井を見上げ、次に入口の方を見る。
少し遅れて全く同じ仕草をしたのは入れ墨男だった。
「レイコ、ここは立ち退いた方が良いだろう」リンがまだ電話中のレイコに言う。
「え?」
父親と話せて幾分顔色の良くなったレイコが驚いた様に見る。
「GPSで場所を特定して助けを寄こすって言ってるけど」
レイコは父親に事情を説明して、犯人をリンが制圧した事まで報告していた。
「この上に誰かいる。銃を3発撃った」
「ええっ!」
レイコは思わず携帯を取り落し、それを空中でリンが素早くキャッチする。
「社長、白川です。
電池を持たせるために一旦通話を切り、少し移動します。
携帯は電源を入れたままにしておきますので場所特定は出来ると思います。
レイコは必ず守りますのでご心配なさらないで下さい」
リンは冷静な口調でそれだけ言って通話を切った。
それから設定を弄りマナーモードに切り替えてレイコに渡した。
例え離れ離れになってもレイコの場所だけは特定されるようにしたのだ。
ガタッといきなり天井の一部が外れて下に落下した。
「うわぁ!リンちゃん撃たないで!あたしゃ敵じゃないから」
銃を向けたリンに慌てたような声がする。
「こっちに向かって来た敵は倒したから今は大丈夫。
移動するんならあたしも同行するから」
穴から男が一人降りて来た。
「だ、だれ!?」
レイコはリンの側によって上着の裾をそっと掴んだ。
「レイコも逢っているはずだ。
ハイジャック犯の東と呼ばれていた男だ」
リンはあっさり男の正体を見分けて言った。
「東?」全く心当たりが無いようで首を傾げる。
「自分ではトンと言ってたな」
「えっ!嘘っ!あの変態?だって、全然違う!」
「変態って・・・、まあ間違って無いですけどねぇ。
あたしは、好きになった人には誠実な男ですよぉ。
だから、今回は味方しちゃいます」
どや顔で胸を張る。
「えーーー、まだリンちゃんを諦めて無いの?」
「そんなの諦められないですよぉ、無理強いなんて絶対に出来ない事も判ってますけどねぇ」
ヘラヘラと軽薄その物の態度だがリンは彼がその瞬間も全く油断をしていない事に気付いていた。
「お前の本名は?同行するのなら名前を名乗れ。
まあ、本名でなくても良いが」
「えーーーっ、同行させてくれるの?マロちゃん、感激!」
「マロ?幸麿なんて名前じゃないだろうな。緑川幸麿」
ザザザッと男は物凄い勢いで後ずさった。
「え?何で?マロだけで本名判っちゃうの?
やはりリンちゃんて、超能力者?それとも宇宙人?もしかして妖精とか?」
ふうっとリンは溜息を吐いた。
「こいつも保護対象なのか・・・・。まあ、遺伝子的には有りなんだろうな。
性格や精神はともかくとして」
「「???」」
レイコとマロは何の事か判らぬ様で同じように疑問符を浮かべていた。
同行を許されたマロはすぐに巨大な荷物を背負ってやって来た。
中肉中背のマロが自分の体重の倍近くありそうな大荷物を軽々背負った上に自動小銃まで持って軽やかな足取りで彼らに同行する。
「これ、リンちゃん達の食料だから」片手に下げて来た別の大荷物を差し出す。
「ここにストックされてた当座の食料だから毒は入って無いと思うよ。
パンの缶詰めとレトルトだしね。
そっちの下僕さん達に持たせたら?」
リンが入れ墨男の方を見ると男は荷物を取りに来たが持ち上げられなかった。
慌てて別の原住民の男達に命じて荷物を持たせる。
彼は原住民たちのリーダー格ではあったが非力だった様だ。
相変わらず言葉は全く通じてはいなかったがリンの意向は心を読むがごとく理解しているようだった。
「なっさけないな~、まあシャーマンみたいだから仕方ないか~」マロは言った。




