変化
身体が変わったとはっきりと感じた。
多分、遺伝子段階での変更が行われている。
いままで、いくら鍛えようともこれ以上の能力は出せないと言う限界を感じていたのが、その天井の様な物を外された気がする。
これが、最後にニーケ様の仰っていた(力を送る)と言う意味なのかと思った。
鈴香と話した後、これ以上の接触は無理だからせめて力を送ろうと言われたのだ。
彼の魂がこちらに力ずくで飛ばされて来た事で出来た通路が、弾きだされるように逆にその通路を辿った鈴香の魂で殆ど塞がれたのだが、魂の強さ、容量に差があって、糸のように細くはあるが繋がっていたらしい。
鈴香の日記と言うあちらに飛ばされた鈴香の心の一部ともいう物が、その今にも切れそうな通路を補強し、ニーケ様の接触が可能になったようだ。
(変化)と呼ばれる人の身体を神に近づける状態変化。
人が神となるにはその(変化)を何度も繰り返すのだそうだ。
戦神アースル様も元は人であったと言われる。
はるかな過去、今リンの居る時から考えると遥かな未来、人は遠くの宇宙に新たなる世界を求めて乗り出した。
けれど、その世界は過酷で人が人のままで生きて行ける場所では無かった。
二世位までならば人で居られた。
だが世代を重ねるにつれて人は人では無くなって行った。
異形の心と異形の身体。
僅かでも人の心人の身体を持つ者には耐えきれず、人々は逃げ出し故郷を目指した。
大帰還と呼ばれる時代だ。
けれど、多くの世界に人々を送り出した故郷は疲弊しきっていた。
無作為に掘り出された資源は枯渇し、芯を抜かれたように世界は崩壊寸前となっていた。
それを救おうとした一族が存在した。
彼等は失われた惑星を支えるための物を宇宙に求め、手始めは火星と木星の間にある小惑星帯から、さらに希少資源を求めて外宇宙へと・・・。
変化が起きて、二度と帰れなくなる事も覚悟して。
その内の一つの惑星がアースル。
二つの太陽と長円の軌道。
余りに過酷な自然。
変化は素早く訪れた。
異常な能力、長命、雌雄同体、そして体形変化。
それでも、心は殆ど変化する事無く、二度と帰れぬ故郷を恋いながら、資源を送り続けた。
故郷が活力を取り戻すまで。
その役割が終わっても、彼らは帰れない。
過酷な世界に順応して、そこで生きて行く以外ないのだから。
長い時が過ぎ、何故か彼らの中に嘗ての故郷に暮していた頃の姿を持って生まれて来るものが居た。
彼等はそんな子供を故郷に送った。
故郷で生きて行ける能力を持つ子供らに故郷の事を知らせてもらうために。
その内の一人が戦神アースルの元になった人。
姿こそ人だったが能力は劣るとは言えアースル人。
その長命で世界をつぶさに見、その報告をアースルに送り続けていた。
同じように送られていた別の一人のアースル人が嫉妬と恋情を抱きその記憶を奪うまで。
長い長い物語が始まった。
様々な人との出会い、別れ。
そして、いつしか彼の一族との関わりが生まれる。
出会っては、忘れ、また出会う。
それは、彼から記憶を奪った者の操作だったのかも知れない。
そして、ニーケとの出会い。
ニーケとの様々な冒険の後に戦神アースルは仕掛けられていた呪いの様な束縛から逃れる。
やがて訪れるアースル人の(変化)。
それは石化と言う形で現れ、ニーケとの間を裂かれる。
千年の時をニーケは待ったと言われる。
そのニーケ様の(変化)は凄まじいエネルギーの塊を撒き散らすようなはた迷惑な物らしい。
しかも無理やりに方向を歪めねばニーケ様の同族である者達へ向かう。
その犠牲者がニーケ様の弟の銀の王子と呼ばれる方であり、彼なのだ。
銀の王子様は大陸を移動しただけだが、彼の場合は時と空間と言う桁外れの大移動だ。
しかし運命ならば仕方が無い事。
今は役目を果たすために体を鍛える事から始めよう。




