予兆
殆ど昔どおりに動く身体。
今までどうしても以前の様には行かなかった第六感的な感覚が覆い被されていた布を引きはがされたようにシャープになる。
それでも、以前のままでは無いのかと、嘗ての身体がその生まれつきからして特別な物であった事を思い知る。
彼等の一族こそ、長い長い時をかけて選りすぐられた遺伝子の元作り上げられた一族なのだそうだ。
一族の元に【箱舟の姫】と呼ばれる方が居る。
その方も尋常ならぬ運命の元に生まれ、そして今は一族の者を愛し、嫁して来られた方だ。
その方の身体の中には選りすぐられた優れた遺伝子が詰め込まれ、嘗ては【遺伝子の箱舟】と呼ばれたそうだ。
それが、国家に異端とされ、父上の手で隠される事になった。
眠りの箱の中での長い長い時を過ごした後に目覚められた遥かな過去からの姫君。
クリスタルの姫よりもさらに遠い過去からいらした姫の遺伝子の元である祖を守るのが彼の役目。
なぜならば、その遺伝子は彼らの一族をさらに遥かな高みへと押し上げてくれる可能性を秘めているのだから。
もっとも、一族の男にとっては一族に加わった女性を守るのは当然の事なのだが。
以前に近いほどシャープになった彼の感に最近、やたらと触れるものがある。
誰かの監視の目だろう。
彼に対しての物では無く、レイコや彼女の父親に向けられる目の様だ。
レイコにも父親の藤村太一郎にも護衛の人間が何人も付けられているのに誰も気付かない。
けれど、なぜかその目はふいに消える。
気のせいなどでは決して無い。
その証拠に次の日には必ずと言って良いほど身元不明者の死体が見つかりニュースになる。
『ぶっそうねぇ、この近くじゃない?』と、レイコは何も気づかず言うのだが。
藤村グループが今画期的なエネルギー開発にほぼ成功していた。
それが発表されればガス、電気、その元となる原油や天然ガスの関連企業、引いては産油国などが壊滅的なダメージを負うと予想されている。
それさえ出来れば電気料金は現在の10分の1、いやもっと下がると考えられ、さらに環境の汚染も皆無となる。
けれど、社会的な影響が大きすぎるので発表が控えられている。
それを最近週刊誌にすっぱ抜かれ、そのころから不審な視線が多くなって来たように思う。
自分たちの利権を守るために嘗てのガス、原油、原子力に頼らない自然エネルギーによる発電を潰した企業が今回も何をしてくるか判らない。
まずは、小さな家庭用の製品をと急ピッチで開発がすすめられていたのだが、その開発部長が誘拐されかけた。
本人も何故助かったのか判らないが、縛られて連れ去られそうになった、押し込まれた車が全然動く様子が無く、何とか縄抜けして車から出ると誰もいなかったそうだ。
悪質な嫌がらせ位ならまだ対処できるが自然エネルギーの時のようにデマを流され消費者にそっぽを向かれるのが怖かった。
だから、ゆっくりと実績を積む事に決めていた。
大々的な宣伝はせず、ガス電機業界にもエネルギー源の転換を少しずつ進めて行くつもりなのだ。
大規模な発電施設の方が細々した家庭用よりエネルギー単価は安くなるのだから。
実は藤村本社と社員寮である麗子たちのマンションではすでにその新エネルギー発電装置が使われていた。
運転時の騒音も無く、発電機としてはコンパクトなそれは十分な電気を供給し続けてくれるので嵐などの自然災害で停電する事はその建物に置いては一切無い。
エネルギーロスの多い長い送電線を使う必要が無いのでより安上がりだ。
発電装置が安全でコンパクトなのでどこにでも設置でき、山越え谷越えの送電鉄塔は必要無くなるだろう。
こんなに良いことづくめなのにすぐに発表出来ないジレンマに会社は悩んでいた。




