第16話 佐脇爽子
第二章の方向性が固まったので投稿します。
ただ書き溜めが全くできてないのでちょっと不安あります。
ここらへんからは完全に現代異能バトル編にかわるのでSFしなくなります。
新作にするべきか迷いましたがとりあえずこちらに投稿します。
大企業『サワキ』はここ十年で急成長した来栖コンツェルンに抜かされはしたものの社長の佐脇和喜夫は政財界の顔役として依然として厚い信頼を持っていた。彼はもう六十歳をすぎ、決して若いとは言えないが財界の顔役としてはむしろ若いくらいだった。
そんな彼には目に入れても痛くないという娘がいる。四十代後半にようやく生まれた第一子。名は爽子。大事に大事に育て、高校生になるころにはそれはそれは可愛らしい少女に成長した。育ちの良いお嬢様といった風貌。しかし、金持ちに有りがちな傲慢さがなく、見るものをホッとさせるような素朴な魅力を持っていた。やや箱入り娘にはしてしまったが、和喜夫にとってどこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だった。
しかし、この少女爽子は無残にも殺される運命にあった。
学校からの帰り道。爽子は誘拐された。一緒に帰っていた同級生加賀美優香が証言するには急に車が接近して飛び出してきた二人の男に爽子は車に押し込められて連れ去らわれてしまった。時間にして一分もかからない鮮やかでいて乱暴な犯行だった。一瞬呆気にとられていた優香だったが、すぐに警察に通報。警察による周辺道路の緊急配備が行われたが、結局犯人を取り逃がしてしまった。犯行グループは暴力団赤神会の一味。海外マフィアとの抗争や警察の麻薬取り締まり強化により資金源が断たれたことから、組織は瓦解寸前であった。統制のとれなくなった一部の過激派による後先考えない身代金目的の誘拐であった。爽子が狙われたのはたまたま主犯の赤井が株主総会から締め出しをくらったのが『サワキ』で彼が個人的に和喜夫に恨みをかかえていたから。十億を超える法外な身代金であったが和喜夫はなんとかかき集め、警察には娘の安全を第一にしてほしいと嘆願した。しかし、実のところそのころには爽子はもう殺されていた。ヤクザどもはそもそも最初から足のつきやすい人質など助けるつもりもなく、発見された時の彼女は目も当てられない酷い有様だった。
彼女を助けるには誘拐最初の夜、身代金要求のための電話で声を聞かせてやるまでに助けなければならなかった。だから彼女は助けられない。そのことを知っていなければ。
とある港に寂れた貸倉庫があった。建物の奥にあったそこは人目に付きにくく、いわくのあるものを保管しておくには絶好の場所。赤神会の保有している倉庫だ。しかし、警察は赤神会の犯行であることすらつかめていない。彼女はここに捕らわれていた。手足を縛られ、猿轡で声も出せれない。目隠しで隠されていてここはどこでどうなっているかもわからない。そもそも、車で連れ去らわれる最中に薬を嗅がされたので、どれくらいの時間意識を失っていたのかもわからなかった。場には5人のヤクザがいた。抵抗どころかすこしでも変な動きをしただけで蹴り上げられた。
主犯の赤井が佐脇家に身代金要求の電話をしている。
『娘は、爽子は無事か? 声だけでも聞かせてくれ、頼む』
受話器からわずかに聞こえてくる父の声。爽子は涙ぐんだ。
「だとよ。なんか言ってやれ」
赤井が笑みを浮かべると受話器を爽子に近づける。下っ端のヤクザが猿轡をはずした。
「お父さん、助けて! 怖いわ!」
「ほら、元気いっぱいだろ?」
すぐに爽子はまた猿轡を噛まされて転がされた。
「身代金は十八億だ。無理とは言うなよ。お前が今日中にそれだけの金を用意できることはわかっているんだ」
そういうと赤井は受話器を乱暴に置いた。逆探知ができないよう時間だけは気にしていた。彼らは今夜金を受け取るとそのまま海外に高飛びする準備は完了していた。怖いのは警察が今ここに踏み込んで身代金が受け取れなくなることだけ。赤井は泣きながら床に転がる爽子を見て非常な言葉を告げた。
「こいつはもう用済みだ。殺せ」
「赤井さん、折角なんですからこいつでちょっと楽しみましょうよ。日本にいるのもこれが最後。もう日本人なんて抱けないかもしれませんよ」
チンピラの一人がいやらしい笑いを浮かべた。爽子にはもう絶望しかなかった。
「ふん、好きにしろ。楽しみすぎて時間だけには忘れるなよ。一時間おきに外の見張りと交代しろ。俺は奥の部屋にいる」
そういうと赤井は興味がないと言わんばかりに奥の部屋に引っ込んで行ってしまった。
「へへへ、そういう訳だからよ時間いっぱいまで俺たちと遊ぼうぜ」
爽子は精一杯身体を揺すって抵抗したが所詮は手足を縛られたままだ。満足な反撃もできない。
「そうだ、目隠しくらいはとってやるよ」
そういって数時間ぶりに目隠しを外される。暗い室内。高い天井。貸倉庫のような所。今いるのは4人。全員が今まで見たこともないような下卑た表情。自分はここで犯されて殺されるのか。舌を噛み切ろうと思ったが猿轡のせいでそれもできない。一体どうしてこんなことに。
爽子はもう何も見たくなかった。だからその眼を閉じようとしたとき場違いなくらい気の抜けた少年の声が聞こえてきた。
「すいませーん。道に迷ってしまったんですけどここってどこですか~?」
爽子だけでなく、四人のチンピラも一斉に少年を見た。まず驚くのはその恰好。来ている服装は普通のジーンズに半袖ポロシャツ。しかし、その服の下は包帯で包まれていて皮膚が一切見えない。顔中にも巻かれた包帯は異様で表情が全く読めなかった。まるでミイラのようだ。さらに左腕にはギブスが付けられていた。声と背格好からするに中学生か、もしかしたら小学生くらいだろう。
「あっ、お取込み中の所すいませんでした。何しろ明かりがついてたのがこの建物だけだったので。ところで今何をされているのですか」
「……まったくよ。見張りの金井は何してやがるんだ。周囲には誰も近づけるなっていってるのによ。まだ子供じゃねえか。てめーも運がないな。見られたからには生かしちゃおけねえ」
ヤクザの一人が少年を見下ろすように近づいて行った。身長差は二十センチ以上。簡単に組み伏せられそうな体格差。爽子は逃げてと叫びたかったが、猿轡のせいで呻くだけだった。それでも少年を逃がそうと必死に声を出した。しかし、少年はのんびりとしたものである。
「ふーん、生かしちゃおけないとか、なんだか穏やかではないね」
「おめー、状況わかってる?」
「うん、わかってるよ」
「あっそ、じゃあな」
ヤクザは一瞬胸ポケットにしまってある拳銃を頭に思い浮かべたが、こいつ一人殺すのにはもったいないなと手近にあった鉄パイプを拾って思いっきり少年の頭めがけて振り下ろした。しかし、それはふわりと避けられ当たらずに地面を強打した。コンクリートを鉄パイプで殴ったのだからその衝撃は強烈に手を伝わり痺れた。
「いってえ!」
「おい何遊んでるんだ、高井」
「てめぇこの糞ガキ!」
高井と呼ばれたヤクザは激高して少年に殴りかかった。その瞬間高井は宙を舞った。投げ飛ばされたのだ。そして少年の手に握られていたのは拳銃。この刹那のうちに高井のポケットから引き抜いていた。間髪入れずに少年は三発の銃弾を発砲。残る三人の利き腕の手のひらを打ち抜いた。投げ飛ばされた高井は壁に叩きつけられるとぐえっとカエルのつぶれたような声をあげて失神した。まさに瞬きをするような一瞬の出来事だった。爽子は唖然として言葉が出なかった。
「佐脇さん。大丈夫? 怪我はない?」
呆然としていた爽子だったが少年の問いかけに我に返った。どうして自分の名前を知っているのだろうか。少年はすぐに爽子の所には来ずにうずくまって床に何かしていた。それから爽子の所まで来て猿轡をはずした。それにしてもこの声にはどこかで聞き覚えがあるように思った。彼は自分の名前を知っていた。どこかで会ったことがあるはずだ。どこでなのか思い出せそうで思い出せない。もどかしくて何とか思い出そうとしたのだがその思考は途切れた。奥の部屋から赤井がすっ飛んできたのだ。
「なんだ今の銃声は!? これはっ」
赤井の目に入った光景は壁際で失神している高井と、銃に撃たれてうずくまっている三人の部下たち。そして今ちょうど爽子の猿轡を外している包帯だらけの小男。警察ではないな。察するにこいつの仕業か。
「見張りの金井はどうした」
「ああ、あのオジサンなら外でのびてるよ」
包帯男はあっさりと答えた。赤井は男が少年の声だったのに驚いた。
「まだガキか。しかし、只者ではない。一体何者だ。どこの組の差し金だ」
「何者とかそんなのはないんでけど。ただの通りすがりの怪我人だよ」
「ならば大人しく養生してればいいものを。腕に覚えがあるようだが俺に喧嘩を売ったのは命取りだったな」
赤井はニヤリと笑うとその身体が禍々しく筋肉が膨れ上がり始めた。来ていたスーツは破れ、中から硬質化した浅黒い皮膚が見えた。「うそ」とこぼしたのは爽子。彼女はこの世のものとは思えない光景に震えあがった。
意識があった部下たちもそれを見たのが初めてらしく顔を真っ青にしていた。
赤井の身体は恐ろしい怪物めいたものになりかわっていた。
「つい先日俺は素晴らしい力を手に入れたのだ。ウェンディゴ。幻獣の力だ」
ウェンディゴとは、カナダ南部からアメリカ北端のインディアンたちに伝わる精霊の呼び名だ。氷の精霊と呼ばれている。人肉を求めてさまよい歩き、そのため、森で姿を消した人々はウェンディゴの餌食になったものと信じられてきた。体長は五メートルを超え、燃えるように輝く目と黄色く大きな牙を持っているとされる。しかし、その伝承は部族によってバラバラで一致はしない。
そして、精神病としても有名だ。ウェンディゴ症候群。
最初の症状は、気分の落ち込みと食欲の低下。その後、ウィンディゴにとり憑かれたという思いが頭を占めるようになり、「このままではウィンディゴに変化してしまう」という強い恐怖と不安感と共に、次第に周りの人が食べ物に見える様になり、猛烈に人肉が食べたくなる。病が進行すると、通常の食物を一切拒絶するようになり、会話や身だしなみなど生活に不可欠な能力を喪失する。身体的自覚症状は、体が内側から凍えるような感覚と、めまぐるしい気分の変化。主な原因は、冬季の食料の乏しい時期のビタミン不足といわれている。
しかし、この赤井に起こった変化はそれらのウェンディゴ憑きとは全く異なる。肉体の物理的変化。その肉体はまさにウェンディゴのようだった。
「この力さえあればあのふざけたマフィアどもも皆殺しにできたのに先に赤神会がつぶれてしまったことは残念な事よ。しかし、もう警察も何も怖くない。俺は無敵だからな」
赤井は足元に転がっていた鉄パイプを拾い上げ、飴細工のようにグニャリと曲げた。いかなる怪力であろうともそれは人間の力では不可能な事だった。
だから、赤井はこれほど強引な誘拐事件を起こしたのだ。この力さえあれば警察から逃げ切ることができる。
「あ、赤井さん~」
「そこで待っていろ。役立たずの貴様らも後で殺してやる。やはり部下は現地で作れば十分だ」
「ひ、ひい~」
怯えるヤクザ三人を尻目に少年の目は輝いていた。
「すごい! トロイ、見てよ。あれが『幻獣憑き』なんだね。世界にはあんなのがいるんだね」
一瞬爽子は自分に話しかけてきたのかと思ったが、どうにも違うようだ。それにしてもトロイとは誰だろうと少し疑問に思ったが今はそれどころではない。
「早く手足を解いて! 逃げよう! このままじゃ殺される」
爽子は叫ぶが、相変わらず少年はのんびりしていた。
「うーん、今は手が離せないかなあ。それよりちょっと伏せててほしいな」
少年は拳銃の残る銃弾三発を一度に発砲した。三発は確かに赤井に着弾したが傷一つつけることはできなかった。
「そんな! 拳銃で撃たれても平気だなんて!」
思わず爽子は叫んだ。赤井は撃たれた部位をポンポンと払った。
「ふん、小癪な。まずは貴様から食ってやるぞ、糞ガキが!」
赤井は少年をひととびで殺そうと踏み込んだ瞬間だった。
大爆発が起こった。
伏せていた爽子は爆風を堪えることができたが、三人のヤクザは壁まで吹っ飛ばされて激突。ぐえっとカエルのつぶれたような声をあげて失神した。倉庫中がひっくり返ったように散らかった。濛々と立ち込める煙。建物自体もまだ振動で揺れている。そこに平然と立ち尽くすはたった一人。包帯の少年だった。
「ふう、危なかった~。こんなこともあろうかと対戦車地雷を設置しておいて助かったよ~」
「……」
……さっき床に何かしてたのはそれか。
「っていうかこんなこともあろうかってどういうことを想定していたの? 対戦車地雷なんてどこで入手したの? さっきからもう訳が分かんない!」
憤る爽子を少年は宥めながら衝撃の事実をいう。
「まあまあ、まだ終わってないよ」
「えっ!?」
「……きっ、……貴様ぁ」
煙の中から現れた赤井は生きていた。しかし、流石に傷だらけのボロボロの状態。立ってるだけでもやっとに見えた。しかし、その眼は怒りと憎悪に爛々と輝いていた。
「あの爆発で生きてるなんて頑丈だなあ。まあ死なれても困るけど」
「……ユルサナイ、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!」
「あれ~、これって後で話とか聞けるのかな。なんだかウェンディゴ? にますます乗っ取られてるような感じなんだけど。ところで『ラクルダ』って知ってる?」
「!」
「あっ、反応ありだ。やっぱり何か知ってるんだね。それを教えてくれないかな」
「……貴様ガソレヲ知ルコトハナイ。貴様ハ今カラ地獄へ行クカラナ」
「僕はもう地獄より酷い目にあってるからお腹いっぱいだよ。君が生き地獄にこれから遭うんじゃないかな」
「ホザケ!」
赤井は猛然と少年に向かって突進してきた。猛烈な勢いだった。そして目の前に来た赤井は右腕を振り上げる。放たれるは渾身の一撃。爽子は一瞬その姿が何倍も大きく見えた。実際赤井の体長は3メートルを超えていた。変わって少年の身長は150㎝前後くらいしかない。二倍の体格差。そして体重も含めればその差はさらに数倍。掠っただけでも致命傷を受けそうな圧倒的迫力を前にしても少年は泰然としていた。
「やっぱりミラより弱い」
少年は左方向に飛びながらギブスをした左手をかち上げるように赤井の右腕に合わせる。その瞬間にギブスは粉々に砕けるが赤井のパンチの方向がすこしずれる。その瞬間に右に飛びながら赤井の右腕を引き込み、同時に右足を払う。赤井はバランスを崩すが、強烈なパンチの勢いは全く失われない。少年は全身を使って赤井を半回転振り回すとそのまま赤井を真上に投げ飛ばした。
倉庫の天井をぶち抜き赤井はどんどんと上空にと登ってゆく。20、30、40、50メートル、まだ勢いは衰えない。打ち上げられた赤井は自分の力を利用されたとはいえそれほど高く飛んだことなどもちろんなく、遠ざかる地面に恐怖を覚えた。一体どこまで飛ぶのか。80メートル、90メートル、百メートルで空中にピタリと止まった。そしてここから落下が始まる。ウェンディゴの力で巨大化した自分が落ちればどれほどの衝撃があるのか想像がつかない。赤井は力の全てを耐久力の強化に充てた。これでギリギリ耐えれるはずだ。そう思っていた赤井が自分が落ちる地面をみるとそこには目を疑うような恐ろしい光景が。まさか、ありえない。あいつは悪魔か。
「あの糞ガキィイイイイイィイイ!!」
少年はどこから持ってきたのか先程の対戦車地雷を山のように地面に並べていた。
「よし、これだけあれば十分かな」
少年は爽子の手足を解くと二人は全力で走って逃げた。
「うおあああああああああっ」
赤井はそのまま真っ逆さまに地面に叩きつけられ、その瞬間に起爆した地雷によって倉庫は木端微塵になる大爆発を起こしたのだった。
走って爆風から逃れた二人は共に息を切らしていた。驚いたことにあれほどの怪物を全く寄せ付けず倒したこの少年の方がへばっているくらいだった。こんな短い距離を走っただけなのに。あまりに体力がない。そして激しく走ったせいで少年の顔の包帯がほどけていた。そこから覗く火傷の跡が痛々しい素顔を見て、爽子はあっと声をあげた。
静森ヤヤ。思い出した。
爽子の同級生で女の子みたいに小さくて運動はからっきしダメでいつも何かに怯えてビクビクしていたあの男の子。今は引きこもって学校に来ていない子。しかも、引きこもりの最中に竜巻に巻き込まれて大怪我をしたって噂の超絶不運な子だ。この包帯はその時の傷だったのかと爽子は納得した。それにしても強すぎる。あの学校で不良に苛められてた姿からは想像もつかない。一体彼が引きこもっている間に何があったのか。爽子はヤヤの横顔を、爆炎に赤く照らされてるその横顔を眺めている事しかできなかった。
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警察はすぐに駆け付けた。あれほどの大爆発が起こったのだから当然だろう。
そこにいた爽子は保護された。
爆風に飛ばされた下っ端のヤクザが綺麗に5人折り重なって倒れている。
静森ヤヤはここにはいない。警察が来る前に気絶している赤井を背負ってどこかに行ってしまった。
爽子はヤヤに助けられた。それなら彼が何かしようとしているのを邪魔してはいけないと思った。
爽子はとりあえず主犯の赤井の事は目隠しのせいでよくわからなかったと誤魔化し、赤神会が密輸入していた地雷が爆発して倉庫ごと吹っ飛んだのではないかという嘘を言った。
警察は全然納得していなかったが、とりあえず被害者が無事だったことと犯人は取り押さえていることからそれで矛を収めた。後でこの五人の取り調べをすればわかることだ。この場で赤井捕縛のための緊急配備がなされなければ何とかなるだろうと思っていた爽子はホッとした。
それでも助けてもらった恩は返しきれない。このことをお父さんに話そう。お父さんなら政財界に顔が通じている。きっといつか何かの役に立つはずだから。
爽子は港から夜の海を眺めながらパトカーに乗り込んだのだった。
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「いやー兄貴はホントすげえっすよ」
「……あの、同級生なんだから兄貴ってのはやめてよ」
夜の道を歩くヤヤとその横には六道録助。今は録助が赤井を背負っている。
「そんな!? 兄貴は兄貴っすよ。マジパネエッすよ」
「……もういいや。それより君が倉庫のこととか下調べしてくれたおかげでスムーズにいったよ。ありがと」
「もったいないお言葉! こんなこと朝飯前っす」
「あとその人を背負ってくれてありがと。僕の体力じゃ重いからね」
「兄貴は体力が無さすぎなのが玉に瑕っすね。まあ兄貴の顔を見るとホントに玉がついてるのか疑問に感じてしまうッすよ」
「……」
「怒らないで、兄貴!? ちょっとした冗談っすよ! でもホントこいつ何なんでしょうね。赤井植照。俺が調べた限りではこんな力なんて持ってなかったっすよ」
「最近手に入れたっていってたよ。そこらへんは上手く聞きださないとね」
「尋問・拷問なら六道家にお任せっすよ」
録助は自信満々だがヤヤは渋い顔。
「あんまり血なまぐさいことはちょっとね」
「拷問の必要はないな」
二人の話に割って入ったのは一つ目コウモリの悪魔トロイ。
「でた~!他人の記憶に勝手にダイブする残忍悪魔ウイルス人工知能!」
録助はトロイから距離を取る。
「お前の残念な頭の中身には興味はないから安心しろ。それよりヤヤ。こいつの頭にダイブして大分わかったぞ。『ラクルダ』のこと、『オーディン』のこと、そして『氷使い』の関係」
「うん、佐脇さんを助けることは僕が生き延びるためには必要な事だとわかっていたけど因果関係が僕もわからなかった。政財界の関係ならミラでも何とかできるからね。でも今わかった。佐脇を助けに行かなきゃこいつと出会えなかった。この世界の裏の世界『幻獣界』。『氷使い』が育ち『虚無』が生まれた異世界の事。あまりに今まで情報が少なすぎたからね。貴重な情報源だよ」
2年A組の人間は何故か次々に失踪したり、殺されたりする。それぞれ全く別個の理由だったがヤヤはそうなってしまうことを知っている。助けることができる。そしてその結果ヤヤは自分の死から遠ざかっていく実感があった。超能力『死に戻り』を失い、ただの一般人に戻ったヤヤの唯一の武器、何度も死んだことから生まれた自らの死への危機察知能力と回避能力。虚無がもたらす絶対的な死に対して、その力が囁きかける。死にゆく10人のクラスメートを助けろと。それが何をもたらすかはわからない。佐脇爽子は助けた。六道録助も助けた。あと8人だ。
「あれ!? 俺の涙あり、笑いあり、燃えありの感動エピソードって省略されちゃうんすか」
六道が何か喚いている。
「ああ、ミラから電話だ。もしもし、あ、今解決したところだよ。うん大丈夫~」
「えー!? ホントに省略しちゃうの? 俺が兄貴の舎弟になった重要エピソードっすよー!」
「ククク、もうあきらめろ」
「諦めたらそこで試合終了っすよ!」
六道の叫びが夜空に響いたのだった。




