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死にまくり救世主伝説 ヤヤ  作者: エタりびと
第一章 クリティカル・ループ
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第15話 新たなる戦いの予兆

「あの竜巻に巻き込まれて助かるなんてホントに運がよかったねぇ」

 ここはとある私立病院の個室。入院しているヤヤを母親は看病しながらそう言った。

 ホントだぞ、心配したぞ、とヤヤの父親。


 竜巻警報を名目に町中の人間を避難させたわけだが、実際に巨大竜巻が起こったため、ヤヤは逃げ遅れて竜巻に巻き込まれて大怪我をしたことにした。

 ヤヤは現在保険適用外の最先端医療の数々を受けて治療中である。

 全治五か月の大怪我ではあるが、この分だともっと早い段階で日常生活に復帰できるだろう。虚無との戦いまでには何とか全快した状態で迎えれそうだ。

 そしてこの治療代を出しているのはもちろん来栖ミラである。

 どうして来栖家が自然災害で怪我をした息子の治療代を払ってくれるのか両親は非常に不可解な面持ちをしているのだが、口下手なヤヤはあまりいい理由が思い浮かばず今日まで来てしまった。

 ここら辺の説明は今日くる約束をしているミラに任せることにした。聡明な彼女はきっと角の立たないように上手くまとめてくれるに違いない。そう思ってヤヤはのんびりと寝ていた。

 しかし、全然上手くまとめてはくれなかった。

 

 昼過ぎに現れたミラ。彼女も同じ入院服なので同じ病院のようだ。体中にギブスをはめているのが痛々しいがその点ではヤヤも一緒だ。しかし、そんな姿でも高貴なるオーラは健在なのか両親はビビりまくっている。というか、ミラの後に続々と入ってきた黒服の男たちが物々しさを増幅させている。黒服たちが両手にアタッシュケースを抱えているのもヤヤは気になるところだ。

 そして、ミラは病室に入るなり頭を床に擦り付けた。土下座である。これはもうどこからどうみても清々しいほどの土下座っぷりで、関東土下座組組長にでも襲名せんばかりの勢いである。

 オロオロする両親をお構いなしに誠心誠意の謝罪を開始する。来栖ミラ、その攻撃力も超ド級なら、謝罪力も超ド級である。


「私の家族を殺した殺人鬼と誤認してあなたを殺そうとしてすみませんでしたっ!大怪我させてすみませんでしたっ!もう数えきれないほどあたなを苦しめてすみませんでしたっ!どうか許してください!いえ、許さなくてもいいです!今ここで私を殺してくれても構いません!」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!」


 直球の謝罪である。超ド直球である。しかも危険球退場ものである。

 何も知らないヤヤの両親は目が白黒している。

 猪突猛進、直情径行型のミラをヤヤは甘く見ていた。ある程度場の空気を読めると思っていた。実際ビジネスシーンで活躍している彼女は普段はヤヤよりずっと空気が読める。政治的駆け引きも百戦錬磨だ。しかし、今の彼女はテンパっている。地の彼女はくるすみら@空気読めない、である。


「あなたへの償いの賠償金です!私の個人資産は全て持って行って構いません!あまりに多すぎて現金化できたのは僅かですが取り急ぎ持って参りました!どうかお納めください!」


 ミラがそういうと黒服たちが持っていたアタッシュケースを次々に開けていく。中には隙間なくびっしりと札束が。おいおいおいおいおい、どんだけ持ってきてるんだよ、とヤヤは唖然としている。よく見ると黒服たちも見たことのないような金額に汗びっしょりだ。


「これで一兆円ほどあります!」

 ヤヤの両親はひっくり返った。バターン!という擬音が良く似合う倒れ方だ。そしてそのまま失神してしまった。

 ヤヤは黒服たちにお金を持って帰らせ、両親は別室に寝かせてもらうように手配した。そして起きたら今あったこは全部夢だということにした。その間もミラは平謝りしていた。人払いをして部屋にはヤヤとミラとトロイだけになった。


「あの……お金とかそんなにいらないんで気にしないでもいいんですけど」

「でもそれだと賠償になりません」

 ミラはヤヤに対して男っぽい喋り方からまた敬語で話すようになっていた。初めは『静森ヤヤ様』と様づけで呼ぶのでそれだけは何とかやめさせたが敬語だけはやめなかった。それにしても途方のない金額だ。ミラの個人資産は一説によると10兆円を超える規模だ。そんなお金をもらっても逆に困る。


「ククク、もらっておけ。これからは何かと必要になるはずだ」

 そういうのはトロイ。

「まぁ、そうだけど。あー、えっと僕がお金を手に入れると税金とか色々あるじゃないですか。だからミラが預かっててくれると助かるんだけど」

 ヤヤの提案にミラは少し残念そうな顔をしたが渋々了承した。

「そうですか。そこまでいうなら私が預かっているという形で保留しておきます。でもこれはあなたのお金なのでいつでもいってくださいね」

 来栖ミラ総合銀行(ヤヤ専用)の誕生である。

「お金よりもミラにはやってもらいたいことがあるんだけど」

「はい、何でも言ってください」

「国連による巨大隕石の粉砕作戦。あれを止めないといけないです。ミラには国連を説得してもらいたいんです」

 ミラは顔を曇らせた。

「……少し難しいかもしれません。一体どうすれば説得できるでしょうか」

「虚無が現れることを証明できれば説得の材料になると思います」

「虚無の存在証明……ですか」

「あれほどのエネルギーが突然現れるはずがないと思います。何か前兆現象が起こっているはずです。それを何とか見つけ出してほしいんです」

「成程。ならば優秀な科学者を集めなければなりませんね」

「ほら、ミラの宇宙ロケットには重力操作装置があったでしょう。ミラはあの人と知り合いなんじゃないですか。重力操作理論でノーベル賞とった……」

「ああ、有栖川一美博士ですね。そうですね。彼女がいました。彼女ほどの天才ならもしかしたら何か観測できるかもしれませんね。連絡を取ってみます」

「お願いします」

「任せてください」

 ミラは大きく頷いた。一度動き出した彼女なら大抵の事は何とかできてしまいそうだ。敵なら恐ろしいが味方ならこれほど心強い存在はいない。ヤヤは安心して治療に専念できるというものだ。


「ククク、ところでさっきの話だが、籍を入れれば贈与税はかからないぞ」

「籍?おめーの席ねえから?」

「入籍だ。結婚だよ、結婚」

「いやぁ、さすがにそれは」

「私は全然構いません」

 ヤヤとトロイは流石にギョッとして水落を向いた。ミラは淡々と述べた。

「私は残りの人生の全てを静森ヤヤさんへの謝罪のために捧げることに決めました。ですから結婚しろと言われれば今からでも致します」

「……そ、そこまでしなくても」

「そこまでしても償いきれません」

 ミラの表情は穏やかだがその静かな一言には考え抜いたのであろう決意が伺い知れた。

「凄い覚悟だな」

「……正直ちょっと重いよ」

 ヤヤの今の意見には流石のミラも堪えたのかちょっとうな垂れた。

「確かに今の私はヤヤさんより体重は重いですね」

「いや、そっちじゃなくて……」

「でも、あまりガリガリに痩せると抱き心地は悪くなりますよ」

「えっなんだって」

「ですから、先程も申し上げたように私は自分の全てをあたなに捧げると決めたんです。当然それは私の身体もです。ですから24時間365日いつでもどこでも好きな時に私を襲っていいのですよ。もちろん私なんか絶対抱きたくないというのならそれでも構いませんし、性奴隷のように凌辱の限りを尽くしてもらってもいいです」

「性奴隷だと……、な、内密にな」

「えっ?内密ですか。まぁ、確かに世間体が悪いのでそういうことをするなら隠しておいた方がいいですね」

「…………」

「トロイ、そんな冷たい目で見ないで、癖になる」

 それに……、とヤヤは思う。その眼はいつになく真剣だった。

 ……僕は攻めるより攻められる方が好きなんで凌辱とか奴隷ハーレムとかどうでもいいです。

「本当にどうでもいいな」

 トロイは溜息をついて空を眺めた。空は爽やかに晴れていた。その空の彼方に地球を滅ぼすかも救うかもしれない巨大な隕石が近づいているとは思えないなとトロイは眩しげに見上げるのだった。

 


 

********





 アメリカ、コロラド州。

 ロッキー山脈が貫くこの州は平均標高が全米で一番高い山岳地帯の州である。

 そしてまた砂漠が点在していることでも知られる。南部に広がるコロラド砂漠はカリフォルニアから遠くメキシコまで続く。

 このコロラド砂漠の地下に巨大な施設があることを知っている人間は極めて少ない。

 ここはアメリカがエリア51と同等レベルで秘匿しているある秘密があった。

 この地下施設の最深部には広大な空間が開いている。ここにあるのは砂の塊。しかしあまりにも大きい。砂が圧縮されるように固まり、全長一キロメートルほどの巨大な球体となっている。その圧縮度合いは凄まじく、まるで石のような質感を持っていた。

 この砂の塊は『ラクルダの封印』と呼称されている。いつからここにあるのか、誰がこう呼ぶようになったのかもわからない。この砂の中心部にはある超能力者が封印されていて、いつしかこの封印が解けるときこの世には大災害が起こると予言されていた。氷を操るとされるその者は『氷使い』と呼ばれていた。

 ラクルダの封印を見上げる一人の女性がいた。

 理知的で怜悧な眼差しを持ちながら妖艶な雰囲気をまとう金髪の女性。

 彼女の名はジークリンデ・ユリシーズ。アメリカ最強、いや人類最強と呼ばれる超能力者である。彼女は強力な超能力を有していたが、最も恐ろしいのはその知性。その知略を駆使して彼女はこの一年でアメリカ政府を影からコントロールする権力を手に入れていた。もうアメリカには彼女を殺す手段がない。世界を支配する超大国が一人の女性の手中に収められているのだ。

 しかし、そんなジークリンデの表情は険しかった。この砂の中に眠る者『氷使い』の持つ力は封印されてもなお自分よりはるかに上であることがわかったからだ。単純な戦闘能力で国内に勝てる相手はいないと思っていた彼女でさえも『氷使い』の力には足元にも及ばない。こうして封印越しに相対していてもよくわかる。その規格外の強さ。果たしてこの者が復活した際に自分が率いるアメリカが勝利できるだろうか。いや、負けるのは自分たちアメリカだろう。ジークリンデは深い溜息をついた。

 せめてあの少女、東雲世志乃が共に戦ってくれたら、もしかしたら五分の戦いができるかもしれない。彼女が本気で戦う意志さえあったならば、自分などが世界最強などと呼ばれることは有り得なかったのだから。ジークリンデは唯一自分の弟子と呼んでもいい少女を思い出した。共に研鑽し合った日々を。そして自分を大きく超える強力な力を発現したあの日の事を。

 しかし、ジークリンデは首を緩やかに振った。もうあの少女は戦わないと決めたのだ。そして自分も彼女を再び戦いには駆りだしたくなかった。甘いな、と自嘲をせざるをえない。そんなことだから今の苦境を招いているのだ。それでも、あの子だけは……。

 そういえばともう一人世志乃を思い出すと一緒に思い出す人物、いやコンピュータウイルスがいる。あの小賢しい悪魔の出来損ない。そう、トロイと呼んでいたな。世に放たれたあいつは今頃どうしているのか。何やら悪だくみをしているかと思っていたが一向にその動向がつかめない。まぁ、いい。奴の正体の見当はついている。何か始めるならそっちの方を叩いてやる。ジークリンデはそう不敵な笑みを浮かべた。

 だから気付なかった。

 ラクルダの封印。その砂にわずかな小さなヒビが入ったことを。

 そして彼女は知らない。

 『氷使い』が目覚めるのはもうすぐそこであること。

 そして、この『氷使い』こそがトロイの『弟』であることを。

 

 

この話で第一章は終わりになります。

このあとそのまま続編をやるのか番外編をやるのか、それとも新シリーズとして別の形をとるのかまだ決めきっておりません。もしかしたら別の小説を書き始めるかもしれません。

ですので一旦完結という形をとっておこうと思います。

それにしても水落編だけですが起承転結を入れたきちんとした物語を描き切ったのは初めてで想像以上に大変でしたが物凄い達成感があります。

こういう機会を頂けた「なろう」にも読んでくれた読者様にも感謝です。

本当にありがとうございました。

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