[#5~7-Porters Wedge Island]:1.111+0.1-9/4119
ポーターズウェッジ島。
[#5~7-罰を創り罪を滅ぼす方舟]
「サリューラス、大丈夫?」
「………はぁ…なんだ…ここは…」
「もう大丈夫だよ?」
「ここは…?」
「もうちょっと待ってね。もうすぐ着くから」
サリューラスはコンプレックスドームに現れた“来訪者”の力によって、窮地から脱出。どのくらい時間が経過したのか判らない。建物の…中?外では無い事は明らかだった。それに…何か…自分と同じ感じがする…そうだ、この2人は…セカンドだった。ということは…ここは…、、、
「あのさ、これ…いつ解放してくれるの?」
「………」
「あのさ?」
サリューラスの問いを無視する女。少し先頭を歩く来訪者の男。
コンプレックスドームから脱出させた。自分を求めている…と解釈してもいいだろう。なのに…なのにも関わらず、拘束は継続されている。サリューラスの周辺に刺さっていた4本の杭をサリューラスの身体ごと掘削。半径4mの逆円錐型大地と共に、連行していたのだ。
「サリューラス、ここは空挺の中よ。さっき、私達の頭上に現れたやつよ。私たちはあなたを助けに来たの」
「じゃあ、これをさっさと外してくれ」
「……それは出来ない」
「何故だ?」
「…この先に行けば判る」
身動きが取れない…。さっきまでは全然、ただ力が抜けるような感覚だったのに、拘束が継続されているとなんだか、意識が朦朧としてくる。でも、まだ耐えられるぐらいだ。これが長時間続くとなると…やばいかもしれない。クソ…誰なんだよ…ここはなんなんだよ…。早くここから脱出しなきゃ…。何されるかわかったもんじゃない。
空挺…と言っていた所の廊下と思われる通路を拘引される。2人のSSC遺伝子能力によって、俺は中を浮いているようだ。掘削状態のまま。
長い廊下を抜けた先には、コンプレックスドームよりかは劣るが、広い場所に出た。そこには何人もの、“自分と同じ存在”がいた。
「セカンドステージチルドレン…どうしてこんなに」
思わず声に出てしまった素直な感想。これが聞こえていたのかは、判らない。彼等が反応しなかっただけ…とみた。
◈
「レッドチェーン装着のはずだろ?どうしてあそこまで動けているんだ?」
「皇帝の言う通り、あいつが…?」
「本当に…あいつが…本当なのか?」
「濃度脈の波形が違う」
「ああ…平行線じゃない。歪な振動を繰り返し、往来も可能にしている…」
「厄介なンが来たな…」
サリューラスを指し示す、言葉が四方八方から掛けられる。その言葉の中に、サリューラスを思い入る言葉は無い。疑念、不思議、未知。錯綜する感情は大枠のパッケージが同じ。この空間にいるSSC全員がほぼ同じ事を思っている。
─────
「本当にアルシオンなのか…」
─────
中にはサリューラスを“異物”として捉えている者もいる。尖った視線を送り睨みを利かすSSCだ。サリューラスはその者の視線を確認し、しばらくしてから目線を逸らした。怖くなった訳じゃない。
「何故そんな目で見る…」
サリューラス側にとっても、この状況は理解の範疇を超えた事象だからだ。
「サリューラス、ここは作戦統括指令所の大広間。上に作戦指揮所があって、上下運動のオペレートタワーによって、作戦指揮所が上から出てくるの。作戦が展開されていない時は、こうやって大広間の形態にしている。皆で集まって娯楽をしたりとか、自身のスキルを磨いたりとか、多種多様なアクティビティに対応した施設に変わるの。それとね、今、サリューラスを包囲している大勢の…」
◈──────────
「お前達は誰なんだよ」
───────────◈
一つの言葉が作戦統括センター大広間に轟く。決して大音量という訳ではなく、脳内に直接語り投げるようなもの。非常に強く、脳を揺らがせた。この行動を感覚的に捉えた瞬間、SSCが一斉に攻撃意志を示した。銃を構える者と己の遺伝子能力のみで攻撃意思を示す者。睨む者、怯む者、怖気付く者、マイナス方向の表情を形成する者が九割を占める。対する一割は攻撃意思を示すSSCの過剰な臨戦態勢を静止しようとする者。
「おい、いいから銃を下ろせ!下ろすんだ!」
「何故だ!こいつは…」
「いいから、攻撃表示を解け!」
「なんだお前!あいつの味方なのか!今の聞こえたろ!」
「そうよ、やっぱりアイツは危険だわ」
──
「やめるんだ」
──
混沌とした喧騒の中、一人が発した言葉が大広間に響く。その瞬間、攻撃意志のあったSSCからは攻撃性が解かれた。全員がその発言者の方へ顔を向ける。
そして、サリューラスに近づく。
「お前達、この子に手を出すんじゃない。手を出した者は容赦しない。いいな?」
「あ…はい…分かりました…」
先程まで威勢の良かったSSC軍団が、この男の前では恐れを成すように従順。サリューラスの眼前にまで接近した男。男は眉間に皺を寄せ、4秒の体感時間が経過した後に、驚愕の表情をみせる。
「サリューラス…なのか…?本当に」
驚いた。
自分の名前を知っている。僕の名前を知っている。
僕はこの男を知らない。
男から、予想だにしなかった言葉が掛けられた事で、自身の中で歪な空間が形成されたような感覚に包まれる。元からこの空間が形成されていたかのように、阻害する物が存在しない。
“サリューラスの身に存在していて、当たり前のもの”。
そういう解釈が自然だろう。
「サリューラス…私も、あなたが判るの」
更に接近する新たな女の姿。サリューラスの名前を言った男の横に並ぶ。
「……誰なの?」
男は老体。女は若い。年の差がハッキリとしている。2人の関係性が判らない。判明しているのは、この2人もSSCだということ。この揺るがない事実のみが現在のサリューラスに与えられた判断材料。
「サリューラス・アルシオン」
「…え」
その時、2人から別次元のオーラ波長を感じた。この“別次元”と言い切ったのは、周辺にいるSSCが出すSSC遺伝子とは異なっている…という事。
このオーラ波長…。僕と同じだ…。身震いした。他のSSCから感じられるオーラとは訳が違う。
「サリューラス・アルシオン、私たちは味方だ」
声色で、先程の違和感がより強さを増す。
僕は…、、、知っている…、、
まともに会話する事が不可能になるまで、サリューラスは昏睡寸前の状態に陥る。
「この子に、見せるんだ」
「うん、わかった」
女が手を、サリューラスの頬に触れる。
「サリューラス・アルシオンに記憶の編集を」
女の手が、サリューラスから離れる。
その後、サリューラスが目を覚ます。
「そんな…、、、僕が…、、、父さんと母さんを…殺した……?」
「ねぇ?」
「誰だ!!??」
杭に拘束されている事を忘れたのか、コンプレックスドームの時のような暴走気味な行為を起こす。女が暴走の静止に入る。
「サリューラス、私は、“ヴィアーセント・アルシオン”」
「ヴィアーセント…アルシオン…?」
サリューラスの暴走が停止した。
「聞き覚えは無い?」
「…、、、アルシオン…?」
「そうよ、アルシオン。あなたとは血縁の関係にある。家族よ」
「僕は……父さんと母さんを…」
「おい、拘束を解け」
「了解」
男がSSCに指示を出す。
「父さんと母さんを…、、、僕は…ころ…殺して…」
サリューラスの拘束が解かれ、自由の身となった。サリューラスは膝から崩れ落ちる。
「サリューラス、大丈夫…。大丈夫だから。もう、その事は忘れて…。私たちがいる。私達は家族よ」
「ヴィアーセントさん…その人は…」
「あ、ごめんね。お父さん」
「サリューラス。私は、ニーディール・アルシオン。君の父、ペンラリスは…私の嫡出だ」
「…父さんのお父さん…、、」
「おい、お前達、もういいだろう。この子は、アルシオン。私達の家族だ」
周辺にいたSSCは驚きを隠せずにいた。
「まさか…本当だったなんて…」
「どうやら、真実みたいだな」
「ヴィアーセントさん…僕は、、殺したんです…父さんと母さんを…」
「大丈夫…大丈夫…。大丈夫だよ。あなたの苦しみと痛み、十分伝わったから、何度でも泣いて…。もう自分の中で処理するのはやめて。私に預けてね」
優しくサリューラスを抱擁するヴィアーセント。背中を摩り、身を寄せながら語り掛ける。そんな存在を求めていた事を、サリューラスは今知った。
「紹介するのが、遅くなった。サリューラスを助けに行ったのは…私の部下だ。男の方がコースタースで女の方がディーニャ。気づいていると思うが、ここにいるみんな全員がSSCだ」
ヴィアーセントの抱擁中、ニーディールの言葉に、無言で応えるサリューラス。彼等の対応から見るにニーディールへ敬意を表しているのが判る。
「サリューラス、遅れた紹介でごめんね。じゃあ、もっと深く教えてあげる。反人類対抗組織“フェーダ”を」
◈
「ヴィアーセント、サリューラスに全てを話してあげるんだ」
「うん、わかったよお父さん」
「じゃあいこ、サリューラス…大丈夫?身体は」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうヴィアーセントさん」
「うーん、お姉ちゃんって言ってくれない?家族なんだから、ね?」
「う、うん…わかった…お姉ちゃん」
「よし!」
「サリューラス、あなたには先ず、私達がどういう組織なのかを説明するね。改めて、私たちはフェーダ。SSCのみで構成され、様々な境遇を経て集ったの。世界の情勢を裏で見据える監視者。テクフルのありとあらゆるキーパーソンとなる物資の強奪、人間がより良い世界を創造する度に、そのプロジェクトを壊滅させるために動く。阻止をする。あなたを助けた“サリューラス・アルシオン奪還作戦”もその一つよ」
「僕が、人間のためになる…?」
「ええ、そうよ。人間達は、SSCを制圧する兵器を持っている。レッドチェーン。それがあればSSCの動きを封じる事が出来るの。サリューラスが動けなかったのはそれが作用していたから」
「僕…動けたんですけど…」
「そうね、あなたは特別なの。その辺も詳しく話さなきゃね」
「はい…」
「サリューラス強奪の他に、進行していた計画がある。一つはテクフルに点在中の前線基地“イドフロントフェーダ”の戦士回収。エゼルディとのネットワーク拡大には各地への前線基地が必要だったの。だけど人間は、SSCを制圧する力を手に入れた…。人間の餌食になったのよ…イドフロントフェーダが真っ先にね。何も知らなかったイドフロントフェーダの戦士は殺されたか、ニゼロアルカナに送られた。随分と前の出来事だから、死んでると思う。SSC遺伝子を採取され、新たなSSC対策兵器を製造しているんだろうね。私は許せない。仲間を殺された。実験台として扱われた…。私は…人間を許さないよ。地獄にたたき落とす」
「お姉ちゃん…」
殺意の芽生え。今に始まった事じゃないのは、作り慣れた表情から悟れた。
「サリューラス、あなたが殺されなくて…死ななくて良かった」
「、うん、、ありがとう、、、」
「もう一つ、進行している作戦がある。アンチSゲノムブッシュのマザーコピー破壊よ」
「マザーコピー…」
「アンチSゲノムブッシュというのは、SSC遺伝子から抜き取った細胞粒子状物質のこと。それを剣戟軍の兵器にて使用し、“SSC対策兵器”として進化させているの。マザーコピーは、アンチSゲノムブッシュを精製している母体の名称。そしてこの母体は、SSCの“純血”をサルベージ元としている」
「純血…」
「ええ、その純血は…アルシオンの血なの」
「そんな…」
「SSCの胎芽。全ての始まりである高濃度なSSC遺伝子。母体から精製されるエネルギーは想像を絶する。私達SSCは、母なる胎芽に苦しめられてたってわけ。人間に悪用されているのよ…虚しい事にね」
「超越者には、超越兵器を…」
「サリューラス強奪作戦で、サリューラス以外にも14人のSSCをニゼロアルカナから回収する事に成功した。回収班によると30人以上はいたらしいんだけど…SSC遺伝子が…、、ごめんね…死んじゃってた…。許せないよね…。回収出来た子達にはさっき会ってきたわ。みんな良い子ね。今回は成功だよ、うん…成功」
「お姉ちゃん…」
「うん?」
「お姉ちゃんのお母さんは?」
「…え」
「ニーディールがお父さんなんでしょ?お母さんの姿が無い。どこかにいるんだよね?」
「お母さんは…いない…」
「殺されたの…?」
「いや…、、、殺したの。私たちが」
「母を…?殺したの?」
「そうね…サリューラスには伝えておいた方がいいよね。私のお母さん、エレリア・アルシオン。1番上の嫡出、デュルーパー。3番目の嫡出、マディセントは死んだ。フェーダによって殺されたの」
「フェーダが…自分たちの家族を殺したっていうの?」
「いいわ、話すね。“超越の帝劇”について」
◈
「元々フェーダに、アルシオンはいなかったの。だけど…」
律歴4092年10月30日──。
「この日、フェーダがアルシオンに近づいた。フェーダはSSCの純血一族を求めて、探し回っていた。そしてやっとの思いで見つけたのが私達アルシオン。仲間に加えられたわ。それがこの日。SSCだということは隠し切っていた。純血とは言っても、もうその血は根幹にあるのみ。殆どは人間の血が入り混じった混血の家族。テクフルに齎す、フェーダの凶行も周知していた。でも、母がフェーダに関心を示したの。母エレリアは…壊れていたから…。その関心を他所に、一つの文言がフェーダメンバーから投げられた」
『ハピネメルを養っています』…と。
「母は迷わず、フェーダに行くことを決意した。六番目の嫡出、ハピネメルとは訳あって離れ離れになっていたから。母は物凄く嬉しがってた。『我が子に会える…』って。そりゃそうだよね。エレリアの意思じゃないんだもん」
「その、ハピネメルって…」
「ごめん、ハピネメルが離れた時の出来事は、私、あんまり明確に覚えて無いんだ…ごめんね…思い出したら話すよ…」
「うん…わかったよ」
「エレリアは飛び抜けたような明るさを取り戻した。そんな姿に家族全員が嬉しくなる。そうなると、もうエレリアの意見しか通らなくなるんだよね。お父さんもフェーダに行くことを賛成した。こうして、私達はフェーダの仲間になったの。ただ…ここからが地獄の始まりだった。エレリアは次第に壊れていった。フェーダの所有する“SSCワクチンアンプル”に興味を示すようになった」
『これがあれば…私はもっと強くなれる』
「呪われたように、強さに拘り始めた。お父さんは猛反対した。SSC遺伝子からずっと避けてきて、書き換えも行ってきたのに、今になって“憧憬の眼差し”だなんて…と。でも、エレリアにはもう、お父さんのことなんて眼中に無かった…。最悪なことにエレリアの憧れが、子供達に伝染したの。第一子・デュルーパー、第三子・マディセント、第六子・ハピネメルがエレリアの意見に賛成。SSCワクチンを投与したの。ここで家族が二分され、対立構造が発生。私と第四子のスターセントはお父さん側についた。ワクチン否定派よ。ニーディールを支持する《玉唇派》。エレリアを支持する《桜唇派》。更にはフェーダメンバーまでもが、エレリアとニーディール、それぞれの傘下に加入。何回もの衝突した議会が開かれ、最終的に争いが起きた。SSCワクチンを投与されたエレリアとアルシオンの子供達の力は凄まじく、私達もSSCワクチンを投与せざるを得ない状況となってしまった。こうなると最早、否定派もクソも無いよね…。やるせない気持ちで、お父さんと私とスターセントは、能力覚醒を発動。争いが激化し、最終的にはエレリア派閥が敗北。フェーダメンバー複数人と共に、デュルーパー、マディセント、ハピネメル…そして、エレリアが死亡。こうするしかなかったの…。もう、あの人達は狂ってた…。SSC能力に心酔してたの。それを止めるには…殺すことしか…。だから、私達は殺した。その日、お父さんは最愛の妻を失い、食事もろくに摂らない廃人状態と化した。今では元気になったけどね。復帰するには少し時間を要したよ。『すまなかったな…私だけ…お前達も辛いのに…』。お父さんが一番辛いことなんて判ってたから、全然気になんかしてない。残されたのは、根幹に眠っていた、再生のSSC遺伝子。フェーダの内乱、超越の帝劇はこうして幕を閉じた」
律歴4102年7月18日、終焉。
「そんなことが…家族で殺し合うなんて…」
「野蛮なことやってたよね…。でも仕方の無いこと。後悔もしてない。スターセントとは固い姉妹の絆で結ばれた。サリューラスも、スターセントに会ったら判ると思うよ。凄く良い女だから」
◈
「サリューラスにはフェーダメンバーが兼ね備えているウェポンについても話しておくね。サリューラスがいた、ニゼロアルカナの各施設…コンプレックスドーム、作戦指揮センター、連絡ブリッジ、通路、その他の部屋。施設内の道という道が見えない壁で分断させたの。不可侵透明防御膜“スフィアインビジブル”。これによって、剣戟軍の移動経路を極小に収めた。だけど、運良くそれを免れた兵士もいたね。そんな兵士には小規模なスフィアインビジブルを生成。完全孤立状態にしてやった。どう、凄いでしょ?フェーダって」
「うん、凄いと思う。ンでさ、一番気になることなんだけど…この航空機って…」
「あー、その事を先に話すべきだったね…あはは…。今私たちがいる場所は《エゼルディ》っていうステルス搭載超大型全翼航空爆撃機。2年前に剣戟軍の空軍基地から強奪したの。剣戟軍は良い物を保有してたよねー。私達はかなり前からエゼルディの存在を把握していた。製造途中に奪っても使いもんにならないからね。だから完成した直後に強奪した。エゼルディ強奪のミッションはフェーダ上級部隊員“フェルメイド”率いるコードフェルメイドが担当して、見事成功を収めた。人類科学の粋を結集させた当該航空機。そのままでも十分なんだけど、ここからフェーダの魔改造が始まった。SSCの所在地閲覧が可能なレーダーサイト“ドスレーダー”、SSC遺伝子細胞粒子を搭載したSSC遺伝子能力搭載攻撃アンプルタレットを艦首、右舷砲、左舷砲、艦尾に増設。ステルス機能は元々備わっていた機能よ。光学迷彩で敵のレーダーサイトを撹乱させる…。人類が作った最新鋭技術が、自分達の敵になるなんてね。ざまぁって感じだよね。…とまぁ長くなっちゃったけど、こんなものかな。後は気になることない??」
「いや、無いです。色々教えてくれてありがとうお姉ちゃん」
「うん!じゃああなたの自室へ連れてくよ。さ、来て来て」
◈
「ここが、みんなの自室フロア。ンでえ…サリューラスはぁーーーー、ここだね」
迷路のような航空機の中を、なんの迷いも無く、案内してくれた。当たり前っちゃ当たり前だけど、それだけこの航空機を熟知しているということか。
「お邪魔し…んてぇ、いるわけないよね。ここがサリューラスの部屋だよ。もう今日はゆっくり休んで…」
「うん、そうさせてもらうよ」
「…ねぇサリューラス…」
「なに?」
「あなたのお父さんのお姉ちゃん、私以外にもう一人生きてる子いるの」
「スターセントだっけ…」
「あれ、言ってたっけ…ごめんね。そっか…そう、スターセント。今はエゼルディに居なくて、別の任務に出てるの。きっと気が合うと思うわ」
「うん、面白い人なの?」
「…そうだね、だいぶと面白いかな!」
「判った、会えるの楽しみにしてる」
「うん…ねぇ…、、、ごめんね何度も」
「なに?……!」
後ろを振り返り、もう部屋の奥に向かおうとしてた所、ヴィアーセントが後ろから抱擁をして来た。
「お姉ちゃん…?」
「あなたを…絶対に死なせたりしない。絶対に…絶対に私が守るから…。だから、安心して」
「う、、うん…判ったよ…ありがとう」
「こっち向いて…」
背を向けていたサリューラスが、その顔をヴィアーセントに見せる。赤く火照った頬が、ヴィアーセントの瞳に彩りを齎した。
「絶対に守る…。もう、家族を失いたくない」
サリューラスの頬を優しく撫でる。包み込むような、母性溢れるヴィアーセントの接触に、サリューラスは戸惑う。こんな感情、初めてだった。
「お姉ちゃん…もう判ったよ…」
「…んあ!ごめんなさい…!!ごめんね…、、私…何やってるんだろう…!!あーーー、ごめんね…、、」
「ううん、大丈夫だよ」
「じゃ、じゃあね。また明日、顔見せて。明日は家に着くわ。きっと気に入ると思う。おやすみ」
感じたことの無い…この…言葉に表すのが非常に難解なイベント。
「お姉ちゃん…僕に、何をしようとしたんだ…?」
◈
律歴4119年12月5日──。
朝7時。起床と共に艦内アナウンスが流れた。
「間もなく、ポーターズウェッジ島です。航空機内のモーニングシフト全作業員は発着ブロックへ速やかに移動を開始してください。間もなく、ポーターズウェッジ島に到着します」
「昨日言ってたとこか…どんな島…あ、島なのか…」
もうすぐ到着とか言ってたのに…島の影すら見えない。
「逆側かな…」
今、サリューラスがいる自室はエゼルディの左側。きっと右側からなら見えるんだろう。そう無理矢理思った。
……いや、なんだかモヤモヤする。多目的センターホールに行こう。そこからなら、全方位見渡せる。
着いた。朝だからまだ誰も居ない。みんなにはルーティンのようなものだから、何も気にする事など無いんだろうな。右側の景色を見る。
「え、、、無い…」
島なんか無かった。
「旋回した…?」
一応、左側も見たが、自室で見た光景と全く同じ。
「どうしたんだ?」
「んあ、ニーディール…」
「アナウンスで起きてしまったか?」
「いや、大丈夫だよ。丁度起きたんだ」
「そうか、なら良かった」
「ニーディールあのさ…島に降りるんだよね?」
「ああ、そうだ。…あー、アッハハッハハ、なるほど、そういう事か」
「うん、なんで見えないの?」
「もうそろそろ、それが判るぞ」
「…?」
少しして、エゼルディが雲海へ突入。エゼルディ機内には特段ダメージは無いが、多少の揺れは発生した。
「よし、見てみろ。どっち側からでも大丈夫だぞ」
「…え?うわぁ……うそ……」
「スフィアインビジブルの超広域版だ。そこにSSC遺伝子から精製した特殊ステルスを施し、外からの視覚化を不可能にさせた。これを突破できるのは、我々SSCのみだ」
「凄い…」
「もうみんな起きる時間、仕事の始まりだ。サリューラスここが、断界の孤島・ポーターズウェッジ島。我が家へ歓迎するぞ」
◈
エゼルディが海面に降着。少しの航行を行い、島のポートエリアに到達。
「ポーターズウェッジ島、到着。全メンバーは島に上陸してください。機内の汚染物質精査のため除去作業に移ります」
大勢のフェーダメンバーが流れるように、島とエゼルディを繋いだブリッジに移動し、上陸する。
「おはよう!お父さん、サリューラス」
「おはようお姉ちゃん」
「おはよう、そうだヴィアーセント」
「ん?」
「サリューラスはこの島の事を何も知らない。ナビゲートをしてやれんか?」
「あー、ごめんお父さん…実は、、スターセントに急用で呼ばれててさ…」
「スターセントが?そうか…判った…また何か企んでるんじゃないのか?」
「うーん、多分そうかも…でも“任務の結果報告”も聞かなきゃだし…ごめんねサリューラス」
「ううん、大丈夫だよ」
「そうだな…誰かに頼むか…お、良いところに、おい“ニケリアス”!」
「どうしました?」
「サリューラスに、島の事をナビゲートしてやってくれないか?」
「私がですか?良いですよ」
「助かる。ではサリューラス、ニケリアスの案内で見回ってみてくれ」
「うん、判った」
「昨日の人ね、改めてよろしく、アルシオン」
「ああ、よろしく…」
「じゃあ!いこ」
また、案内か…初見のことばかりだし…チュートリアルと捉えよう…。
「ここが私達の家兼島。かつては人間が亜鉛鉱山生産工場及び、精錬所として造成していた人工島なんだ。そこに先代フェーダは目をつけたってわけ。上空からこの島を見つけたんだって。直ぐに先代フェーダが襲撃を決行。生活にもだいぶ支障をきたしていたと思う。何十人何百人ものSSCをどこかの廃墟で保護し続ける生活を何年も行う訳にはいかなかった。フェーダがこれからも末永く暮らすためには広大な拠点の設営が最優先すべきこと。フェーダは強奪に成功し、フロンティアを創った」
「ここにいた人間は…?」
「殺したって。島全体を暗黒に覆う“スフィアシュバルツ”を発現させ、外界と人工島に隔絶の狭間を形成。外界からは人工島が消失した…と思い込ませたんだ。それは今でも続いている。“マボロシ島”とも呼ばれているみたい。そして、外界との繋がりを断たれた人工島にはフェーダの無差別虐殺が行われた。エスピオナージレイドシステム。フェーダが暴虐を尽くす際に発動させる作戦プロトコル。これでここには誰もいなくなった。まぁ、島の始まりの説明はこんな感じー。楽しかった?」
ポーターズウェッジ島の特殊透明網膜“ライアーメール領域”にニケリアスと入る。
「この先は本格的に島の陸地だよ。ようやく上陸だね」
「まだ上陸してなかったの?」
「うーん、そだね。だってまだブリッジだったでしょ?あれを上陸だなんて言わないよー」
「そうか…目に見えてるからてっきり、島の一部かと…」
「サリューラスってなんだかピュアだね。可愛い」
「やめてよ…案内、よろしく頼むよ」
「あいあい」
ニケリアスの案内を元に、自分の解釈を混合させたものを記録する。
ポーターズウェッジ島。面積22万平方km。元々は人工島。工業地帯のような様式美はそのままの形を維持。要塞のような島。現存した世界を継承している。人が作るものにそれほどの価値があるという事か。SSCとて、出来ないこともあるんだな。生活資材、食糧、食糧加工場、生産工場パイプライン、巨大な産婦人科医施設…SSCにとって生きる上で必要不可欠なエリアはフェーダによって増設されている。中でも重要視されているエリアは産婦人科医施設。
『セカンドステージチルドレンは20歳で生涯を終える』
確か、そんな事をどっかで聞いたことがある。両親のどっちかか。“カースドローサ”⋯SSCの呪縛とも言われているこの現象。未だにはっきりとは解明されていない。人外未知の超越者が故の代償…だと聞いた。だから、フェーダは子孫を残し続けなくてはならない。この謎が解明されるまで…子孫にこの謎を解明してもらうまで…。人間のように永い命を授かるまで。
SSCは出産までの時間が極端に短い。その事もあり、出産に割く時間に困ることは無いようだ。特にSSC血盟による純血者同士の胎児成長と出産スピードは超劇的。僅か3ヶ月でお腹から生命が…SSC高密度戦士が誕生する。
ニーディールとエレリアが実行して来た、リコンビナント作業は行われていないようだ。だから、カースドローサとかいう呪縛に掛かっている。
現に僕は今、21歳だ。
20を超えても死んでいない。だから、フェーダはアルシオンを特別視したのか…。
──────────
若くない老体のSSCなんて見た事無かったから。
──────────
「サリューラス、あの大きな建物がエクリュプラザ。フェーダの最大拠点よ。総本部としての役割を担っている。その他にもポーターズウェッジ島の社会福祉、インフラ整備の統括、テクフルに点在しているイドフロントフェーダのオペレート等、フェーダに関連する全セクション管理サーバー機構だ」
「黒い塔…大きいね」
「でしょ?フェーダの要よ」
「凄いよ…皆が、助け合ってこの島…フェーダをより良くしようとしてる…」
「ねぇサリューラス。SSCは人間だと思う?」
「どうしたの?ニケリアス」
「私、思うんだ…。なんでSSCは人の器を借りてるんだろうって。アイツらとは違う存在なのに…不完全な生命体の器。SSCなんだから、創造出来るはずよ、魂の容器ぐらい。私は許せないの。人間が私達にやって来た蛮行を。私達への酷い仕打ち…」
「ニケリアス…大丈夫だよ。僕達は人間とは違う」
彼女との距離を近づける。これは昨夜、ヴィアーセントが果たした行動の逆パターン。途中で気づき、一瞬動きを躊躇ったが、ニケリアスの肩を自らに寄せた。
「優しいね、サリューラス」
「……そうかな」
「サリューラスはさ、見る?血脈伝道線」
「うん?何、それ?」
「そっか…見ないんだ…。私も最近は見ない。でもあの人の声、好きなんだよね。また聞きたいな…。でもサリューラス聞いたことないんだ…純血なのに」
「うん…聞いたこと…ないかな」
「ごめんね、まだ紹介してないところいっぱいあるから!ほら、ハイスピードで行くよー!」
【中略】
「ンでえ、ここが港を繋ぐ、貿易港と工業地帯“ポートアベニュー”」
「さっき、着港した所も港だよね…?」
「そうだね、とにかくフェーダには何かを作る施設が沢山必要なのよ。それに相応して、我々の作業スキルも向上する。せっかく熟練度を上げたんだから、作業効率を上げるためにも、工業施設の増加は必要なの」
「そうなんだ」
にしても、広い。港、港、港…。これで3個目の港紹介だ。そして、新たに工業地帯も加わった。確かに、物凄い数の超越者がいる。それにこちらを凝視してくる。
「サリューラスの存在が伝わったのね、みんなに」
「ちょっと恥ずかしい」
「仕方ないわ。アルシオンなんだから」
──
「あの人が…?」
「ええ、アルシオンの新たな生き残りね」
「おかあさん、はやくほしいよ、あのひとのち」
「うん大丈夫だよ。あの人が救ってくれるから」
「やだよ、しにたくない!おねえちゃんこのまえにしんじゃったから。きゅうにたおれちゃったから!あんなげんきだったのに」
「だから、そのことはもう忘れよ?ね?」
──
「僕のこと?」
「ごめんね、サリューラス。ちょっと滅入ってるのよ。苦しい世界だから。若者しかいない集団。大人が居ないのよ。SSCは結婚を余儀なくされる。最低でも一人、必ず子孫を残すことを義務としてるの。最高記録は4人産んだ女の子もいたんだって。異母兄弟も珍しい事じゃない。だから、殆どのSSCがどこかしらの遺伝子で繋がってる。フェーダの血は太い。極太よ」
「何歳から、子作りはするんだ?」
「14歳から。SSCは成長が早いから、もっと早めにしてもいいと思われてたんだけど…どうやらそういう事じゃないみたい」
「どういうこと?」
「人の、器よ。どうやら人間は、そんなに早くセックスはしないみたいね。時と場合によってはあるんだろうけど、かなり危険なんだって。だから、SSCもなぞってる。限られた存命期間を大事にしたいからね。危険な行動は取りたくない」
過酷な運命と、SSCとしての宿命を深く思い知る。
「情欲に溺れてたら、いいんだけどね。愛する者じゃなくても、セックスはしなければいけない。女として、好意対象以外とのセックスより、楽しくないものは無い。この島には、絶倫とかほざくバカはいない。子孫は残したら残すだけ、素晴らしい行為よ。子供は大事な資源」
ニケリアスの声が、顔の俯き加減に比例してトーンダウン。サリューラスは彼女の表情を見て、背景を理解した。彼女の闇に触れるのは彼女自身がその闇へ打ち勝った時にしよう。
ポートアベニューを抜け、住居が立ち並ぶライフスタンドエリア、重要施設が乱立し、最奥に聳えるエクリュプラザが見えるゼノンソーサーエリアにやってきた。
「さっきの港もそうなんだけど、フェーダの知識は人間から学習しているものが多い。人間と同じ脳みそを持っているからね。人間が思考する極点に辿り着いてしまうんだ。辿り着くし、人間の学習を理解出来る。使える知識は全部使う。それがフェーダよ。人間さんにはもっと頑張ってもらわないとね。だから、まだ全部は殺さない」
◈
「もぉぉーーおオォおーーそぉーいいイイ!!!」
地鳴りを引き起こすような、とんでもない爆音波がサリューラスとニケリアス、更には後方にいるニゼロアルカナ回収組へ轟く。
「ちょっと、急に何するんですか!スターセントさん!」
「遅すぎるんだよ!!ニケリアス!おい!お姉ちゃんは?!パパは?!!どこなの!??あたし、帰ってきたんだけどーーーーーーおおおーーーお」
「皇帝と皇女は、もう既にエクリュプラザに行ったかと…」
「え、、、?嘘でしょ?はァ??マジで言ってんの!?ねぇ!ニケなんちゃら、マジで言ってんの?」
「ああ、はい…私は今、案内をしていたので、少し時間を食っていたんです。なのでもう、エクリュプラザに向かってるかと…」
「へぇー、アッソ。ンでえ、そいつがサリューラスね」
「あなたが…、スターセント?」
「フン!アンタが、サリューラスなのね。りょーかいりょーかい。ンでえ、後ろにいるのがニゼロアルカナ組?使えなさそうなものばっかね」
後方のニゼロアルカナ脱出SSCが、憤りを露わにする。
「ちょっと…スターセントさん、この子達今、ここに来たばっかりなんですよ!いくらなんでも言い過ぎですって」
「あたしは、アルシオンなの。下等生物に興味は無い。サリューラスは別よ」
「僕だけ…」
サリューラスは後ろを振り返る。握り拳を作り、今でも殴り掛かりそうなSSCを確認した。
「……えっと、、改めて紹介するわ。この方は、スターセント・アルシオンさん。ニーディール皇帝の四番目の嫡出」
ジロー…っと、顔をサリューラスに接近させるスターセント。
「よろシク、新核ちゃん」
「…はい……」
「…んん??サリューラス、お母さんの名前覚えてる?」
首根っこを嗅ぐような仕草をした後、スターセントはそのような事を問い質した。
「えっと、、ペイルニース・トゥルーフという人でした」
「そっ…判った」
名前、覚えてた…。忘れてたかと誤解してた。今になって思い出したのか、継続させた記憶の一部だったんだな。
「いい?」
スターセントが高速移動。後方に位置している脱出組SSCの眼前に現れる。SSC達は驚愕のあまり声を出した。
「フェーダに来たからには、しっかりと働くこと。怠けたりグズしたり厄介なこと起こしたりルールに反したりするような事したら、殺すから。わぁーった?」
SSCが全員揃って頷く。
スターセントが姿を消した。
「消えた…」
「はぁ…もう…あの通り、スターセントさんは血の気の多い方なのよ。あんなに綺麗で可愛らしい顔してるのに…。ヴィアーセント皇女とは大違いね」
「僕の…もう一人のお姉ちゃん」
「そうね、サリューラスのお父さんのお姉ちゃんだから…まぁ実際は、おばあちゃんだけど…お姉ちゃんでもいいかもね。ただ、あの人は強いよ。アルシオンなのもそうだけど、ちゃんと実力のある人だから。皆ついていくの、スターセントさんに。カッコイイんだ…私、大好き」
「そうなんだ…」
「サリューラスにとっては、お姉さんだからもっと魅力を見つけられるんだろうね。楽しくやって」
◈
エクリュプラザ 46F 小評議会レニアスミーティングルーム──。
「サリューラスの島の案内はニケリアスに?」
「ああ、ニケリアスに担当させた」
「そう…、、、お父さん、本気なの?」
「ああ、サリューラスを明日の作戦に参加させる。その予定だったろ?」
「そうだけど…危険じゃない?」
「だが、やるしかないんだ。サリューラスをマザーコピーに干渉させる。やがて覚醒するであろうサリューラスの身体から、採血を行う。その血液をフェーダ戦士に投与すれば、皆のカースドローサは解けるんだ」
「それ、確信あるの?」
「クリスパーキャス9と同様の組み換え配列切断計算方式だ。問題無い」
「危険すぎないかな…やっぱり…」
「これに辿り着くまで、どれだけの困難があったと思ってる…。とうとうこの困窮から抜け出すチャンスが到来したんだ。ヴィアーセントはこのままでいいと言うのか?」
「思わないよ。だけど…サリューラスに危険が…あの子の身に…マザーコピーと干渉するのは…危険だと思う。あの子は混血児なんだよ?とんでもない数の人間の血が混ざってる」
「それがより一層、カースドローサ解除の方式に繋がる。間違いない、大丈夫だ。サリューラスの安全性も保証されてる。心配することは無い」
「うん…、、そうだね」
「サリューラス・アルシオン。あの子は希望と絶望。正にブラックボックスだな」
ニーディールとの会合を後にし、部屋を出るヴィアーセント。
「パパと、何を話してたの?」
「スターセント。帰ってたの?」
「うん、サリューラスの顔を見たくてね」
「そう、良い子でしょ?」
「まぁヒョロガキよりはマシかな。アイツが…ニーディールの子供なんだね」
「そうよ、ニーディールの子供」
「母の名前を聞いたよ。ペイルニース・トゥルーフだってさ」
「トゥルーフ…そうなんだ…。あの子は、純血と純血の子供なのね」
「そうみたいね。サリューラスのオーラ、なんか漆黒で抜け道の無い山道のようなものを感じた」
「スターセントがそんな畏怖したような言葉を列挙するなんてね」
「は、はァ?!何言ってんの?べ、別にあたしはビビってなんか無い!アイツが暴走したら直ぐに止める」
「お願いね」
「他人事にすんな!アンタもやるんだよ」
「私がいなきゃどうする事も出来ないのー?」
「クククク…この、クソ女がァァ…」
「ンハフフハハ、ほんと、スターセントって可愛い。もっとその顔見せればいいのにー」
「ちっ、嫌いなんだよ。オンナオンナしてる女がよ。⋯ママは…強かった」
「…スターセント…、、、」
「ママは…私達に、強くあれ、ってずっと言ってた。だからあたしはそれを実行してるだけ。ママになりたい。ママみたいに強くなりたい。憧れなんだ。でも…ママの選択を全肯定はしたくない」
「ママ、強かったよね。本当に」
「ごめん、あたしから言ったのに…もう思い出したくないのに」
「スターセント。私とお父さんになんでも言ってね。自分の中に溜め込まないで」
「分かったよ、ありがとう姉さん。あのさ、明日の作戦に、サリューラス連れていくんだよね?」
「うん、お父さんはそう言ってる」
「そうか…マザーコピーに干渉させて、覚醒した純血を元にサルベージを行い、その新遺伝子をフェーダメンバーに与えれば、カースドローサは解ける。サリューラスがこの作戦のキーマンよ」
「うん…」
「何よその顔…まさか、サリューラスの参加に反対なの?」
「……」
「姉さんバカなの?なんのためにサリューラスを連れて来たのよ」
「サリューラスの身に何が起きるか判らないじゃない…もし死んだりなんかしたら…」
「死なないって」
「なんで言い切れるのよ」
「言い切れるよ。そんな簡単に死ぬような生命体じゃないだろ?特にアルシオンは」
「……そうだけど…」
「ニーディールの子供は、守るよ。必ず。弟の贖罪は、私が果たす」
「私にも手伝わせて」
「当然でしょ。もう他人事案件は御免だから。作戦のブリーフィングは何時から?」
「20時からだから、あと5時間はあるね」
「じゃ、この間に食いもん食っとくわ」
「うん、また後でね」
「じゃあね」
スターセントが姿を消す。
「サリューラス…参加させたくない…」
◈
同日20時。
エクリュプラザ 20F 全天指令ステーション──。
ヴィアーセントから連絡を受け、サリューラスはここに行き着いた。20時まではニケリアスの案内で様々な島のアクティビティを堪能していた。
「え、サリューラスも呼ばれてるの?」
「うん…ニケリアスも?」
「私は…当然だけど…そっか…サリューラスも…、、、うん、じゃあ一緒に行こ」
エゼルディの作戦指令所よりも遥かに広い場所だ。それに、これまたたくさんのフェーダメンバーが隊列を成している。
「サリューラス、こっち」
「お姉ちゃん」
「サリューラスをありがとう、ニケリアス」
「はい!じゃあね、サリューラス」
「あ、え…僕は…」
「さっいくよ。サリューラスはこっち」
ざっと…220人以上はこの場に集っている。全員が同方向へ視線を向け、誰かが壇上に立つのを今か今かと待っている。ヴィアーセントが連行した席には、スターセントと初顔合わせの面々が並んでいた。
「ここに立って」
「うん」
「アンタ、なにしてたの?」
スターセントがサリューラスに、“邂逅からの今”までの、空白時間の余暇を探る。
「ニケリアスと一緒にいたよ」
「そ、あんた、ニケリアスに興味あんの?」
「いや、別に、そういう訳じゃ…」
「アンタの相手はあたしが決めるからね。変な女とはヤラせない」
「あ……はい…」
ほんと、難しい人だな…スターセントは…。
壇上にニーディールが現れる。
「明後日の“メガロポリスレイ”についての作戦概要を伝える」
自分も行くのかな…。
「“王都ツインサイド”。そこでは、四大陸それぞれのリーダー達が集う《テクフル国家首脳会議》が開かれる。当該会議は、“セカンドステージチルドレン対策法案”を閣議決定した大元でもある。レッドチェーンの開発予算等もここから算出された。そんな我々を壊しに来た大元が、明後日に開催されるのだ。インフィニティネットワークからリンクラインを飛ばし、観測衛星をノードさせた。これを見てくれ」
ニーディールの後方にて、デジタルサイネージが展開される。
「今回の会議で上げられる予定の議題をブラックハックで特定した。98%確定の議題だ」
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第44回テクフル国家首脳会議
議題内容(機密情報のため、漏洩厳禁)
・加速しているフェーダへの対策
・フェーダ襲撃による、各地の資本主義システムと高次的グローバルサービスの再確立化とテクフル経済のハブ要素を有する重要都市エリアの早期復旧計画予算案の認証許可
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「ツインサイドを襲撃すれば、この世界は一気に闇へと落とされる。代表者を皆殺しにするのだ」
全員がやる気だ。ニーディールの鼓舞に奮い立った。
「その前に、明日、やらねばならぬ事がある」
後方のデジタルサイネージに映される画像が切り替わる。
「大型移動海上軍事基地“アドバンスドユダフォート”。その全景衛星生中継映像だ。ここに格納されている、ツァーリ・ハーモニーAN207の強奪を実行しなければならない。当該爆弾は現存する剣戟軍戦略兵器の中で最大火力の核爆発エネルギーを巻き起こす最凶爆弾だ。ツインサイド制空にはアンチSゲノムブッシュ内蔵のバリアが張られている。SSC遺伝子能力を無害化させる高レベルな放射粒子だ。マザーコピーの最新式を多分に含み、欠かさないアンチ量子補填作業を行っていると見られる。このバリアを突破するのは容易では無い。そこで有力なのはツァーリ・ハーモニーによる核爆発直接攻撃。ツインサイドを覆うバリアは対SSCにのみ有効なもの。ただのバリアとして考えれば突破の可能性は十分に有り得る。ツァーリ・ハーモニーはSSC遺伝子を持たない核爆弾。最もバリア破壊に最適解な兵器なのだ。ツァーリ・ハーモニーのキャプチャー方法を説明しよう。当該爆弾は非常に敏感。少しの振動、擦り程度の衝撃でも非適合干渉自己防護自爆プログラムが発動し、大爆発を起こす。非関係者による認証装置への接触も同様だ。敵の懐にわたるなら、兵器を壊す。自己防護プログラムの際に起こる爆発規模は通常使用時と同等の威力。人間の覚悟が窺える尖ったシステムが組まれているんだ。キャプチャー方法は、電磁柵・エレクトロキャプチャーを使用する。これで非干渉的な間接奪取を図る。エレクトロキャプチャーはスターセント率いる特殊高度作戦部隊が入手した」
「はーい、ユレイノルド大陸の北ら辺にあった駐屯基地から、設計図と作成資材をぜーんぶかっぱらって来たよ」
壇上からニーディールが、「よくやった」と声を掛ける。
「そして、サリューラス」
ニーディールが、アルシオンと上級戦士と共に並んでいるサリューラスに視線を向ける。
「サリューラスもこの作戦に参加する。マザーコピーへの干渉を果たすのだ」
何を言ってるのか、大体理解出来た。サリューラスは「うん」と無駄な言葉を吐かず、シンプルに応えた。
「サリューラスは純血と純血の高密度SSC。更には人間の血を宿す混血児でもある、唯一無二の存在だ」
会場に集まったフェーダメンバーはどよめく。
「サリューラスが“胎芽”と交われば、遺伝子は覚醒。その血をSSCに投与すれば、アルシオンと同様…20歳以降も生存できる権利を得られる。サリューラス、頼んだぞ。私たちは全力でバックアップする」
「うん、判ったよ」
「では、これにてアドバンスドユダフォート襲撃作戦の概要ブリーフィングを終了する。解散」
◈
ブリーフィングが終了し、自室に戻ろうと動いたサリューラス。何も考えずに歩いていた…と言えば嘘になる。
「サリューラス」
自室前。廊下先から、名前を呼ぶ声が投げられた。
「お姉ちゃん」
ヴィアーセントだった。少し汗をかいている。急いでここにやって来たんだ。いや、もっと詮索すると、僕を追いかけて来たんだ。何かを心配して。
「サリューラス、黙っていてごめんなさい。作戦に参加させることを…」
「ううん、謝らないでいいよ。僕にしか出来ない事だから。これで皆の命が伸びるなら構わないよ」
「サリューラス…ありがとう。あのね、私のお母さん…エレリアは、私とスターセントの憧れの人なの。エレリアは私達への激愛のあまり、やってはいけない禁忌に触れた。エレリアの夢を叶えてあげたい…。皆で、死を恐れずに暮らす…。勿論、これをサリューラス一人に背負わせる訳じゃない。お父さんも言ってたけど、私も全力で支援するから」
「うん、ありがとうお姉ちゃん」
「うん…逞しいねサリューラスは。私、不安なことばっかりだよ…。ペンラリスは…」
「…!」
「……ううん。ごめんなさい、なんでもない。じゃあ…おやすみ…。あれ?なんだかデジャブみたいだね」
不安と心配が混在していたせいで美しさが欠けていた顔面はどこへやら。元の美麗が復活し、プラスアルファの微笑みというスパイスが、更なる可愛さに拍車をかけている。
「そ、そうだね。おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
◈
自室に着き、深い眠りについた。
夢の中…僕は両親の存在を視認した。僕を生んだ両親。僕を兵器として扱った父親。復讐の駒としてしか見ていなかった父親。母親は何を思っていたんだろう。母親もそう思ってたのかな。愛情…あったのかな。覚えてないな…。
僕が殺した。
2人を殺した。
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ねぇ
なに
かえってきて。
なに…だれ
やっとできた
おまえはだれだ?
あなたのさきのこ。
さきのこ?名前は?
うーん、それは、まだいわなーい。
みつけてくれたらおしえるかも。
もう見つけてるじゃないか。
え?いまのわたし?ちがうよ!!みんなのなかにわたしはいる。そのぜんぶがいっしょなんだよ?だからこれはほんとうのわたしじゃない。
ほら、あのひとのなかにいもいるじゃん。
ほら、あのおんなのこのにも。あっちのおとこのこにも。わたしはいる。みんなをみてるよ?
会えるのか?
みつけて?ぜったいに。
どこで会えるんだ?
もうあえるよ
はい、後で書くって




