[#136-スカナヴィア血戦者との契約締結【3】]
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「長くなるので腰を掛けて」
天蓋から椅子が落下。地面接触スレスレで、椅子は浮遊を有し、四人へと渡される。ヘリオローザは黒薔薇をモチーフとした上級貴族が座着していそうな椅子を生成。
ヘリオローザには、血戦者の用意した椅子が必要無くなる。
四人が腰を掛けた事を把握した式セルジュークは、話を進めた。
「まずは、あのウプサラの壁から⋯。ヘリオローザのプロト・アミレイが生成した新規の壁。あれは時間経過で天蓋部分を形成していくことになるでしょう。それまでに、セラヌーン姉妹が目覚める事はありません。───何故か?そんな疑問符が芽生えるのは至極真っ当ですよ、サンファイア。単純明快です。薔薇の暴悪の呪縛。もっと簡易的に纏めましょう。“とても強かった攻撃”がセラヌーン姉妹には加えられました。自省すべき行為ですよ?薔薇の暴悪」
「うるさいなぁ⋯⋯加減が出来ないの!私!」
お茶目だなぁ⋯で事足りるような問題では無い。それなのに、容疑者ヘリオローザはお泊まり保育一日目のわんぱくな園児のそれ。
「終わってしまった事に関してはしょうがない。ましてや、先走ってあの壁内へ行こうもんなら、自殺行為に該当します。よって、タイミングを図り、セラヌーン姉妹を⋯⋯救出する」
「⋯⋯⋯!本当か?」
「あそこに残置させる訳にもいかねぇのはァ事実。アトリビュートを内通者にするのは、血戦者としても早めに“処理”しておきたいんだよ」
処理という言葉に若干、チクッと来てはいるが、セラヌーンの二人を救えるのなら⋯その仕事というのは充分にやり甲斐がある。
サンファイアとフラウドレスは、そう思った。少なくともこの二人は確実に、セラヌーン姉妹から恩義を受けている人物。
「急くのではありません。何度も申している通り、帝都ガウフォンの警戒網は強化されています。近日中に救済出来るとは思わない事」
「じゃあそれまで⋯、あの二人はどうやって生存しろ⋯と?」
「それは⋯」
「忍耐力と根性」
式セルジュークの言葉に被さるように言ったヘリオローザ。
「実際のところそうじゃん」
「そんな⋯⋯⋯それじゃあ⋯⋯⋯二人は何も食べずに、何日もあの空間で待たなきゃならないの⋯⋯⋯⋯」
「サンファイア」
「何か生命維持を確約出来る祝福は無いのかよ!ヘリオローザ!」
「⋯⋯私だって、彼女に生きていてもらいたい。ゲヴァリィの穹窿、私は、あの壁をそう呼んでる。壁はやがて、進化し、壁では無くなる。巨大なドーム空間を形成していくからだ」
「カナン城の広場が、密閉空間になるの?」
フラウドレスの素朴な疑問。
「ええ、そうよ我が母君。ゲヴァリィの穹窿内部のルールは、私の黒色粒子と白色粒子が決断し、審判を下す。セラヌーン姉妹を生かすも殺すも、後の待遇は、彼等が決める。呪いか祝福か⋯はたまた裁きかも」
「“仕事”と称したミッションは他にも複数用意してあります。もちろんどれから始めてもらっても構いませんが⋯皆様の反応から察するには、私も馬鹿じゃありません。セラヌーンの救出を優先事項としましょう。先行きは長い。ここからが本当に戦いの始まりですよ」
「ゲヴァリィの穹窿に所在するセラヌーン姉妹を、大陸政府が狙っている可能性は?」
血戦者へ訴えかけるように疑問を述べる。
「はい。当然、特に七唇律聖教はアトリビュートを狙うその信念に、変曲は無いですから」
それから、フラウドレス、サンファイア、アスタリス、ヘリオローザは、スカナヴィア血戦者からの仕事の概要を二時間半に渡って聞いた。大部分、半分以上の時間はゲヴァリィの穹窿内に居るセラヌーン姉妹の救出作戦に時間を費やした事は、言うまでも無い。
他にも多くの仕事があったが、戦闘に関連する内容ではほぼほぼ無かったので、アスタリスとヘリオローザは聞く耳を持たなかった。この二人は紐解くまでも無く、攻撃性に満ちた性格を確立させている。
フラウドレスとサンファイアは比較的、全ての仕事内容を把握し、未来の為に、スカナヴィア血戦者との契約締結の為に、生き残る為に、尽力することを誓った。
その夜───。
スカナヴィア大聖堂 礼拝の間
現在は、原世界召喚者及び、薔薇の暴悪・ヘリオローザの宿泊施設として使用中。
「必ず救い出す⋯どれだけ時が経っても⋯だから、絶対に生きていてくれ⋯⋯⋯お願いだ、ミュラエ、ウェルニ。君たちには恩義しか無い。二人が僕を最初に拾ってくれた。二人が優しく手を差し伸べてくれなければ、僕は死んでいたかも⋯。誰かに殺されていたか⋯あるいは、僕がだれかを殺していたか。自暴自棄になっていたから。姉さんが、僕のせいで死んでしまったかもしれない⋯⋯そんな、マイナス思考を巡らせていたからだ。アスタリス、フラウドレスに逢えたのも、二人のおかげ。返し尽くせない恩が山ほどある。このまま二人を残して⋯知らぬ壁⋯これから時間経過で、巨大なドームの密閉空間となる場所に残置し、僕が生き続けるなんて⋯⋯⋯そんなの、何かしらの罪に該当するはずだ。七唇律聖教⋯⋯得体の知れない宗教に呪われるだろうが⋯⋯クソ⋯今からでも行きたい。⋯⋯クソ⋯⋯⋯クソ⋯⋯」




