ep.2:新核の悪魔
何もやってない。
[#2-新核の悪魔]
サリューラスのSSC遺伝子能力が覚醒したのは、幼少期での事。
代々、アルシオン家にはSSC遺伝子を持つ者がいる事を特定したラティナパルルガ政府。《剣戟軍》により、アルシオン家は制圧されニゼロアルカナへと連行された。剣戟軍を使った武力行使拘束の理由は言うまでも無いが、反撃される可能性があったからだ。生身でのセカンドステージチルドレンとの接触は危険視されている。何時如何なる時も、万全の戦闘態勢で《超越者》と接触する事が法律によって定められているのだ。
だからといって、重装備と武器でセカンドステージチルドレンに対抗出来る訳でも無いのだが…。
剣戟軍はある特殊な武器を使用する事で超越者をいとも簡単に、手中に収めた。
この《アルシオン家拘束》は、世間的にも注目されマスコミが大勢にニゼロアルカナへ駆けつけ、世界法人特派員協会及び国際誌は、【剣戟軍によるアルシオン家の制圧】という行為を隠蔽。【アルシオン家による暴走事件】として大々的に報じた。
これにより、国際的にもセカンドステージチルドレンはより強く問題視される事になった。世界政府にとって、セカンドステージチルドレンは厄介な存在であり邪魔者。【人類が生んだ大罪】なのだ。
*
日本──。
サリューラスが誕生する40年前。
上記の《超越者血盟家アルシオン家拘束作戦》が決行された。
以下、身柄を確保したアルシオン家の面々。
─────
父、グラノウズ・アルシオン
母、サーセリア・アルシオン
兄、ニーディール・アルシオン
姉、ヘルクイン・アルシオン
妹、エレリア・アルシオン
弟、ヘラーキー・アルシオン
─────
全員から血液検査を行い、SSC遺伝子シグナルを検知。なのだが、アルシオン家にはセカンドステージチルドレンの所以たる能力値がそこまで高くは無かった。
施設員は《SSC遺伝子マザーコピー・オリジナルY》をアルシオン家に投与。だがこれでも能力値に変化は見られない。
ニゼロアルカナは警戒心を強め、より強固な檻を作成。日々アルシオン家と対峙し、セカンドステージチルドレンについて研究の毎日を送る事になった。
以降、ここにおいては隔離施設での生活やアルシオン家への施設員の対応については省略するとしよう。
事の重大さを再確認する出来事が発生したのは、それから1年後。
今まで覚醒の兆候が見られなかったが突如として、SSC遺伝子の能力が覚醒した兄・ニーディール17歳と妹・エレリア15歳がニゼロアルカナからの脱走を敢行。
陸と空。あらゆる手を使い、フル動員での捜索活動を開始したが、全く足取りが掴めずになる。
消息不明。
間違いなく、これはセカンドステージチルドレンの力。
光学迷彩なのか、一瞬で転移が可能な瞬間移動なのか、未知の能力が発現されたのは確かだ。
予想すらもできない二人の所在。早急に確保する必要があるため、脱走者を国際指名手配犯として指定。民間からも定かではない目撃情報を取り寄せ、追い込む事にした。
姿を消したニーディールとエレリア。
すると二人は何かから、謎のエネルギー物質を発見する。
そのエネルギーにはワームホール状の仮想幻視が展開されていた。2人はこの中に飛び込む。どこにも行くあてが無いから。いっそうのこと、賭けてみよう…空間転移を使用し、《謎の世界》へとやってきた。
*
どこかも定かでは無い謎の世界。二人が元いた世界と通ずる物を多数確認した事で、二人はこの世界に多少の安全性と安心剤を得る事ができた。
“生きなければいけない。”
兄妹は2人で決意を固める。
近親相姦という禁断の行為に手を出した。
周辺には2人しかいないし、今の自分達には人を誰も信じる事ができないからだ。
2人は近親相姦の前に、すべき事をしていた。それは“血の書き換え”。
ニゼロアルカナで、アルシオン家に当てられた《SSC遺伝子信号探知システム・トゥーテレス》。このトゥーテレスにてアルシオン家にはSSC遺伝子が眠っている事が判った。それはアルシオン家の皆も、同時に知った事だ。万が一、また拘束されてしまった場合に対処すべき方法は他人の血液による書き換え《リコンビナント》。遺伝子情報の書き換えを行えば、《ポジティブ反応》は検知されない。そう踏んだ2人は、人を殺して他人の血液を輸血していくしかなかった。
人を殺しまくる。
最初は戸惑いを隠せずにいたが、2人の残虐性は次第にエスカレート。SSC遺伝子能力が2人の中に宿る、感情臨界点を大幅に飛び越える。殺す事が“作業”にさえなっていく。生存の可能性を模索するために、《アルシオンの生き残り》は数え切れない程の人を殺していった。
多くの命を奪い、2人は目合う。2人の目交いは、純愛そのものだった。
兄・ニーディール、妹・エレリアは双方に愛し合っていた。どちらも欠けてはいけない。必ず2人で生き延びる。意志は固い。愛し合う以外に、味わう刺激なんて攻撃性に帯びた行動しか存在しないから。お互いに欠如した生命体としての本能を補完し合う。檻に残してしまった家族の分も生きる。
父と母の二人を送り出す顔。あの顔を忘れることは無い。
ニーディールとエレリアは、これから生まれる子供達に向けてアルシオン家の掟を作った。
◈
【これからも、人を殺めろ。そして、アルシオンの血を根絶させろ。】
◈
時が経ち、アルシオン家には沢山の子に恵まれた。どこかもわからなかったこの場所は《ユレイノルド大陸》という場所だと知った。信じられないが、我々は違う世界に飛んだようだ。
40年という年月を於いても尚、未だにセカンドステージチルドレンへの対処がなされている。消息不明となったニーディールとエレリアの所在は、全くわからない。まさか彼等が別の世界に転移しているとは、知る由もないだろう。
その2人の子の一人、ペンラリス・アルシオン。ペンラリスは《アルシオンの五つ子》の内、唯一若干のSSC遺伝子反応があった。ペンラリスは掟に反して、そのSSC遺伝子を消し去る行為に至ることは無かった。孤独な少年期を過ごし、外界を忌み嫌ったペンラリス。自分通りに上手くいかない不完全で不安定で理不尽なこのどうでもいい世界。自身に宿る遺伝子能力を発動させれば、きっと世界は俺に注目が集まる。だけど、昔親から聞いていた隔離施設での出来事を思い出すと、その行為をせずに済んだ。
一体、この家系の血統はなんなんだ…。
なんでこんな反応が出たら、人を殺して輸血をしなきゃいけないんだ…。
アルシオン家ってなんなんだ。
歳を重ねるにつれ、アルシオン家の禁忌について、残酷なまでに興味が湧くようになる。
うざったい。
皆が一瞬にして目の前から居なくなってほしい。
自分が想像するようには中々いかない、この世界に飽き飽きしていた。
言葉には無限の可能性がある。人を示す座標となり、偽りを語らう全面的なまでの虚構だって構築する事ができる。
言語能力に金は不要。
行動さえ起こせば、いつだって世界の中心になれる気がしていた。
俺が世界を変えれるんじゃないかって、思っていた。そこに関しては、全員に平等な権利がある。なのにも関わらず、国民の意見なんて全く聞きもしない、政府連中のゴミ共。聞いた所で、実行に移すかどうなんて、その時の気分次第なのでは無いか。
穢れた国際社会には反吐が出る。
青年時代を経て、外界とのコミュニケーションをとることにより、喜怒哀楽の感情臨界点を超えた抑えきれない衝動に駆られる事が暫しある。主にはマイナス思考が頭を支配する。
怒ったり、恨んだり、悩んだり、叫んだり、苦しんだり、憎んだり…。
シーンにおいては、その《SSC自制御マインドスペース》が適切な神経伝達を行うのだが、誤った判断、望まぬ選択肢のチョイスを見せる場合もある。というか、そっちの方が多い。
その度に、問題行動を起こしそうになる。自分自身で己の力を制御するにも時間と労力が激しく奪われる。心臓の鼓動が忙しくなる。バクンバクンと揺れ動く、俺の胸から今でも、心臓が突き破って出てきそうなまでに血流が全身に送られる。
その結果、ペンラリスの意識レベルは基準値からガクっとダウン。脳幹が侵食される。
ペンラリスは、アルシオン家の掟に反抗意識を露わにする。ペンラリスは、アルシオン家から離れることを決意。そして、向かった先はユレイノルド大陸の西に位置する《アーチェス》という街。
慣れない社会経験を通じて、否が応でも構築しなければならない人間関係を強くする。ペンラリスにとって、ここまで挑戦的になる出来事は未だかつて無かった事だ。
職場での経験は、今までに感じた事の無い刺激的な毎日だった。考える範疇外の課題が連続的に起きる事で、ペンラリスの道徳心は強固なものになっていった。
そして、パートナーもできた。
名前は、《ペイルニース・トゥルーフ》。ペイルニースは、俺を気にかけてくれていつも気さくに話しかけてくれた。俺なんかが、こんな女の子と釣り合うわけ無い…と思っている。だけど、俺は徐々に彼女の事を好いていた。愛というのは、呆気ないもの。今まで自分に降り掛かって来なかった感情が抱擁する。
食事に一緒に行ったり、職場以外での2人っきりの時間も共に流れた。このイベントは全て、ペイルニースが仕掛けてきたんだ。嬉しかったけど、心残りもある。
「情けない…男だな…」と思わない訳にはいかない。
彼女の力は凄まじいんだ。
◈
「ねぇ、次どこ行こっか??」
◈
まるで、次が確定してるかのような言い草で、俺の所に詰め寄ってくる。勿論、否定なんてしない。幾ら何でもこんな事、俺に有り得るのか…。ペイルニースの無邪気な笑顔に、ただただ愛しいと感じるしか無かった。俺は勇気を振り絞って、告白という儀式を執った。正規の方法が判らなかったから、様々な媒体の【告白】というページをネットサーフィンした。
高層タワーで都会を一望できる最上階の窓際席スイートディナーを予約。服も拘って新たに、スーツを新調。彼女には、予め用意しておいたエレガントでフレンチ風に着飾れる、ペイルニースにピッタリのホワイトスーツを着てもらった。
あらゆる多種多様な告白を頭に叩き込んで挑んだ儀式には、見事成功。
「なんか、まるでプロボーズみたいに言ってくるね。」
これも俺の作戦。ガールフレンドという枠に収めるような、単調な儀式では女性は直ぐに萎えてしまう。だから、“パートナーとの契約の儀”は俺にとって、結婚レベルに感じられるようなものに仕立てあげたかったのだ。
ペイルニースは、凄まじく喜んでくれた。俺が人間に対してこんなに、愛を与える…愛を込めれる…信じられない事だ。そして目の前で、俺を見て笑ってくれている。そんな人が現れるなんて…。
何が起きるか、この世の理というのは、本当に理解ができない。
彼女は全てを受け止めてくれた。
本当に、嬉しかった。
自分という面倒な存在を認めてくれた。視界が初めて明るく見えた。気がしたんじゃない。本当にそうやって、手が加えられたんだ。【露出】【ブリリアンス】【明るさ】【ハイライト】。光を操作可能な技法が次々と、自分の視界映像を晴れやかにしていく。その原因は紛れも無く、彼女だ。
ここまでの文面だと、まるで一方通行な愛情に見えるかもしれないが、彼女も俺の事を想ってくれている。そんなシーンを随所に感じる。笑う時は笑ってくれて、怒る時は怒って、泣く時は泣いて…。人間性を弾けさせる彼女の“人らしさ”が好きだ。彼女が拘って調理した夕食を囲むのが好きだ。
「どう??イける…??」
不味かろうが、なんだろうが、俺に…食べられる物を作ってくれる人がいる…。そんな空間が堪らなく幸せなんだ。こんな存在のために、自分の時間を割いてまで尽くしてくれた。嬉しいんだ。
一緒に時を刻むのが好きだ。
隣を向けば彼女がいる。この上無い幸福な存在。尚且つ、その者は無表情じゃないんだ。愛嬌がある。自分が何を感じたら嬉しがるのかを理解している。まるで機械的な言い方にもなってしまってはいるが、自分にとって全然問題無い。彼女が俺を想って、そう行動してくれているのなら構わない。
終わってほしくない…。永遠に…。
だが、彼女に隠している事がこの男にはある。セカンドステージチルドレンの血が流れている…という事。しかもペンラリスは【復活の血・リボーンブラッド】という超越者半人純血者。ペイルニースとは、結婚をしたい。彼女もそう願っているに違いない。実際にも「子供好きなんだよね…!」と何回も聞いている。きっと大家族になれるかもしれない。
もし結婚となった場合、セカンドステージチルドレンが誕生してしまう可能性がある。ペンラリスは恐れた。親から聞いていたニゼロアルカナでの悪夢を…。せっかく両親が逃れて、安息の時間を送る事ができているのにペンラリスのせいで、全てが台無しになってしまう…。
その刹那、何かが、ペンラリスの中で蠢くように、鼓動を少しずつ揺るがしていく。彼の中で秘めたる力が、想起された二ゼロアルカナでの事件を皮切りに、視界に映し出される。
これは…親の記憶…?
誰なんだ…何かが降ってくる…連れ去られていく…強い光のせいで周りで何が起きているのか判らない。煙が舞う…。炎に包まれる…。血が建造物に吹き飛ぶ。やがて、感覚機能の全てにそれらが伝わるようになる。
目眩がする…なんだか、現実なのか…夢なのか…分別がつかなくなる。
時間の概念が覆される。
空間の概念が覆される。
人格の概念が覆される。
何を信じていいのか、判らなくなる。
インナースペースか、平行線の世界か…。“戻る”という心の元に届いたデリバリーは、後者なのだろう。
ペイルニースに、全てを打ち明けた。
ペンラリスの素性…と言っていいのか…、アルシオン家の特別な血筋と他者を恐れる自己の弱しき自我境界。そして、親の境遇を。
ペンラリスからの言葉をどう受け止めるのか…。
どのように彼女は、処理してくれるのか…。
もしかしたら、関係性の終焉が訪れるかもしれない。
なんだか、彼女に会う前の自分に戻ってしまう気がしていた。
彼女の反応…。それは予想外のものだった。
「うん、そっか。判った。大丈夫だよ。」
たったのこんだけ…。活字にすると、淡々としていたようになるが、この一つ一つの言葉には、彼女らしさの優しさに満ち満ちているものだった。“残酷なまでに優しい”とどこかで聞いた事があるのだが…こういうことなんだろう。
彼女は、本当の自分を受け入れてくれた。
それと同時に、婚約の指輪も渡した。今のこの流れが、自分にはベストなタイミングだと思った。彼女は笑顔で語った。
「はい、是非お願いします!」
交際1ヶ月という、一般的には短いと言われている期間だけど、この人しか自分にはいない…と断言できた。
結婚新生活がスタート。
婚約前と変わらずの問題の無い暮らしが心地良い。2人の関係性にはなんの問題も無い。
だけど、あの時の《歪み》が、リミッターが外れたかのように強まっていった。脳に直接語り掛けてくる謎の人物。男なのか、女のか…そもそも人間なのか、異形な生命体だって考えられた。
《語りかけ・ブレインドーン》がペンラリスの生命維持への危険信号を伝えた時がある。対処の方法が判らない。もしかしたら、親がこの事を知ってるかもしれない。だが、家族と決別してしまい、コミュニケーションをとることもできない。連絡がつかない。
そんな時に彼女と出会い、ブレインドーンの事は忘れかけていたが、ここに来て、ガタが出る程に身体を蝕んでいく。
「大丈夫?最近、顔色良くないね…。」
「うん、ごめん、、、ちょっと体調悪いのかな…。」
「無理しなくていいんだよ?それか、私に話して。」
「いや…」
「ペンラリス…お願い…何か隠し事があるなら、言って?」
その時、何かが鮮明になってきた。
女だ…女の人の声…そして、男もいる。建物内で、泣き叫ぶ子供もいる。なんだか…お父さんに似てる…お母さんにも、、、にてる?5人…?もいる…。何処かは判らないけど、間違いなく、お父さんお母さんに似てる人。あとの子供…ていう事は…まさかとは信じられないけど…。昔から親に聞いていた、隔離施設での出来事。それと全く同じような情景だった。
「大丈夫?ねぇ!ペンラリス!ペンラリス!!」
優しく、寄り添ってくれる光が黒く薄ぼやけた世界を晴らした。
──────
「受けてほしいものがあるんだ。」
──────
ペンラリスはそう言って、袋から注射器を取り出す。
「君を《セカンドサンズ》にサせテほしイ。」
ペンラリスは、ペイルニースをセカンドステージチルドレンの人工生成超越者にしようとしている。
「判った。いいよ、あなたの好きにして…。」
彼女はこの願いを、叶えてくれた。
彼女の表情は、なんだか気にも留めていないような…状況を直ぐに把握したかのような…不思議な面持ちだった。衝撃的な言葉の羅列だと思ったのに、彼女はそこまで驚愕の面を浮かべていない。
というか、その先を考えている…とも捉えられた。
《SSCワクチン型血液アンプル》は、アルシオン家みんなで過ごしていた時に一つ盗んでいた。自分の家に血液アンプルがある事にも当初は驚いていた。
「掟じゃないのか…」
アルシオン家の血を根絶させるのが、親の目的だったのに、セカンドステージチルドレンの血を残置している…。自衛用…そう、解を出した。
ペイルニースを人工的に、能力者へと変異させる。
ペイルニースは、セカンドステージチルドレンとなり、俺と結ばれる事で、《セカンドの血盟者》が誕生する。SSC遺伝子が甦ったペンラリスの血。
人工生成SSC遺伝子を投与されたペイルニースの血。
2人の血が混血するという事は、未知の生命体の誕生を意味する。
時が経ち、ペイルニースのお腹には子を授かった。
そして、無事に出産まで行き着いた。
これが新世界幕開けの第一歩。
俺は決断する。
あの時に見た…誰かの記憶か…今ようやくハッキリとした。
父…母…そして…“胎芽たる主”。
この子が育った時に、全てを終わらせてやる。
「政府連中を皆殺しにしてやる。」
**98年3月8日──。
SSC遺伝子高密度純血者、暴虐の太子、新核の悪魔。
子の名は、《サリューラス・アルシオン》。
ペンラリスの思惑通り、SSC遺伝子は覚醒。
サリューラスの身体で微量に眠っていたSSC遺伝子の《原初の血》が目を覚ました。ペイルニースに投与した血液アンプルが細胞活性化誘発を起こしたのだ。
長年守り続けられていた、アルシオン家の禁錮をペンラリスは破った。
サリューラスの力は覚醒している。オーラエネルギーが、ペンラリスの五感に伝達されている。ペイルニースにもそれは、伝わっていた。
ペンラリスは、サリューラスを軍事目的として扱う事を画策している。
我が子の恐るべき能力を使って、政府への復讐に出る。アルシオン家に向けた幾数もの武器。
みんな、怯えていて、震えていた。
乱暴に振る舞われて、気がおかしくなりそうになっていた。
人間性を失いつつある、深層意識に介入する迄の卑劣な所業の数々。家族の残影が感覚機能全体を覆うかのように、そして二度と自分という概念を喪失してしまうかのように…まるで“その物達”かのように…。【心的外傷後ストレス障害】に掛かっているんだ。
原体験では無いのに、ここまでの映像が断片的に発現される。
今の自分との決別という意味でも、政府機関襲撃は成さねばならない。そのためにも、全てを捨て去る覚悟で…。全てを投げ打ってでも…サリューラスには、辛い現実と対面するはず…。だけど、、、申し訳ない。これしか無いんだ。アルシオン家の呪縛はいずれ、サリューラスにも現れる。きっとこれは、一族の子孫にも後継される逸脱無き悪夢。
──◈
サリューラス・アルシオン
ペンラリス・アルシオン
ペイルニース・トゥルーフ
──◈
この3人が、ラティナパルルガ政府機関を襲撃。厳重なセキュリティで、要塞を思わせるこの巨大建造物。
政府機関前検問所に現れた3人。警備兵は3人。この者たちは、まさかこの3人がアルシオン家だとは思いもよらないだろう。SSC遺伝子に反応を示す防護膜などが、唯一の警戒する内容だったが、そんなものどうでもいい。全員殺す。それだけだ。
警備兵を殺した。中に侵入すると、直ぐに警報音が作動した。検問所を突破した事が
この時、サリューラスは7歳。サリューラスの力は、次々と自衛隊を薙ぎ倒していく。高エネルギーを纏わせて、相手を寄せつけずにコクーン型加速電撃爆弾を四方八方に放ちながら、歩みを進める。
「緊急避難警報発令、繰り返す、緊急避難警報発令。セカンドステージチルドレン侵入を確認。標的、《オリジン》。大臣並びに閣僚会議関係者の皆様は速やかな待避をお願いします。」
「全攻撃部隊、交戦行動を維持。生死は問わん!反乱分子を潰せ!」
「《赤い鎖》はどこにある!アンチエネルギーが付与されてる全ての武器をかき集めろ!」
「第87ミリタリースクエアを開門!他に開けられるゲートはあるか?」
「政府機関周辺への戦闘員配備を開始。」
「損障壁の応急処置はいい!今は白兵戦を避けるんだ」
「隊列を組め!奴らはサイコパワーを使用できる!」
「ZAステーション壊滅。ナンバー87システムに移行するには、SSCマグナムへの対処が必要です。」
「クソ!さっきまでサウスゲートに居たはずだろ!何故ここにいるんだ!」
「目標は空間転移を使用可能。ワープポイントの探知を可及的速やかにお願いします。」
「非戦闘員、屋上エリア待機中の輸送ヘリに乗員完了。」
「ブラックルームからの動線をあぶりだせ!」
「能力者から発生するウェポンエアーに注意しろ!」
「各ルームからの火災発生、繰り返す、火災発生。」
「Sゲノムダメージによる、効果は生命維持への危険を意味します。」
「アキレス隊、ランディングポイント06進行 異常なし。」
「機密情報漏洩の可能性あり!米国直属のホワイトハッカーが、日本に向けてのサイバーウォールを展開。」
「ウォーリアー隊、アマゾネス隊、能力者と交戦中。」
「電圧源ダウン、メインコアへの損傷は見当たらず。指揮機能は依然問題無し。」
「汚染濃度増加中!エアロックシステム作動の承認を!」
「セカンドステージチルドレン!止められません!」
「目標に、異常な可視波長磁場が発生!」
「ジオイドマイナス極度レベル、プラス14。」
「フェンリル隊、パンドラ隊、ペルサー隊、全滅。残部隊4。」
「Sゲノム反応を検知!隔壁を展開!放射能汚染を除去しろ!」
「エアロックフィルター開閉機能損失!Sゲノム汚染の可能性極めて大!」
「Sゲノムを吸うな!セカンドの成り果てになるぞ!」
「監視ドローン、汚染区域内の全部隊にマスクの支給に向かえ!」
アナウンスが響き渡る。武器を向けてくる者は全て抹殺していく。
辺り一面が血に染まる。呼吸が激しくなる…この訳は単に疲労が生んだものなのか…はたまた、自分がこのような虐殺行為を厭わない存在だった…という事実を受け止められないからなのか。いつしか自分はそうなってしまった。ペイルニースも、攻撃を止めない。彼女も動いてくれている。サリューラスは、自分達以上の働きを見せている。サリューラスからは聞いた事無いが、アルシオンの追憶を経験しているのか…。何か理由が無いと、ここまでのサリューラスの虐殺行為は説明がつかない。
いくら、復讐といっても…。
いくら、この子を復讐の道具に使用したとも…。
いいや…間違ってない…自分の行いは間違ってないんだ。サリューラスもなんと躊躇いせずに、人を殺している。俺は間違ってない…そうだ、間違ってないんだ。
政府機関に壊滅的打撃を負わせた。
後にしようと広場に出る。
戦車、攻撃ヘリ、兵装部隊。
アルシオン家を取り囲む。
全部隊、攻撃の最終命令を待つ。
そんな時、サリューラスから発せられる光の粒。
それが次第に肥大化を遂げて、爆発的な核エネルギーを発生させた。サリューラスは、今までに見せたことの無い異形な姿に変貌。
周辺は爆散、焼け野原となり敵を一掃。広大なエリアに影響を及ぼし、民間人が生活を送っている住居エリアも襲った。
生存者はいない。
地獄のような光景だ。
だが、、、ペンラリスとペイルニースも巻き添えを食らってしまう。
その光景を見たサリューラスは慟哭。自分の力が招いた結果で、父と母を殺してしまった…。血と人骨が飛び散る凄惨な現場となった政府前。受け止めきれない状況を前に過呼吸を起こし、意識を失ってしまう。黄昏たように直立しながら。バッテリー切れを起こしたロボットかのように、呆然と立ち尽くす時間が1時間流れた後に、横へと倒れた。
1時間放置の時が過ぎたのは、極大なエネルギー収束帯がサリューラスを纏っていて近づく事を危険と判断したためだ。
横に倒れたと同時に、力が急速に低下するのが数値化されたモニターに映される。確実的な弱体化の様子を窺えたこのタイミングでサリューラスを確保、拘束。剣戟軍は《ニゼロアルカナ》にサリューラスを連行した。
「オリジン確保、強化人間隔離施設に連行する。」
「行き先はニゼロアルカナで宜しいでしょうか?」
「パノプティコンアイランド特別管理機構は、現在完成に至っていない。マスターデライト施設センターも機能損失中だ」
「ですが、ニゼロアルカナの収容人数は規定数を超えています。しかも、オリジンともなると、感情の起伏が激しく暴動になり可能性も…。」
「新規加入者のため、旧人者は処分する。安心しろ。」
「了解。」
律歴4112年6月19日。
◈───────────────────────
アルシオンの新たなる福音の齎しが始まる日。
覚醒の兆候が見え、特異点を三つ確認。
それがいかなるものでさえ、サリューラス・アルシオンが与える未来への影響に大きく関係する出来事。様々な種子が生誕し、また新たなる種子が滅ぶ。そうして個体としての生命が終わりを告げ、聖体が作られる。
器を持つ。
セカンドステージチルドレンは魂の輪廻。
決して、一人が聖職者としての存在を確固たるものに出来る訳では無い。可能性として上げられるのが、サリューラス・アルシオン。
彼は素晴らしい。とんでもない血筋を持った正に“新核”だ。
神々、爆撃機、核兵器。
全ての要素を注ぎ込む最高傑作。
だがサリューラス・アルシオンには無いものがある。
“情欲”だ。
彼の心には未だにその感情が芽生えていない。これは由々しき事態だ。彼の遺伝子を後世に受け継ぐためには彼の元に子供が必要だ。そう、子供。
妻をどうする。簡単に見つける訳にはいかない。
アルシオンの血統を遡る。
確認した。
彼の血統には近親相姦の歴史がある事を確認した。
近親相姦の歴史はそこまで昔では無い。
そこまで…という段階の物ではなく、歴で計算するならばかなり最近と解釈できる。
サリューラスと同じ血液を持つ者と婚姻をする…。
このビジョンは果たさなければいけなくなったかもしれないな。
◈───────────────────────
俺は何もやってない。
嘘だ…嘘だ…嘘だ…目の前で…、、、何を見た?
何を感じた?
熱い…苦しい…止まる…静まる…焼ける…爛れる…朽ちる。
震える。