[#1~2-House of The Alcyon【7】]
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俺はこの世界を忌み嫌っている。
“アルシオンの五つ子”最後の嫡出子、ペンラリス。
俺には特別な力が宿されているようだ。
それが明確になったのは、学生の頃。
小学生、中学生、高校生と時代を重ねるにつれて、俺の中で魂が鳴動する。その鳴動はどうにも一つのトリガーによって発生していると第1フェーズである小学生の時に理解した。
“感情の臨界点”。
学校で巻き起こる様々な対人関係の衝突によって、俺の感情が沸点に達した時、内側で鳴動する“何か”が暴れ回る。それは鳴動で留まっていたものが、爆発を起こし、外部に移される。
発動方式は至ってシンプル。暴力だ。俺の周りでは暴力沙汰は日常茶飯事。学校のリーダーを決めるには一番に適した方法なようだ。俺はこの事象を一切“問題視”なんてしていない。もっと影響を受けるよう仕向けることが出来ないのか…とまで思っている。
結局は人なんて、力だけ。力が世界を制圧するんだ。言論統制なんて知らない。ゴチャゴチャ物を言うやつは、ぶん殴れば、蹴っ飛ばせば、片が着く。
と、言ってもそんなもの許されないのが大人の社会だ。だから、高校生まで暴力に明け暮れる毎日だった。俺の力があれば、この世界を手中に収めることが出来る。そんな野望じみたものを見るまでに成長した俺の感情臨界点に眠る“何か”。………もういいか。親が言ってた。
『みんなには特別な血が流れている』って。
セカンドステージチルドレン…か。
なんなんだよそれ。
『私とニーディールで、血を書き換える行為に走ったの。私達の家系に危険が及ぶからよ。だから、あなた達も20歳を迎えるまでに自身の血を減らしなさい。その方法が…』
そんなグロい事しなきゃならないのかよ。
「ペンラリス?」
一番年齢が近くて価値観の合うスターセントだ。
「なんだよ」
「あんたさ、セカンドステージチルドレンの力、出したことある?」
「“出した事ある”って言う文言は合ってんのか?」
「合ってるんじゃない?どうなのよ」
「あーー、まぁ何か、周りの奴らとは違うなぁとは思うけど。スターセントはどうなんだよ」
「私も、特別な力に悩まされるの。ンでね、お姉ちゃんとお兄ちゃんに聞いてみたんだけど、皆には宿るような力を感じたことないんだって」
「俺とスターセントだけが、母さんの言ってた力に目覚めてるのか…」
「そ。あんたと私だけみたいね」
「ンで、スターセント。この事、母さんと父さんに言ってねぇよな?」
「あったりまえじゃーん」
「さすが姉ちゃん」
「ンでしょ?こんなの自慢もんだよねー。絶対手放さないんだから」
「やっぱ家族の中で一番に話が合うのはスターセントだけだよ。あとの奴らはただの介助者。もう勘弁してくれ」
「あんたは一匹狼だからね。いざとなったら私を頼るんだよ?」
「ああ、ありがとうな」
「おうよ」
俺は家族とは隔絶した生活を送っている。母の面倒な世話にはもうウンザリだ。いつも毎回毎度息子の名前を、ベラベラと言って…。もう居ないっていうのに、執拗に言い放つんだ。腹が立つ。居ない者はいないんだよ。それに、奴のことを覚えても無い。だから俺には思い入れが全く無い。
「ハピネメル…ハピネメル…ハピネメル…ハピネメル…」
おかげで第六子の名前はもう絶対に忘れねぇよ。にしても、なんで父はハピネメルをアルシオンから離したんだろうな。俺以外のアルシオンは知ってるんだろうか。
俺が興味無いだけで、割と有名な話なのかな。
まっ、どーでもいーですよ。
18歳。一人暮らし。他のアルシオンは、母の看病で未だにアラモシア付近に住んでいる。俺はと言うと、トゥーラティ大陸の北西エリア、セケランドゥスのビーコインネスシティ。ビジネスライクを送るに適したオフィス街と居住区画が混同した中規模の都市だ。
真面目に会社員を始めようとしている、この俺。真面目に社会性のある規則的で安定した職に就いた。この先はもう、普通の生活を送ろうと、過去の俺とはおさらば…したかった。
だが、現実はそう上手くいくもんじゃない。
慣れない社会での立ち回り。俺が今まで嫌悪感を抱いて来たタイプとの集団的行動原理。マジでイヤ。本当にムカつく。理論で話を組みたてていく同期とか上司を見ている虫唾が走るんだよな。本当にムカつく。言語機関の成長が止まる。何回でも言いたい。
『本当にムカつく』
これを吐いたとしても、なんにも現実にプラス方向へ、働く事は無い。なのに吐き続けてしまう。過去とおさらばするはずだったのに、またこんな感情と向き合ってる。これを解放する方法はただ一つ。
臨界点を突破させた対象への攻撃だ。ただ、現状の立場を考えるとそんな、直接攻撃を与えてしまうのは社会的制裁を受ける事になってしまう。
じゃあ、どうするか。溜まりに溜まった煮え滾る感情を発散するのは、物への暴力で片をつけるしかない。これが結局のところ一番良い感情処理の仕方。
築きたくも無い相手と否が応でも関係値を構築しなければならない窮屈で面倒な世界。
社会って本当に嫌だな。広いように見えて、実際は物凄く新人にとっては狭い世界。ある程度の年月を重ねないと、上にも行けない。実力主義の社会でなら、こうはならなかったのか…?だったらその世界に行きたい。
実力至上主義。白いキャンパスのようなデフォルトの状態で、一斉にスタート。そこからは完全な実力至上主義で、力があるものが勝ち、弱いものは落ちていく。
そんな若い時から出世が望める世界に憧れた。だけど、今からそんなところに目指そうとは思わない。今はもう選んでしまった仕事を果たして行こう。折角受かったんだしな。
職場での経験は今までに感じたことの無い刺激的な毎日の連続だった。考えうる範疇外の課題が次々と提示されては、それに追い込まれていく。
数をこなしていく内に、課題と課題を比較するようになり、「前の方が簡単だったな…」と思うようになる。するとなんだか、気持ちが楽になるんだ。途中でその逆転現象とも言える「これムズすぎだろ…めんどくせぇ」といった現象にも陥るが、最終的には締切日までに間に合い、事は終わる。
そうなると、この“ムズい課題”が今の自分が出来る最高レベルという解釈になる。
こんなにも挑戦的になれるイベントは人生で初だ。案外、自分には向いている仕事なんだとも感じた。何事もやってみなくては判らないな…と無意識に頷く。
職場は至って普通のオフィスワーク。もう、本当に普通の所。高階層のオフィスの中にある33階に位置するだだっ広いスペースを、借りているのが俺の仕事場。何十台も備わるパソコンと敷居とワーキングスペース。食堂もあるし、休憩所もあるし、カフェもある。そこでお茶をしたり、なんだかんだやって、上司への愚痴を同期と言い合ったりもしている。
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仕事仲間も増えていった頃。
律歴4091年7月19日──。
俺に彼女が出来た。今まで出来たことが無かった。俺には必要の無い存在だと思ってたし、なんなら俺と価値観の合う女なんて一生現れない…と思っていたから。だけど、彼女は違った。同期の“ペイルニース・トゥルーフ”。
女には前から興味が無かった。主に会話やら交流をするのはいつも男のみ。そんな、周りから見たらピュアだと思われるような男に振り向いたのがペイルニースだった。
「ペンラリスくん、今日さ一緒にご飯食べよ?」
「え…?いや、俺は…いい」
素っ気ない態度。俺は別に女と交流しようなんぞ、これっぽっちも無い。眼中にも無い。別にセックスなんて出来なくてもいいと思ってる。なんなら、セックスを軽蔑してるまである。
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肉親同士の元に産まれたからだ。
──────
それが何故、“軽蔑”に結実するのかは、俺にも説明が難しい。だが、良くは思えない…そう思ってしまう。
「そう…判った…また誘うね」
「……また誘うね…?なんで…」
こんなに話しかけるなオーラを出しているのに、どうしてここまで接近してくるんだ。何故そこまでして俺に接触しようとしてくるんだ。
この⋯“昼食べよ誘い”は4月から6月14日までずーーーっと行われて来た。意味不明。ほぼ毎日。2日に1回。ペイルニースに仕事が立て込んでる時は来なかった。それと、俺に仕事が立て込んで昼もプロトコルノードの作業をしなくてはならない時。彼女は俺に話しかける事は無かった。
昼の時間、俺が一人で、飯を食ってる時のみ、彼女は話しかけに来た。タイミングを図っているんだ。ただただ誘ってる訳じゃない。俺の領域を理解した上で彼女は行動している。それが判った途端、彼女を知りたい…と思うようになって来た。
そして、6月15日──。
「ペンラリスくん、今日ってさ…一緒に食べない?」
「………俺で、、、いいなら」
「…え!?!ホントに!?」
「あ、ああ」
「やった!!ありがとう!じゃあ食堂いかない?」
「え、ちょっと待って…なんで今日、俺、弁当持ってきてないって知ってるんだよ。いつも俺を誘う時、みてるだろ?弁当なの分かってるよな?なんだよ今の、俺が食堂行くの分かってたような言い方」
「あ、あのね、、、ペンラリスくんと仲良い人に聞いて、、、『ペンラリスは日替わりのチキン南蛮定食が好きだからその日を狙うといいよ』って言ってたから…。ほら!今日チキン南蛮定食の日じゃん?だから…食堂行くかなぁ…と思ってさ…誘うには絶好のチャンスだと思ったの…あの…ごめんね、なんか偵察みたいな事しちゃってさ…」
マジかよ…俺と一緒にいたいからってそんな時間割いてまで…。ガチで信じられない。俺と何を話したいんだよ…。もうそこが心配だし不安だし⋯あと少し怖いわ…恐怖とかいう意味のやつじゃなくて、なんでこんなことに労力使うのっていう。だけど、そこまでしてくれたのか…気分は悪くない。
「いや、そんな事はないよ。気遣ってくれてありがとう」
「…うん!じゃあ行こ」
その日から、ペイルニースと食事をするのが当たり前の日常と化していった。気にかけてくれて、気さくに話しかけてくれて、絶えない笑顔を振りまいてくれる。くしゃっと笑う顔が俺の目には天使のように見えてきた。大きく口を開けて笑ってくれる。別にそうでも無いジョークを交えただけなのに。だがその後、「ペンラリス、それはもう言わない方がいいと思う。うん。私は面白いけどね」と良いのか悪いのか、どっちとも捉えることが出来る感想を述べる。これも彼女の良いところだ。ハッキリと物事に対して嘘偽りなく吐き出す。笑えるのも事実だし、ダメだと思うのも事実。そんな両極端な意見をまとめて提出してくれる。
こんなにも出来た女がこの世にいるのか…。俺にはとてもじゃないが、割に合わない。もっと適合した相手がいるはずだ。なのに…
「ペンラリス、一緒に食べよ?」
「ペンラリスー、ここのさ、データの配合ってどうなってる?」
「ペンラリス?なんだか顔色悪いね?元気少ないよ?」
「ペンラリス、これ、食べる?さっきコンビニで買ってね、美味しかったからまた買って来ちゃった…、、あの、、要らない??」
彼女との時を過ごしていく中で、段々と募る彼女への想い。それは彼女も同じだった。
職場以外での関係性も構築し、食事と買い物というテンプレート的な男女の交友を楽しんだ。これは全てが、ペイルニースによって企画されたシナリオ。俺は何もしていない。
「また行こうねペンラリス」
「あ、うん…」
振り回されてる…のかな。俺と一緒にいて楽しいのかな。
ペイルニースは俺のどこに興味を示してしたんだ。
やがて、俺達は交際関係をスタートさせるにまで発展。
自然な流れだった。




