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87 嗤い声




『え……お父さん?……お父さんーーっ!!』


アーノルドは確かに自分の意志で父親の胸を貫いたはずだ。

なのにこの動揺と焦燥。


アーノルドは父親をぎゅっと抱きとめ、血で染まった胸を押さえると、大粒の涙を流して嗚咽した。

『あ゛ぁっーーお父、さん……』

(まるで人が変わったみたいにーー)


ーーーー

黒き魔法の影響により、人格崩壊と精神異常を起こしています。

それ以上は知的好奇心度が不足しているため、世界の知識を再生できません。

ーーーー


『叡智魔法』は私の疑問を受け止め、脳内で答えを導き出してくれる。だけれど、

(……情報が足りないわ)


全て自分が仕組んだことだと豪語したにもかかわらず、急に父親の死を悲しみ一緒に幸せになりたかったと言う。

気持ちの転換にしては、緩急の差があり過ぎる。これが人格崩壊と精神異常の影響なのだろうか……。


少年の急な心変わりにライムは戸惑う。

汗が伝い、口が乾燥して、頭が回らない。


その理由を知りたいーー。

少年をここまで追い詰めたものが何なのかを、知りたいーー。

ライムが強く願った時、再び頭の中で声が響いた。


ーーーー

知的好奇心度の上昇により、さらなる知識の追求ができるようになりました。

常時発動可能。

常時発動しますか?

ーーーー


(!……はい)

予想外にも『叡智魔法』は私の願いに応えてくれた。

(知的好奇心度が……上がったのね)


ーーーー

『叡智魔法』の常時発動を選択。

常時発動します。

……世界の知識を再生します。


追求中……。

追求完了。


アーノルド・ジョセフは『創生の魔術書 第5巻ラクリマの伝言』を読了後、意識の二分の一をラクリマへと譲渡しています。

二分の一のラクリマの意識が人格崩壊と精神異常の原因と判明。

父であるアーノルド・ミサを手にかけた理由はラクリマによる意識が強かったと予測できます。

ーーーー


『ラクリマ……?』


ーーーー

ラクリマとはーー

ーーーー


そこで少年が再びゆっくりと顔を上げた。

しかし、先ほどの悲壮はなく、歪んだ、悪意に満ちた顔だった。

蒼い瞳はくすんで、まるで底の見えない深海の暗闇のようだ。


『ラクリマは僕さ……』


少年はライムの方を見ずに自らを名乗る。

ーーーー

父親アーノルド・ミサを殺害したことにより、彼の絶望度が上昇。

絶望度が上限に達し、ラクリマに意識の大半が渡りました。

『自分が自分でなくなる絶望』が作用しています。

……目の前の人物をラクリマと断定。

ーーーー


少年は腕に抱いていた父親を見ると、目を細めて思い切り肉体を握る。

握った手の指の間からは、ミサの血肉が溢れ出る。


そしてとんでもないことに彼は思い切り腕を振り、亡骸を壁に打ち付けたのだ!

ーードンっという音とともに、亡骸の骨が折れたような歪な音が聞こえた気がした。


『……#x %△!!』

『あーあー。この子もなかなかにしぶとかった。けど、いつ誰でもどんな時も絶望は拭えないのさ』


霧がかったような甲高い声が鼓膜に響き、ライムの言葉にならない叫びと重なった。


ーーどこかで聞いたことがある声。

まるで警告音が鳴るようにドクドクと心臓が脈を打つ。

目の前のものがやばいやつだと。

全身から、逃げろと言う声が聞こえた気がした。


歪な少年はすくりと立ち上がると、亡骸と少年との間に滑り落ちた『創生の魔術書』を取る。


『君はこれが欲しいんだっけ?』


『あ゛っ…………!』

(ま、ほうが……!!使え……ない!!)


口の中に嘔吐物が詰まり、また声を出せなくなったのだ。

人が死にゆく姿に見慣れているはずがなかった。


『あげない。もちろん、あげないよ。僕はもう少しで自由になれそうなんだ』


『…………っ』


『だから、邪魔しないでくれる?』


パチンと指を鳴らす音。

音と同時に影の伸びるいたるところから、黒い人型の何がが現れた。

(あ、ぁ……この声、この色……)



『いひひヒひヒ!あはハはハ!!』

『ヤット、手に入ルネぇエエ!!』



いつも私を追っていた奇妙な本たちの嗤い声だ。




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