85 ラクリマの伝記
「『ラクリマの伝記』によると、神になれる器の者は『神見習い』と『感情度』のステータスが与えられるらしい。その魔力量からして……君もその1人なのだろう?」
『………!』
ミサはシワのある顔を綻ばせ大きく手を広げると、足を一歩踏み出し返答を待つが、ライムが驚いた表情をしているのを見てさらに首を傾げた。
「あとは……何を知りたいんだ?君は『創生の魔術書』を集めているんだろう。だったら話は早いはずなんだが……ジョセフ、私にはまだ説明が足りないか?」
『不安なことがあるかもしれないね!』
ミサとジョセフは向かい合ってこくりと頷くと、
「神になる上で不安なことは何でも聞いてくれて構わないよ」
『僕にできることだったら何でも言ってね。何にも怖くないよ!世界を救うためなんだからーー』
と疑いのない様子で2人はライムの方を見る。まるで、私がYESと答えるのを確信しているかのように柔らかい声だ。
逆にそれが怖いくらいにーー。
攻撃してくる様子はない。
しかし、アーノルド・ミサは子どもたちのことを搾取体と呼び、魔力をかき集めている。
子どもたちのことを何とも思ってないのかしら……。
いくら、世界が救えるからといって子どもたちを犠牲にしていい理由にはならない。
この時点でミサに力を貸す気はないけれど、ライムに一つの案が浮かぶ。
(私が神さまになれば、子どもたちも世界も救うことができる?)
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世界の知識にこれから起こる事象のことは記載されていません。
しかし、魔力量、特殊アビリティを掛け合わせると実現可能な範囲と予測できます。
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(できなくはーーない!)
『色々知りたいことはあるけれどーー。私はあなたたちに力を貸す気はないわ。けれど、世界を救う手助けはできるかもしれない……』
本心だった。
子どもたちを搾取体と言って、苦しめることは許せない。
だけれど、世界を救うためでどうしても仕方なくだったのならば、私がどちらも助ければいい。
そもそも子どもたちを蔑ろにする時点で信用はしていないし許せないのだけれどーー。
『力を貸せない……?』
ピクリとジョセフが眉を上げ、一瞬物凄い殺気を放ったように感じられた。
『お姉さん、僕の手を少し触れて力を流してくれればいいんだよ?そしたら、僕が子どもたちの魔力とともに黒い雨から世界を救ってあげるから』
『あなたが神さまになるの……?』
「そうだ。ジョセフの感情度は上限の100を達し、新たな魔法を得ている。正しく神の器だ!ああ、君は勿体ぶるのが上手いな」
ミサは口角を上げ、私の言ったことが冗談だと思いニヤリと不吉に笑う。
その表情はまるで、もうすでに目標に手が届いたのだというように達成感に満ちていた。
しかし、それはすぐにーー
(上限が100?!……私確か絶望度が180くらいあったような……。上限も300だった)
どうやら、感情度というステータスが神の器を決める一手となっているらしい。
『私の感情度のステータスはいくつもあったわよ?絶望度、知的好奇心度、幸福度……。特に絶望度は100を超えているのだけれど、その場合は私が神さまになってもいいのかしら?』
「……!!!」
ライムは見せつけるようにありったけの魔力を放つ。
すると、ぐにゃりと……彼の顔が歪んだように見えた。
恍惚さも微笑みも抑えきれない喜びも、一瞬にして崩れ去り、驚愕と迷いに変わった。
ミサは目を見開き、後退り、
「ほん、とうか……?」
と掠れた声で呟いた。
『そんなわけないよ!!ねぇ、お父さん、僕が神さまになるんだよね?』
『ごめんなさい。ジョセフ。あなたにも辛い思いはさせなくないの。だから、私が代わりに神さまになるわ』
「な……そんなーー?!ジョセフじゃないのか!!」
ジョセフはまだ私よりも小さい。
彼に絶望なんて似合わない。
そう、思った矢先だった。
ミサが迷いの表情をジョセフに向けた瞬間ーー。
彼はミサの胸に右手を突き刺した。
血が大量に噴き出し、口からは赤い液体が止めどなく流れる。
『意味わかんない。伝記に書いていることと全く違うじゃないか』




