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84 神見習い




「君の力を貸してくれないか?」


私は、この言葉がーー


嫌いだ。


理由は単純。

今まで出会って来た人たちの中で、この文句を言うのは決まって悪事を働く人だったからだ。

私を実験対象にしたミザリの研究者だって、ピアノを拘束したアリスだってそうだ。

力を求める者は、何事も力で解決しようとするーー。

その考えが影のように私にこびりついている。


この人は力を求めている?

何のために?

世界のため……に?


「搾取体から魔力を集めているがやがて朽ちるだろう。世界には神が必要だ。君も世界が崩れる様を見たくはないだろう?」


アーノルド・ミサはさも当たり前かのように言葉を投げかける。

目を合わせたまま無言を貫いているライムを見て首を傾げると、そう言えば学園にいたために情報に疎いのだったなと思い言葉を補う。


「……そうだったな。ミザリは化学魔法を研究しているのはわかるだろう。あれは世界のためなのだ。世界の外側が崩れないように、搾取体から魔力を集め、神候補を炙り出す。集まった魔力を神に捧げれば、やがて黒い雨も止むだろう」


つまり、神になる可能性がある者が選ばれ、その者に子どもたちから集めた魔力を捧げるのだという。

そして、膨大な魔力を得た神はこの世界を救うと。


『子どもたちが搾取体……?』


沈黙を貫いていたライムの脳裏には、旅の途中で出会った数々の苦しんでいた子どもたちの姿があった。

化学魔法の影響で人格が崩壊してしまった子、普通の生活が送れなくなってしまった子……苦しみ悶え助けを求める声をライムは幾度となく聞いてきた。


『子どもたちを一体なんだと……』


子どもたちへの酷いあしらい方にふつふつと怒りが湧いてくる。


『あんなに苦しそうにしている子たちを見て何とも思わないの……?』

「それはそうだが、世界の滅亡を救うためだ。救済に犠牲はつきものだろう」


ミサは何かまだ足りない言葉があっただろうかと悩む素振りを見せて、「ジョセフ、私の説明は不足か?」と側にいる息子に問うた。


私が納得していないのを、単なる説明不足だと、そんなふうに思っているらしい。

考え方が違うーー。

私は1人の犠牲も見逃したくないーー。


ライムは嫌な予感を感じてすぐに臨戦態勢をとろうとしたが、ジョセフが思わぬ言葉を発した。


『力を渡すのが怖いんじゃない?』

『えっ?』

『ほら、この人神候補のこともわからなかったし』


この子は何を言っているのだろう?

(あなたも危険な立場なはずなのに……)


「そうだな。一から説明して信頼を得る必要があるのだな」とミサは納得したように息子の頭を撫でると、


「感情度……というのが、君のステータスにあっただろう?」

『!』


突然の事実にライムはハッとした。

ライムのステータスにも確かに生まれながらに感情度が記載されている。

それは確か誰にも知られていない唯一無二の筈だった。


「感情度とは、神候補に与えられるステータスの一つでね。高めるごとに特殊なアビリティを得られる。この子もその1人でね。ほら、見せてご覧」

『はい、お父さま』


ジョセフは首元から銀のプレートを出すとライムの目の前に掲げた。

すると、淡く光る蒼色が文字となって浮かび上がった。



《名前:アーノルド・ジョセフ


 年齢:13歳

 職業:神見習い

 特殊:『黒き魔法』『魂の治癒』

 魔法アビリティ:下記参照


 備考1:感情度に左右されたアビリティが発現しています。現在の感情度は以下の通りです。


 信頼度:100/100……『記憶魔法』》



『こ、れは……!』

(驚いた……。私以外で特殊アビリティを持っている人がいたなんて)

「どうかな?君のステータスにも同じように記されているはずだよ」


空にゆらゆらと浮かんだ文字には少年、アーノルド・ジョセフの情報が羅列されていた。

そこには見慣れたーーいや、もうライムにはない『神見習い』の文字があった。




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