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79 アレスの思惑




冷たい風が頬を撫で、所々にある青白い『マキア』も炎のように揺らめいている。


周囲から感じる警戒心と黒魔法の気配が不穏さを引き立てている。

物々しく感じる四角い建物たちは乱雑に並べられて、まるで人間を受け付けないような雰囲気さえ感じられた。


アレスは長い髪を一本にまとめ、日が暮れてからすぐにカツカツと街を見て回っていた。

(こんな物騒なところに一人で行かせられませんからねぇ)


目的は情報収集。

彼女なら魔法でなんでもわかってしまうだろうが、自分に教えてくれるとも限らない。

あの子は自分の無意識に一人で突っ走ってしまうクセがある。

(まるでピアノ様を見ているようですね)


アレスは飲み屋の入り口に静かに寄りかかると、懐から『オートマター』を取り出す。

自分の耳に当てると、魔法陣を浮かび上がらせて紙切れは溶けてなくなっていった。


『盗聴魔法』


これはアレスのオリジナルだ。

宮廷魔術師は魔法陣の作成を許可されている。


中から2人の男の酔いしれた無防備な会話が聞こえてくる。


「そういえば、神候補がこのミザリに来てるのはほんとなのかねぇ?賊が騒ぎたててるみてぇだが」

「まじだよ。知り合いから聞いたんだが、そろそろ()()頃らしい」


(実る……?)


そっと耳を立て、気配を消す。

この話を逃すわけにはいかない。


「次の神様ってか?あのお方もそろそろ限界なんかねぇ……」

「だから探してるんだろ」

「しかしよぉ……だからって、民主を巻き込みすぎだよな。賊は騒ぐわ、黒雨は降るわ。もうちょい研究所も大人しくしてくんねぇかな?」

「俺はこういうの楽しいけどな!何もない生活に刺激があって悪い気分じゃねぇ」

「お前、性格悪いだろ……」

「ははは、みんな心のどこかでそう思ってるさ」


その後の話は本当にたわいもない話だった。

しかし、十分な収穫だ。

やはり見立てどおりミザリノースの連中は、何かしら内部事情を知っているらしい。

治安の悪さのせいか、どこからか情報も漏れるのだろう。


(ライム殿が神候補……)


アレスは顎に手を当て、国王ルドルフから聞いたことを思い出した。

(確か、『神見習い』というステータスでしたね)


いよいよ現実味を帯びてきた。

(フヒヒ、やはり彼女を1人にはできませんね)


ニヤリと不気味に笑うと、彼は元の宿屋へ帰って行ったのだった。




====




戻って来た部屋には無防備に若者が眠りこけていた。

魔法の痕跡からして、リエード教授が『オートマター』を使ったらしい。

(私がいない間に賊がくるとは……フヒヒ、しかもーー)


宿屋の店主と寝たきりだったはずの娘が和気あいあいと団らんしているではないか。


ふぅと溜め息をつきながらライムの気配がある外へ出ると、何やら自身の魔法について話をしてくれるとのこと。


『お2人の時間を頂いたのは、他でもありません』

『私の知っていること、できること、全部を知ってもらいたいんです』


啖呵を切った彼女はいきなり手袋をスルスルと外す。

その手は酷く脆く、漆黒で、今にも崩れそうなか弱い手だった。


アレスは一瞬目を丸くして苦い顔をする。


(なるほど、トードリッヒにも常に手袋をつけていましたが……そういうことでしたか)


すぐに表情を戻したが、胸の高鳴りはしばらく止みそうにない。

(まさかとは思っていましたが……)


彼女は話を続ける。


時には早口で時には話づらそうに、だがしっかりと話してくれた。

創生の魔術書のこと、ステータスのこと、これからの目的のこと……。


ふと、何となく話の端々に違和感を感じた。


内容に驚きがなかったわけではない。むしろ新たな情報が衝撃的すぎて受け止めきれないくらいだが……。

引っかかったこれは無視できないことだった。


「フヒヒ、ライム殿。打ち明けてくださって誠にありがとうございます。勇気が……入りましたでしょう?とても……大変でしたね」


ライムに優しく声かけるアレス。

しかし、言いたいのは、聞きたいのは……そうではない。


『アレスさんのおかげです。本当にーー』

「ヒッヒヒ、ですから……今かかえているものも、お話くださっていいのですよ?」


彼女が夜中に呻いているのを知っている。

彼女が黒き魔法に押し潰されそうになり、酷く辛いのを知っている。

トードリッヒがそうであったように……。


彼女はいったいどれほどの闇を抱えているのだろうか。

輝く金色の瞳は彼女の紅い瞳と交差し、次の言葉を待ったのだった。



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