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114 ほんとうのほんとうに?




 血の海に混じる紅いギョロリとした瞳は、こちらを見据えて内部から音を発しているように見える。


 何かを伝えたいんだわ。『叡智魔法』の言語化機能が衰えているんだったら、

『意識言語化魔法』で、意識を言葉にするーー!


『応えて!あなたは誰に、何をされたの?!』



 ーーーー


 ぎ、ぎぎ……せ、先代の『神』。

 ………秘匿……。情報の秘匿を確認。

 世界の知識を再生できません。


 ーーーー


「おねぇちゃん、これ……なぁに……」


(…………!)

『叡智魔法』の影響に慣れていないのか頭を強く抑えるレイラちゃんの背中を撫でる。


『聞こえるのね。害はないから大丈夫よ。私はこの魔法で世界の知識を再生して、色々な知識を教えてもらったわ。けれどーー』


 何かしらの強制力が働くのかこれ以上は秘匿されている。

 気になる言葉を残して。


 叡智魔法は先代の『神様』と言った。

 彼がこの状況を作ったのだとしたら。

 いえ、まだ決めつけるのは早い。

 まず、優先的にしなくちゃいけないのはーー。


『叡智魔法。応えて。トードリッヒさんの心臓に肉体を持たせる方法を』


「……!わたしもしりたい!おねがい。おめめさん」


 見下ろした瞳の中でぐるぐると駆け巡る血流。

 ぴたりと流れが止まり、同時に脳内に言葉が紡がれる。


 ーーーー


 世界の知識を再生します。

 再生中。

 情報の更新を確認。

 ……実行できませんでした。


 現状維持のまま再生します。


 トードリッヒの心臓に、魂の核を確認。

 肉体の欠損を確認。

 ………………解析中。

 修復は不可能です。


『叡智魔法』の回路の欠損を確認。

 最新の知識が再生できないため、最適解を追えないと判断します。


 ーーーー


 脳内に流れてくる言葉の羅列に戸惑いを見せるレイラは、儚く鼓動する父親の心臓から目を離せないでいる。


「え、そんな……」

『………………』


 やっぱりそうだ……。

 肉体を持たない核は生きることはできないのだ。

 残酷、冷酷、悲惨。

 様々な苦情の言葉が浮かぶが、それを選択するのはまだだ。

 まだできることはある。

 ……必ず、必ずハッピーエンドにしてみせる。


『レイラちゃん。お父さんに身体がなくても、お父さんと一緒に生きたい?』


 声量を落として、静かにレイラに問う。

希望を見るかのように大きな瞳を潤ませ、彼女は頷く。


「うん……!おとうさんがいきてくれるならなんだっていい!なんだってする!!だから、おねがい……」


 泣いて泣いて腫れてしまった眼からさらに大粒の涙がポタポタとこぼれ落ちる。

 そんな涙をそっと人差し指ですくう。


『もしかしたら、辛いかもしれない。もしかしたら、痛いかもしれない。それでも、いい?』


 自分で言っていて、なんて強引なんだろうと思った。

 こんな幼い少女にこれ以上重荷を背負わせるのかと自分が自分で嫌になった。

(でも……レイラちゃんもトードリッヒさんも救うにはこれしか……方法はない)


 ぎゅっと唇の端を噛むと、レイラが服の袖を引っ張っていることに気がついた。

(震えているわ……)


「わたしは……おとうさんとおかあさんといっしょがいい」


『…………そうだね。わかった。辛かったら、言ってね。なるべく痛みは取り除くから』


 トードリッヒさんの心臓はあるが、ライラさんの姿は未だ見えない。

 気配すら感じないが、シオンやジュエルたちがいる世界へ逃げた可能性もある。

 そう……信じたい。


 レイラの決意を受け止め、ライムは『創生の魔術書』の魔法を使うことにした。


 使うのは『魂の情報』。


 レイラちゃんの魂を取り戻し、

 トードリッヒさんの肉体を取り戻し、

『叡智魔法』の欠損を修復する。


 私にできるだろうか?

 初めて使う魔法、しかも失敗できない。

 プレッシャー。

 時間は、待ってはくれない。


『レイラちゃん、私の手を握っていてくれる?』


「………うんっ」


『始めるわ!』



 握っていない方の手に魔力を込めて、レイラの胸に当てる。

 ゆっくりと撫でるように魂があったはずの空間を確認し、その大きさ、状態を見る。


(空間は埋められていない、魂がない状態。今はそこに魔力が充満していてーー。あぁこれは仮初の、魂の形だったのね)


 おそらく、トードリッヒさんとレイラちゃん2人の魔法で作り上げられた魂が入っていたのだろう。

 しかし、トードリッヒの魔法が消滅した今、そこには何もない。

 何もないのにレイラちゃんが生きられているのは、この世界のおかげだ。


(世界の条件、魂の亡き者でも存在できる世界ーー)


 この世界がなくなれば、彼女も消えてしまうのだろう。


 そうはさせない。


 次にトードリッヒの心臓に手を伸ばし、同じように状態を確認する。

『空間魔法』と言葉を発すると、心臓がふわりと浮かび上がりライムの手元に引き寄せられる。


(本当にすごい。何故動いているのか不思議なくらい)


『鑑定魔法』の結果、この心臓は確かにトードリッヒさんのものだが、記憶や意識や思考が全くないのだとわかった。

 当たり前だ。

 脳も肉体もないのだから。


 目を細めると、レイラちゃんが不安そうな顔でこちらを伺っている。


『もう一度聞くわ。お父さんと一緒にいたい?……それこそ、生きている間、ずっと、そばで』


「…………うん。わたしはおとうさんといっしょいたい」





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