第三話 すべてのおわり?
今日発売のゲームを手に入れようと、くだらないことを考えながら街を歩いていた僕は、今ラブホテルの中にいて、僕の前には目を瞑っている美しい女性がいる。このまま、キスでもしたら、それは恋人同士が行うごく普通の光景だろう。
だが、僕の右手にはナイフが握られていて、瞳を閉じている彼女は、キスではなく殺されるのを待っているのだから、これは滑稽である。
と、そんな事はさておき、僕は彼女の問いに頷いて答えたのだ。意を決した僕は今から彼女を殺す。
そう決意はしたもの、僕は至って普通の心を持つ凡人なのだ、経験豊かな殺し屋なら躊躇うことなく彼女を殺せるかもしれないが、あいにく僕はそんな狂気を持ち合わせていない。彼女を殺さなくてはならない、と思ったときから僕の右手はプルプルと小刻みに震えている。僕はそのプルプル震える右手を徐々に彼女の胸に近づけた。
この二人しかいない静かな部屋なら目を閉じている彼女にも僕の動作が少しは伝わるだろうに、僕の手が近づいても彼女はピクリとも動かず、ただその瞬間を待っているようだ。
僕は彼女の服の上からでもわかる豊かな膨らみの上にナイフを置いた。
そこで僕は一息吐き、今日一番の至近距離で彼女の顔を見た。
目を瞑っているその顔も、めちゃくちゃカワイイ…
どうして僕は彼女を殺さなくてはならないのですか?神様…
テンションのおかしくなった僕はついに神に疑問を投げかけるなんて訳のわからない事をしてしまった…だが待てよ…
そうグダグダとやっているうちに自分のしていることが馬鹿らしく思えてきた。何が宇宙人、何が爆弾だ、どう考えてもありえないだろ…結局、僕は彼女の涙に騙されただけだ。そのうち怖いお兄さんが入ってきて脅されるのがこの話のオチだろう…だったらもういい、お兄さんが来るまで、やりたいことをやってやる。そうだ、僕も一芝居打ってやる。
「やっぱり血が飛ぶし…ナイフは止めにしよう」
僕はナイフを床に置きながら言った。
彼女は分かったというように頷いた。
「その〜…首…絞めるから…ベッドに座って…」
自分に芝居の才能が無いのは今のセリフですぐにわかったが、彼女が表情を変えずそれに応じてくれたので、よしとしよう。僕はベッドに残っていた他の凶器を片付けてから、彼女の隣に座った。
さてどうしよう、ベッドの上に二人きり、やりたいことは山ほどある。とりあえず横に座る彼女の顔を見た。
(早くしろ)あきらかにそんな表情で僕を見ている。
「あ…あのさ、思ったんだけど…」
「今度は何?」
そう言った彼女の声からは明らかに苛立ちが伝わってくる。
どうせ、僕の事なんか嫌いなんだろ…脅しに使える場面が訪れるまで我慢しているんだ。
「いや、君の頼みをきく前に、僕の頼みをきいてくれてもいいんじゃないかと…」
だんだんと声のボリュームを下げながら僕はそれを言った。
「ねえ!いつ宇宙人がここに来てもおかしくないんだよ!いい加減わかってよ!」
はい、すいません。久々に人に本気で怒られた…
「もう、わかったから早くして、何すればいいの?」
…って、ええ!きいてくれるんですか。
僕は目を瞑り、頭の中に広がった数々の選択肢の中から最良の答えを探す旅へ出た。
それは…やり過ぎ、これは…ちょっと物足りないんじゃないか…
ドスンという彼女の拳が僕の太ももに振り落とされたことで生じた音と共に、僕は現実世界へと戻ってきた。
「あの…ちょっとでいいから抱きしめさせて…」
何故か咄嗟にでたその言葉が僕の答えになった。
彼女は、この人痴漢ですと、手を掴まれ公衆の面前にさらされた男を見るような軽蔑した目で、僕の顔を見ていた。
だがすぐに、仕方ないという感じでベッドの側面にかけていた足を上げ、僕の方を向いて正座すると、ほらというかのように両手を広げた。
そして僕は生まれて初めて女性を抱きしめた。
…
何だろう、この感じ、もう何もいらない…ずっとこのままでも良いくらいに落ち着く。
…
「ちょっと、いつまでやってるの!」
彼女が、沈黙に絶えかね言葉を発した瞬間、部屋のドアが開く音が聞こえた。オートロックだった気もするけど…
やばい、ついに怖いお兄さん登場だ。
さっきまでの幸せな気持ちは一瞬にして消え、恐怖が体全体を駆け巡った。
だが様子がおかしい、物音がした瞬間、彼女は僕の側から離れたかと思うと、今や天井近くにある小窓を開けそこによじ登ろうとしていた。まさか飛び降りる気なのか?ここは確か5階だぞ…
だがしかし。
「やっぱ、できない」そう言って彼女は手を離し床にくずれ落ちた。
とうとう僕の前にお兄さん登場…
けどそれは、どうみても50前のおじさんだった。
しかも、おじさんは僕に目もくれず、彼女の方へ歩み寄り床に座る彼女を起こしたかと思うと、なんと彼女の腹部に一発かまし気を失った彼女を肩に乗せ部屋の出口へ向かっていった。
え〜!?
今僕が目にした光景からいえば、怖いお兄さん説は無くなる、となると…宇宙人…あれが?
(倒れた家族の体を乗っ取って動き出したのよ)
少し前に彼女の口からそんな言葉を聞いた記憶が…
僕は立ち上がった。おじさんは、まだ部屋の扉の前だ。
「ちょ!ちょっと…彼女をどうするつもりですか…」
僕がそう言った瞬間、おじさんがこちらを振り返った。でもそれは尋常じゃなかった。顔だけが完全に180度回転し、こっちを見てるのだ。
うえぁ…
僕は声にならない声を出して、その場で腰を抜かし、危うく床のナイフの上に尻を着きかけた。
顔は正面を向いてるのに後ろ歩きのおじさんがこっちへ近づいてくる…
終わった…
そう思った瞬間だった。
後ろで何か音がしたかと思うと、おじさんは首を正常な位置に戻し、彼女を肩に乗せたまま逃げていった。
驚いていていると僕の体は突然宙に浮いた。
何が何だかわからないまま、気がついたときに僕は誰かの荷物になっていた。
僕の持ち主…というか、僕を肩に乗せて走る男は、あのおじさんを追っているようで、どうやら非常階段を下り路地に出たようだ。僕の顔は男の背中にあるのでそれ以上は何が起こっているのかわからない、それよりさっきから揺れて揺れて気持ちが悪い…
そこからしばらく走ったかと思うと、
「ああ…見失っちまった…」
男はそういって、僕を地面に雑に落とした。
あぁ気持ち悪い…てかあんた誰だよ…
どこからあの部屋に入ってきたんだよ…まさか、あの小窓?
さっきまで僕を担いでいた背の高い男の顔を見る。
ん?何処かで見た顔だ…
僕は記憶の中から男の名前を探る。
…数秒で合致した。
けど、ありえない…なんで俳優のヤベ・ヒロシがこんなところに???
(続く)
初の連載モノも3話になり、ちょっと調子に乗ってきました。
この表現おかしいとかあったら、
バンバンコメント下さい。
てか何でも良いのでコメント下さい




