七 学校の意志 2
雑草を踏み越えて、正門につづく道へ出る。というか、ほとんど目のまえにあった。蒼くんが手を差し出したので、石を渡した。
蒼くんは正門の前に立つと、ちょっと背伸びをしてその石を押し込んだ。あの欠けていた、太陽の位置に。ぴたりとはまった。
「もしかして、学校の石?」
「そうみたいだ」
「こんなのを学校全体が探していたって言うの? じゃあ昔話は? 千人の人足は? 埋まってる髑髏頭は?」
「まあ、それは昔話だしな。でも正門は学校の顔だから、やっぱり無かったら嫌なんじゃないのか」
「……そう言えばここ、おシャレ高だったわね」
花子さんもおしゃれだった。
朝の風が草を揺らす。なにもかもが生き生きとして見える。振り仰ぐ学校の校舎も、いつもと変わりない。なんだか夢を見ていた気分になる。
「本当にあったことかな」
「あったことに決まってるよ」
ぽつりと言った言葉を、蒼くんがあっさり肯定した。
「なんでよ」
「丹がいるから」
「え?」
「〝ぜんぶ まこと〟だろ。だから本当に起きたことだよ」
……わたしの名前まで、ダジャレにされたって言うの? じゃあ膝が笑ったのも、足が棒になったのも、耳にタコができたのも本当のこと?
……やっぱり夢だったことにしたい。
でも今こうして、わたしと蒼くんがここにいるのは夢なんかにしたくない。けどそしたら起きたことは事実ってことになってしまう。
ああもう、どれが本当でうそかわからないよ。学校でのことは本当? 昔話は全部うそ?
あれ、そう言えば『とこまとそう』って、逆さまにしたら────
「なあ、丹は今も俺のこと、性格きつそうだって思ってる?」
唐突に聞かれた言葉に、考えていたことはあっという間にどこかに行ってしまった。
わたしは蒼くんを見つめる。そしたらなんだか、ほわほわしてきて、しかも笑いたくなってきた。
「……見える」
「なんだよ、それ」
「だって蒼くんは実際にきついもの」
がっくりと首を垂れると、頭のてっぺんのうずまきが見えた。
あ、落ち込んでる。ちがう、そういうつもりじゃないのに。でもどうしたらいいかわからない。だから必死で言葉をつづける。
「でも、わかってるから」
「なにが」
蒼くんの声がちょっと苛立ってる。目つきだってきつい。でも、わかってる。
「蒼くんは優しいって」
いつも助けてくれた。でもそれよりも、ずっとそばにいてくれたことが、嬉しかった。一緒にいたのが蒼くんで、良かった。
「なんだよ、それ」
さっきと同じ言葉。でも表情がぜんぜんちがう。
雰囲気もやわらかくて────
「蒼くんは」
「ん?」
「蒼くんは、今もわたしのこと、嫌い?」
あ、自分で言ってて傷つく。ウザイのはしかたないけど、嫌いって思われるの、すごくショックだ。
ショックなのは、そういうこと、なんだ。
「嫌いのさかさま」
「……いらき?」
「じゃなくて、意味が」
くるん、と世界が逆立ちする。
「うそ」
「俺はそう、だよ」
「そうじゃなくて」
「そうだってば」
蒼くんは余裕で笑ってる。わたしはいっぱいいっぱいなのに。
「丹、キライの反対は?」
「………………」
わたしの顔は今、絶対に真っ赤だ。赤いのは名前だけで十分なのに。あ、でも蒼くんだって、耳が赤くなってる。
「その反対でも、いいかな」
蒼くんはつぶやいて、一歩近づいた。わたしはやわらかいのが、雰囲気だけではないことを、知った。
「スキありっ」
悪びれもせずに、蒼くんは言った。
────好きだって思ったら、隙だってできるよ。
とこまとそう、とこまとそう




