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エピローグ

❀小鳥 side❀ 

 

 夜なのにどこか明るくて安心する祭壇。


 たくさんのお花に囲まれて、夢くんはお布団の中で目を瞑って寝ている。


 もう二度と開くことのない目。


 もう、戻って来ない彼。


 ここは葬儀社の部屋の一室。


 皆、黒い服を着て、夢くんのお母さんの淹れてくれたお茶をしんみりと飲んでいる。


 ここに介しているのは、夢くんのお父さんお母さん、妹さん。

 それから私のお父さんとお母さん、お姉ちゃん、お兄ちゃん。


 どうして夢くんの葬儀に私の家族がいるのだろう。


 お父さんが、私の横に座った。そして、お母さんが私の左横。

 真向かいに夢くんのお父さんとお母さん、妹さん。


 夢くんのお父さんは、夢くんの部屋の写真で見た時よりも、ずっと温厚なのが伝わってくる。こんな時でも、悲痛な顔を見せない。穏やかな顔をしている。


「小鳥」

 お父さんが口を開いた。


――例の、話だ。


 お姉ちゃんとお兄ちゃんは、トイレへ立った。夢くんの妹さんも誘って。


 残った、五人。何かがある、五人。


「……君が幼い時、交通事故でご両親が亡って、僕たちの家族になったのは承知だね」


 お父さんは、亡くなった本当のお父さんの実兄だ。


「お父さんお母さんは、伯父さん、伯母さん。お兄ちゃんとお姉ちゃんは、従姉弟になるんでしょ」

「うん。そうだね。そこまでは小鳥が知っていることだね」


「さて――」


 お父さんがそう言うと、その場が静寂に包まれた。

 よほど話すのが躊躇われることなのだろう。


「小鳥、里子、って知ってるかい?」


 続いて出た言葉は、質問だった。


「うん。……色んな事情で育てられない子どもを、よそのおうちで育ててもらうっていうことでしょ」


「ああ。それでだが。……うちは子どもが2人いたし、――生まれつき体の弱かった彼の医療費まで捻出できる余裕がなかったんだよ」


 ひとつ、息を吐いて、お父さんは続けた。


「里子に出すなんて、彼を育てることの放棄になるような気がして――ずっと疎遠でいたんだが」


 お父さんが、咳払いをする、

 そして、お母さんを見、夢くんのお母さんを見た。


「昔、渡海比呂さんと、お父さんはつき合いがあって……いわゆる、男女関係にあって。

 時が経って、離れることになったが……。あんな事故が起きて……。

 比較的裕福だった、彼女の家に、打診を入れたんだ。そして、夢大くんを預けることになった。

 彼女は、躊躇もせずに承諾してくれた。


 そこで、彼は、養子に出すことになった。


 バラバラになった君たちが……彼が、まさか、同じ大学になって、小鳥と再会したなんて。奇跡としかいいようがない」


 彼、里子、彼、里子、彼、里子――。


 渡海比呂さん……渡海。

 ――夢くんのことだ。


「実は今まで黙っていたのだけれども、――君にはきょうだいがいたんだよ。小鳥が二歳になる頃だから、覚えていないとは思うが」


 ああ――。


「ふたつ、年上の」


 ああ――。


「お兄さんがね」


 私の瞳が決壊した。涙があとからあとから流れてくる。


 ああ、夢くん――。


 私は祭壇の前で安らかに眠っている夢くんの元へ、行った。

 顔にかけてあった白い布を取り、彼の顔を眺める。


「私のお兄ちゃんだったの――」


 だから出会ってすぐに、惹かれ合ったんだ。


 夢くんは、私が妹だということを、ずっと知っていたんだね。


 夢くん。


 呼んでも、白く硬くなってしまった夢くんはもう返事はしてくれない。


 ……お兄ちゃん!


 お兄ちゃん!

 お兄ちゃん!


 ねえ、唯一血の繋がっている妹がこうして呼びかけているのに!

 ねえ、こんなに愛しているのに! 

 ねえ、なんで応えてくれないの!?


 お兄ちゃん……夢くん――。


 私は彼の顔に頬を寄せ、おいおいと泣いた。


 気のせいか、背中がぽっと温かくなった。

 夢くんが、お兄ちゃんが、そっと後ろから抱きしめてくれているのだ。


 気のせいなんかじゃない。きっと。


 夢くんは、ずっといる。

 ずっと、私のところにいる。


 昔も、今も、未来も――。


△△△


「やっぱり、似てるね、私たち」


 私は夢くんがいなくなったあとも、ふたりで住んでいたアパートにいた。


 いつか、ふたりでお互いの似顔絵を描いたときの鉛筆画を壁に貼った。


 どこかで出会ったのかもしれない、と思っていた。

 それは遠い記憶と、どこか自分と似ていたから。


 絵にしても、やっぱりどこか似通っている。


 耳のかたち、はっきりとした二重の目、鼻の形、小さな口、顔のパーツのバランスまでも。

 絵の描き方も微妙に似ているところも。


 やっぱり私たち、兄妹だわ。


 私が世界で一番愛したひと。


 ふたり、こうやって並んで笑っている。いつまでも。


「よし」


 今日もふたり分の夕食をつくろう。


 そして今日もビールで乾杯。


 耳をすませば、夢くんの安らかな寝息のBGMが聞こえてきそう。


 おやすみなさい、夢くん。


 どうか。

 どうか、よい夢を――。


 また会いましょう。


 いつか。

 どこかで。

 どんな形でも。

 

 きっとね。



✱夢大 side✱


 うん。

 

 小鳥は今の人生を、精一杯楽しんでね。


 終えた時、また、迎えに行くからね。


 またどこかで、会えるね。


 きっとね。


 おやすみなさい。


 また、会いましょう。



(終)


最後までお読みいただき、有難うございました!!

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