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ようこそ異世界転移課へ  作者: 聖音ユニア


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32/39

きまずい

「いらっしゃいませ。書類拝見しますね……ああ、窓口違うんですが、私でも担当できるんでこのままやっちゃいますね。次回からは二階の窓口へお願いします」


 ダンジョン攻略から一か月が経った。

 本当に苛烈な戦いだった。町はダンジョンクリアの報告に盛り上がり、しばらくは帝都からも多くの人間が着ていた。

蓋を開けてみれば、被害数転移者25人。ウォッチ12名を失った激戦だったが、それ以上に、百年クリアされなかったダンジョンクリアの快挙に沸いていた。そりゃそうだろう。

オリオンの中枢、円卓会議はダンジョンの中に移動させられ、転移者の居住可能人数を大きく底上げさせた。

さらにダンジョンから発掘された物資が大量にレンドアを潤わせた。しかも、今回の攻略に金を出していたのはデギオン・マリック。彼がかなり多くの分配を得たらしい。

残りは、バランス、ウォッチ、ギルド、そして転移者たちで等分とした。

ギルドは俺が一応研究者たちの護衛を行った上に全員生存させた功労として建物が二階建てになった。

そして俺は功績を認められて……帝都に戻ることに。ただ、書類やら手続きやらでかなりの時間がかかるようではある。

ギルドも帝都から人が増えて、前みたいに激務ではなくなった。逆に後輩が増え過ぎて俺の仕事が、俺の仕事だけが増えた。意味が分からない。なんで俺なんだ。


「スカイさん、これってどうしたら……」

「あーーーー俺がやる」

「スカイさん、この手続きって前も聞いたんですけど……」

「ああ、何度でも聞け。メモする時間もないだろ。これは、マニュアルが死んでるな。あとで変えとくのと、これは俺がやる」


 分かってる。絶対俺がやらない方が良い。いつまで経っても下が育たないし忙しい。

 でもまあ、他に回すとそれはそれで下が育たなそうなんだよな……。


「あの、カロ―シアさん。これなんですけど……」

「あ?」

「あ、いや、すみません、他の人に聞きます!」


 カロ―シアさんは初対面だと正直怖い。あとは……


「あの、レッドロード先輩、この間先輩が教えてくれた方法、思い切り間違ってて……」

「わたくしは間違えませんわ。間違っているのは常にルールの法です」


 レイテシアが人に何かを教えるのはまだギリギリ荷が重い。まだまだこいつは後輩だ。

 もちろんほかの職員の人が教えてくれているが、いかんせん増員されたせいで間に合わない。

 後は、転移者たちが新たに開発したRPGグラス事通称グラスの使用申請のせいで単純に作業が増えた。

 グラスとは、モンスターや転移者のレベル、各種ステータスを魔力で可視化できる物だ。

 ダンジョンのボスモンスター、ミダス・エンペラトルの名前が浮き出た原理を利用しているらしい。

 もっと前にあったら俺たちの事務作業のいくつかは楽になっていただろうにな。


「おい、スカイ」

「なんですか? 煙草休憩ならいらないっすよ」

「違う馬鹿。今日の終わりに新入り……いや、あいつももう先輩って立ち場か。レイテシアと飲みに行くからお前も来い」

「ああ、いいっすね。今日は残業無さそうだし、俺も仕事が終われば――」

「スカイさーん、転生課にお客様です」

「あ、はーい。仕事終われば、行きますんで、いつもの店で良いっすか?」

「ああ」


 先輩と別れて転生課の窓口へ向かうと……見知った顔が立っていた。


「エンドールさん……どうして」

「いや、仕事中に申し訳ない。ちょっと出れるかな?」


 連れて行かれた場所は、近くの喫茶店だ。大方が働いている時間なので人は少ない。

 席について開口一番、彼は頭を下げた。この世界の時間を進めた転移者の英雄が、俺みたいな一介のギルド職員に。


「すまなかった。僕ら転移者の力が及ばず、あのルフス兄弟の暴虐を許してしまった」

「いや、そんな止めてください。どう考えてもあいつがヤバいだけです。俺はアスハさんや……ハデスさんに守られるだけで」

「いや、僕らには守る力がある。守れなかった僕らが悪い。ハデスの件は気にするな。彼は……彼の仇はアスハ君が取ってくれた」

「ルフス兄弟は、なんで……」

「その件でここに来た。オリオンかダンジョンに呼んでも良かったが……来たくないかなと思ってね。ルフス兄弟は、デギオン・マリックが転移者に金を払って牢を開けさせたようだ。完全に僕の管理ミスだよ」

「そうだったん……ですか」

「二度と起こさせないことを約束する。それと、君はなにか、魔道具を使ったということだったけれど、アレは今どこに?」

「バランスが持って行きました。ウォッチはウォッチで何か持って行ったみたいですけど」

「そうか……まあ、魔道具がウォッチの手に渡っていないならいいか」

「バランスは武器を持てませんから、最終的にはウォッチの手に渡るんじゃないですか?」

「そううまくいかないのが社会ってものだ。ありがとう。君は立派な戦士だ、ギルド外野にいなったらウチに来ると良い。手厚くもてなすよ」

「ありがたいお話ですが、この後俺は帝都に戻ることになってるので」

「昇進かい?」

「まあ、栄転ではありますね」

「おめでとう。なら、帝都へ行く前にアスハ君に会ってやってくれないか? 師匠であるハデスが死に、多くの友を亡くしてふさぎ込んでるんだ」

「師匠……」

「ああ。彼女、君を助けられなかったと言って、ダンジョン攻略までの間ハデスに師事を乞うていたんだ。多くを失ったが、君は助けられたようで何よりだよ。では、ここは払っておくから好きなものを頼んで」


 エンドールさんは優雅に喫茶店を後にした。本当にいい人だな。自分だって大変なはずなのに、俺みたいな末端お人間にまで気を配って。

 そう言えば、あれからアスハさんに会ってないな。師匠と友達を同時に失う……俺からしてみれば、先輩やレイテシアを失うようなもんだ。

 俺は一息ついて輝石を取り出した。


『はい』

「あ、アスハさん? スカイだけど」

『スカイ君? お仕事は?』

「休憩中。あれからずっと話してなかったなって。そっちはどう?」

『そう、だね。ハデスさんの代わりになっちゃって忙しくて……ごめん、私の法から連絡すべきだったね』

「いや、俺もあの後取り調べとか受けちゃってまったく連絡できなくて、助けてもらったのにごめん」

『今度は間に合ってよかった。そっちは忙しい?』

「まああと何か月かしたら帝都に戻れるから、この忙しさもそれまでかな」

『帝都へ……そう、なんだ……そしたら、会いにくくなっちゃうのかな』

「かもしれないけど、まあ休みの人かは会える……いや、オリオンにいるままだと難しいか」


 転移者の居住地はバランスの法に依って厳格に定められている。今ならオリオンと、ゴブリン迷宮こと、レンドアダンジョン。

 帝都には馬を出しても数日かかるほどの距離だ。正直、俺が帝都に行けばもうここに住む転移者とは会えない。レンドアはまさに転移者を押し込めるために需要が生まれた街だ。


『そう、だよね……せっかく仲良くなれたのに……私も、そっちへ行ければ……』

「可能性がないこともないかもしれない。今回のダンジョン攻略で、間違いなく帝都は俺が攻略失敗したダンジョンヘの再攻略を始める。俺が帝都へ戻されるのも恐らく……」

『そんな、今回のダンジョンだってかなりの被害が出たのに――』

「それ以外に利益が出たんだろう。ウォッチが全滅し、転移者同士の殺し合いが起きて俺たちがこうやって放置されているのが何よりの証拠だ」

『……また、攻略が始まるの? あなたが死ぬかもしれないあんな攻略が』

「だからこそ、必要になるはずだ。エンドールさんとあと一人のレベル3と、君の強さが」

『私が帝都のダンジョンへ?』

「可能性は高いと思う。あの戦いを経て一番実力を示したのは君だからね」

『……私は、ハデスさんに救われただけだし……』

「俺はそんな君に救われた。ありがとう。じゃあ、仕事に戻らなきゃ」

『うん。連絡嬉しかった。また、近い内に』


 輝石を切って、喫茶店を後にした。

 そう、俺達はあのダンジョン攻略で報告書をいくらか改ざんしていた。

 ウォッチは全てルフス兄弟ではなくミダス・エンペラトルが殺したことにし、兄弟は脱獄後にアスハさんと俺が止むなく討ったことに。

 これで、ウォッチの裏切りやその裏のデギオン・マリックの暗躍は闇に葬った。

 俺は思った通り帝都へ呼ばれ、攻略を指揮することになるだろう。

 だが、報告書には二つほど嘘をついている部分がある。


「本当に、俺はつくづくダンジョンと縁があるな」


 独り言を地面に落として、午後の仕事もそつなくこなした。

 終業後は、先輩とレイテシアが先に向かった店に向かうといつも以上に繁盛していた。

 今や二号店がオープンしている程に繁盛した店。町全体が好景気だ。ついこの間の物価高が忘れ去られるほど、皆幸せに暮らしている。

 ただ、クエストを受けられる転移者の数が減ってしまった。

そのせいで薬屋さんはデギオン・マリックの息がかかった商社から買い取るしかないらしく、補助金の申請に連日ギルドへ足を運んでいた。

建物の改築もそうだが、素材系の大部分。

物流はデギオン・マリックが抱える転移者やウォッチの警備がなければ町へ入れない。

 ダンジョン攻略で一番利益を得ることが出来たのは間違いなくデギオン・マリックだ


「いらっしゃい、ませー、おひとりさまですか?」

「いや、連れが先に……ああ、あそこです」


 先に座っていた2人はなぜか会話もなく、ちびちび酒を飲んでいた。何だこの人たち、サシで飲むと仲良くないのか?


「座れ速く」

「お疲れ様ですわ、先輩。速く座ってください」

「なんで二人とも……止めときます」

「はいいらっしゃいませー、お飲み物はどういたしますかー」

「あー、取り敢えずビールで。なんか注文してます?」

「いや。好きなの頼め」

「そうですわ。先輩の好きなものをどうぞ」

「ええとんじゃあ……この、姿焼きと、えええ刺身をお願いします」

「かっしこまりましたー、少々お待ちくださいませー」


 お手拭きで手を拭いた後、畳んで顔を拭いた。温かい。ああ目が覚める。ここ最近は仕事続きで傷を癒す時間もなかった。


「はいおっまたせしましたー、ビールです」

「ありがとうございます……乾杯とかしました?」

「いや」

「いえ」

「んじゃ、かんぱーい」

「乾杯」

「乾杯」


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