無茶な話をしよう
ハデスが突っ込み、背中を強襲。影がミダスの足元から伸び、直接絡みついた。
ミダスは素早く影から離脱。だが、引き千切った影が足にまとわりついてそのまま両足を捕縛した。
さらに、影から鞭のような物が伸び、素早く刃のように形状変化。ミダスを斬り割く。
ミダスは影の刃を着地と同時に手刀で薙ぎ払う。
その隙を待っていたとばかりに、ハデスの影がミダスの足元、地面を歪めた。
「調子に乗んなよ、雑魚が」
頭上から一息で斬り割く。
まともにミダスは喰らうが、直後に体を捻って強烈な裏拳を叩きつける。
ハデスは大剣で受けきり耐えるが、体重里衝撃で地面を擦り上げながら無理やり距離を開けられた。
好きを逃さないとばかりに、ミダスは人差し指を突き出し、転移者の一人に触れた。
刹那……転移者が金色に輝く……黄金に変身した。
「な……」
「なんで……」
「おい、だいじょ――」
さらに、次の転移者、また次の転移者と、人差し指で触れるだけで転移者たちが黄金へと姿を変えていった。
思わず吐きそうになるほど、何が起きたか分からなかった。
既に転移者たちの間には冷静よりも、混乱が流れていた。
「アトラ、アトラ!」
混乱の渦中、なおも続くミダスの攻勢の中、一人の少女が、命を落とした。
「アトラが死んだ、一撃だ、ハデス!」
「なんだこいつ、触れられたら終わりだぞ!」
「ボスモンスターを相手にするんじゃなかった、俺達レベル2じゃ、無理なんだよ!」
「今すぐ退くぞ、攻略なんてとてもじゃないが無理だ!」
阿鼻叫喚。右も左もわからぬ状態で混乱が人の間を嘲笑しながら伝播する。
目の前の巨大な存在を前にして、誰もが縮み上がった。最初は、上手くいっていたはずなのに、何故、こんなことに――
さっきまで確かにハデス達は、転移者たちは、勝っていた。
それが、本気を出したミダスを前に手も足も出ない。
「狼狽えるな、お前たちはさらにグループを組み直せ! こいつは少数から叩く!」
ハデスは叫びながらもヘイトを取るために前に詰めた。既に態勢は崩壊、陣形は瓦解。しかし、ハデスの声だけは届いている。
信頼の表れだろうが、落ち着くまではまだ一つ、何かがいる――
俺が考えるのと同時に、何かは俺のすぐ隣から、飛び出した。
「はあ!」
若きエースが、群衆を飛び出してミダスに飛び掛かる。
大剣を携え、猪突猛進する雄々しさはまさに、赤き獅子。
アスハさんは初めて見る大剣を取り出し、ハデスと共に斬りかかる。
急な攻撃に対しても、ミダスは退くことなく両腕を起用に立てて防ぐ。
追撃が来る。人差し指でアスハさんを狙うが、器用に体を捻って大剣で防ぐ。
人差し指が振れた大剣だけが黄金になったが、あまりに重すぎたようで剣先が下がる。
「攻撃パターンは大体わかった。だが、俺のスキルじゃ分が悪い。一撃で沈めるよりも徐々に削るべきだが……こっちがもたない」
「分かっています。だけど、私たちが前で少人数を作っていれば、ヘイト管理は――」
ふたりの間に拳が落ちた。
瞬時に跳び、着地と同時に再集結。
繰り出されるミダスの攻撃を二人で弾き、あろうことかミダスの巨体を怯ませた。
俺は……この戦いに一切入れないのか。こんな、必死でやり合ってる状況で、何も出来ないってのか……。
「長期戦は正直無理だが、やるしかねえ、歯あ食いしばれ、アスハ!」
「分かっていると言っています!」
剣を下向きに倒したハデスの大剣を踏み台にすると同時に飛び上がり、アスハさんは上から。ハデスはそのまま下から上下に挟む――
通ったのは、アスハさんの攻撃。
重い一撃が頭部から股にかけて突き刺さる。
それでも、斬り拓くまでには至らない。状況を打開するには足りない。どんな仕組みで守られているんだ、このクソモンスターは。
ただ、攻撃は確かに通った。虎視眈々と状況の好転を狙っていた転移者たちも追撃に入り、ミダスは確かにこれまでにないダメージを負った。
ほんの一瞬の隙も見逃さない転移者の反撃の刃はミダスを追い込んだ。
追い込んでいた、はずだった――
ミダスは突然跳躍し、壁際まで下がる。
誰も追撃できない距離まで進むと、人差し指で自分の拳を指す。
みるみる、人差し指が金色になり、さらに金になった手で体全体に触れ始めた。
徐々に、しかし確かに、黄金がミダスの体を包み込む。
「ざけんな……金色変態クソ野郎が」
ハデスが悪態をつき、ミダスは準備完了だとばかりに飛び出した。
転移者とはモンスターの最終決戦が、あまりに簡単な幕切りとなった。
「こいつ、硬すぎる――」
「魔力が反射されてる、有り得ない、なんだこいつ、スキルも受け付けねえ!」
「どこまで隠して――」
軽いジャブ。あまりに楽な仕草から放たれた攻撃に、ひとりの転移者が一瞬で黄金に変えられた。
終わりをいやおうなしに突きつけられた。現実が急に襲い掛かる。
ただ、戦意を喪失していない二人は、黄金の体に大剣を叩きつける。
既に武器は金に代わり、一撃必殺に近いミダスの攻撃は一度も受けられない。
一度も……受けられない?
「つ……馬鹿過ぎて無理なんだけど……」
「アスハさん」
「え……何してるの、スカイ君、危ないから下がってて」
「勝ち目、ある?」
「大丈夫、私が必ず――」
「そうじゃない。勝つ策があるなら教えてほしい。頼む、時間がない」
「……ミダス・エンペラトルは二回行動変化してる。たぶんもう体力は少ないと思う。隙さえできれば、私とハデスさんの同時攻撃で倒せる確率は高いけど……」
「わかった。じゃあ、俺が隙を作る。あとのことは頼んだ」
「待って! スカイ君じゃ無理だよ!」
「大丈夫。見たところ、一回くらいなら避けれそうだ。俺も余裕じゃないからそれで決めてくれ」
「待ってって! 死んじゃうんだよ!? 私はもう、友達を……アトラを失った。これ以上、あなたまで――」
「俺は帝国人だ! こいつがこのままダンジョンにずっといるとは限らない! 絶対ここで、命を懸けてでもここでこいつを倒さないといけないんだよ!」
正直、恐怖がかっていた。こんな馬鹿みたいな強さのモンスターが町に行くと思う時が気じゃない。何としてでもここで仕留めなきゃいけない。
「でも……」
「おい、ガキ、本当に時間が稼げんのか?」




